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4章 フェイトオブデッドエンド

118話 執着の先

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 俺は今日、孤児院へと来ている。
 エルザさんとエリスの顔が見たいということもあったし、現状どうなっているか確認もしたかった。
 ここが襲われることはないと信じたいが、備えは必要だ。逃げるにしろ、ここにいるにしろ。
 エルザさんとしっかり話をしておいて、今後も大丈夫だという安心を手に入れたかった。

「エルザさん、戦争への備えはできていますか? ここの子ども達が心配で……」

「大丈夫ですよ。この孤児院には、地下があります。1か月や2か月くらいなら、備えだけで耐えきれますから。そもそも、この孤児院が落とされるようなら、王国のどこにいても大差はないでしょう」

 それもそうか。ここは王国の中心部に近い。侵略されておいて、逃げ場はないよな。
 教国だって信用できるのかは怪しい以上、俺達でどうにか勝つしか無いのか。
 やはり、先手を打つべきなのだろう。宣戦布告をするくらいなのだから、帝国は準備をしているはず。
 だからこそ、首狩り戦術が重要になってくるかもしれない。ああ、それで皇帝と戦っていたのか。
 まさか、逆攻勢をかけて追い詰めるまではできないだろうし。

 シャーナさんもディヴァリアもミナも俺に動けと言っていないから、まだ時間はあるのだろう。
 そのあたりの戦略は、俺より詳しい人が何人もいる。だから、今の行動は間違っていないはず。
 素人が下手に口出しするより、俺にできることを俺にできる形でやる方が大事だ。

「なら、いざという時には地下で過ごすわけですか。ここの子ども達なら、統率は取れそうですね」

「はい。不安は解消されましたか?」

「エルザさん達が無事でいてくれるなら、それで十分ですから。今のところは安心ですね」

「なら、良かった。リオンさん、他にお手伝いできることはありますか?」

「どうでしょうね。戦場へ向かうので、手伝ってくれる相手が多いといいのですが。知り合いに戦える人はいますか?」

「お兄ちゃん、もういっかいたたかうの?」

「そうだな、エリス。フェミルにも手伝ってもらうかもしれない」

 転移の能力は、1人しか運べない前提でもとても強力だ。
 だからこそ、あまり頼り切りになりたくない。フェミル自身はそれほど強くないからな。
 有用な能力だからこそ、敵も狙いたくなるわけだ。使い所はとても大切になるよな。

「お兄ちゃん、がんばってね。エリス、お兄ちゃんのかえりをずっと待ってる」

 ああ、嬉しいな。俺に帰る場所があるという事実は。
 エリスが待っていてくれるのなら、必ずまたここに来ようと思える。
 俺にも居場所があるというだけで、力が湧いてくるような気分だ。

「ああ、ありがとう。エリスはいい子だな」

「お兄ちゃんが思っているよりはわるい子だよ。でも、お兄ちゃんがだいすきだから」

 ディヴァリアと比べたのなら、この子の悪意なんてきっと可愛いものだろう。
 それに、本気で相手が嫌がることをする子には思えない。信頼を向けてもいい相手だ。
 だからこそ、大好きだと言ってくれることが嬉しい。命をかけて守ってよかったと、心から思える。

「嬉しいな。俺もエリスが大好きだぞ」

「うん! お兄ちゃんの使用人になる日、たのしみにしてるね!」

「ああ、俺も楽しみだ。エリスなら、きっと頼りになるからな」

「お兄ちゃんをメロメロにしてあげるね!」

 可愛らしいことだ。エリスは大切な相手だから、ある意味ではもう魅了されているのだがな。
 なにせ、命をかけてでも助けたいと思える子なんだからな。将来はきっと魔性になるだろうさ。
 それにしても、エリスとの年の差くらいなら、メロメロになっていたらマズい気はするが。
 まあ、いずれの話だ。俺の使用人になる頃には、ある程度大人になっているだろうな。

「今でもメロメロだと思うぞ。エリスは可愛いからな」

「それじゃダメ! もっともっと、お兄ちゃんの全部をもらうの!」

 子供らしい執着というか。全部自分のものにしたいなんて、俺も前世の小さい頃には同じだった。
 いずれ、もっと妥協なんかを覚えていくんだろうな。成長を見守るのが楽しみだ。
 大切な相手だろうがなんだろうが、相手のすべてを奪うことなどできやしない。
 それでも、どこまで相手を自分に惹きつけるか。エリスが理解したら、きっと大変だろうな。

