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02 優しい日常

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 カイトの言葉に、鋭い視線を向けたサイトが言った。

「今のは」

 その声は、アイラに話しかけるときよりも、普段話しているときよりも格段に低かった。

「宣戦布告と思って、間違いないのかな……?」

 はっとしたように、失言をしたと目を見開いたカイトだったけれど、すぐにいつも通りの表情を取り繕った。

 目を背けて、告げた。

「……いいよ、それで」
「ホント、キミってムカツクよ」

 サイトの表情は、わかりやすく歪んでいた。

「ケンカ……しちゃ……ダメ……」

 それは、ケンカを止める魔法の言葉だった。
 毎日毎日、口喧嘩が絶やさないサイトとカイトの言い合いはこうして止まっていた。

「ごめんね、アイラ」

 カイトのことなど目もくれず、すぐさまアイラの傍で膝をついたサイトの目にはすでにアイラしか映っていなかった。

「ケンカはイヤだよね。もうしない。約束する。だから、泣かないで、ね?」

 アイラが泣いているわけではなかったけれど、サイトの方こそ泣きそうな表情を見せていたから、アイラは頷いた。

「うん」

 そうすれば、泣きそうなサイトの顔も笑顔に変わると思った。

「もういい? 決着ついたんなら、出て行ってほしいんだけど」

 すかさずレイナが声をかけると、サイトは攻撃的な眼差しでレイナを見た。

「キミも、僕とアイラの仲を引き裂こうって言うの?」

 そうであれば容赦はしない、とその瞳が物語っていた。

「アイラの着替え。女の子の着替えなんだから、男は出ていって」

 ビシッと扉を指差したレイナにサイトは笑った。

「なら、僕も手伝うよ。ね、アイラ」

 恥ずかしげもなく、サラリと言ってのけたサイトの言葉を聞いたレイナは、そっとアイラに耳打ちした。

 ひそひそと、耳打ちされる言葉の意味をアイラは半分も理解できなかった。

「はい。言って、アイラ」

 理解はできなかったけれど、レイナが言うのならと、アイラはゆっくりと言葉を紡いだ。

「へん、たい……げん、めつ……」

 ピシリと、サイトの動きが止まった。

 「へんたい」「げんめつ」「変態」「幻滅」「幻滅」「幻滅」――サイトの頭の中で、アイラに言われた言葉がこれでもかというくらいにぐるぐると渦巻いた。

 そして、はっと気が付いたようにアイラに向き直った。

「ウソだよ。冗談。僕は紳士だからね。女性の着替えに立ち会うようなマネはしないよ」

 そう言ったサイトは、すくっと立ち上がった。

「じゃあね、アイラ。離れるのは寂しいけど、外で待ってるからね」

 まるで数日、数週間、数年間は離れるのではないかというような名残惜しさを滲みだしているサイトだったけれど、レイナは容赦なくサイトを部屋から追い出した。

「わかったから早く出てけ」

 ぴしゃりと言い放ち、サイトが部屋から出るとレイナは満面の笑みでアイラを見た。

「さあて。着替え、始めようか」

「うん」

 レイナがアイラを着替えさせるのはいつものことだった。

 アイラは、腕の1本さえも自分で動かすのには時間がかかった。
 1人で着替えをこなすことは難しかった。

「伸びてきたね、髪」

 アイラの髪を梳かしながら、レイナは言った。

「また、切る? それとも、伸ばす?」

 かつてよりもずっと短く切り揃えられた髪は、アイラの希望だった。

「切って……ほしい……」

「うん。じゃあ今度切ってあげる。今日は、これで……」

 パチン! と軽快な音が鳴った。
 アイラの真っ白な髪に、黄色いひまわりが1つ咲いた。
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