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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

174話 血よりも濃いもの

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 今日はノエルとディヴァリアとゆっくりしている。
 結婚が決まったとはいえ、やっぱりノエルは俺達の妹って感じだ。
 実際に結ばれれば、確かな繋がりができるわけだ。
 妹と呼んでいるとはいえ、所詮は他人だからな。
 ずっと一緒にいるための何かがあるのは、大事なことだと思える。

「ディヴァリアお姉ちゃんは、リオンお兄ちゃんのどこを好きになったの?」

「やっぱり、私に向き合ってくれたことかな。この人だけは信じていいって思えたんだ」

 向き合うどころか、あまり見ないフリをしていたような気すらする。
 まあ、俺とディヴァリアでは感じ方が違うからな。
 なんとなく想像できる範囲だと、ディヴァリアの異常性に対応しようとしたのは俺だけだからな。
 道を外れないように祈りながら、質問には何でも答えていったから。
 そのあたりを、真摯な対応だと感じたのだろう。まあ、向き合ったと言ってもおかしくはない。

「ああ、分かるな~。ノエルにも、ちゃんと人として接してくれたから。ただの孤児なのに」

「そうだね。出会った時から、ずっとノエルのことを大事にしていたもんね」

「まあ、初めて出会った孤児だからな。思い入れは強いんだよ」

「確かに、ノエルは特別扱いされてるなって思うよ。リオンお兄ちゃんの使用人になれたのも、3人だけだし」

「私にとっても特別だからね。だから、ちょうど良かったんだ」

 実際、ディヴァリアも俺も、他の孤児をノエルほど大切だとは思っていない。
 ノエルはただ1人で生きていて、それを見つけて、孤児院ができるまで世話を焼いて。そんな時間が俺達の間に絆を生んだ。
 他の孤児はエルザさんが中心になって面倒を見ていたからな。それも大きいと思う。

 確か、とても寒い日に出会ったんだよな。
 ぼろ切れをまとって、今にも凍えそうだった子供。俺達より、少しだけ年下の。
 今ではきれいな茶髪だが、当時は汚れきっていたんだ。
 だから、ディヴァリアが開こうとしている孤児院に連れて行くにはちょうどいいと感じて。

 まだ孤児院としての働きはできていなかった。
 エルザさんを動かしていた時期なのだろうが、俺達でどうにかするしかなかった。
 だから、建物に運んでいって、身綺麗にさせて、軽い食事を取らせた。
 感情だけなら、腹いっぱい食べさせてやりたかったが。
 どう考えてもろくな食事を取れていなかったので、満腹まで食べさせたら危険そうだったんだよな。

「出会った時は質素な食事で、がっかりさせたかもな」

「ううん。美味しかった! 大事な思い出の味だよ。たぶん、いま食べても美味しくないけどね」

「そうだね。くたくたに煮込んだ野菜だけのスープだし、味も薄かったし」

「貴族から出てくる食事だとは思えなかったよな」

「今ではちゃんと理由も分かってるから! 全然食べてない時に、いきなり食べると体がビックリするんだよね」

 確か、リフィーディング症候群だったか。今では記憶が曖昧だ。
 とにかく、飢えている時に食べすぎると、最悪死ぬ。それだけ分かっていれば良い。
 前世の記憶がなかったら、ノエルを死なせていたかもしれない。だから、俺が居て良かった。

「よく勉強しているな。やはり、ノエルは優秀だ。頼りになる子だよな」

「リオンお兄ちゃんと、ディヴァリアお姉ちゃんの役に立ちたかったから!」

「嬉しいよ、ノエル。誰にだって自慢できる妹だよ」

「ありがとう、ディヴァリアお姉ちゃん! ずっと大好き!」

「私も、ずっと大好きだよ。私達のところに来てくれて、ありがとう」

 ノエルは、俺達と出会わなければ死んでいた可能性が高い。
 だからこそ、出会いに感謝したいんだよな。こんないい子が死ぬ未来なんて、絶対に否定すべきものなんだから。
 俺達を慕ってくれて、支えるために努力してくれて、そんな子なんだから。

