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2章 希望を目指して

35話 進んでいく訓練

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 俺は訓練に熱が入るようになっていた。守りたい日常の価値を理解できたからだ。
 またあんな日々を過ごすためならば、いまが苦しくとも構わない。
 なにせ、友達たちと過ごす幸福は、苦しさなど忘れられるほどに素晴らしいから。

 そして、全力で鍛錬をこなした結果、シャーナさんからの課題を突破した。
 魔力を円状に動かし、それをいくつも重ねて球にするというものだ。
 やった結果わかった事として、魔力というのは俺が考えていた以上に自在に操れるという事がある。
 つまり、おそらく下級魔法も、もっと細かく動かせるはずなんだ。

 まず第一の課題が終わったので、シャーナさんに報告することに。
 というか、俺が探そうとすると急に目の前に現れた。ここは俺の家だぞ。まあいいが。

「うちが出した課題が終わったようじゃの。思っていたより早いな」

 以前1日2日では終わらないと言われたから、1週間はかからないくらいだろうと思っていた。
 だが、思っていたより早いと言われるあたり、1月くらいを見ていたのか? 言い回しがおかしい気がするが。
 まあいい。シャーナさんは未来が見えるはずだ。だから、俺が最も早く習得できる言い回しを選んだ可能性がある。

「ありがとうございます。次の訓練をしてからが、本格的に教わる時間なんですよね」

 前にそう聞いた。だから、次も基礎的な訓練なのだろう。
 どうせ俺には上級魔法は使えないと言われている。だから、しっかりと下級魔法の操作精度を高める訓練なのだろうな。
 魔力の操作を学ぶと言われていたような気がするし、間違いないはずだ。

「よく覚えておったな。素晴らしいぞ。さすがはリオンじゃ」

 そんな事をほめられても困ってしまう。教わる以上は、相手の言葉を意識するなど当然なのだから。
 もっと難しい所をほめてもらいたいぞ。まあ、本人には言えないのだが。

「ありがとうございます。でも、ちゃんと成果を出したい以上当たり前です」

「その当たり前が、案外難しいのじゃ。まずはそこを褒めてやりたい」

 まあ、分かる。ちゃんと基本をしっかり守るということは、意外とできない人も多い。
 とはいえ、俺をダメな風に認識されていたのなら、結構つらいぞ。

「助かります。それで、次の訓練はどんなものなんですか?」

「魔力を体に通してみろ。そして、狙った場所に即座に魔力を通わせるのじゃ」

 ふむ。意図がいまいち分からない。魔力操作を習熟させるというのは分かる。
 だが、わざわざ体に魔力を通わせる理由は何だ? 魔法を体内で使えるようにでもなるのか?

「くく、疑問を覚えているようじゃな。いいぞ。お主の知らぬ理由はもちろんある。実現できたなら強いぞ」

 さて、どんな理由だろう。定番は、身体を強化できることだろうが。さすがに剣を生身で防げるとは思えない。
 他に何があるだろうか。いまいち思いつかないな。まあ、シャーナさんの課題をこなせば、分かっていくだろう。

「じゃあ、まずは試してみますね」

「うむ。リオンならば、そう時間はかからずに達成できるはずじゃ」

 なるほど。シャーナさんの言葉を素直に信じて良いのかはわからない。だが、俺がどういう反応を返すのか分かっているはず。
 だから、俺が最もうまく習得できる言葉を選んでいるはずだ。
 なら、いまは簡単なことだと考えておくといいかもな。苦戦した時のことは、後でいいか。

 まずは右手の指先に魔力を送り込んでみる。これは簡単だった。
 次に手のひら、ひじ、肩の順で試してみる。これもたやすい。
 だから、右手と左手に同時に送り込もうとすると、急にうまくいかなくなった。

「ふむ。同時に複数の箇所は難しいみたいですね」

「そうじゃな。いずれは全身に行き渡らせてもらいたい。だが、焦りすぎるなよ」

 シャーナさんは未来が見えるのだろうから、俺が焦りすぎて失敗している光景を見た可能性がある。
 つまりは、急がば回れの精神が大事になってくるだろうな。
 失敗することにどんなデメリットが有るのかはわからない。それでも、最悪を考えておくべきか。
 だから、最大級の失敗をすれば、体に後遺症が残るくらいのつもりでいよう。

「分かりました。焦りすぎません」

「うむ。それでよい。では、またな」

 そのままシャーナさんは去っていく。現れたときのように、急に消えて。
 なんというか、正体不明というか。つかみどころの無い人だな。まあ、信頼はしていいと思う。
 本気で俺のことを強くしたいという意思は、シャーナさんの表情から伝わってくる気がするから。

