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第四章 魔導王国

#102 昔話

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「あ、貴女が、女王?」
『うん、そうだね。人と話すのは久しぶりだ。あまり、身構えないで欲しい』
 女王は、剣の鞘に手を添えているユースを見ながら困った笑みを浮かべた。
「どうして、貴女は……魔導具、に?」
『おや、CPU2はそのことを話さなかったのか。答えは簡単だよ。ガイアの愛し子の魂を、次へ流転させるためだ』
「魂を……」
 フェーリエは呆然と呟く。魂を流転させる、つまり転生。だが、それと女王が魔導具として存在していることが繋がらない。
『ふむ。そこからか……。仕方がない。少し、昔話をしよう。ガイアの愛し子が受け継ぐ、人の業の話を』
 そう言った女王は、感情を伺わせない笑顔を浮かべた。
『この話は、世界が混沌、カオスと呼ばれる状態であった時からになる。混沌が分解され、始めに生まれたのがガイア。全ての生みの親だ。生みの親と言っても、ガイア自身が何か特別なことをしたわけではない。ただそこに居ただけで、ガイアの力から大地や空が生まれた。そこに生きる生物も生まれた。だが、ガイアにとってそれらは、生んだ自覚もない代物だ。どれ程移ろい、破滅しようと、何も感じない』
 女王は、まるで自分自身がそうであるような、感情のない声色で話す。それを聞いたフェーリエ達がどう思うのか、そういったことは考えず、ただただ事実だけを述べている。
『そんなある日、ガイアは創造に興味を持った。自分と同じ外見の生物を生み出すことを実行した。とは言え、全く同じでは面白くない。そこで、既に生まれている生物たちを参考にした。ガイアは外見上は雄に当たる。だから、番いになるように雌の特徴を持つものを創造したんだ』
「つまり、女性を?」
『そう。ただ、少女なんだけどね、外見的には。この世界は凄いものだよ。ガイアが少女を生み出したことで、同種族も生み出してしまったのだから』
「えっ、つまりガイアが生み出したのはその少女だけってこと?」
 何も創造しない神。前世ではああだこうだと神が創造したという記述が多い。そんな中でも、かなり珍しい神だ。
『君は察しがよくて助かるな。ここからは、世界が生み出した、愚かな人間の話になる。人間は知性も理性もない状態だった。ただただ本能のままに生き、死ぬだけ。少女はガイアが生み出した、だから知性も理性もあった。そして長生きだった』
 知性。聖書の、禁断の果実を思い出す。蛇に唆されたイブが、知恵の実を口にして知性を得るという話。似ているようで違う。少女は初めから知性があったのだから。
『同じ知性を、感情を持つはずのガイアよりも、少女は豊かな性格だった。少女は、同種族に同情した。知性がないことが恥だと、少女は思ったのだ。そして、彼らに知性を授けるようにガイアに頼んだ。それが、破滅への道だと気づかずに』
 女王の目は酷く暗い。少女の選択が愚かだと信じて疑わない、冷たい瞳。
 フェーリエは唾をゴクリと飲んだ。この話を聞いて、自分はどうすればいいのだろう。今の作られた神話で育ったフェーリエやユースは、世界の真実を、嘘を知って、平静でいられるのだろうか。


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