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04 紡がれる未来
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空は今日も青かった。
太陽が照って、暑すぎるくらいだった。
それでも、時折吹き抜けていく風が心地よくてアイラは目を細めた。
そぐ傍から聞こえてくるレイナの声が心地よく耳に届いた。
「『ふと、懐かしい花の香りが通り過ぎた気がして、視線を巡らせてみたけれど、誰かを見つけることはできなかった』」
それは切なくて優しいおとぎ話だった。
「『ただ少し遠くの方で蝶の羽が、羽ばたいている様子だけが見てとれた――』」
パタンと、本が閉じられる音がして物語が終わったことが告げられた。
パチパチパチと、拍手が起こった。
「楽しかったね」
シロエが言った。
「うん!」
トモコが答えた。
「エレナはアイラお姉ちゃんみたいね」
トモコは目を輝かせて言った。
「え?」
思ってもない言葉に、アイラが目を見開くとトモコはその理由をとても簡単に言った。
「だって、髪が真っ白でとっても優しい!」
レイナが読み聞かせていた物語の少女――エレナはたしかに真っ白な髪で、優しい女の子だった。
けれどそれは、当然と言えば当然だった。
この物語は、レイナ自身が過去に書いた作品を書き直したものだった。
当初から、この物語はアイとシノの話をもとにしていた。
アイをもとにしたエレナという少女が、アイラのようだと言われても容易に納得できた。
アイラとアイはひどく似ていた。
「違うよ」
そう言ったのは、サイトだった。
「アイラはエレナとは違う」
その眼差しは、自分よりも遥かに年下の子供相手だと言うのに真剣なものだった。
「アイラは、ただの、普通の女の子で」
威圧感さえ漂っていた。
「僕のたったひとりの大切な女の子だよ」
ぽかりと、カイトが小突いた。
「お前だけじゃねぇからな。俺にとってもアイラは大事だ」
「レイナだってアイラのことは大事だよ」
そんな遣り取りが、アイラには楽し気に映った。
そして、同じだと思った。
レイナが読み聞かせてくれた物語と同じだ。
守り姫と呼ばれた少女エレナは、最後にはフラビオという少年のたったひとりのお姫様になった。
普通の女の子として、たったひとりの王子様と結ばれるのだろう。
「わたしは……」
アイラの呟きに、全員が耳を傾けた。
「みんな、だいじ……シロエも、トモコも……」
ネオもヒトも関係なく、みんなが大切だと思えた。
レイナが話してくれた物語のように、今は難しいことかもしれないけれど、いつの日か大人も子供もヒトもネオも関係なく、分かり合える日が来ればいいと思った。
今目の前にいる、シロエとトモコのように。
そんな日々が来ればいい。
そんな日々の未来でありたい。
優しい日々を積み重ねて、未来は紡がれていった――
*** その先の未来 終 ***
太陽が照って、暑すぎるくらいだった。
それでも、時折吹き抜けていく風が心地よくてアイラは目を細めた。
そぐ傍から聞こえてくるレイナの声が心地よく耳に届いた。
「『ふと、懐かしい花の香りが通り過ぎた気がして、視線を巡らせてみたけれど、誰かを見つけることはできなかった』」
それは切なくて優しいおとぎ話だった。
「『ただ少し遠くの方で蝶の羽が、羽ばたいている様子だけが見てとれた――』」
パタンと、本が閉じられる音がして物語が終わったことが告げられた。
パチパチパチと、拍手が起こった。
「楽しかったね」
シロエが言った。
「うん!」
トモコが答えた。
「エレナはアイラお姉ちゃんみたいね」
トモコは目を輝かせて言った。
「え?」
思ってもない言葉に、アイラが目を見開くとトモコはその理由をとても簡単に言った。
「だって、髪が真っ白でとっても優しい!」
レイナが読み聞かせていた物語の少女――エレナはたしかに真っ白な髪で、優しい女の子だった。
けれどそれは、当然と言えば当然だった。
この物語は、レイナ自身が過去に書いた作品を書き直したものだった。
当初から、この物語はアイとシノの話をもとにしていた。
アイをもとにしたエレナという少女が、アイラのようだと言われても容易に納得できた。
アイラとアイはひどく似ていた。
「違うよ」
そう言ったのは、サイトだった。
「アイラはエレナとは違う」
その眼差しは、自分よりも遥かに年下の子供相手だと言うのに真剣なものだった。
「アイラは、ただの、普通の女の子で」
威圧感さえ漂っていた。
「僕のたったひとりの大切な女の子だよ」
ぽかりと、カイトが小突いた。
「お前だけじゃねぇからな。俺にとってもアイラは大事だ」
「レイナだってアイラのことは大事だよ」
そんな遣り取りが、アイラには楽し気に映った。
そして、同じだと思った。
レイナが読み聞かせてくれた物語と同じだ。
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普通の女の子として、たったひとりの王子様と結ばれるのだろう。
「わたしは……」
アイラの呟きに、全員が耳を傾けた。
「みんな、だいじ……シロエも、トモコも……」
ネオもヒトも関係なく、みんなが大切だと思えた。
レイナが話してくれた物語のように、今は難しいことかもしれないけれど、いつの日か大人も子供もヒトもネオも関係なく、分かり合える日が来ればいいと思った。
今目の前にいる、シロエとトモコのように。
そんな日々が来ればいい。
そんな日々の未来でありたい。
優しい日々を積み重ねて、未来は紡がれていった――
*** その先の未来 終 ***
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