【完結】守り姫[完全版]

桐生千種

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3章 旅する少年

2.黒い魔物

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 旅の中で、少年はたくさんの村や町を見た。

 これは、少年が見て来た村の中の話のひとつ。

 その村は少年の村ほど貧しくはなく、けれど村人たちはどこか空気がこわばっていた。

 何かに怯えているようで、けれどそうは見られまいと虚勢を張っているようで攻撃的。

 そんな村人たちの様子は、少年には見覚えがあった。

 理由を訪ねると、村のすぐ近くにある森に黒い魔物が出るのだと言う。

 得体の知れないものに対する恐怖。
 いつ襲われるか知れない恐怖。

 そんな恐怖に支配された村人たちの様子は、少女に怯えていた村人たちの姿を思い起こさせた。

 けれど、少年がその村にできることなんてない。

 黒い魔物が安全だと、証明することはできない。

 遠ざけることもできなければ、黒い魔物が入って来られないような絶対に安全な囲いを作れるわけでもない。

 少年はその村を出て、森へと入って行くことにした。

 森を抜けなければ、次の村にも、その先の町にも行けないから。

 少年は、進むしかなかった。

 少女を救える誰かを見つけ出すまで、少年は進み続ける。

 森の中に引かれている道は、しばらく人の出入りが減っているのだと知れるほどに草花がその顔をのぞかせていた。

 人の出入りがあったなら、もっと道らしく踏み固められた土であるはずだ。

 しばらく人が歩いていない細い道は、ところどころに緑色の草花が目立っていた。

 少年は、何事もなく歩みを進め、森の中ほどまで来たとき、それは姿を現した。

 ざわざわと、木々が震えて、少年を威嚇するような空気は紛れもなくそれが発しているものだった。

 グルグルと唸り声をあげるそれは明らかに、少年を警戒していた。

 黒い魔物の正体。

 それは、血を流す手負いの獣だった。
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