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3章 歪みゆくリオン
96話 暗い喜び
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なんでも今日は、キュアンの描いた絵を焼く日らしい。
彼の両親が、息子と自分とは別であると主張するためにやるのだとか。
まあ分かる。複数いる子どもの1人。そして自分が軽んじていた相手の起こした事件。
それは、キュアンの事をなじりたくもなるだろう。それに、キュアンの両親だと見られたくもないのだろう。
まあ、理由は何でもいい。せっかくの機会だから、キュアンの絵が燃える姿を見ようと思ったんだ。
かつては好きな絵だったのだが、今は燃やされると聞いて嬉しくて仕方がない。きっと、坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いというやつなのだろう。
キュアンのことが大嫌いになったから、キュアンが描いた絵も存在するだけで許せない。
俺のことを描いた絵も存在するのだが、描いたのがキュアンだと思えば、気持ち悪いだけだ。
それで、キュアンの家の庭まで来ている。それなりに大勢が集まっていて、熱気に包まれている。
直接処刑するわけではないから、大したことがないと思っていたのだが。案外物好きが多いらしい。
「リオンちゃんは、昔の友達が死んじゃって悲しい?」
「マリオとエギルはそれなりに悲しかったかな。キュアンは、死んでくれて嬉しいくらいだよ」
とはいえ、マリオとエギルが死んだ事実にはもう慣れた。かつての思い出を振り返っても、今では悲しくない。
それにキュアンは、もう思い出したくない相手だからな。さっさと痕跡ごと消えてほしい。
今でもまったく許せる気がしない。もし仮に3人が生き返っても、キュアンをかばうのならばマリオもエギルもまとめて殺す。
本当に孤児院を襲った罪は重い。エリスを殺しかけたことも。どれほどキュアンが苦しい目にあっていようが、絶対に許すことはないだろう。
まあ、そもそもキュアンは死んでいるのだが。無駄な仮定ではある。
そういえば、ルミリエは俺がここに参加することには賛成なのだろうか。
ミナの力で俺の居場所を発見したのだろうし、ミナの意見も聞きたい。
ルミリエの力もミナの力も便利だよな。お互いが離れた場所に居ても、簡単に話せるのだから。
「ところで、俺がいまキュアンの絵を見に来ているのは、問題かな? 2人はどう思う?」
「私は別に良いと思うよ。心の整理が必要だってことは感じるからね。ミナちゃんは、リオンちゃんがやりたいことが正解だって」
2人が肯定してくれるのは助かる。俺としては、友達に変な思いをさせてまで参加したいものではないからな。
結局のところ、キュアンへの恨みよりも、いま生きているみんなの方が大事なのだから。
そもそも、俺の感情よりもみんながどう思うかの方が問題だ。みんなを不快にしてまでやりたいことなど、そう多くはない。
みんなが嫌がると分かっていてなぜ命をかけるのか、なんて言われそうではあるが。
俺としては、多少ではなかったとしても、不愉快な感情よりも命のほうが大切だと思っているだけだ。
そもそも死んでしまえば楽しいも何も無いのだから。大切な人が生きることを優先するのは、おかしな話ではないだろう。
「なら、ここでゆっくり見させてもらうよ。キュアンへの恨みは、整理した方がいい感情だろうからな」
「そうだね。もとは友達だったんでしょ? だったら、複雑な感情があるのは当たり前だよ。だから、しっかり振り切っちゃおう! 大丈夫。私達は何があっても一緒にいるからね」
俺が一番気にしていたことが解決している。結局、俺はみんなに嫌われることが恐ろしいんだ。
他の誰がどうなっても、本音ではどうでもいいはず。そうでなければ、あれ程の数の人を殺せない。
いや、ユリアやフェミルはなぜ助けたのかと聞かれるのかもしれないが。目の前で苦しんでいる人がいるのなら、力が届くなら助けたいと思うのは普通のことじゃないか?
