上 下
23 / 182
1章 勇者リオンの始まり

23話 ホープオブブレイブ

しおりを挟む
因縁れ――ホープオブブレイブ!」

 ユリアの右手に現れた、俺が持つ剣と全く同じ見た目の剣。心奏具が他者と同じ姿になるなど、聞いたことがない。
 ただ、エンドオブティアーズと違って盾はないな。さて、俺のエンドオブティアーズと同じ力を持っているのだろうか。だとして、ユリアに使いこなせるのか?

 明らかに戦いに慣れていないユリアだ。俺のために奮起ふんきしてくれたことは嬉しい。
 嬉しいが、ただユリアが傷つくだけにならないか不安だ。

「なるほど。ずいぶん特異な……貴公、面白い相手を助けたのだな」

 敵から見ても、俺の剣と同じ姿なのはおかしいのか。まあいい。ここから俺はどうすべきだろうか。
 ユリアに戦わせるべきか、止めさせるべきか。俺が考えようとした頃には、ユリアはすでに動き出していた。

「やああーっ!」

 そのままユリアは剣を振り下ろす。俺から見ても素人の動きでしかない。
 ただ、ユリアを止める前に敵は動いた。ユリアの剣を、敵は剣で受けようとする。
 すると、敵の剣はまるで紙をハサミで切ったかのように軽く切断された。

 そのまま敵まで切り裂くかと思ったが、流石に敵は避ける。
 次に、敵はユリアに素手で殴りかかろうとする。慌てて俺は盾でユリアをかばった。
 ただの殴りのはずなのに、とても強い衝撃に襲われる。
 相手は武器を失って、こちらが有利になったはず。なのに、まだ勝機が見えてこない。

「ユリア、下がれ! それ以上は通用しない!」

「賢明だな、貴公。素人の剣を受けるほど、我は弱くないよ」

「でも、リオンさんが……!」

「心配するな! 必ず勝ってみせる!」

 口で言うほど自信がある訳では無い。それでも、今のままユリアが戦っていては、ユリアが危険だ。
 だから、俺1人でどうにかするしか無い。まだ状況は絶望的に思える。それでも、俺がやらなくては!

「さて、来い。ただ助けられて終わりではないだろう?」

 俺はそのまま敵に切りかかっていく。敵は剣を失ったにも関わらず、俺の攻撃はまるで通じない。
 剣を伸ばし、太くし、色々と試しているが、どれも大きな効果はない。
 ユリアに心配をかけないうちに勝たなければ。なのに、おそらく俺はこのままでは勝てない。どうすればいい。どうすれば……。

「ファイア!」

 大した策があるわけでもなく、状況が変わることに期待して魔法を撃った。だが、そんな安易な行動が通じるはずもなく。
 魔法に気を取られていた俺のスキを突いて、顔面を殴られてしまう。
 大きく俺は吹き飛び、意識を失いそうにすらなった。
 必死で立ち上がろうとするが、うまく足に力が入らない。そんな俺を見て、敵はユリアの方を見た。

「娘よ。この男を見捨てるならば、お前は助けてやってもいい」

「ユリア、見捨ててもいいから、生きてくれ……」

 間違いなく本音だ。もちろん、未練はある。
 だとしても、ユリアが生きていてくれるのならば、俺は最後に何かを残せたのだと思えるから。

 ただ、ユリアは真っ赤な瞳に強い意志を載せて叫んだ。

「お断りです! リオンさんを見捨てるくらいならば、わたしはここで死んでいい! リオンさんだけは、絶対に失わない……!」

 そのままユリアは敵に切りかかっていこうとする。
 何をしているんだ、俺は。ユリアがあんなに必死にしているのに、倒れているだけか。
 まだやれることがあるはずだ。たとえ敵わず倒れるのだとしても、せめて最後まであがいてからだ!

 そんな決意を込めて立ち上がると、俺とユリアの心奏具が光でつながった。つまり、これは心奏共鳴。
 ユリアと出会ったばかりなのに、意外だな。でも、この子とならば納得だ。
 俺達は必ず2人で生き延びてみせる。そんな思いでつながっているはずだから。

 そして、心のうちから浮かぶ言葉をつむぐ。

「「心奏共鳴――一意専心LV1!」」

 真っ白な竜巻が起こり、地面をえぐって土埃が舞う。
 視界がくもり、俺はエンドオブティアーズの盾でユリアをかばう。そして視界が晴れた頃、敵の姿はなかった。

 あれで跡形もなく消し飛んだとは思えない。つまり、俺達は見逃された。
 だが、理由などどうでもいい。俺とユリアが2人とも無事でいる。それだけで十分だ。

「ユリア、無事で良かった……!」

「リオンさんのおかげですっ。リオンさんがいたから、生きてみたいと思えた。生きてほしいと思えた」

 俺がユリアの希望になれたのか。それだけで、今回の苦労が全て報われたとすら思える。
 途中までは死を覚悟していたが、お互いに無事でいられた。今の戦いで得た成果としては、100点満点かもな。
 結局あの村が滅んだことは悲しい。だとしても、ユリアを助けられた事はとても大きいから。

「ありがとう、生きていてくれて。ありがとう、着いてきてくれて。ユリアのおかげで、俺は救われた」

 ユリアに命を助けられた事もそうだし、ユリアが希望を持ってくれた事もそうだ。
 ある意味では、ディヴァリアに感謝しても良いかもしれないな。
 きっと、これからディヴァリアは戦争を引き起こすのだろう。だとしても、今回の件を胸に戦うことができるから。

