上 下
154 / 182
5章 トゥルースオブマインド

153話 想いの約束

しおりを挟む
 教皇ミトラは死んだが、アスク教国はさほど混乱していないらしい。
 ミナが事前に取り込んでいた人々の協力で、スムーズに王国領への移行が進んでいるのだとか。
 流石だな。戦う前から、勝った後のことまで準備しているだなんて。
 負けていれば、用意は無駄だった。それでも、俺とディヴァリアへの信頼があった証拠だと思う。

 今はディヴァリアと2人の時間を楽しんでいる。
 教国からの帰り道でも、それなりに会話に花を咲かせてはいた。
 だが、ゆっくりのんびりできるのは今からだという雰囲気があるな。
 ミナが言うには、俺達の力が必要なのはもうしばらく先のことだそうだ。
 だから、俺の家で穏やかな時間を過ごすことができている。

「ミナはすごいよね。私なら、もっといっぱい殺したほうが早いのにって思っちゃうな」

 相変わらずのディヴァリアだ。だが、実際に殺すとなると、ディヴァリア自身が恐れられるだろう。
 だから、ハッキリ言って反対だ。聖女として好かれているのだから、わざわざ壊すこともあるまい。
 それに、ディヴァリアには世界の敵になってほしくないからな。
 あまりに殺しすぎると、恐怖のあまりに敵が増えていく気がする。

 せっかくディヴァリアを好きだと理解できたのに、世界が敵になってしまってはな。
 もう、ディヴァリアに剣を向けることなんてできる気がしない。
 それに、サクラだってミナ達だってノエル達だって、みんな悲しむ。
 俺の望む未来のためにも、ディヴァリアを抑えていかないとな。
 大丈夫だ。理性のない怪物ではない。ちゃんと、話せば分かる相手なんだ。

「まあ、教国を滅ぼしたいわけではないだろう。ちゃんと支配するつもりなんだろうな」

 だから、民衆を殺し尽くす訳にはいかない。犠牲を最小限に抑えた方が良い。そういう計算なのだろう。
 ミナは優しいが、だからといって王国よりも敵国を優先する性格ではない。
 王国の未来のために、教国の民の存在だって必要だと判断したはずだ。
 細かいことは分からないが、国1つ分の人が死んで、王国に混乱が起こらないはずがない。
 そう考えれば、ミナの行動は当たり前のものだ。

 教国の民の心配をしていなくても、王国の利益を考えたら支配した方がいい。
 作物の実らない、不毛の地ではないからな。
 吸い上げるだけのものを吸い上げた方が、効率の面でも優れているだろうさ。

「確かにね。利用できるものは利用した方が良いよね。孤児院だって娼館だって、同じ考えで作ったんだから」

 実際、ディヴァリアが大切に思う孤児はノエルくらいのもの。
 娼婦については、むしろ嫌っている雰囲気すらある。
 それでも、必要だからと手入れをしているディヴァリアならば、教国を滅ぼさない意味なんて簡単に理解できるはずだ。
 むしろ、俺の方が感情で判断してしまう気がするくらいだ。

「だよな。ノエルと出会えたのは幸運だったが、狙っていた訳ではないからな」

「うん。私達の妹は最高だけど、他の人はそこまで興味ないかな」

 ノエルの存在は、ディヴァリアを人間にする上で大きな役割だったはずだ。
 ミナ達やサクラだって、とても大きな存在ではあるはず。そして、俺だって。
 それでも、ディヴァリアが自分を好きでいてくれる人の存在に目を向けたのは、ノエルがきっかけだと思う。
 あんなに純粋に慕ってくれる相手を、嫌いになることは難しいよな。
 きっと、何があっても味方でいてくれる。そう思える存在なんだから。

「俺達の周囲は、俺達を大切にしてくれる人ばかり。運がいいよな」

「リオンが好かれるのは、みんなを大切にしているからだと思うよ。私も同じ気持ちだから」

 俺がみんなを大好きだというのが伝わっているのなら嬉しい。
 それにしても、ディヴァリアも俺から大切にされていると感じていたのだな。
 これまでの俺は、ずっと外道だと思い続けてきたのに。
 いや、今でも外道だとは思っているのだがな。大切な相手だというのが大きいだけで。

