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2章 希望を目指して

48話 作戦開始

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 さあ、領主モナークの屋敷へと向かうぞ。結局モナークが黒幕かは聞き忘れたな。
 とはいえ、ミナがそのあたりを手抜かりするとは思えない。だから、指示されたように行動していればいいだろう。

「まずはまっすぐ進んでいっていいよ。コッソリする必要が出たら言うから」

 ルミリエの指示が出たら警戒するべきという事だろうな。
 さて、まだ屋敷は見えていない。人影も特に見当たらない。平原なのだから当たり前だが。
 まだまだ遠いから、ゆっくりとルミリエと話しながら歩いていた。

 そしてしばらく歩いて、人里のようなものが見えてきた。これが領主モナークが治める町だろうか。
 人気は少なく、活気はまるで感じられない。これも戦争の影響なのか、モナークの悪事のせいなのか。

「そろそろおしゃべりはやめようか。こっちから指示をするから、がんばってね」

 うなずいて返答代わりとし、ルミリエの指示に従う態勢をとる。
 さて、住民に見つかることも避けるべきだろうか。俺としては、わざわざ目立とうとは思えないが。

「じゃあ、右方向に裏道が見えると思うから、そっちに入って」

 ここまで人気がないと、スラム街のような場所でも人が居ないのだろうな。だから、単純に裏道のほうが効率がいい。
 まあ、誰にも見つからないほうが都合がいいか。わざわざ正面から突っ込む理由はないのだから。

「次はそこを左に曲がってね」

 そのままルミリエの案内で領主の屋敷へと近づいていった。誰かに見つかることもなく、今のところは順調だ。
 この調子で誰にも出会わずに人質を救出できればいいが、ありえないな。
 いらぬ空想を思い浮かべていないで、しっかりと心構えをしないと。

 領主の屋敷は割としっかりした作りで、この町の景色には似合わない。なんとなく、悪徳貴族のイメージがある。
 とはいえ、ミナの判断をしっかり聞いておかないとな。思い込みは危険だ。ミナならしっかり調査してから意見を言うはずだから。

「さて、ここで領主を仕留めればいいのか?」

「最終的にはね。人質の監視なんかを排除するのが先かな」

 まあ、人質を助けられないのなら何の意味もないからな。当たり前か。
 それはさておき、領主を仕留めていいということは、黒幕かそれに近いところにいるのだろう。なら、遠慮なく殺させてもらおう。

 ハッキリ言って、以前までの戦いより気分は楽だ。何の罪もない相手だという意識がつらさの原因だったのだろう。
 今回の敵は人質を取って民衆を戦場に向かわせる相手だとわかっているからな。罪人だと思えるんだ。

「エリスを助けてやらないとな。もちろん、他の人質も大切だが」

「そうだね。今のところ、みんな無事みたいだよ」

 ありがたい。全員を助けられるのが一番良いが、どこまでできるだろうな。
 今から心配していても仕方ないか。できることをやるしかない。

「なら、できるだけ助けたいな。難しいか?」

「ちゃんとやれば大丈夫。私とミナちゃんで、バッチリ案内するよ」

 2人の案内ならば、安心だな。ミナの心奏具と頭脳が加われば、相手の情報など丸裸にできるのだから。
 単に覗き見するだけの心奏具だとあなどっているやつはおかしい。それくらい、絶対に敵に回したくない能力なんだ。

「頼りにしているよ。お前達ならば、変な誘導など絶対にないからな」

「信頼してくれているみたいで嬉しいよ。バリバリ張り切っちゃうね」

 ルミリエとミナを信頼しているなど、疑うまでもないことだ。とはいえ、ハッキリ言葉に出したことは少ないかもしれない。
 俺を友達だと思ってくれる相手なのだから、信頼も感謝も、大切な感情はしっかりと伝えないとな。

