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第三章 未開発の森

#74 漸く

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 翌日。フェーリを師匠の家に送り届けたフェーリエは、またユースの元を訪ねていた。
「お!ルナ嬢ちゃんじゃないか」
 街に入ったフェーリエに、元気よく声が掛けられる。
「グレッグさん。お久しぶりです」
「元気そうで何よりだ」
 ぺこりとお辞儀をすると、グレッグは朗らかに笑う。
「嬢ちゃん達のおかげであいつらを捕まえられた。本当に感謝しかないよ」
「いえ、私はただ罠に嵌まってしまっただけで。……感謝はユースさんにしてください」
 トーマス、ジョージ、ライアンの三人組は、ギルドの裁判に掛けられ犯罪者のレッテルを貼られた。フェーリエ達の前に、十組のパーティーを壊滅させたらしい。未開の森クエストは自己責任ということもあり、死んだモノは仕方がないという扱いを受ける。しかし、それが故意のモノであれば話は別だ。
 彼らが初めの未開の森クエストの際に見つけた、魔導王国の遺物が事の発端だった。魔法使いであるジョージが魔法が使えないことに気づいた。そして彼も、魔導王国についての知識があった。遺物の効果範囲を計り、それに沿った結界を発生させる。実に、同じ魔法使いと思いたくない卑劣な行為だ。
「そうそう。そのユースだが、漸く起きたらしい。俺も見舞いに行こうと思っ……」
 ビュッ、と風が鳴る。
「全く、最近の若いやつはせっかちだな」
 グレッグの呟きを遠くに聞きながら、フェーリエはユースの病室まで全力で走る。
 言ってやりたいことがたくさんある。文句も、愚痴も、感謝も。
 少し息を乱しながら、病室の前に立つ。そっと扉を開き、中を伺う。
 彼は仮面を付けていた。上半身を起こし、窓の外を眺めている。
 フェーリエの気配に気づき、彼はこちらを振り返る。その口角が、少し上がった。
「……んで、なんで、庇ったんですか。馬鹿なんですか?」
 泣きそうな声で責めると、彼は淡く微笑み答える。
「俺はヒトよりも丈夫だ。大丈夫だ」
 よろよろと彼が座るベットに近づく。
「一週間も、寝てたのに……何処が大丈夫だって言うんですか」
 床にへたり込む。俯いたまま彼に文句を連ねる。
「私のせいで、誰かが死ぬなんて、もう見たくないんですよ!もうあんな事、二度としないでください!」
 知らないうちに雫が頬を滑る。少し古い木製の床に染みを作っていく。
 ふと周囲が暗くなる。暖かい腕に抱きしめられる。一週間前と同じ、けれどあの時よりも暖かい、優しい腕。
「済まない。……二度目はないと約束は出来ない」
 優しい声。けれど、フェーリエの言葉を裏切る言葉。
「なんで……約束してくれないんですか」
「ルナが危険な目に遭うならば、俺は迷わず庇う。だから……」
「だから?」
 少し体を離す。仮面越しに、彼の紫に近い蒼い目を見る。
「危険な目に遭わないでくれ」
 フェーリエはふふ、と笑い声を漏らす。
「そんなの、冒険者なんですから無理ですよ。無茶ばっかりですね、ユースさんは」
「君が勝手な行動をしなければ大丈夫だと思うがな」
「酷い!それじゃ私が考え無しみたいじゃないですか」
「違うのか?」
 全力で違う!と叫んだフェーリエは、妙に熱い自らの頬に手を触れる。これはもしかして。……もしかするかもしれない。
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