 さて、次の課題も頑張っていこう。そう考えていると、今度はソニアさんがやってきた。

「リオン殿、探していましたよ。今日の訓練も、しっかりやっていきましょうね」

 ソニアさんには色んなところで訓練に付き合ってもらっている。学園でも、俺の家でも。
 色々と学べることが多く、メキメキと成長できている実感があるな。
 サクラもソニアさんやシャーナさんから教われるといいのだが。

 まあ、ソニアさんは知らないが、シャーナさんは何かしらの事情があるのだろう。なにせ、未来が見える相手なのだから。
 サクラを鍛えたほうがいいのなら、自分から関わっているはずだ。だから、無理に頼み込めない。

 今はソニアさんの訓練に集中すべきだな。サクラのことは心配だが、俺自身も強くならないと。

「ああ、もちろん。ところで、ユリアの調子はどうだ?」

「彼女、すさまじい才能ですよ。リオン殿もうかうかしていたら、追い抜かされてしまいますよ」

 それほどか。ユリアが強くなってくれるのは嬉しい。どうせ俺の戦場についてくる気がするからな。安全であるに越したことはない。
 とはいえ、最近武術を始めたばかりの相手に、追い抜かされることを考えないといけないのか。
 やはり、俺には才能がないのだと思い知らされるな。だとしても、前に進むしかない。何をしなくとも、戦いは待っているだろうから。

「それは、気をつけないといけないな。ユリアに守られるのは、もう二度とごめんだ。俺が守ってやりたい子なんだから」

「ふふ、助け合いというのも悪くありませんよ。小生も、1人で強くなりたい時期はありましたがね」

 それはそうだろうな。俺だって、サクラとの共闘は気分が良かった。ただ、どうしても罪悪感がある。
 俺の戦いに、大切な誰かを巻き込んでしまっているという感覚が。いくら嘆いたところで、いまの俺では実力が足りないのだが。

「分かるぞ。ですが、俺はみんなを守れるようになりたい。せめて大切な人だけでも。できればもっと大勢を」

「なら、強くならないといけませんね。シャーナ殿から魔法を教わっているようですし、そちらもがんばってください」

「もちろん。手札が増えるだけでも、全然違うからな」

「ええ。期待していますよ。では、今日の組み手を始めましょう」

 それから、ソニアさんといつものように戦った。
 相変わらず勝ち筋が見つからないが、それでも以前よりは善戦できている。

 ソニアさんの素早さにだいぶ合わせられるようになって、露骨な手加減は減っているはず。
 その証拠に、以前よりも小さなスキでも攻撃されるようになっていた。
 たとえば、前は攻撃を外したら反撃されていたが、今ではすべての攻撃に反撃されたりする。
 だから、俺が対処できる攻撃が増えた。そう認識されているはずだ。

「リオン殿、成長されていますね! ですが、まだまだですよ!」

 ソニアさんは本当になんでもしてくる。頭突きや蹴り、殴り。砂を投げかけてきたりもした。
 騎士というイメージから外れた攻撃だが、たしかに俺の血肉となっている感覚がある。
 卑怯だからと敵の攻撃に対処できないなど、論外だからな。いい勉強だ。
 負けても大丈夫な訓練のうちに、様々な手管を学んでおきたい。そう考えて、しっかりと色々見せてもらっていた。

「俺だって、ここで終わるつもりはない!」

 剣を切り上げ、振り下ろし、連撃を放っていく。ソニアさんはかわし、受け、反撃を繰り出す。
 ただ、俺はちゃんと動きを見ていたから、余裕を持って対処できていた。

「見事。ならば、この一撃を対処してみせなさい!」

 あまりにも鋭い振り下ろしがやってくる。俺は限界まで近寄って、相手の腕に腕を合わせる。
 折れるかと思うくらいの衝撃が襲ってきたが、なんとか耐える。そして、首筋に剣を突き立てた。

 俺がソニアさんの一撃に対応した時点で、合格だと判断してくれたのだろう。
 今思えば、蹴りを放つくらいの事はされていても、おかしくはなかった。

「今回も花を持たせてくれて、ありがとう」

「いえ。貴殿が基準に達していなければ、負かしていましたから。十分な成果ですよ」

 なるほど。ありがたい話だ。俺にしっかりと達成感を味わわせてくれる。ソニアさんは、本当に素晴らしい師匠だな。

「ならいいんだ。これからも、よろしく頼む」

「もちろんです。リオン殿には期待していますよ」

 そしてソニアさんは去っていく。今日も充実した1日だった。もっと強くなって、守りたい相手を守ってみせるぞ。
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