それでも、人格的に好きになれない相手なら、見捨てていたかもしれないが。
結論としては、ユリアやフェミルには好感が持てたからということになるだろう。
俺が大事にしたい人は、俺が好きになれる人だ。当たり前のことだけどな。
より好きな人を優先するという当然の理屈を、今までの俺は実行できなかった。
だから、これからは親しい人達を何よりも大事にしていきたい。
見知らぬ人のために、俺の大切な人を危険にさらすなんて言語道断だ。
だから、もう決めた。目の前の誰かのために、俺の大切な人を悲しませたりはしない。傷つけたりしない。
ある程度の人を見捨ててでも、友達たちを優先するんだ。そうすることが、みんなのためにもなるはず。
「ありがとう。お前達がそばに居てくれるなら、それだけで十分だ。あまり多くを求めるつもりはない」
「歌姫や王女や聖女とそばに居るなんて、とっても贅沢なのにね。ふふっ。でも、リオンちゃんが私達の存在で満たされているのなら、私達も嬉しいよ」
「そんなお前達だから、一緒にいて心地いいのだろうな。本当に、いい友達と出会えたよ」
「私達こそ、リオンちゃんは最高の友達だから。あ、そろそろ始まりそうだよ」
ルミリエの言葉で前を見ると、キュアンの両親が壇上に立っていた。
ゆっくりと回りを見回したあと、静かに話し始める。
「我が子キュアンが孤児院を襲ったこと、皆にわびたい。もはやあやつを子とは思っていないが、それでもこの世に産み落とした責任はある」
そうかもな。キュアンが歪んだのは、両親に自分を軽んじられていたから。
だからといって、目の前にいるキュアンの両親を憎もうとは思わないが。
あるいは、誰かが犠牲になっていたのならば、両親ごと殺そうと考えたかもしれない。
だが、実際には誰も死ななかったからな。だから、当人以外への恨みはない。
「そこで、キュアンと我々の決別を宣言するために、キュアンが残したものを処分していく予定だ」
遺品を大切に抱えていたら、家族としての情があると思われかねない。だからこその判断なのだろうか。
まあ、何でもいい。俺はキュアンの絵がこの世から失われるという事実のほうが大切なんだ。
「見たまえ! キュアンは逆賊マリオや、異端者エギルとも仲良くしていた証拠がある!」
マリオを描いた絵、エギルを描いた絵。順番にさらしものになっていく。
周囲からはヤジが飛んでいた。下品なことだが、気持ちは分かる。
なにせ、悪人同士が仲良くしている証拠だからな。民衆にとっては楽しいだろう。
これでキュアンが断頭台に乗せられていれば、もっと盛り上がったのだろうな。
「そして、勇者リオンは彼らの危険性を察していた! 3人全てを討ち取って、今の平和を勝ち取った勇者は、彼らが異常な思想を持っていると察し、監視していたのだ! その証拠がこれだ!」
俺とマリオ達が一緒に描かれている絵も、民衆の前に持っていかれる。
なぜかは知らないが、勇者リオン万歳という声が聞こえた。
そこから、一気にリオンという名を皆が叫びだす。本当に英雄の名を呼んでいるかのような勢いだ。
実際のところは、マリオ達が幸せになれるように気を使っていたのだが。
まあ、誰も真実を知る必要なんて無いだろう。俺も民衆も王家もキュアンの両親も、誰も得しないからな。
「さあ、待ちわびただろう! 罪人が描いた絵など、すべて燃やしてしまおうじゃないか!」
キュアンの父親が叫び、絵を乱雑に積み上げたあと、火にかけていく。
燃やされていく絵を見ていると、心がすっとする感覚があった。
彼の両親が、息子と自分とは別であると主張するためにやるのだとか。
まあ分かる。複数いる子どもの1人。そして自分が軽んじていた相手の起こした事件。
それは、キュアンの事をなじりたくもなるだろう。それに、キュアンの両親だと見られたくもないのだろう。
まあ、理由は何でもいい。せっかくの機会だから、キュアンの絵が燃える姿を見ようと思ったんだ。
かつては好きな絵だったのだが、今は燃やされると聞いて嬉しくて仕方がない。きっと、坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いというやつなのだろう。
キュアンのことが大嫌いになったから、キュアンが描いた絵も存在するだけで許せない。
俺のことを描いた絵も存在するのだが、描いたのがキュアンだと思えば、気持ち悪いだけだ。
それで、キュアンの家の庭まで来ている。それなりに大勢が集まっていて、熱気に包まれている。
直接処刑するわけではないから、大したことがないと思っていたのだが。案外物好きが多いらしい。
「リオンちゃんは、昔の友達が死んじゃって悲しい?」
「マリオとエギルはそれなりに悲しかったかな。キュアンは、死んでくれて嬉しいくらいだよ」
とはいえ、マリオとエギルが死んだ事実にはもう慣れた。かつての思い出を振り返っても、今では悲しくない。
それにキュアンは、もう思い出したくない相手だからな。さっさと痕跡ごと消えてほしい。
今でもまったく許せる気がしない。もし仮に3人が生き返っても、キュアンをかばうのならばマリオもエギルもまとめて殺す。
本当に孤児院を襲った罪は重い。エリスを殺しかけたことも。どれほどキュアンが苦しい目にあっていようが、絶対に許すことはないだろう。
まあ、そもそもキュアンは死んでいるのだが。無駄な仮定ではある。
そういえば、ルミリエは俺がここに参加することには賛成なのだろうか。
ミナの力で俺の居場所を発見したのだろうし、ミナの意見も聞きたい。
ルミリエの力もミナの力も便利だよな。お互いが離れた場所に居ても、簡単に話せるのだから。
「ところで、俺がいまキュアンの絵を見に来ているのは、問題かな? 2人はどう思う?」
「私は別に良いと思うよ。心の整理が必要だってことは感じるからね。ミナちゃんは、リオンちゃんがやりたいことが正解だって」
2人が肯定してくれるのは助かる。俺としては、友達に変な思いをさせてまで参加したいものではないからな。
結局のところ、キュアンへの恨みよりも、いま生きているみんなの方が大事なのだから。
そもそも、俺の感情よりもみんながどう思うかの方が問題だ。みんなを不快にしてまでやりたいことなど、そう多くはない。
みんなが嫌がると分かっていてなぜ命をかけるのか、なんて言われそうではあるが。
俺としては、多少ではなかったとしても、不愉快な感情よりも命のほうが大切だと思っているだけだ。
そもそも死んでしまえば楽しいも何も無いのだから。大切な人が生きることを優先するのは、おかしな話ではないだろう。
「なら、ここでゆっくり見させてもらうよ。キュアンへの恨みは、整理した方がいい感情だろうからな」
「そうだね。もとは友達だったんでしょ? だったら、複雑な感情があるのは当たり前だよ。だから、しっかり振り切っちゃおう! 大丈夫。私達は何があっても一緒にいるからね」
俺が一番気にしていたことが解決している。結局、俺はみんなに嫌われることが恐ろしいんだ。
他の誰がどうなっても、本音ではどうでもいいはず。そうでなければ、あれ程の数の人を殺せない。
いや、ユリアやフェミルはなぜ助けたのかと聞かれるのかもしれないが。目の前で苦しんでいる人がいるのなら、力が届くなら助けたいと思うのは普通のことじゃないか?
