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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

164話 最後の調整

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 今日は王宮でミナ達と今後について話している。
 集まっているのは、ディヴァリア、ミナ、シルク、ソニアさん、宰相、国王だ。
 議題としては、いくつかあるが。今は俺達の結婚式について話をしている。

「ディヴァリア。流石に予算をかけすぎなのではありませんか?」

「勇者と聖女の結婚式は、国民だって待ちわびています。そのために、飾りは必要でしょう」

「否定はしません。とはいえ、戦後間もないこの時期に、あまり豪華すぎるのも……」

「そうですね、聖女様。待ちわびた結婚式だからこそ、節制も必要なのではありませんか?」

 まあ、いつもの議論だ。流石に、この程度の批判で機嫌を損ねるディヴァリアじゃない。
 相手が相手だから、余計にだろう。ミナやシルクのことは信頼しているはずだからな。

「勇者と聖女は複数の戦いにおける功労者でもある。そのねぎらいとしても、多少の予算をかけることは良いだろうさ」

 多少と言い切って問題ないのだろうか。俺の感覚では、けっこうな額だが。
 まあ、復興にかける予算に影響を与えるかと言われれば、いいえと返す程度でもある。
 なかなかに難しい問題なんだよな。ディヴァリアは慕われているから、大勢が参加できるのは良いことに思える。
 それでも、自分達は苦しんでいるのにと考える民衆が居てもおかしくはない。
 どのあたりのラインに抑えるか、技量が問われる問題だろう。

「実際、俺達の結婚式をひと目でも見たいという人の数次第に思えます」

「そうでしょうな、勇者リオン。人々にとっても、良き未来への道筋だと思ってもらえるのならば、ですな」

 宰相の言葉通りの狙いはあるんだよな。
 俺達の結婚式をきっかけに、アストライア王国は前へ向かって進めるのだと。その象徴にできるのならば良い。
 勇者の名声も大きいらしいし、一時の憩いにでもなってくれればな。
 ある種の祭りのように、盛り上げることができれば良い。

 そうなってくると、単に結婚するというだけでなく、何かしらのイベントが欲しくなるよな。
 だから、予算が膨れ上がったのだろう。本当に難しい問題だ。
 俺としては、有名人の結婚式に誘われたとして、食事くらいは楽しみたいからな。
 屋台でも開けるような準備があれば良いのだろうか。

 まあ、意見を集めるような段階ではない。
 ある程度状況は固まっていて、最後の調整といった感じだからな。
 そうなると、俺にできることなんて無いに等しい。

「私とリオンの結婚式なのですから、誰もが祝う式であってほしいですね」

「王女であるわたくしの結婚式よりも盛り上がると、困るのですが。ディヴァリア、浮かれすぎていませんか?」

「そうだとして、何が問題なんですか? 愛する人との結婚で、浮かれない方がおかしいでしょう」

「少なくとも、今のあなたの意見を聞く訳にはいきません。頭を冷やしてください」

「同感です。個人の結婚式ではなく、国の催しでもあるのですよ」

「聖女様。リオン殿はあなた個人のものではありませんよ」

「あなた達も、私とリオンの邪魔をするつもりなんですか? それなら、考えがありますよ」

 ディヴァリアは底冷えしそうな空気を発している。
 流れからして、ミナやシルク、ソニアさんは演技に付き合っているはずだ。
 そうなると、見せたいのは国王や宰相あたりか?
 どちらかに、あるいは両方に、感情を乱して仲違いする姿をアピールしたいのか?

