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第5章 姫神子と王子
第4話 姫神子と王子
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緑が生い茂る場所。
ほんの少しだけ懐かしく思う。
「サークッ! ひっさしぶりー!」
「紅炎?」
私は、氷利と一緒に已樹のお屋敷に来た。
でも、出迎えてくれたのはなぜか紅炎で、氷利が冷ややかな目を向けている。
「なぜお前がいる……」
氷利の問いかけに、紅炎はわくわくと目を輝かせて答える。
「だって、サクが龍に会いに已樹んとこ行くって聞いたからさ! 俺も龍見たいし! サクに会いたかったし!」
「気安く見るな」
ぐっと、抱え込まれるように氷利に抱きしめられた。
「桜ノも見ちゃダメ。話しちゃダメ。答えちゃダメ」
そんな氷利の行動に恥ずかしくなって、でも、それが嬉しかったりもする。
「相変わらずですね」
遅れてお屋敷を出て来た已樹に、呆れたように言葉をかけられる。
「姫神子様、イヤになりませんか? 今からでも我が国へいらっしゃいませんか? 我々はアナタを歓迎しますよ」
「あ、ずりぃ! サク! 俺んとこでもいいんだぜ? サクなら大歓迎!」
そんな言葉に、氷利が紅炎と已樹をキッ! と音がでそうなくらいに睨みつけた。
「ふざけるな!」
怒る氷利だけど、そんな姿にさえ私は喜びを感じてしまう。
「紅炎、已樹、ごめんなさい」
私は氷利の腕に収まりながら、2人に告げる。
「私は氷利が好きだから。氷利だけが好きだから。氷利の傍にいたいの」
もう、離れたくないと、離さないでほしいと思ってしまうほど、私は氷利のことが好き。
「くそー、またフられた!」
「まったく、そんな男のどこがいいのか……。引き返すのなら今のうちだと言うのに」
已樹のその言葉に、ほんの少し顔が熱くなる。
「桜ノ」
名前を呼ばれて見上げる。
――っ!!
氷利が溶けそうな笑みで私を見下ろしていて……。
さらにはその唇が額に落ちてきたものだから、私の心臓が跳ね上がった。
耐えきれず、氷利の腕に顔を埋める。
「くそ可愛い!! 氷利ずりぃ! ……んだよその顔ムカツク!」
やいやい言ってる紅炎だけど、どことなく楽しそうに聞こえるのはきっと気のせいじゃない。
「ほら、いちゃついていないで早く乗ってください。馬の用意はできています」
已樹に言われて、私たちは馬車に乗り込んだ。
今日は目的があって来たんだ。
龍王に会う。
会って、報告しなきゃいけない。
ずっと私を――姫神子様を想っていた龍王に。
前に已樹と2人で乗った馬車よりもさらに大きな馬車に乗って、前と同じように馬車を空を飛んで、前と同じ岩場へと降り立った。
前に来たときと変わらない場所。
けど、景色だけは大きく変わっていた。
馬車から見下ろした地上。
岩場から見渡す地上。
どこにも、緑が広がっていて、荒れていたのがウソだったみたいに思えた。
「ここが龍のいる場所?」
「本来、姫神子様以外の者が立ち入ることは許されないんですからね」
物珍しそうに、あちこちを見回す紅炎に已樹は呆れた様子で言葉をもらす。
姫神子様しか来ることを許されないこの場所に、こんなにたくさんの人を連れて来た私を龍王は怒るだろうか。
空が震える。
龍王が来る。
――神ノ……オトメ――
「龍王」
現れた龍王は、前に会ったときと変わらない姿で、鋭くて綺麗な金色の眼光で私を見る。
――再ビ……コノ地ニ来ルトハ……――
龍王の眼光が、已樹を見て、紅炎を見て、そして氷利を見る。
「龍王、この人たちを連れて来たこと、怒ってる?」
