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2 近江花音は小学生

1.カラフルな灰色(3)

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 いつもは学校が終わってから通っている水曜日のバレエ教室は、9月にある発表会のために夏休みのレッスンが午前中からになる。

 日曜日のバレエ教室と同じになる。

 英会話教室もバレエ教室と同じになる、ただそれだけのこと。

「ねえ、ママ」

 私は、話題を変える。

「今日ね、麗ちゃんと萌果ちゃんが話していたの」

 帰りの会が終わったあとの、私が一緒に過ごすことのできない未来の話。

「夏休みにね、海に行くんだって。それで明日、一緒に水着を買いに行って、映画も観るんだって」

「そう、楽しそうね」

「うん」

「でも、花音ちゃんは一緒に行けないね。明日はお茶とお花のお教室だから」

「……うん」

 お茶とお花が嫌いなわけじゃない。

 ただ、ほんの少し。

 1度だけでいいから私も、友達と一緒にお買い物や映画に行ってみたい……、なんてほんのちょっとそう思っただけ。

「ママ、デザートにプリン食べてもいい?」

 私が言うと、ママはクスクスと笑った。

「食べ過ぎはダメよ? バレエの発表会で、綺麗に踊れなくなると困るから」

「はーい」

 寂しい……、なんてそんな気持ちをプリンで誤魔化す。

 太るといけないから、毎日は食べられないけど、甘くて優しい味のプリンが大好き。

 でも本当はママが作ったプリンが食べたいな……なんて……。

 ママは私の送り迎え以外にも、たくさんお手伝いがあって大変だから、もうずっとママのプリンを食べていない。

「サクランボ、ついているかな」

「そうね、ついているといいね」

 黄色いプリンの上に、真っ白なホイップクリームとちょんと乗っかった赤いサクランボ。

 私が大好きな、ママのプリン。

 恋しく思いながら、窓の外を眺める。

 名前も知らない、違う学校の子たちが友達と歩いている。

 きっと、あの子たちも明日から夏休みなんだ。

 私服姿の小学生たちが、ランドセルを背負って駆けて行く。

 赤と黒と紫と青と……色とりどりのランドセルが楽し気に跳ねる。

 横断歩道に立つ、黄色い旗を持った人。

 『横断中』と書かれた旗の向こう側を子供たちが歩く。

 私は、あの子たちと同じはずなのに、どこか遠く感じてしまう。

 まるで別世界。
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