 ディヴァリアを止められたら、いちばん良いのだろうが。俺には手段が思いつかないからな。
 流されながらでも、できることを進めていくしか無い。

「ふふっ、お互い救われているんですねっ。おそろいですっ」

「そうだな、おそろいだ。ユリアと出会えて良かった」

「不謹慎かもしれないですけど、あの村を帝国が襲ってくれてよかったなって。おかげでリオンさんと出会えたんですからっ」

 俺はそこまでは思えないが。とはいえ、ユリアと出会えたことは、間違いなく良いことだった。
 俺にも誰かを救うことができるんだ。そう思えただけでも。
 それに、ユリアはとてもいい子だから。暗い顔なんて似合わないから、これからたくさん笑顔が見たい。

 そのためにも、まずはしっかり生きて帰らないとな。
 戦いが終わったとはいえ、まだ全部終わったわけではない。帰るまでが遠足だ。まだちゃんとしていないと。

「そうか。ユリアが俺との出会いを喜んでいてくれて嬉しいよ」

「当たり前ですっ。ねえ、リオンさん。お互い生き残れたって、実感したいんです。だから、抱きしめてくれませんか?」

 ユリアは真っ赤な瞳をこちらに向けて言う。そうだな。ユリアが望むのならば、構わないか。
 俺としても、ユリアがちゃんと生きていると実感したいからな。
 まあ、抱きしめるのがその手段だと言われると、ちょっと違和感があるが。
 とはいえ、気にするほどの事でもない。さっさと実行しよう。

「じゃあ、いくぞ」

 ユリアが目をつむった。
 赤い瞳が隠されて、すべてが真っ白なユリアをゆっくりと抱きしめていく。
 小柄だとは思っていたが、明らかに細い。こんな小さな体で、俺を助けるために頑張ってくれた。
 そう思うと、とたんにユリアに対する感謝が深まっていく。

 怖かっただろう。勇気が必要だっただろう。それでも、心奏具まで目覚めさせて戦ってくれた。
 この子に対する恩は、一生忘れないだろうな。

「ああ、温かいですっ。幸せですっ。もっと、もっと……」

 ユリアからも抱き返された。本当に幸せそうな顔で、この顔が見られただけでも、とても嬉しい。
 さっきの戦いで死んでいたら、今のユリアの顔は見られなかった。だから、生き残れた喜びが更に深まっていくようで。
 たった1人救えただけかもしれないが、満足だ。

 しばらく抱き合ったあと、ゆっくりとユリアは離れていく。名残惜しそうな顔をしていたが、また機会はあるはず。
 俺達はお互いに生きている。だから、これからどんな事だってできるはずだ。
 ユリアがもっと幸せになっていく姿を、そばで見ることだって。

「こんな事ができるのも、2人とも生きているおかげだな。あらためて、ありがとう」

「いえ。リオンさんだったからですっ。わたしを命がけで助けようとしてくれた、リオンさんだから」

 ユリアの言葉からは、この子の感謝が伝わってくるようで。
 だから、あらためて感謝されることの心地よさを知ることができた。
 本当に嬉しいものだ。命を救われて、そのうえ感謝までされるのだから。
 こんないい子を迫害していたらしき村人には怒りもある。
 だが、どうせもうみんな死んでいるんだ。恨むべきではない。むしろ、いたんでやるべきだろう。

「俺がユリアを助けたいと思ったのは、ユリアが好きになれたからだ。だから、当たり前なんだ」

「いえ、わたしを好きだと言ってくれたのは、あなただけ。そんなあなただからですっ」

 こんなに素敵な子なのに、おかしな話だ。まあ、理由を知ろうとは思わない。ユリアだって、別に話したいわけでは無いだろうし。
 それよりも、そろそろ帰らないとな。転移装置にたどり着く前に、日が暮れてしまう。

「ユリア、着いてきてくれ。まずは俺の家に案内する。それから先は、ゆっくりと考えよう」

「リオンさんの家ですか。楽しみですっ。きっと、素敵な家族がいるんでしょうねっ」

「ああ。父さんも母さんも変わっているが、いい人たちだ。きっとユリアを歓迎してくれる」

 サクラもただの平民だったが、2人とも可愛がっていたようだから。
 それに、ユリアは間違いなくいい子だからな。
 これからのことを考えている俺に、ユリアは最高の笑顔を見せてくれた。

「なら、期待していますねっ。ふふっ、これから、いっぱい幸せを教えて下さいね、リオンさんっ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴
ファンタジー
入学式当日、学園の表札を見た瞬間、前世の記憶を取り戻した藤堂充《とうどうみつる》。 自分が好きだったゲームの中に転生していたことに気づくが、それも自身は超がつくほどの悪役だった。 さらに主人公とヒロインが初めて出会うイベントも無自覚に壊してしまう。 その後、破滅を回避しようと奮闘するが、その結果、ヒロインから溺愛されてしまうことに。 更にはモブ、先生、妹、校長先生!? ヤンデレ正ヒロインストーカー、不良ヤンキーギャル、限界女子オタク、個性あるキャラクターが登場。 これは悪役としてゲーム世界に転生した俺が、前世の知識と経験を生かして破滅の運命を回避し、幸せな青春を送る為に奮闘する物語である。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

処理中です...