「お前達になら命を預けられる程度には信じているんだ。これまで何度も助けられてきたからな。ありがとう」

「ううん。気にしなくていいよ。リオンちゃんにもいっぱい助けられてきたから。でも、ありがとう。さあ、話はこれまで。行こうか」

 いよいよここからが本番だ。見つからないように侵入する予定だろうが、どのような形だろうな。

「ああ。俺はここからどうすればいい?」

「天井から入ってもらうよ。実は、屋根から脱出できるように道を作ったんだって。ハシゴもあるみたいだけど、それは屋敷の中にあるよ」

「なら、どうやって侵入するんだ?」

「エンドオブティアーズの剣を地面に突き立てて、伸ばすって方法かな」

 俺の心奏具をよく分かってくれている。ルミリエの提案ならうまく天井に登れるはずだ。
 ありがたい限りだ。俺の心奏具をどうやって使えばいいのか、友達も考えてくれるなんて。

「分かった。なら、どこから近づけばいい?」

「そうだね。裏門のあたりには人が少ないよ。だから、見つからずに天井に登りやすいと思う」

 なら、裏門の近くに回り込むか。見つかったら面倒だからな。殺さなくていいのなら殺したくない。
 おそらく、即座にエンドオブティアーズで刺し殺せば対処はできるのだろうがな。

「じゃあ、行くか。そろそろ黙ったほうがいいよな」

「そうだね。じゃあ、話しても大丈夫そうなら、その時には言うね」

 ありがたいことだ。ルミリエになにか伝えたい瞬間もあるだろうからな。
 さて、裏門の所まで来たことだし、屋根に登るか。

 まずエンドオブティアーズの剣を地面に突き刺し、柄をしっかりと握りしめる。
 そして、剣を伸ばして屋根の上までやってきた。地面に強く刺さるだけにならないか心配だったが、うまくいったな。

「じゃあ、屋根のところに仕掛けがあるから、右のあたりを探してね」

 ルミリエの指示に従うと、明らかに色が違う部分を見つけた。おそらくは、ここから侵入すればいいのだろう。
 どうやって入ればいいのだろうか。少しだけ様子を見ていると、声が届いた。

「剣を突き立てて、はがせばいいよ。音はそんなに出ないはずだから」

 そんなに簡単なやり方でいいのか。助かるな。楽な限りだ。ただ、まだ気を抜く訳にはいかないよな。
 屋根をはがして侵入すると、屋根裏部屋のようなところだった。特に人影は見当たらない。

「しばらくは普通に進んでいっていいよ。その先で降りてもらうね」

 なら、すぐに人とは出会わない見込みなんだろうな。なら、素直に従っておけばいいな。
 人質はどこにいるのだろうか。まっすぐ進んでいるのか、回り道していくべきなのか。

 そのまま進んでいくと、階段らしきものを見つけた。ここを降りていけばいいのだろうか。

「その先に見回りがいるから、剣を私の指示した方向に向けてね。隠れたままでいいよ。私が方向を言うから」

 ルミリエの指示通り、隠れて剣の先だけを階段から出す。天井の陰に潜んだまま、階段の隙間から剣を伸ばせるように。

「もうちょっと右、ほんのちょっと下……そこ!」

 言われたタイミングで剣を伸ばすと、手応えを感じた。うまく貫けた様子。ミナはすごいな。心奏具から伝わってくる情報だけで的確に指示を伝えられるのだから。

「じゃあ、そこから降りて行ってね。しばらくは声を出さないでね。指示したタイミングで、剣を伸ばしてね」

 そのままルミリエの声に従い何度も敵を殺していく。俺は見つかっていないし、悲鳴のたぐいもあがっていない。問題なく進むことができていた。
 しばらくして、大きな部屋に出た。この部屋に入るときには、特に警戒も攻撃も指示されていない。
 だから、もしかしたらという思いがあった。すぐに俺の予感は正解だと分かる。

 部屋の中に居たのは、みすぼらしい姿をした多くの人間。その中に、紫の髪と目をした少女を見つけた。つまり、今目の前にいるのは人質たち。そして、少女はエリスなのだろう。

 ようやく目的の1つを見つけた。まずは1段階、目標達成だな。
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