 何がきっかけなのだろうな。俺がしたことといえば、ディヴァリアのそばに居続けたくらいだが。
 まあ、本人が言いたい時に言ってくれれば良い。俺にとって大切なのは、ディヴァリアを大好きだという想いだから。

「みんな、大切な友達だからな。当たり前のことだ」

「ふふっ、当たり前だって言ってくれるの、嬉しいな」

 ディヴァリアは本当に嬉しそうだ。俺の言葉で喜んでくれるという事実は、最高に嬉しい。
 やはり、大切な相手の笑顔というのは何物にも代えがたいな。
 俺が生きたいと思う理由の、とても大きな1つだ。
 みんなの幸福のために戦ってきたのは、ウソではないつもりだから。

「お前が嬉しいのなら何よりだよ。これまで、悲しませてきたからな」

「そんなに悲しくはなかったよ。リオンが私のことを好きだってことは、伝わっていたから」

 ディヴァリアの好意を無視したり、結婚の話を流したり。
 ずいぶんとヒドい行動をしてきたつもりではある。本人が悲しくないと言うのなら、ありがたいことではある。
 だが、これからはちゃんと好意を伝えていかないとな。そして、ディヴァリアの好意も素直に受け取らないと。

「俺がディヴァリアを好きなのは間違いない。誰よりも愛している。結婚式の準備もしないとな」

「そうだね。教国との戦争が終わったから、王国が落ち着いたら結婚したいね」

 聖女と勇者の結婚は、恐らくは慶事となるはずだ。
 だから、ある程度民衆の心が上向きになった頃がちょうどいいと思う。
 まだ、すぐに結婚する訳にはいかないだろうな。
 それでも、ディヴァリアとの結婚に前向きだという意志は示したい。
 これまでは、ずっと結婚なんて考えてこなかった。ディヴァリアにも筒抜けなくらいに。

 だから、俺が結婚に前向きだと、態度で示していかないと。
 ディヴァリアだって、ノエルを始めとした結婚を望む人達だって、喜んでくれるはずだから。
 今までの俺の罪深さを思い知らされるが、仕方のない痛みだ。俺が悪いからな。

「聖女と勇者の結婚は、誰もが語り継ぐものにしような」

「うん。この世界で一番、私達が幸せなんだって全力で示すよ」

 実際、俺たち以上に幸せな人達なんて、そうは居ないだろうな。
 ずっと両想いだった相手と、祝福の中で結婚する。
 これからの未来だって明るいと、心の底から信じられる。
 最高に素晴らしいパートナーとの結婚なのだから。

「ああ。俺もお前も、誰よりも幸せ者だろうな。みんなに祝われて、大好きな人と結ばれて」

「そうだね。あとちょっと。もうちょっとだよ。でも、すっごく待ち遠しいよ」

「俺も同じ気持ちだ。ディヴァリア。これからも、よろしくな」

「もちろんだよ。永遠に、私のそばに居てもらうからね。離れたいなんて、絶対に許さないから」

 強い感情を感じさせる瞳からは、偽りのない本心を感じる。
 でも、大丈夫だ。ディヴァリアがどんな人間かなんて、誰よりも知っている。
 だから、これから離れたいと思う未来なんてありえない。安心してくれ。
 お互いに、見せたら嫌われる本心なんて持ち合わせていないだろう。
 良いところも悪いところも、全部知っている間柄なんだから。

「心配するな。どんな未来でだって、俺はお前が大好きだ。それは絶対に変わらないよ」

「約束だからね。ウソだったら、私は何をするか分からないよ」

 いつかも聞いたようなセリフだな。だいぶ昔だった気がするが。
 有翼連合に襲われた頃だったかな。あの頃と同じセリフでも、ずいぶんと違う。
 俺の気持ちだって、全く異なっている。だから、返事は1つだ。

「お前になら、何をされても良い」

「そうだね。じゃあ、私の心でリオンを塗り潰すからね」

「もちろん、構わない」

「じゃあ、どんな未来でも私達は1つだね。嬉しいな。ずっと、一緒だからね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...