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第1章 緋王氷利
第3話 桜ノのお願い
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ふと気がついたときには私は彼のお屋敷に来て数日が経過していて、15歳の誕生日もとうに過ぎていた。
それから数週間が経過しているけど、未だに思い出す気配もない。
毎年誕生日には、ささやかではあるけど家族でお祝いをしてくれていた。
貧しいながらも、その日だけは特別な日だからと、いつもよりちょっとだけ贅沢な料理をつくって家族と過ごす。
私の15歳の誕生日は、なにをつくったの?
どんな話をして、どんな1日を過ごしたの?
彼も、一緒だった?
なにも思い出せない。
ときどき、怖くなる。
ふかふかの絨毯が敷かれた部屋は、私だけのために用意された部屋。
雨漏りなんて絶対にしない、立派なつくり。
着るものも毎日違うものが用意されていて、着心地も肌触りもすごくいい。
食べ物だって、毎日3食、お腹いっぱいに食べてもまだ余るくらいに出されて……。
そのすべてが彼の計らいによるもの。
彼は緋の国を治める一国の王子様で、私は貧しい田舎の村娘。
私なんかが、こんな不自由のない生活を送っているなんて……。
けど、不自由とは少し違うかもしれないけど、私はまだ1度もこの部屋の外に出させてもらえていない。
私の記憶にある限り、私は毎日この部屋の中で過ごしていて、この部屋の外がどうなっているのかを知らない。
だから今日、彼に頼んでみようと思う。
――ダメ……かな……?
「ダメ」
彼の口から出たのはそのひと言。
「なにか不自由なことがあるの?」
そっと、私に手を伸ばして頬を触れてくる彼はずるい。
私がドキドキして、頭の中が真っ白になることを知っててやってくるんだ。
「そ、いう、わけじゃ……」
「じゃあ、外に出る必要はない」
彼は言う。
「桜ノは、俺だけ見ていればいい。俺だけを見て、俺だけに興味を持って」
そんなことを言われて、きっと私、今、顔真っ赤だ。
こんな綺麗な人に、こんなこと言われて……。
それも強いるように強く、はっきりと。
「桜ノ? わかった? わからない? わからないならお仕置きだね。それとも……お仕置き、されたい?」
彼が綺麗に、意地悪に笑む。
――イヤ……。
彼の言う「お仕置き」は、心臓が壊れるくらいにドキドキさせられるから、イヤ。
私は、首を横に振る。
「それは、どういう意味? わからないから、お仕置き、されたいの?」
「ち、違っ……」
彼は「お仕置き」が、したいんだ。
今日の彼はすごく意地悪で、楽しそうに瞳を輝かせている。
「さて、なにをしてあげようか」
彼の声が私の耳元で囁く。
彼に後ろから抱きしめられて、耳に、彼の吐息がかかって、くすぐったい。
「今日はなにをしていたの? 俺がいない間、俺のこと、考えてくれてた?」
ときどき、彼の唇が耳に触れてくる。
「俺は考えてたと? 今なにしてるかな、とか、なにを考えてるのかな、とか」
「……っ」
耳を、彼の口元から離そうとしたら、片手を添えられて抑え付けられた。
そのせいで、余計に密着して……。
「桜ノは? 俺のこと、考えてくれてた?」
――ゾクゾクする……。
「ねえ? 答えて?」
「……か、考え……た……」
「ん?」
やっぱり、今日の彼は意地悪。
絶対、聞こえているはずなのに……。
「……かんがえた」
「どんなふうに?」
――どんな……?
もう、頭が混乱していて、なにが起こっているのか、うまく理解できない……。
「俺のどんなこと、考えてたの?」
まるで暗示にでもかけるみたいに、彼は私の耳元で問い続ける。
甘く、優しく、なにかに誘いこむように。
「……も……、や……」
もう、いやだ。
心臓がオカシイくらいにドキドキして、壊れそう。
頭まで、ドクドクする。
身体は熱くて、意識が飛んで行きそうで、だけど逃げたくても逃げられない。
彼から離れることを、彼が許してくれない……。
「……ごめん、桜ノ。お仕置きが過ぎた」
そう、彼の声が聞こえたと思ったら、彼は私から離れていった。
「これ以上は桜ノに嫌われそうだからね」
ふわりと綺麗な笑顔を見せつけて、彼は私の目の前に座り直した。
……少しだけ、距離をおいて。
「それで? 俺のどんなこと、考えてたの?」
ホッとしたのも束の間、彼は私に聞いてきた。
薄く、笑みを浮かべて見つめてくる彼。
意地悪だけど、それでもやっぱり、綺麗。
「答えて? 俺は言ったよ、桜ノ」
彼が勝手に話しだしたことなのに……。
それでも、私が答えるまできっとこのまま。
それか、またさっきみたいに「お仕置き」と称してなにかをやられる。
「えっと……その……」
うつむいて、彼から目を逸らす。
恥ずかしくて、まともに彼を見ることさえできない。
「早く、帰って来ないかな……って」
外に出たいと、お願いするために。
けど、彼はそうは思わなかったみたいで……。
「俺がいなくて寂しかった?」
なんて、聞いてきた。
「嬉しいな。桜ノが俺を想って待っていてくれたなんて」
彼の声に、言葉に、彼を見ることができない。
クスリと、彼が笑った。
「桜ノは俺だけのモノ。見ていいのも、触っていいのも、俺だけ」
そう言って、伸びてくる彼の手。
するりと、彼の手が、指先が、私の髪をひと房取った。
「桜ノは、他の誰でもない、俺だけのお姫様だから」
そう言って、私の髪にキスをする彼の姿に、心臓が大きく飛び跳ねた。
それから数週間が経過しているけど、未だに思い出す気配もない。
毎年誕生日には、ささやかではあるけど家族でお祝いをしてくれていた。
貧しいながらも、その日だけは特別な日だからと、いつもよりちょっとだけ贅沢な料理をつくって家族と過ごす。
私の15歳の誕生日は、なにをつくったの?