――……ナゼ、私ガ怒ルコトガアル――
「良かった。今日はね、龍王に報告があって来たの」
龍王の眼光が、私を捉える。
「私、結婚することになったの。氷利と」
ぎゅっと握った氷利の手。
氷利も、それに応えるように握り返してくれた。
――緋王ノ――
龍王が、氷利を見る。
――ソナタハナゼ。姫神子ヲ望ム――
「愛しているから」
間をおくこともなく答えた氷利に、かあっと顔が熱くなる。
龍王の問いに、氷利は悩む素振りも見せなかった。
「だが私が愛しているのは姫神子ではなく、桜ノだ。龍と言えど、違えてくれるな」
ぎゅっと、氷利の腕に抱き寄せられる。
氷利の言葉は龍王に臆することもなくて、すごくカッコイイなんて、こんなときにも思ってしまった。
――神ノ乙女――
龍王が、今度は私に聞く。
――ソナタハ、緋王ノ者ヲ心カラ望ムカ――
なにかを見定めるような、探るような、そんな龍王の瞳に私は真っ直ぐに答える。
「うん。私も氷利を愛しているから。心からずっと一緒にいたいと思ってる」
嘘偽りなく、私自身の中に本当に存在している、本当の気持ち。
龍王の眼光が、氷利を捉えた。
――再ビ姫神子ヲ不幸ニスルナラバ、次ハ全テヲ滅ボシテクレヨウ――
「望むところだ」
氷利は、不適に笑って見せた。
「永遠に誓うよ。俺は生涯桜ノを、桜ノだけを愛し続けると」
そうして、合わされた唇に、身体中が熱くなって……。
でも、それさえも氷利に与えられるものなら心地いいだなんて……。
瞼を閉じた龍王が、再びその目を開くと龍王は空を見上げた。
緩やかに、空へと昇るその前に、私はどうしても伝えなければ。
「龍王!」
空への歩みを止めずに、龍王が私を見る。
「私、今、とっても幸せだよ!」
微かに目を見開いた龍王が、けれどすぐに前を見据えて空へと昇って行った。
『今世の私は、とっても幸せよ』
風に乗って、誰かの声が聞こえた気がした。
*** 姫神子と王子 終 ***
ほんの少しだけ懐かしく思う。
「サークッ! ひっさしぶりー!」
「紅炎?」
私は、氷利と一緒に已樹のお屋敷に来た。
でも、出迎えてくれたのはなぜか紅炎で、氷利が冷ややかな目を向けている。
「なぜお前がいる……」
氷利の問いかけに、紅炎はわくわくと目を輝かせて答える。
「だって、サクが龍に会いに已樹んとこ行くって聞いたからさ! 俺も龍見たいし! サクに会いたかったし!」
「気安く見るな」
ぐっと、抱え込まれるように氷利に抱きしめられた。
「桜ノも見ちゃダメ。話しちゃダメ。答えちゃダメ」
そんな氷利の行動に恥ずかしくなって、でも、それが嬉しかったりもする。
「相変わらずですね」
遅れてお屋敷を出て来た已樹に、呆れたように言葉をかけられる。
「姫神子様、イヤになりませんか? 今からでも我が国へいらっしゃいませんか? 我々はアナタを歓迎しますよ」
「あ、ずりぃ! サク! 俺んとこでもいいんだぜ? サクなら大歓迎!」
そんな言葉に、氷利が紅炎と已樹をキッ! と音がでそうなくらいに睨みつけた。
「ふざけるな!」
怒る氷利だけど、そんな姿にさえ私は喜びを感じてしまう。
「紅炎、已樹、ごめんなさい」
私は氷利の腕に収まりながら、2人に告げる。
「私は氷利が好きだから。氷利だけが好きだから。氷利の傍にいたいの」
もう、離れたくないと、離さないでほしいと思ってしまうほど、私は氷利のことが好き。
「くそー、またフられた!」
「まったく、そんな男のどこがいいのか……。引き返すのなら今のうちだと言うのに」
已樹のその言葉に、ほんの少し顔が熱くなる。
「桜ノ」
名前を呼ばれて見上げる。
――っ!!