「俺だって、ノエルと出会えて良かった。最高の妹だということは、疑う気はないよ」

 血は繋がっていないけれど、血よりずっと大事な絆があるから。
 ノエルを幸せにしたいという思いと、この子が俺達を慕ってくれる思いがあるから。

「2人の妹って立場は、絶対に誰にも渡さないよ!」

「父さんと母さんも子供を作る気はないみたいだし、大丈夫だ」

「私の家も同じかな。だから、ノエル以外の妹なんて生まれないよ」

「なら、安心だね。2人のそばは、ノエルのものなんだから!」

「ああ、もちろんだ。ノエルは大切な家族なんだからな」

「そうだね。私達には欠かせない存在だよ」

 貴族と平民で、いろいろな意味で遠い存在だったが。
 今では誰よりもそばに居ると言っても過言ではないと思う。
 俺達の妹として、とても心を癒やしてくれる存在だからな。
 生まれなんて、相手を大切に想う気持ちには関係ない。そう言い切れるだけのつながりがある。

「リオンお兄ちゃんとディヴァリアお姉ちゃんだって、ノエルにとっては欠かせない存在だよ!」

「ありがとう、ノエル。私達はこれから、本当の家族になるんだよ」

「リオンお兄ちゃんとの結婚だよね。ノエルも混ざって本当に良かったの?」

「うん、もちろん。ノエルと離れ離れになるのは、私だって嫌だから」

 ディヴァリアの情が感じられて、とてもいい。
 悲しそうな顔でもあり、優しそうな顔でもある。
 考えていることがよく伝わってきて、人間だと思える。
 昔のディヴァリアは、人の心なんて少しも理解していなかったからな。
 誰かが死んで悲しいという感情すら、分かっていなかった様子だから。

「ノエルのおかげで、俺達は血よりも強いつながりを手に入れられたんだ。本当にありがとう」

「ううん。お礼なんていらないよ。ノエルの方が、いっぱいもらっているから」

「ノエルが私達の妹になってくれたことで、私達の幸せも増えたから。そのお礼だよ」

「2人と出会ったノエルの方が、幸せにしてもらったのに。これじゃ逆だよ」

「お互いがお互いを幸せにできているのなら、最高だと思わないか?」

「確かに! ノエルは最高の妹だってことだね!」

 もちろん、当たり前のことだ。
 大好きで、ずっと一緒に居たい相手なんだ。
 可愛いし、頑張り屋だし、とても魅力的な子だからな。
 これまで過ごしてきた時間で、とても大切な家族になってくれた。
 ただ血が繋がっただけの相手よりも、きっと大事だ。

「そうだな。ノエル以上の妹なんて、これから先には出会えないよ」

「うん。私達にとっては、誰よりも最高だから」

「えへへ、嬉しいな。2人から好きで居てもらえるのなら、他に何もいらないよ」

「ノエルには、これからいっぱい幸せになってもらうんだからな。俺の望みだから」

「そうだね。ノエルの幸せは、私達にとっても大事なことだから」

 ノエルを妹だと考えるようになったのは、いつからだっただろうか。
 まあ、どうでもいいことではある。今、ノエルが大切な存在であること。それだけ覚えておけば良い。
 俺達にたくさんの幸せをくれる子だから、その分を全力で返すんだ。単純な話だよな。

「ありがとう。2人との時間を邪魔する人は、絶対に許さないよ」

「そんな人、私も許さないよ。エルザ達は、邪魔じゃないもんね」

「うん! リオンお兄ちゃんも、ディヴァリアお姉ちゃんも、2人の幸せが一番大事だから!」

 本当に優しい子に育ってくれて、とても嬉しい。
 だからこそ、これからも関係が続いていくように。しっかりと努力していかないとな。

「私達の妹は、きっと誰よりも素敵だね。ね、リオン?」

「そうだな。他のどんなやつの妹とも、比べる気にすらならないよ」

「絶対に、ノエルが2人をもっと幸せにするからね! ずっと一緒にいてね!」

「こちらこそ、だよ。離れ離れになるなんて、絶対にダメだからね」

「うん! 地獄の底でも、2人と一緒ならついていくからね!」
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