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5章 トゥルースオブマインド

148話 誰かの支え

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 戦争の足音が近づいている感覚がある。だが、まだ宣戦布告は行われない。
 ミナによると、こっそり攻めてくる訳でもないようだ。
 つまり、教国は必勝の準備を整えてから動くつもりなのだろう。
 ディヴァリアがいる限り、何をしても無駄だとは思うが。
 原作と同じ手段で勝てるほど、今のディヴァリアは弱くない。
 いや、原作でだって十分に化け物だったのだが。

 それに、相手が準備をできるということは、こちらだって準備できるということ。
 すべてを粉砕するだけの備えをして、できるだけ楽に勝ちたい。
 まずは、トゥルースオブマインドを使いこなさないとな。

 今日はシャーナさんと、心奏具の扱いについて相談をしている。
 破壊の力は確かに強い。だが、性能に振り回されるのは論外だ。
 しっかりと習熟して、最善の状態で戦争に向かいたい。
 たとえ、ディヴァリアがすべてを終わらせるのだとしても。俺にできることを止める理由にはならないよな。

 俺の目標はディヴァリアに並び立つこと。そのためには、並大抵の努力では足りない。
 世界を滅ぼせるほど強い人間相手に追いつきたいんだ。寄り道している時間はない。
 それでも、ディヴァリアを無視してまで鍛錬を続けるつもりはないが。
 一番大切なものは、決まり切っているのだから。自分の欲望を優先すべきではない。

「そうじゃな。まずは、どれほど遠くに破壊の力を出現させられるのかを検証したい。起点という意味じゃ」

 まあ、真っ直ぐ飛ばすだけなら、それこそ視界の届く範囲にはという感じだ。
 だが、一直線上にあるものを全て巻き込むことを意味する。
 よほど大切だと考えていないと、無意識では破壊を避けられない。
 俺の親しい相手ならば、適当に放っても勝手に壊さない能力ではある。
 とはいえ、ただの他人ならば、明確に意識していないと巻き込んだら死ぬ。

 剣と盾を具現化させて、形を変えるという手段もある。
 だが、潜り込ませる隙間がないと困ってしまうからな。使える手札は増やすべき。
 シャーナさんは、やはり優れた師だ。俺以上に俺の心奏具を理解しているかもしれない。

 実際に試してみると、せいぜい2メートルやそこらならば、発生の起点にできることが分かった。
 目隠しをすると思うような位置に発生させられないので、視覚も重要だ。
 こうして考えると、弱点も多いな。周りが敵だけなら、適当にぶっ放せば良い。
 だが、味方の存在だ。親しい人は破壊できない。それは心で理解できる。
 それでも、ただの兵士や住民を巻き込む可能性は否定できない。
 つまり、人質に弱いということだ。それも、ただの民衆を盾にするような。

「なるほどの。建物の内側に発生させるのは厳しいか」

 それなんだよな。例えば、民家の内側に直接能力を発生させれば、暗殺なども思いのままなのだろうが。
 一度、ミナと協力してみる必要もあるな。遠くの視界を共有すれば良いのなら、手段は広がる。
 サッドネスオブロンリネスの可能性はとんでもないよな。理解できない人間が可哀想なくらいだ。
 本当に、便利さで言えば他の追随を許さないんだよな。比べることすらおこがましい。

「見えない場所には、うまく発生させられないんだよな」

「心奏具は大体似たようなものじゃ。フェミルとて、視界の範囲にしか転移できなかったであろ?」

 確かに。なら、ミナとの連携は有用そうだ。
 実際に必要になるかはさておき、使えるようになっておいて損はない。
 俺達の目指す未来のために、手段はいくらでも必要なんだから。
 ミナの敵を暗殺するのも、場合によっては重要になる。
 最小限の犠牲に抑えるためには、中心人物を殺すのが有用だから。

 帝国との戦争でも同じだった。レックスさえ死ねば、後の抵抗はゆるいもの。
 指導者の存在こそが、集団を敵にする上で最もやっかいなんだ。
 だからこそ、ミナは何があっても守るべき。親しい人だということを抜きにしても、王国には絶対に必要な人だから。