「ははっ、なら、エリスの全部ももらおうか。じゃなきゃ、不平等だろう?」

「いいよ。お兄ちゃんになら、ぜんぶあげる。だから、ぜんぶちょうだい?」

 冗談だったのだが、思いっきりカウンターを食らった。
 まあ、命をよこせと言われるわけはないから、別に構わないんだがな。
 それでも、今から戦場に向かうなと言われたら断るが。

「エリスが大きくなったらな。少なくとも、今は無理だ」

「しかたないなぁ。じゃあ、まっててね!」

「ああ。エリスの成長は、ずっと見ているから」

 ごまかせたような、墓穴を掘ったような。
 まあ、エリスの望む俺の全部なら、あげても大丈夫だとは思うんだが。倫理的に問題のあるものを手に入れようとする子じゃないからな。
 それでも、少なくとも今はダメだ。みんなの未来がかかっているから。

「リオンさんはモテモテですね。まあ、気持ちは分かりますが」

 モテモテ。ユリアやノエル、サクラにエリスには絶対に好かれている。
 それを考えれば、間違いではないか。気持ちが分かるというのも、全員命を助けた相手だからな。俺だって同じ事をされたら惚れるかもしれない。
 とはいえ、エルザさんにからかわれるとは思っていなかった。まあ、親しみの証だろうから、嬉しいだけだが。

「嬉しいとは思いますが、浮ついた気持ちにならないように自制するのは大変ですね」

「ふふっ、可愛らしいことですね。ですが、聖女様のことを考えれば、好ましい姿勢です」

 どこでも俺とディヴァリアをくっつけたがっている気配を感じる。
 確かに、結ばれることができたら幸せだろうとは思うが。それでも、くっつくイメージができない。

「父さんと母さんみたいな、お互いを愛する夫婦に憧れていますからね。誰も彼もに手出ししたくはないです」

「いいですね。リオンさんなら、きっと温かい家庭を築けますよ」

「だと嬉しいです。そのためにも、今回の戦争を乗り越えなくてはいけない。エルザさんも、力を貸してください。エリスのように、帰る場所を守ってくれるだけで十分です」

「分かりました。ですが、私だって戦えるんですよ? 心奏具だって、このように。発起て――ウィルオブデストラクト」

 エルザさんの両手に、黒い二丁拳銃のようなものが現れた。
 まさに戦闘用といった感じの心奏具だ。戦える人だなんて、これまで長い付き合いなのに知らなかった。
 それでも、今教えてくれたということは。うん。エルザさんの信頼に応えたい。
 何があっても、どんな手を使ってでも皇帝を討ち取って、またここに帰ってくるんだ。
 きっと、エルザさんの望みだって、俺と同じはずだから。

「戦えるからといって、無理はしないでくださいね。エルザさんを失いたくはないですから」

「ええ、分かっています。これからのリオンさんと聖女様を、ずっと見守っていきたいですからね」

「嬉しいです。エルザさんが見守ってくれているのなら、頑張ろうって思えますから」

「うふふ。お上手なことです。そんなあなただからこそ、私のすべてを見せても良い。そう思えたんですよ?」

 ありがたいことだ。ただのシスターならば、心奏具を使ってまで戦う意味はない。
 だから、きっと何かあるのだろう。今まで隠していた何かが。それを知っても良いと思えるだけの信頼を手に入れたこと、とても気分がいい。

「ありがとうございます。エルザさんが何を隠していたのだとしても、信頼は消えはしません。それは約束します」

「ダメですよ? そんな事を軽く言っては。私のような人間に、絡め取られてしまいますからね。リオンさん、私を恐れても、手遅れなんですからね?」

 何も問題はない。エルザさんに絡め取られるなんて、嬉しいくらいだ。
 だから、何があっても恐れたりしない。俺のために明かしてくれる事実で嫌うなんて、あってはならない。
 これからもずっと、エルザさんは俺にとって最高の聖母で有り続けるだろうさ。
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