上 下
3 / 38
2 近江花音は小学生

1.カラフルな灰色(2)

しおりを挟む
 00年7月21日金曜日。

 終業式で、学校が午前で終わる今日も私はママのお迎えで家に帰る。

「ただいま、ママ」

「お帰りなさい、花音ちゃん」

 車のドアを開けると、いつもと同じに迎えてくれるママ。

 助手席に乗り込んで、シートベルトを締めると車は動き出す。

 ――今日、いる……。

 動き出す車の中から外を見ると、去年まで毎日のように見かけていた男の子が、門の前に立っているのが見えた。

 去年までとは制服が違っているから、彼は中学生になったんだとわかる。

 私が通う、桜月学園付属桜ノ女子小学校の近くにある、桜月学園付属月ノ男子中学校の制服だ。

 桜月学園の初等部から付属の男子中学校に進学したんだ、とそんなことを思う。

 私はたぶん、このまま進学して来年には桜ノ女子中学校の制服を着るんだろうな、なんて。

「花音ちゃん、お昼は英会話教室の近くに新しくできたお店に行こうと思うんだけど、どうかな?」

 運転をしながら言うママに、私は窓の外の男の子から目線を外した。

 ママが家とは反対の方向にハンドルを切った。

「英会話教室は5時からなのに?」

 今から英会話教室の近くまで行っても、お昼を食べたあとはどんなに頑張ってゆっくり食べても3時間は待つことになってしまう。

「いつもの英会話教室は5時からだけど、夏休みの間だけグループレッスンがあるの。2時から説明会と体験教室があるから時間のことは心配しなくて大丈夫」

 ――グループレッスン……。

 頭の中で、ママの言葉を繰り返す。

「ママ」

「なあに?」

 ママは前を見たまま返事をする。

「月曜日はピアノでしょ、火曜日はお習字で、水曜日はバレエで、木曜日は声楽で、金曜日が英会話で、土曜日がお茶とお花で、日曜日はバレエで……」

 指を折りながら、1週間の習いごとを並べていく。

「グループレッスンに行ける日、ないよ?」

 1週間は7日間。

 折られた7本の指を見て、1週間のすべてに習いごとがあることを実感した。

「大丈夫よ。夏休みだもの」

 ママは言う。

「学校がお休みだから、学校の時間にレッスンするの。バレエ教室と同じだから、心配しなくていいのよ」

「……そっか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶
大衆娯楽
女性にとっては普通の毎日のことでも、男性にとっては知らないことばかりかも。 そんな世界を覗いてみてください。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...