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2章 希望を目指して

43話 望まれる生

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 さて、まだ移動に時間がかかるみたいだ。戦争というのは、案外暇な時間が多い。
 それとも、ミナのおかげなのだろうか。サッドオブロンリネスで効率のいい道を探ってくれているはずだ。
 どちらにせよ、ありがたいことだ。ずっと戦っていたら疲れてしまう。色々な意味で。

「リオンちゃん、今のうちに気力を復活させるといいよ。またバリバリ活躍するためにもね」

 ルミリエの言葉は大切なことだろう。しっかりと戦える調子になっておかないと、俺以外の人まで危なくなってしまう。
 当然、サクラやユリア、シルクもだ。マリオ達もな。だから、休むことは大切なはず。
 とはいえ、どうやって休めば良いものか。移動もあるし、敵から襲われることへの警戒もいる。なかなか難しいな。

「どうやって気力を復活させると良いものだろうな。完全に気を休めるのも難しいぞ」

「なら、ユリアちゃんとシルクちゃんと話しておいたらどうかな? 特にユリアちゃんは初陣なんでしょ? ドキドキしてるはずだよ」

 俺というよりユリアの気力を回復させる動きのような気がするが、まあいいか。
 ユリアとシルクと話していれば、きっと楽しいだろうからな。それで十分なはずだ。

「いまユリアちゃんとシルクちゃんを呼んだから、しっかり楽しんでいってね」

 相変わらずミナとルミリエの心奏具を組み合わせるととんでもないな。
 俺が全く気づかないうちに呼び出していたとは。他にも、先ほどサクラと話していたことは知られているようだな。
 まあ、この2人を敵に回したら大人数であればあるほど手のひらの上になる。味方でいて頼もしい限りだ。

 しばらく待っていると、ユリアとシルクがこちらへやってきた。

「リオンさんっ、お暇でしたら付き合ってくださいっ」

「同意します。それに、リオン君には休みが必要ですよ」

 シルクの言葉は、自分との会話が休みになると確信しているセリフに聞こえるな。間違ってはいないが。
 実際、俺は親しい人との会話が一番好きだ。落ち着くし、楽しいし。

「ああ、もちろんだ。ミナ達に警戒させておいて、休むのも少し悪い気がするが」

「気にしなくていいよ~。リオンちゃんは少し無理しすぎ。ユルユルしていてもいいんだよ」

 そんな風に言われるほど無理をした記憶はないが。せいぜい学園が襲われた時に危なかったくらいじゃないか?
 まあ、ルミリエがわざわざ口にしたのだから、気にかけておくか。

「同感ですね。簡単に命を懸ける人ですから。だからこそ救われた身としては、安易に否定もできないのですが」

 シルクのために命を懸けた事なんてあったっけか。まあ、感謝に水をさすこともないか。
 それよりも、2人が同じ意見だとなると、気をつけたほうが良いことなのだろうな。俺以外にとっては危なっかしく見えるのだろう。
 まあ、いまだに自覚はできていないのだが。どの辺なのだろうか。ユリアの時は間違いなく命を懸けていたが。

「リオンさんが命を懸けてくれたおかげで、わたしは今生きていますからっ。でも、リオンさんが無理をすると悲しいですよっ」

 まあ、俺としても大切な人を悲しませたいわけじゃない。だから、無理をする機会は減らす。
 あまり大切な人を増やしすぎても、守れなくなるだけだからな。考えておくべきことだ。

「分かった。できるだけ無理はしない。お前たちを悲しませたいわけじゃないんだから」

「疑問です。リオン君は本当に無理をしないのか。でも、お願いします」

 完全にシルクから信用されていない。少しどころではなく悲しい。とはいえ、俺を心配してくれている証でもある。
 だからこそ、しっかりとシルクやユリア、他の人たちも心配をかけずに済ませたい。
 俺は心からみんなを大切に思っている。それは本当だから。みんなを裏切りたいわけじゃないから。