それでも、人格的に好きになれない相手なら、見捨てていたかもしれないが。
結論としては、ユリアやフェミルには好感が持てたからということになるだろう。
俺が大事にしたい人は、俺が好きになれる人だ。当たり前のことだけどな。
より好きな人を優先するという当然の理屈を、今までの俺は実行できなかった。
だから、これからは親しい人達を何よりも大事にしていきたい。
見知らぬ人のために、俺の大切な人を危険にさらすなんて言語道断だ。
だから、もう決めた。目の前の誰かのために、俺の大切な人を悲しませたりはしない。傷つけたりしない。
ある程度の人を見捨ててでも、友達たちを優先するんだ。そうすることが、みんなのためにもなるはず。
「ありがとう。お前達がそばに居てくれるなら、それだけで十分だ。あまり多くを求めるつもりはない」
「歌姫や王女や聖女とそばに居るなんて、とっても贅沢なのにね。ふふっ。でも、リオンちゃんが私達の存在で満たされているのなら、私達も嬉しいよ」
「そんなお前達だから、一緒にいて心地いいのだろうな。本当に、いい友達と出会えたよ」
「私達こそ、リオンちゃんは最高の友達だから。あ、そろそろ始まりそうだよ」
ルミリエの言葉で前を見ると、キュアンの両親が壇上に立っていた。
ゆっくりと回りを見回したあと、静かに話し始める。
「我が子キュアンが孤児院を襲ったこと、皆にわびたい。もはやあやつを子とは思っていないが、それでもこの世に産み落とした責任はある」
そうかもな。キュアンが歪んだのは、両親に自分を軽んじられていたから。
だからといって、目の前にいるキュアンの両親を憎もうとは思わないが。
あるいは、誰かが犠牲になっていたのならば、両親ごと殺そうと考えたかもしれない。
だが、実際には誰も死ななかったからな。だから、当人以外への恨みはない。
「そこで、キュアンと我々の決別を宣言するために、キュアンが残したものを処分していく予定だ」
遺品を大切に抱えていたら、家族としての情があると思われかねない。だからこその判断なのだろうか。
まあ、何でもいい。俺はキュアンの絵がこの世から失われるという事実のほうが大切なんだ。
「見たまえ! キュアンは逆賊マリオや、異端者エギルとも仲良くしていた証拠がある!」
マリオを描いた絵、エギルを描いた絵。順番にさらしものになっていく。
周囲からはヤジが飛んでいた。下品なことだが、気持ちは分かる。
なにせ、悪人同士が仲良くしている証拠だからな。民衆にとっては楽しいだろう。
これでキュアンが断頭台に乗せられていれば、もっと盛り上がったのだろうな。
「そして、勇者リオンは彼らの危険性を察していた! 3人全てを討ち取って、今の平和を勝ち取った勇者は、彼らが異常な思想を持っていると察し、監視していたのだ! その証拠がこれだ!」
俺とマリオ達が一緒に描かれている絵も、民衆の前に持っていかれる。
なぜかは知らないが、勇者リオン万歳という声が聞こえた。
そこから、一気にリオンという名を皆が叫びだす。本当に英雄の名を呼んでいるかのような勢いだ。
実際のところは、マリオ達が幸せになれるように気を使っていたのだが。
まあ、誰も真実を知る必要なんて無いだろう。俺も民衆も王家もキュアンの両親も、誰も得しないからな。
「さあ、待ちわびただろう! 罪人が描いた絵など、すべて燃やしてしまおうじゃないか!」
キュアンの父親が叫び、絵を乱雑に積み上げたあと、火にかけていく。
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