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02 優しい日常

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 真っ白な部屋で、真っ白な少女――アイラは目を覚ました。
 すぐ傍にある大きな窓には青空が広がり、部屋の中に射し込む光が、室内を優しくあたたかく照らしていた。

「目が覚めた? おはよう、アイラ」

 少年――サイトがアイラに声をかけた。

 覗き込んだサイトの姿を、アイラの赤い瞳が捉えた。

 真っ黒な髪と、黒色の瞳。
 愛おし気な表情で、サイトはアイラを見つめていた。

「夢を、見たよ……」

 アイラはゆっくりと、微かな声で呟いた。
 聞こえるか聞こえない、わからないような小さな声だったけれど、サイトはアイラの言葉を聞き取っていた。

「どんな夢?」

 サイトは尋ねた。
 けれどサイトは知っていた。
 アイラの見たその夢が、ただの夢ではないことを。
 今現在、どこかで起きている現実のできごとだと。
 もしくは、これから訪れるであろうどこかの未来のできごとだと。

 アイラ自身も、それをわかっていた。

 アイラは、ゆっくりと答えた。

「悲しくて……優しい、夢……」
「そう」

 アイラの答えに、サイトはふわりと笑い、穏やかな時間が流れた。

 ゴスン――と、人間の頭部が自発的には出せないような音が出されたことで、アイラとサイトの2人きりの時間が終わりを告げた。

 アイラの目は、サイトの頭部に乗せられた正方形の黒い物体を捉えていた。

「離れろ、ヤンデレ予備軍」

 そう告げたのは、サイトの頭部に容赦なく黒い物体を落とした少年――カイトだった。

 サイトと同じ容姿をしていたけれど、カイトの方が髪が短かった。
 かつては他にも見分ける方法があったけれど、今では髪の長さとその喋り方が2人を見分ける唯一の方法となっていた。

「カイト……」

 その声で、その人物がカイトであると判断したアイラはその名前を口にした。

「ただいま、アイラ」

 アイラがいるベッドを覗き込んだカイトが告げた。

「おか……えり……」

 アイラは、ゆっくりと告げた。

 アイラの身体は不自由だった。
 その身体を動かすのに、人の何倍もも労力を必要とした。
 たったひと言を発するのにもひどく時間がかかった。

 けれど、それでもアイラは告げたかった。

 「おかえり」というその言葉は、とても大切なものだと思えていた。

 過去の記憶がおぼろげになってしまったアイラが、かすかに覚えていた言葉のひとつだった。

 アイラの言葉に、カイトは微かに笑みを見せた。

「何するのさ、痛いな」

 ゴスン――とカイトとアイラの時間を邪魔するように、それはまるで仕返しだとでも言いたげに、今度はサイトがカイトの頭部へ物体を落としていた。

「何すんだよ、痛ぇだろ」
「僕に同じことをしたんだから、これでおあいこでしょ」
「テメェよりマシだよ、ヤンデレ予備軍」
「ヤンデレ上等」

 カイトの言葉に折れることも、怒るでもなく、サイトは笑顔でそれを受け入れた。

「好きな人に好きだと、愛を囁いて何が悪いの? キミも好きなら好きって言えば? でないと」

 そっと、サイトはアイラの真っ白な腕をとった。

「僕がアイラのすべてを貰っちゃうよ?」

 そっと施されたサイトからアイラへの腕へのキスに、カイトの顔は真っ赤に染まった。

「やめろ! 離れろ! お前が近くにいるとアイラの精神衛生上悪影響だ! 教育にも悪い!」

「何してんの……」

 2人の様子に、呆れたようにぽつりとこぼした少女――レイナ。

「レイナ……」
「ただいま、アイラ」
「おか……えり……」

 薄い茶色の髪は長く伸ばされていて、毎日の手入れを欠かされていないためかレイナの髪はいつもサラサラとしていた。

「まったく、毎日毎日よくも飽きずに同じことを繰り返せるね。まあ、お互いに言いたいことを言えるようになったのはいいと思うけどさ。アイラを巻き込まないでよね」

「それは無理だよ」

 レイナの言葉に即答したのはサイトだった。

「僕はね、アイラのこと以外なら誰が何をしようとどうでもいい。けどアイラが関わるなら話は別」

 サイトは真剣な声音で告げた。

「僕はいつでもアイラのことを想って、アイラに触れていたい。なのにコイツが、文句をつけて邪魔してくるんだ。こんなにムカツクことはないだろう?」

「はあ!?」

 カイトは抗議した。

「テメェがアイラのためとか言ってんじゃねえ! そう思うならアイラから離れろ! 近づくな!」
「ふん。何? 自分がアイラに気持ちを伝えられないからって、僕にあたらないでくれる?」
「あたってねぇよ!」
「ふーん。別にいいけどね。僕としては早くキミがアイラに嫌われるか、キミがアイラを諦めるかしてほしいんだけど」

「嫌われねぇし! 諦めねぇよ!」

 勢いのまま言い切ったカイトの言葉に、サイトの視線が鋭くなった。
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