「ああ。シルクをもう一度泣かせたくはないからな。ちゃんと気をつけるさ」

「わたしだって、リオンさんが傷つけば泣くんですからねっ」

 ありがたいことだ。俺を大切に感じてくれている人が何人もいる。それだけで、ずいぶん幸せだと思えるほどに。
 だからこそ、本当に泣かせなくて済むようにしないとな。

「ありがとう。俺は幸せものだな。生きるための理由があるというのは嬉しいよ」

「共感します。私の生きる理由は、すぐそばにある。それがどれほど幸せなことか」

「わたしの生きる理由はリオンさんなんですよっ。だから、ずっと幸せなんですっ」

 2人とも本当に暖かそうな顔だ。だから、幸せを感じているのは本当のはず。
 今の2人の幸福を守るためにも、俺が犠牲になるわけにはいかない。やはり、大切な誰かのためというのが一番力を発揮できる気がするな。

「俺の生きる理由も、お前たちだよ。だから、何が何でも生き延びてみせる。またお前たちの顔を見るためにな」

「肯定します。あなたが生きていてくれれば、かならず治してみせますから。だから、絶対に生きていてください」

「わたしだって、ずっとリオンさんの顔を見ていたいんですっ。約束ですよっ」

 お互いに大切に思える相手がいる。生きる上でこれ以上無いと思えるほどの喜びだな。
 だから、死にたくないのは本音だ。これからずっと、こいつらと話していたいし、遊んでいたい。
 それでも、こいつらが命の危機におちいるのだとすれば、何を賭けてでも守ってみせる。

「ああ、もちろんだ。俺は生きていたいんだから。いま幸せなんだからな」

「同感ですね。私も今が幸せなんです。リオン君が死ねば、私の幸せは失われる。分かってください」

「わたしだって同じですっ。リオンさんがいてくれるから、わたしは幸せなんですよっ」

 よほど俺のことは危なっかしく見えるらしい。何度も注意されているようなものだからな。
 まあ、ユリアの件を2人とも知っているわけだから、当たり前といえば当たり前か。
 俺はこいつらを悲しませたいわけではない。死んだ後ならどうでもいいと言うつもりもない。
 だから、ちゃんと気をつけるつもりはあるんだがな。伝わっていないのだろうか。

「お前たちの幸せは俺にとっても大切なことだからな。分かっているよ」

「納得します。ですから、私達を悲しませないでくださいね」

「そうですよっ。助けられておいて言うことではないですけど、他人なんて気にしないでくださいっ」

 もちろん努力はする。でも、どうしても目の前で傷ついている人を無視できない。
 本音のところでは、敵兵だって殺したくなかったのが俺だから。だが、変えられるのなら変えたほうが良いのだろうな。
 見知らぬ人を優先して、大切な人を傷つけるなど愚かなことだ。分かっているんだ。

「ああ。気をつけるよ。それにしても、俺はそんなに無茶をするように見えるか?」

「肯定します。あなたが傷ついて帰ってくるたびに、私がどれほど苦しんでいたか」

「そもそも、わたしなんて本来どうでもいい他人のはずですからっ。命がけで助けるなんて、おかしいんですっ。だからこそわたしは救われたとはいえ」

 まるで俺が異常者みたいに言う。まあ、ディヴァリアの悪事を見逃している俺はおかしいか。
 でも、シルクの悲しみを軽減するためにも、本当に気をつけなければいけない。俺は誰かの希望になりたい。
 だから、志半ばで果てる例になるワケにはいかないんだ。

「そうか。なら、仕方ないな。お前たちを悲しませないために、しっかりやるさ」

「賛成します。だから、これからもあなたのそばにいます。私の命を危険にさらさないために、しっかり安全を意識してくださいね」

「いいですねそれっ。私もリオンさんのそばにいますからねっ。だから、ずっと一緒ですよっ」

 ああ、これで本当に無茶はできなくなった。だが、仕方ない。俺のこれまでの行動のせいなのだからな。
 それにしても、ゆっくり休むというより、いさめられる時間になったな。まあいい。これから生き延びるための決意ができた。それで十分だ。
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