どんな話をして、どんな1日を過ごしたの?
彼も、一緒だった?
なにも思い出せない。
ときどき、怖くなる。
ふかふかの絨毯が敷かれた部屋は、私だけのために用意された部屋。
雨漏りなんて絶対にしない、立派なつくり。
着るものも毎日違うものが用意されていて、着心地も肌触りもすごくいい。
食べ物だって、毎日3食、お腹いっぱいに食べてもまだ余るくらいに出されて……。
そのすべてが彼の計らいによるもの。
彼は緋の国を治める一国の王子様で、私は貧しい田舎の村娘。
私なんかが、こんな不自由のない生活を送っているなんて……。
けど、不自由とは少し違うかもしれないけど、私はまだ1度もこの部屋の外に出させてもらえていない。
私の記憶にある限り、私は毎日この部屋の中で過ごしていて、この部屋の外がどうなっているのかを知らない。
だから今日、彼に頼んでみようと思う。
――ダメ……かな……?
「ダメ」
彼の口から出たのはそのひと言。
「なにか不自由なことがあるの?」
そっと、私に手を伸ばして頬を触れてくる彼はずるい。
私がドキドキして、頭の中が真っ白になることを知っててやってくるんだ。
「そ、いう、わけじゃ……」
「じゃあ、外に出る必要はない」
彼は言う。
「桜ノは、俺だけ見ていればいい。俺だけを見て、俺だけに興味を持って」
そんなことを言われて、きっと私、今、顔真っ赤だ。
こんな綺麗な人に、こんなこと言われて……。
それも強いるように強く、はっきりと。
「桜ノ? わかった? わからない? わからないならお仕置きだね。それとも……お仕置き、されたい?」
彼が綺麗に、意地悪に笑む。
――イヤ……。
彼の言う「お仕置き」は、心臓が壊れるくらいにドキドキさせられるから、イヤ。
私は、首を横に振る。
「それは、どういう意味? わからないから、お仕置き、されたいの?」
「ち、違っ……」
彼は「お仕置き」が、したいんだ。
今日の彼はすごく意地悪で、楽しそうに瞳を輝かせている。
「さて、なにをしてあげようか」
彼の声が私の耳元で囁く。
彼に後ろから抱きしめられて、耳に、彼の吐息がかかって、くすぐったい。
「今日はなにをしていたの? 俺がいない間、俺のこと、考えてくれてた?」
ときどき、彼の唇が耳に触れてくる。
「俺は考えてたと? 今なにしてるかな、とか、なにを考えてるのかな、とか」
「……っ」
耳を、彼の口元から離そうとしたら、片手を添えられて抑え付けられた。
そのせいで、余計に密着して……。
「桜ノは? 俺のこと、考えてくれてた?」
――ゾクゾクする……。
「ねえ? 答えて?」
「……か、考え……た……」
「ん?」
やっぱり、今日の彼は意地悪。
絶対、聞こえているはずなのに……。
「……かんがえた」
「どんなふうに?」
――どんな……?
もう、頭が混乱していて、なにが起こっているのか、うまく理解できない……。
「俺のどんなこと、考えてたの?」
まるで暗示にでもかけるみたいに、彼は私の耳元で問い続ける。
甘く、優しく、なにかに誘いこむように。
「……も……、や……」
もう、いやだ。
心臓がオカシイくらいにドキドキして、壊れそう。
頭まで、ドクドクする。
身体は熱くて、意識が飛んで行きそうで、だけど逃げたくても逃げられない。
彼から離れることを、彼が許してくれない……。
「……ごめん、桜ノ。お仕置きが過ぎた」
そう、彼の声が聞こえたと思ったら、彼は私から離れていった。
「これ以上は桜ノに嫌われそうだからね」
ふわりと綺麗な笑顔を見せつけて、彼は私の目の前に座り直した。
……少しだけ、距離をおいて。
「それで? 俺のどんなこと、考えてたの?」
ホッとしたのも束の間、彼は私に聞いてきた。
薄く、笑みを浮かべて見つめてくる彼。
意地悪だけど、それでもやっぱり、綺麗。
「答えて? 俺は言ったよ、桜ノ」
彼が勝手に話しだしたことなのに……。
それでも、私が答えるまできっとこのまま。
それか、またさっきみたいに「お仕置き」と称してなにかをやられる。
「えっと……その……」
うつむいて、彼から目を逸らす。
恥ずかしくて、まともに彼を見ることさえできない。
「早く、帰って来ないかな……って」
外に出たいと、お願いするために。
けど、彼はそうは思わなかったみたいで……。
「俺がいなくて寂しかった?」
なんて、聞いてきた。
「嬉しいな。桜ノが俺を想って待っていてくれたなんて」
彼の声に、言葉に、彼を見ることができない。
クスリと、彼が笑った。
「桜ノは俺だけのモノ。見ていいのも、触っていいのも、俺だけ」
そう言って、伸びてくる彼の手。
するりと、彼の手が、指先が、私の髪をひと房取った。
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そう言って、私の髪にキスをする彼の姿に、心臓が大きく飛び跳ねた。
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