 歯がゆくはあるな。俺自身の手でディヴァリアの計画を進められないことは。
 だが、結婚相手である俺がディヴァリアに反発するのはわざとらしすぎる。
 そう考えると、納得の人選ではあるのだが。
 だとしても、俺だって何かができれば。そう思ってしまうな。

「脅しのつもりですか? わたくしは、屈しませんよ」

「同調します。女神アルフィラを信仰するものとして、理不尽に降ったりしません」

「そうですね。アストライア王国を守るためにも、逃げませんよ。聖女様」

「落ち着け。議論の最中であろう。軽率に武力を振り回すべきではない」

「聖女ディヴァリア。冷静になっていただきたい。めでたい席の準備なのですぞ」

 さて、2人とも落ち着いたように振る舞っているが。
 実際の内心はどうなのだろう。俺には見えてこないな。悔しいことだが、経験が足りないのだろう。
 おそらくは、ミナ達3人にスキがないかを伺っているはずなのに。
 ディヴァリアを失墜させるために、計画を練っている相手がいるのに。

 それでも、俺にできることはゼロではない。
 しっかりとお互いを取り持つふりをして、俺達の亀裂が本物だと示さないとな。
 そうすれば、ディヴァリアにとって都合の良い方に進むのだから。

「ディヴァリア。ミナ達が俺達の邪魔をする訳ではないですよ。むしろ、応援してくれていますから」

「そうですよ、ディヴァリア。リオンの式をより良いものにしたいからこそ、議論しているのです」

「同意します。リオン君の結婚式は、祝福されるべきものですから。教会にとってもね」

「リオン殿は、救国の英雄ですからね。大勢の希望なんです」

「あなた達は……私のリオンを知ったような口を利いて……私のリオンを……」

 ディヴァリアの名前を出さないことで、あくまで俺の味方だと言っている訳か。
 真面目に敵対しているのならば、確かに有効かもしれない。
 まあ、ディヴァリアに殺されて終わりだろうけどな。不快感を与えるだけだったら。

「皆様方、落ち着いてくだされ。あくまで2人の結婚式ですぞ。リオン殿だけのものかのように言うのは、問題がありますぞ」

「今のままでは、冷静な会話は難しいであろう。ディヴァリアよ。いったん下がるが良い」

「分かりました。リオン、行きましょう」

「いや、待て。リオンはこれからの話にも必要なのだ」

「……そうですか。そうですか。あなたの心は理解しました。後悔しないことですね」

 さて、国王の言葉はどういう意味なのだろうな。
 ミナの父親なのだから、敵でない方がありがたいが。
 いくらなんでも、父を殺すのに協力したくはないだろうし。
 だが、希望的観測は避けるべきだ。誰が味方かを見誤れば、ディヴァリア達に迷惑をかけるからな。

 ディヴァリアは優雅に去っていく。だが、少しだけこちらをにらんできた。
 俺に敵意を向ける訳がないから、何かの演技なのだろうな。
 さて、順調なのだろうか。計画の内容を知らないのには、わずかばかりとはいえ寂しさがある。

「さて、リオン。お前にはミナを支える役目もある。それを忘れるでないぞ」

「リオン。わたくしの力になってくださいね。これからも、ずっと」

「協調します。私にとっても、リオン君は大切な仲間ですから」

「聖女様には、リオン殿がただの個人ではないと理解していただきたいものですね」

「そうですな。救国の勇者にふさわしい役割というものがあるでしょうぞ」

 とりあえず、俺とディヴァリアを引き剥がしたいような空気が見える。
 やはり、聖女の本性を知っているからなのだろうか。
 何があったとしても、俺はディヴァリアの味方ではある。
 だが、今は言葉を選んだ方が良いかもしれないな。

「王国の発展のために、力を尽くしていきますよ」

「その言葉、ゆめゆめ忘れるでない。ミナが王となった後にも、いやむしろ、未来にこそなすべき仕事があるのだからな」

「リオンはわたくしの治世に欠けてはならない存在です。忘れないでくださいね」

 間違いなく、ミナはディヴァリアも必要だと考えている。
 誰かは分からないが、敵に見誤ってもらいたいのだろう。ディヴァリアは求めていないと。
 裏を考えないといけなくて、大変なことだ。
 だが、きっともうすぐなのだろうな。しばらくの辛抱だ。
 敵を排除した後に、みんなで笑い会える日を待ちながら、頑張っていこう。
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