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第六章 舞踏会?いいえ今度こそ武闘会です

#156 チーム戦其の六

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「し、しかし……」
 司会者はオロオロと炭のグレッグとフェーリエを見比べる。早く安否を確認しに行きたいのだろう。死者が出ては大事なのだから。
「よく考えて下さい。冒険者生命に支障のある怪我を負わせてはいけないというルールがあります。わざわざ私がそれを破るメリットはありません」
「確かにそうですが……」
「方や彼らはこのまま行けば私の反則負けで次に勝ち進められる」
 静かに言葉を紡ぐフェーリエの声に、気付けば観客席は静かになっていた。
「私は、グレッグさんに張られた障壁を破る程度の魔力しか使っていません。あれほど炭焼きにはならないんですよ」
「障壁があると……なぜ?」
「私は魔力の流れが見えます。彼を覆っている障壁も、今彼を纏っている魔法の魔力も見えています。ねぇ、グレッグさん、レイモンドさん。茶番は辞めにして、いい加減戦いませんか?」
 フェーリエの言葉に、観客の視線が炭のグレッグに移る。どこからともなく、ため息が聞こえた。
 ムクッと起き上がった炭は、元気に立ち上がり肩を竦めた。
「あーあ。やっぱりばれてたか」
「やはり彼女は騙せませんね」
 目の前で炭とレイモンドが会話をしている。炭の声は勿論グレッグだ。
「いい加減、その幻覚を解いたらどうですか?」
 炭が喋っている不思議な状態を解決するため、呆れ声で声を掛ける。
「だとよ、レイモンド」
「わかりました」
 レイモンドが手を翳すと、五体満足のグレッグが姿を現した。無事な姿に、観客からは安堵の息が漏れる。
「それにしても、何のために恥を忍んで詠唱してあげたと思ってるんですか。障壁の対策を取って貰うためで、こんな茶番に付き合う為じゃないんですけど」
「すまんすまん。ちょっとした悪ふざけのつもりだったんだ。こっからは本気出すから許してくれよ?」
 戯けたように笑うグレッグは、再び大剣を構える。
 フェーリエはその言葉に「そうですね、そうしましょうか。司会者さんは元の場所に戻った方が良いですよ」と乾いた言葉を発した。フェーリエの言葉に慌てて司会者が避難したことを見届けると、フェーリエは一息吐いた。
「クローお願いします」
「わかりました」
 後ろにいるクローに呼びかける。入場前に耳打ちした内容を実現して貰う為だ。ここまで舐められたら、実行せざるを得ない。
 クローの手から淡い光が放たれる。その光は相手二人を優しく包み、パッと消えた。
「ん?掛ける相手間違えたんじゃないか?」
「いいえ、間違えてませんよ?」
 回復魔法であると理解したグレッグは、不思議そうに問いかける。それに微笑みながら、突き出した右手に魔力を集める。
「それじゃあ、私の魔法の実験台になってもらいましょうか」
「「は?」」
 フェーリエの言葉に口を開けた二人は、瞬時に氷に包まれた。唖然とする会場の中で、クローだけが二人に哀れみの目を向けた。

「で、降参します?」
「……する」
「……はい」
 空中に逆さ吊りになっている二人に、フェーリエが笑いかける。
 クローの即時回復魔法のお陰で傷一つ無い二人だが、フェーリエからの数々の魔法に既に心がやられていた。
 入場前にクローに耳打ちした内容。それは、ヒトが死なないように回復魔法を掛け続けることは可能か、と言うものだった。
 結果として可能だったそれのせいで、フェーリエの魔法を受ける→回復する→また魔法を受ける→回復するを繰り返された彼らは、心が疲れてしまった。身体の傷は治ろうと、痛みはあるのだから軽く所か普通に拷問である。
「司会者さーん!降参するそうですよー」
「は、はい!!」
 手を振りながらフェーリエに呼ばれた司会者は、引きつった顔でフェーリエ達の勝利を告げた。
 空中から降ろされた彼らは、救護室に運ばれていった。身体のケアより、心のケアだ。彼らは、安易にフェーリエを怒らせてはいけないと身をもって知り、肝に銘じることとなった。
 観客席から恐怖の眼差しを送られたフェーリエは、少しやり過ぎただろうか、と目を瞬かせた。 



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