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3章 歪みゆくリオン

94話 自らの意志で

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 孤児院を襲撃した犯人の居場所が分かったらしい。
 つまり、下手人は遠くからここを攻撃していたことになる。
 当たり前だが、モンスターの正体は心奏具の能力によるものだろう。
 だから、絵のような見た目をしているモンスターを操っているということは。

 まあ、誰が相手かなんてどうでもいい。理由だって何でもいい。
 もう決まったことがある。それは、黒幕をむごたらしく殺してやるということだ。
 思いつく限りの苦痛を与えて、その上で死なせてやるつもりなんだ。
 エリスを死なせそうになったこと、絶対に許すつもりはない。
 それに、何の罪もない子ども達を襲った時点で、死ぬべき相手としか思えない。

「ルミリエ。それで、犯人はどこにいるんだ?」

「うん、ミナちゃんが調べてくれたよ。ここからけっこう近い建物だね」

 なるほどな。ミナの心奏具ほど、遠くからでも扱えるものは少ない。
 である以上、今回の犯人も同様だと考えていいな。そうでなければ、もっと遠くにいたはずだ。
 なにせ、ミナの心奏具を知らなければ、安全に事を進められると判断できただろうから。
 まあいい。場所が分かったのなら、向かうだけだ。そして、ターゲットを殺す。
 もはや事情がなんだろうと関係がない。どんな理由だろうが、何が敵だろうが、同じことだ。

「じゃあ、行くか。ルミリエ、案内を頼めるか?」

「もちろんだよ。それで、みんなは連れて行く? 別にリオンちゃん1人でも、十分勝てるけどね。敵は限界みたいだから」

「なら、俺1人で行くよ。できれば、今からの行動は誰にも見られたくないな。できれば、ミナにも」

「あー。気持ちは分かるけど、無理はしないでね。別に、リオンちゃんを嫌いになる人は、ここにはいないよ」

 この感じだと、俺が何をするつもりかは、ルミリエには知られてしまったな。
 まあいい。分かった上で、嫌いにならないと言ってくれているんだ。その気持ちだけで、十分に嬉しい。

「私も協力というか、残しておいてほしい気もするけど。まあ、いいわ。私はお姉さんなんだから、リオンに譲ってあげる」

 確かにフェミルは年上だが。お姉さんというのはちょっと違和感があるな。いや、年上すぎだという意味ではなく。
 なんとなく、もっと気安い関係のような気がしていた。まあ、俺に気を使う理由付けだけかもしれないし、そこまで気にすることではないか。
 もっと大きなこととして、フェミルも犯人が憎いということがあるからな。とはいえ、フェミルはあまり強くないからな。いくら相手が限界を迎えていても、心奏具を持っている相手と戦わせたくはない。

「ああ、ありがとう。お前だって、敵に思うところはあるよな。それでも、フェミルにも俺の行動を見られたくないな」

「そこまでエリスのことで怒ってくれて、ありがとうと言うべきかしらね。あなたにとって、私達がどれだけ大切か、よく分かるセリフよ」

「分かるわ。リオンって、あたし達に何かあったら怒るのよね。自分は傷ついても気にしないのに。ちょっと、もどかしいところもあるわよね」

「同感です。リオン君が傷ついたら、私達が傷ついた時のリオン君くらい、私達だって怒るんですからね」

 サクラとシルクの言うことが、最近少し分かってきた。
 俺が傷つけば傷つく人がいる。嬉しい事実ではあるが、重いな。
 誰にも必要とされていなかったら、もっと気軽だったのだが。
 とはいえ、俺を大切にしてくれるみんなと一緒だから、今は幸せなのだろう。
 だから、いま感じている重みを大切にしないとな。じゃなきゃ、みんなにふさわしい俺でいられないだろう。
 なにせ、俺が感じている重みを捨てたなら。みんなに幸せをもらっておきながら、相手を不幸にすることになるのだから。

