【完結】守り姫[完全版]

桐生千種

文字の大きさ
上 下
7 / 30
1章 不思議な少女

6.森の小屋の中で

しおりを挟む
 大人たちは考えた。
 どうすれば、自分たちが生き残ることができるだろう、と。

 恐怖に煽られ、起こりえない未来に怯え、知恵を絞り、こっそりと準備を進めていった。

「森の中の小屋に、みんなでおいで。あの子も一緒に」

 ある日の夜に、大人が告げた。

 どうして?

 森の小屋には入っちゃいけない。

 大人たちはいつもそう言っていたはずだった。

「今日は特別な日だ。だから今日だけ、小屋に入ってもいいんだ」

 様子がおかしいと、何人かは気づいたけれど、小屋の中を見ればそんなことはすぐにどこかへ飛んで行ってしまった。

「わあ、すごいや! おかしだ!」
「おもちゃもある!」

 子供たちは、決して買ってもらえない甘いお菓子やおもちゃに心を奪われ、喜んで小屋の中に入って行った。

 普段は口にすることのできない甘いお菓子は、子供たちの表情をほころばせた。

 手にすることのできないおもちゃは、心を躍らせた。

 たとえ、一緒に入ってくる大人が1人もいなかったとしても。

 窓のない小屋に、子供だけが集められていたとしても。

 扉の鍵が閉められて、閉じ込められているのだとしても。

 普段とは違う空間に、子供たちは喜んではしゃいでいた。

 ただ1人、真っ白な少女を除いて。

 少女はきっとわかっていたんだ。

 明日の天気を言い当てられる少女だから、ほんの数時間先に起こることがわからないはずがない。

 大人が何をしようとしているのか。

 贅沢品と言って、買い与えることをしなかったお菓子やおもちゃを用意してまで、子供たちを閉じ込めた理由。

 そして、これから何が起こるのか。

 わかっていたから、楽しそうにする子供たちの中で1人、ずっと1人で悲しそうにしていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

彼を愛したふたりの女

豆狸
恋愛
「エドアルド殿下が愛していらっしゃるのはドローレ様でしょう?」 「……彼女は死んだ」

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...