氷利が溶けそうな笑みで私を見下ろしていて……。
さらにはその唇が額に落ちてきたものだから、私の心臓が跳ね上がった。
耐えきれず、氷利の腕に顔を埋める。
「くそ可愛い!! 氷利ずりぃ! ……んだよその顔ムカツク!」
やいやい言ってる紅炎だけど、どことなく楽しそうに聞こえるのはきっと気のせいじゃない。
「ほら、いちゃついていないで早く乗ってください。馬の用意はできています」
已樹に言われて、私たちは馬車に乗り込んだ。
今日は目的があって来たんだ。
龍王に会う。
会って、報告しなきゃいけない。
ずっと私を――姫神子様を想っていた龍王に。
前に已樹と2人で乗った馬車よりもさらに大きな馬車に乗って、前と同じように馬車を空を飛んで、前と同じ岩場へと降り立った。
前に来たときと変わらない場所。
けど、景色だけは大きく変わっていた。
馬車から見下ろした地上。
岩場から見渡す地上。
どこにも、緑が広がっていて、荒れていたのがウソだったみたいに思えた。
「ここが龍のいる場所?」
「本来、姫神子様以外の者が立ち入ることは許されないんですからね」
物珍しそうに、あちこちを見回す紅炎に已樹は呆れた様子で言葉をもらす。
姫神子様しか来ることを許されないこの場所に、こんなにたくさんの人を連れて来た私を龍王は怒るだろうか。
空が震える。
龍王が来る。
――神ノ……オトメ――
「龍王」
現れた龍王は、前に会ったときと変わらない姿で、鋭くて綺麗な金色の眼光で私を見る。
――再ビ……コノ地ニ来ルトハ……――
龍王の眼光が、已樹を見て、紅炎を見て、そして氷利を見る。
「龍王、この人たちを連れて来たこと、怒ってる?」
――……ナゼ、私ガ怒ルコトガアル――
「良かった。今日はね、龍王に報告があって来たの」
龍王の眼光が、私を捉える。
「私、結婚することになったの。氷利と」
ぎゅっと握った氷利の手。
氷利も、それに応えるように握り返してくれた。
――緋王ノ――
龍王が、氷利を見る。
――ソナタハナゼ。姫神子ヲ望ム――
「愛しているから」
間をおくこともなく答えた氷利に、かあっと顔が熱くなる。
龍王の問いに、氷利は悩む素振りも見せなかった。
「だが私が愛しているのは姫神子ではなく、桜ノだ。龍と言えど、違えてくれるな」
ぎゅっと、氷利の腕に抱き寄せられる。
氷利の言葉は龍王に臆することもなくて、すごくカッコイイなんて、こんなときにも思ってしまった。
――神ノ乙女――
龍王が、今度は私に聞く。
――ソナタハ、緋王ノ者ヲ心カラ望ムカ――
なにかを見定めるような、探るような、そんな龍王の瞳に私は真っ直ぐに答える。
「うん。私も氷利を愛しているから。心からずっと一緒にいたいと思ってる」
嘘偽りなく、私自身の中に本当に存在している、本当の気持ち。
龍王の眼光が、氷利を捉えた。
――再ビ姫神子ヲ不幸ニスルナラバ、次ハ全テヲ滅ボシテクレヨウ――
「望むところだ」
氷利は、不適に笑って見せた。
「永遠に誓うよ。俺は生涯桜ノを、桜ノだけを愛し続けると」
そうして、合わされた唇に、身体中が熱くなって……。
でも、それさえも氷利に与えられるものなら心地いいだなんて……。
瞼を閉じた龍王が、再びその目を開くと龍王は空を見上げた。
緩やかに、空へと昇るその前に、私はどうしても伝えなければ。
「龍王!」
空への歩みを止めずに、龍王が私を見る。
「私、今、とっても幸せだよ!」
微かに目を見開いた龍王が、けれどすぐに前を見据えて空へと昇って行った。
『今世の私は、とっても幸せよ』
風に乗って、誰かの声が聞こえた気がした。
*** 姫神子と王子 終 ***
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