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第五章 武闘会?いいえ舞踏会です
#138 異母妹
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「お兄様、彼女にはお会いできましたか?」
「シャーロット……」
胡散臭い笑顔を貼り付けた異母妹は、優雅な足取りで此方に近づいてきた。
ヒトはこの笑顔を美しいともてはやす。全て計算されて作られたこの笑顔より、フードから時折溢れる彼女の笑顔の方に惹かれる。
(……俺は何を考えているんだ)
自分の頭を過ぎった思考に、思わず遠くを見てしまう。そんなことをすれば、聡すぎる異母妹に勘ぐられてしまうではないか。
「あら、今失礼なこと考えませんでした?」
「考えていない……」
母親の身分の違いのせいではないが、ユスティアはこの異母妹が苦手だった。全てを知っているような、何を考えているのか分からない態度に恐怖を覚える。この恐怖は自分に流れる血の半分が野生に近いモノだからだろうか。野生の勘といものだと勝手に思うようにしている。
苦手とは言え、嫌いではなかった。獣人族の母を持ち、王家の色を完全に受け継がないユスティアに、隔てなく言葉を掛けてくるのは物好きなこの異母妹ぐらいだった。獣人族はその瞳の色である程度種別される。だからこそ、その色は遺伝しやすい。一時はこの不完全な目を疎ましく思っていた事もある程、どうしようもない事だった。
「彼女が運良く迷ってくれて良かったですわ。お陰で苦労なくお兄様に会わせられましたもの」
さらりとシャーロットは言った。これは完全に手を回したのだろう。胡乱げな目を向ければ、異母妹は優雅に扇で顔を隠して笑った。食えない奴だ。
「あまり勝手なことはするなと言っただろう」
「あら、私は良かれと思って実行したのですけれど……」
それが勝手なことだと言えればどれ程良いだろう。残念ながら、言ったところでこの異母妹は聞く耳を持たない。
諦めてため息を付くと、シャーロットはおもむろに本を取り出した。
「安心して下さいませ。彼女はこれでお兄様が王子だと知りましたし、縁談の話も無事に進みますわ」
「……だからどうしてそういう話になる」
「お兄様の初恋ですもの。相手は伯爵令嬢ですし、未婚、兄がいるため嫁いでも問題は無い、と条件は整っていますわ。お父様も随分と乗り気ですし、今更ですわね」
ユスティアは尚更頭を抱えた。
父親……つまり王に命令されて冒険者になった日、偶然会った彼女。貴族令嬢の興味本位での活動だと思った。直ぐに辞めると。しかし、初心者狩りを撃退した彼女は地に足をつけていた。興味を持つなという方が可笑しいだろう。
初めは顔を隠して明らかに警戒した姿勢だったが、時間を重ねるごとにいくらか素顔を見せるようになった。フードの効果も最近では有って無いようなものになっていたが、それはあえて言わなかった。言えばあのくるくる変わる表情が見られなくなると思ったからだ。その時点で、かなり重傷だったのだろう。
好奇心一杯に聞いてくる異母妹に話をしている内に、強制的にこの思いを自覚させられた。
「私の『本』が有れば、知りたいことは大概知れますけど、ヒトの心までは分かりませんからね。頑張って落として下さいね?」
本を大事そうに抱え、異母妹は愉快そうに笑う。この笑顔はいくらかマシだ。まだ素に近い。
「お前には関係ないことだろう」
「それがそうでもないんですわ」
半ば自棄になりながら放った言葉は、思いがけない言葉で返された。
「どういうことだ?」
「私も、早く彼女と話がしたいんです。早く」
本を抱えて目を伏せた異母妹は、何故か別の人物に見えた。
「シャーロット……」
胡散臭い笑顔を貼り付けた異母妹は、優雅な足取りで此方に近づいてきた。
ヒトはこの笑顔を美しいともてはやす。全て計算されて作られたこの笑顔より、フードから時折溢れる彼女の笑顔の方に惹かれる。
(……俺は何を考えているんだ)
自分の頭を過ぎった思考に、思わず遠くを見てしまう。そんなことをすれば、聡すぎる異母妹に勘ぐられてしまうではないか。
「あら、今失礼なこと考えませんでした?」
「考えていない……」
母親の身分の違いのせいではないが、ユスティアはこの異母妹が苦手だった。全てを知っているような、何を考えているのか分からない態度に恐怖を覚える。この恐怖は自分に流れる血の半分が野生に近いモノだからだろうか。野生の勘といものだと勝手に思うようにしている。
苦手とは言え、嫌いではなかった。獣人族の母を持ち、王家の色を完全に受け継がないユスティアに、隔てなく言葉を掛けてくるのは物好きなこの異母妹ぐらいだった。獣人族はその瞳の色である程度種別される。だからこそ、その色は遺伝しやすい。一時はこの不完全な目を疎ましく思っていた事もある程、どうしようもない事だった。
「彼女が運良く迷ってくれて良かったですわ。お陰で苦労なくお兄様に会わせられましたもの」
さらりとシャーロットは言った。これは完全に手を回したのだろう。胡乱げな目を向ければ、異母妹は優雅に扇で顔を隠して笑った。食えない奴だ。
「あまり勝手なことはするなと言っただろう」
「あら、私は良かれと思って実行したのですけれど……」
それが勝手なことだと言えればどれ程良いだろう。残念ながら、言ったところでこの異母妹は聞く耳を持たない。
諦めてため息を付くと、シャーロットはおもむろに本を取り出した。
「安心して下さいませ。彼女はこれでお兄様が王子だと知りましたし、縁談の話も無事に進みますわ」
「……だからどうしてそういう話になる」
「お兄様の初恋ですもの。相手は伯爵令嬢ですし、未婚、兄がいるため嫁いでも問題は無い、と条件は整っていますわ。お父様も随分と乗り気ですし、今更ですわね」
ユスティアは尚更頭を抱えた。
父親……つまり王に命令されて冒険者になった日、偶然会った彼女。貴族令嬢の興味本位での活動だと思った。直ぐに辞めると。しかし、初心者狩りを撃退した彼女は地に足をつけていた。興味を持つなという方が可笑しいだろう。
初めは顔を隠して明らかに警戒した姿勢だったが、時間を重ねるごとにいくらか素顔を見せるようになった。フードの効果も最近では有って無いようなものになっていたが、それはあえて言わなかった。言えばあのくるくる変わる表情が見られなくなると思ったからだ。その時点で、かなり重傷だったのだろう。
好奇心一杯に聞いてくる異母妹に話をしている内に、強制的にこの思いを自覚させられた。
「私の『本』が有れば、知りたいことは大概知れますけど、ヒトの心までは分かりませんからね。頑張って落として下さいね?」
本を大事そうに抱え、異母妹は愉快そうに笑う。この笑顔はいくらかマシだ。まだ素に近い。
「お前には関係ないことだろう」
「それがそうでもないんですわ」
半ば自棄になりながら放った言葉は、思いがけない言葉で返された。
「どういうことだ?」
「私も、早く彼女と話がしたいんです。早く」
本を抱えて目を伏せた異母妹は、何故か別の人物に見えた。
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