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1章 勇者リオンの始まり

19話 天翼のゼロ

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 俺とサクラは有翼連合の残党がいる拠点を目指していた。
 有翼連合を片付けてしまえば、孤児院は安全になる。だから、何が何でも仕留めてしまいたいところ。
 サクラも同感なようで、気合を入れてくれていた。

「リオンちゃん、サクラちゃん、そこを右に曲がってね」

 ルミリエの声が届くが、ルミリエは今でも学園にいる。
 ミナの心奏具で俺達の位置を認識し、ルミリエの心奏具で俺たちに声を届ける。
 ハピネスオブフレンドシップは、狙った所に声を送れるからな。
 原作では、それを利用して暗殺していたような記憶がある。ルミリエの声をそんな事に使うなど、もったいない限りだよな。

「ミナとルミリエが力を合わせると、こんな事ができるのね。迷いにくくてありがたいわ」

 サクラが迷いやすいと言うように、このあたりは森の中で視認性が低い。俺達だけでここに来ていたら、相当苦しんでいただろうな。
 それに、ミナの調べた所によると、罠もあるようだから。あるいは俺達が死んでいた可能性すらあるかもな。

「まったくだ。こんな森を迷いながら進むなんて、冗談じゃないからな」

「そうね。ミナとルミリエのおかげよ。感謝しないとね」

 本当にな。そもそもミナが居なければ、この拠点を探り当てることすらできなかった。ルミリエも居てくれるから、こうして安全に進めている。

 しばらくルミリエの誘導で進んでいき、拠点らしき建物が見えた。どうも見張りのようなものは見当たらない。
 人員が不足しているのか、他の理由があるのか。分からないが、できるだけ気づかれずに侵入したいものだ。

「2人とも、裏口があるから教えるね。建物の影があるんだけど――」

 ルミリエの説明によると、いざという時逃げ出すための道らしい。なら、ちょうどいいか。
 混乱が起きれば、おそらく裏口の方にくる。余裕を無くした敵を、こちらは余裕を持って始末していければいい。

「サクラ、準備はいいか? そろそろ敵にぶつかるだろう」

「そうね。心奏具を準備しましょう。関係かかわれ――ソローオブメモリー」

「俺も行くか。守護まもれ――エンドオブティアーズ」

 森の中でずっと心奏具を展開していると、本番で消耗しているかもしれないからな。まあ、森の中で敵に出くわす可能性はあるが。
 とはいえ、ミナの情報では厄介なのはリーダーだけ。そのリーダーを相手に、できるだけ万全の状態で挑みたかった。

 まずは裏口から侵入し、様子をうかがってみる。複数人が談笑していて、ちょうど俺から真っ直ぐな位置。ならば、ちょうどいいな。

 物陰に隠れつつ、全員に重なるようにエンドオブティアーズの剣を向ける。そして、一気に剣を伸ばしてまとめて貫いた。
 エンドオブティアーズはどこまででも一瞬で伸ばせる。だから、暗殺にも向いた能力なんだ。

「リオン、やるわね。あたしにはあそこまできれいに殺せないわ」

 サクラはずいぶん落ち着いている。人が死んでも気にしていないのは、相方としてはありがたい。ここぞという場面で殺しに戸惑とまどわれては困ってしまうからな。
 まあ、サクラは正義感を失っていない。だから、きっとどこまでも堕ちていったりしないはず。
 ディヴァリアのように、罪など無くても殺すような事はしないだろう。

「エンドオブティアーズは便利だからな。サクラのソローオブメモリーには負けるかもしれないが」

 ソローオブメモリーは、上級魔法を自在に発射できる。それを考えれば、汎用性の高さはエンドオブティアーズを上回るだろう。
 とはいえ、簡単にサクラに負ける訳にはいかない。俺は置いていかれるつもりは無いんだ。これから先も、対等で居たいからな。

「あたしももっとうまくソローオブメモリーを使いこなしたいものね。あんたほどうまく使えていないから」

 どうだろうな。サクラと以前に訓練した時、電気を俺の剣に通そうとしたことには感心したが。
 俺の剣が心奏具でなければ、きっと負けていたから。あれがあったから、いろいろと考えるきっかけになったんだよな。

 サクラとの会話をいったん切り上げ、こっそりと敵を殺していく。ルミリエが誘導してくれたこともあって、誰にも気づかれずにだいたい片付いた。
 あとの脅威はリーダーだけ。ただ、リーダーを不意打ちすることは難しいらしい。入り口が正面しかない部屋に、正面を見ながら待っているようだ。

 リーダーが俺達に気づいているかは知らないが、気づかれている前提でいいだろう。どうせ不意打ちできないのだから、希望的観測は避けたい。
 まあ、気づいているとすれば、わざと配下を見殺しにしていることになるが。だからといって、油断して危険になるよりはマシだろう。