「サッドネスオブロンリネスの強さが際立つな」

「ミナは別格よな。視界を共有できるという一点で、強い心奏具をさらに強力にできる」

 フェミルの転移だって、ミナの協力がなければもっと弱かった。
 俺だって、2人が居なければ死んでいただろう。
 そう考えると、ミナにも命を救われているんだよな。もっと感謝しないと。
 今回の戦争で、ミナの活躍を周囲に焼き付けること。それが良い恩返しになるだろう。
 ミナの目標は、王になることなんだから。より立場を盤石にしたいはずだ。

「ミナの優秀さが理解されないのは、本当にもったいないな」

「だが、身を守る術を持っていなかった頃は暗殺の危険があったからな。王位を目指すものや、敵国によって」

 確かにな。ミナが敵なら、俺はどんな手を使ってでも殺そうとするだろう。
 たった1人の存在で、あらゆる作戦を崩壊させられる可能性があるのだから。
 伏兵のたぐいは一切通用しない。その恐ろしさがどれほどか。
 もっと恐るべきこととして、日常から密会まで、すべてを知られかねないことがある。
 ミナの価値が理解されるということは、ミナの危険性も理解されるということ。
 そう考えると、力ばかりが優先される価値観も、悪いことだけではないな。

「今なら、ミナを守る手段はいっぱいあるからな」

「そうじゃな。本人にも、周囲にも。リオンがきっかけでミナが得たものは、とても多い」

 ディヴァリアを始めとした友達。そこからの繋がりが大きいのだろうな。
 そもそも、俺が居なければミナは死んでいた。シャーナさんの言葉である。
 嫌な話だ。優しくて、優秀で、とても素晴らしい人なのにな。
 出会いが失われただけで、悲劇へと向かうのだから。

「ミナを失わないためにも、もっと強くならないとな。助けを求められたら、いつでも力になれるように」

 そのために、今トゥルースオブマインドの検証をしているのだから。
 次は、破壊の力の形を制御することを試してみるか。
 自分にまとえることは、試さなくても分かる。親しい人にも、大丈夫だ。
 まあ、思い込みかもしれないから、ちゃんと試さないと。

「さあ、うちで試すがよい」

 シャーナさんの言葉があれば、安心できる。自分が死ぬと分かっていて試せとなど言わないはずだ。
 だから、素直にシャーナさんの周囲に力を発動させる。わざわざ破壊の力に触れてくれて、親しい人は壊さないという感覚に確信を与えてくれる。
 やはり、シャーナさんに頼って良かった。大丈夫だと思っていても、破壊の力は恐ろしい。

「ありがとう。これなら、ミナ達を守るのにも十分だな」

「そうじゃな。お主の力は、誰かを守るためにも使える。素晴らしいことじゃ」

「いや。大切な人だからこそだ。誰もを守ることはできない」

「それでいい。お主が紡ぐ未来は、お主の大切な人が居てこそ。結果として、大勢が守られる」

 まあ、シャーナさんの言うやり方で十分か。目の前の人を守って、それが繋がっていく。
 俺が全てを救うよりも、理想的な展開だ。だからこそ、ちゃんと大切な人を守らないとな。
 ディヴァリアだって、いつかは本物の聖女になってくれるかもしれないのだから。
 外道のままでだって、大好きであることに変わりはない。
 それでも、犠牲が少ないほうが良いに決まっているからな。

「なら、いつも通りだな。目の前の戦いに全力を尽くすだけ」

「そうじゃな。お主はまっすぐ進めば良い。うちが支えてやるから」

 心強いことだ。俺1人だけではなく、みんなで未来を守る。そうできたら、きっと最高の気分になれるだろう。
 だから、まずは教国との戦争だ。できるだけ楽に勝って、後に備えたい。
 平和な日々が訪れるように、全力を尽くしていくんだ。

「シャーナさんが支えてくれるなら、心強いよ」

「お主の望みは、うちの望み。じゃから、いつでも頼るといい。永遠に、うちはお主の味方じゃ」
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