「ああ。みんなを怒らせるつもりはないよ。じゃあ、行ってくる」

 ルミリエに案内を受けて向かった先は、小さな空き家。
 孤児院からそう遠く離れてはいない、最近まで人が住んでいたのだろう気配を感じるところだった。
 だが、いまでは住人はいない様子だ。なにせ、犯人以外の人の気配がしないし、若干ホコリにまみれているからな。

 そして、敵がいる部屋へとたどり着く。罠のたぐいはない様子で、簡単に侵入できた。
 待っていたのは、やはり俺が想像していた人物だった。

「……キュアン。残念だよ。なぜ、孤児院を襲った? 最後だから、言いたいことくらいは言わせてやるよ」

 ミナの調査で犯人だとハッキリしている以上、もう何があっても殺す。
 たとえどんな事情があろうと、知ったことではない。死にたくないのならば、判断を間違えたとしか言えないな。
 キュアン。もうお前は友達だとは思わない。殺すべき敵でしかない。
 マリオやエギルのときに感じていた罪悪感なんて、何ひとつとして残っては居ないのだから。

「そうやって僕を殺すんですね。マリオ君のように、エギル君のように。残念ですよ。彼らの苦しみをリオン君に思い知らせられなかったことは」

「それが、最後の言葉で良いんだな。まあ、今更何を言われても、結論は変わりはしないが。仮にお前が人質を取られていようが、殺すことに変わりはないよ」

「どうぞ、殺してみればいいじゃないですか。負けた時点で、覚悟はしていましたよ」

「なら、お前の覚悟がどこで嘆きに変わるのか、存分に楽しませてもらうとするよ」

 まずは近寄っていって、引きずり倒す。
 剣の先を爪に刺して、そのまま引き剥がす。簡単に悲鳴を上げてくれて、楽なことだ。
 両手の10枚を剥がし終えた頃には、キュアンは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

「この程度で終わると思うなよ? お前が死ぬ瞬間まで、できる限り苦しめてやるからな」

「え、まだ……」

 まさか、こんなに早くに心が折れたのか? まあ、関係ない。抵抗しないのならば、楽なだけだ。
 次は10本の指を順番に折っていく。相変わらず、汚い悲鳴を上げている。
 さて、次はどうしようか。簡単に死なれたら、つまらないよな。
 なにせ、こいつは孤児院の子ども達を殺そうとしたんだ。エリスなんて、危うく死ぬところだったんだ。

 だから、俺の気が晴れるまでは、壊れないでいてもらいたいものだ。
 反応がなくなったりしたら、面白くないからな。できるだけ、俺を楽しませていてくれよ、キュアン。

 そうだな。どうせ殺すし、言わせたい情報もない。なら、耳や喉が潰れても問題ないな。
 今度は、耳のあたりに、死なない程度に剣を突き刺してみた。
 キュアンから変な声が出て、少し笑いそうになってしまう。

 それからも、何度も何度もキュアンに拷問を繰り返し、反応がなくなったと思ったら、すでに死んでいた。
 だが、心はまるでスッキリしていない。こんなことなら、もっと回復魔法を覚えておけばよかったかもな。
 そうすれば、いまより長く、苦しめ続けることができたのに。

 とはいえ、もうキュアンは死んだ。心を切り替えよう。
 これから孤児院に帰るんだから、残酷な俺はこれでおしまいだ。子ども達には、笑顔をみせていないとな。

 そうして孤児院に戻った俺を、みんなは迎え入れてくれた。
 ある程度みんなと会話をしている中で、ふとあることに気づく。

「そういえば、帰りはルミリエの声を聞かなかったな」

「ミナちゃんと私は、リオンちゃんが敵に何をしていたのか、見ていなかったからね」

 なるほどな。俺を気遣ってくれたのか。ありがたいことだ。
 ミナやルミリエに、キュアンを拷問していた時の俺は見てほしくなかったからな。
 さて、もうキュアンは死んだ。これからは、もともとの予定通り、孤児院のみんなと遊ぼう。
 シルクやフェミルも加わったから、きっと楽しい時間を過ごせるはずだ。
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