【完結】守り姫[完全版]

桐生千種

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3章 旅する少年

3.少年の嘘

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 「僕、この森を抜けた先の村に行きたいんだ」

 少年は、獣に話しかけた。

 確かに、傷を負った獣は少年を威嚇しているけれど、敵意や悪意は感じられなかった。

「通してはくれないかな? キミを傷つけたりしないから」

 言葉が通じているとは、少年も思っていない。

 それでも、害するつもりはないのだと、伝えようとした。

 獣の耳が、ピクリと動く。

 じっと少年を見る獣は、気がつけば唸り声をひそめていた。

 少年から目を逸らさず、ゆっくりと獣が動く。

 それでもきっと、少年が指の1本でも動かせば獣は飛びかかって来たかもしれない。

 けれど少年は、獣が動く姿をじっと見つめていた。

 やがて獣は少年に背を向けて、森の奥へと走り去って行った。

 少年の耳に、人の声が聞こえてきたのはその直後だった。

「おい」

 近くの村の人だと思われるその男は、ぶしつけに聞いてきた。

「こっちに魔物が来なかったか」

 少年はすぐに理解した。

 ああ、きっと。
 あの獣を傷つけたのは、この人たちだ。

「見たよ。黒い魔物でしょう?」

 少年は答えた。

「どっちに行った」

「あっち」

 少年が指さした方角は、魔物が走り去って行った方角とはまるで違う。

 けれど男は少年の言葉を信じて、少年が指さした方角へと歩いて行った。

 だってきっと、あの獣は何も悪さをしていない。

 ただ、その森に棲んでいるだけ。

 黒い魔物が森にいるとは言っていたけど、誰も襲われたとは言っていないんだから。
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