「さて、次の部屋に最大の敵がいるらしい。サクラ、頼むぞ」

「あたしはここまで楽してきたから、少しは頼っていいわ」

 まあ、サクラに任せきりにするつもりはない。
 俺自身も強くならないといけないし、サクラを1人にするわけにも行かないからな。
 今のサクラには攻略対象が居ない。だから、俺がついていかなくては孤独に震えるだろうから。きっと、サクラは人とのつながりを求めているはずだから。

 そして俺達は扉を開く。すると、中にはとても大きな男が居た。

「珍しい来客だな。さて、歓迎してやろう。軋轢きしれ――ソローオブダーク」

 敵の心奏具は、ソローオブダークと言うらしい。だから、おそらく原作で重要な敵キャラ。
 サクラの心奏具であるソローオブメモリー。それと名前の一部が共通しているのだから。
 心奏具である剣を構えた敵は、そのまま言葉を続ける。

「さて、有翼連合において最強である、天翼のゼロの力を見せてやろう」

「右翼のゼファーとやらが、有翼連合の頂点を名乗っていたがな。お前は何だ?」

 ゼロは大げさに肩をすくめ、再び語りだす。

「ゼファーは所詮小物でしか無い。俺こそが、有翼連合の真の頂点」

 さて、どこまで本当だろうな。とはいえ、ゼファーより強い前提で考えていいだろう。
 敵の実力を高く見積もりすぎるのは危険だ。それでも、低く見積もるよりは絶対にマシだからな。

「さて、行くぞ!」

 相手の能力がわからない以上、サクラより俺が前に出た方がいい。
 エンドオブティアーズには盾がある。とりあえずそれで受けられるからな。
 まずは突っ込んで敵に斬りかかる。避けるか、受けるか。まずはそこからだ。

 そのまま敵は俺の剣を受ける。だが、特に何も返してこない。
 どういうことだ? 受けてすぐに能力を使うものだと思っていたが。その瞬間、俺にはスキができるのだから。

 さて、どのような能力だろうか。受けてすぐ使わないことに理由があるのか、ナメているだけなのか。ナメてくれていると、ありがたいのだがな。

「さあ、俺の力を見せてやろう! 恐れおののくがいい!」

 敵は俺の剣に剣をぶつける。そして、剣に電気をまとわせていた。だが、特に俺に電気は流れてこない。
 何がしたいんだ、こいつ? 心奏具はただの鉄ではないだろうに。

 そのまま俺は敵と何度も剣を打ち合っていく。敵はずっと電気を剣にまとわせたまま。
 一度通じないならば、どうにか別の手段を使うものじゃないか? なにか策を隠しているのだろうか。

「電気には電気でどうかしら!」

 サクラはソローオブメモリーから電撃の上級魔法を放つ。すると、ゼロは慌てて避けていった。
 電気が使える能力を持っているのだし、相殺そうさいを狙うと考えていたが。
 ただ、今の姿を見てある策を思いついた。サクラならばきっと意図をくんでくれる。

 俺はゼロに向けて切りかかっていく。やつは剣で俺の剣を受けた。
 そこで、俺はそのまま鍔迫つばぜり合いに持っていく。

「サクラ!」

「まかせなさい! これでもくらいなさい!」

 サクラは即座に俺とゼロの剣に向けて電撃を放つ。俺は動こうとした敵の足を踏み、退避を妨害する。
 そして、鍔迫つばぜり合いをしている俺達の剣に電撃が当たる。
 すると、ゼロが痙攣けいれんし始める。なぜかは分からないが、こいつの剣には電気が通るらしい。

「ぐ、ぐっ……」

 そのまま、動けないでいるゼロにエンドオブティアーズを突き立てる。すると、ゼロは動かなくなっていった。

「ゼロを直接狙っても良かったんだぞ」

「ちょっと確認したいことがあったから。外れても勝てていたでしょ?」

 ゼロの心奏具が電気を通すかどうかか。まあ、ゼロの心奏具が特別弱かったのだろう。
 ディヴァリアのチェインオブマインドも、何も通さないのだし。

「まあな。あいつ、見掛け倒しだったからな。もっと強いのかと思っていたぞ」

 本当に何だったのだろうな。サクラの心奏具との共通点といい、ただのモブではないはずなのだが。
 あるいは、本当に偶然だった? まあ、今考えることでもないか。考えを変えようとすると、ルミリエから声が届いた。

「リオンちゃん、サクラちゃん、お疲れ様。そこにはもう敵は居ないみたいだから、安心して帰ってきてね。また案内するよ」

「ああ、ありがとう。しっかり最後まで油断しないでいくよ」

「それがいいわね。罠はまだ残っているのでしょうし」

 そして、俺達は学園へと戻っていった。さて、今回はみんなのおかげで楽ができた。
 ノエル達にまた会って、安心させてやりたいな。
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