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1章 勇者リオンの始まり

11話 サクラとの共闘

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 俺とサクラは盗賊団の討伐に向かっている。
 どうにも、俺に以前決闘を挑んできたやつ。そいつが殺されたことが問題になったらしい。
 1人息子だったようで、学園に復讐を依頼していたみたいだな。そのための戦力として、俺とサクラが選ばれていた。

「たった2人で戦いに行けなんて、学園も妙なことを言うものね」

「まあ、俺達ならそこらの盗賊団には、仮に正面から戦ったなら勝てるだろうな」

「そうよね。罠とか人質とか、そういうものにも気をつけなきゃいけないものね」

「だな。サクラはどの程度慣れているんだ?」

 全く準備をする間もなく送り出されたので、そんなことから聞かなくてはならない。本当に何を考えているのだろうか、学園は。
 まあ、逃げ出しても俺に未来はないだろう。評判を失えば、俺は家を追い出されるかもしれない。
 両親の愛は疑っていないが、状況に追い詰められることはあるだろう。

「ほとんど直接戦闘したことはないわ。ただ、人を殺すのは大丈夫だと思う」

 どういうことだろうか。
 サクラにそんな設定はあっただろうか。思い出せない。まあ、サクラが仮に過去に人を殺していたとして、何の問題もない。
 俺はディヴァリアとすら仲良くしているんだから。両手の指では全く足りない数を殺したディヴァリアと。

「ならある程度は頼れるな。まずは自分の身の安全を優先してくれ」

「分かったわ。でも、リオンも無理はしないこと」

「ああ、当然だ。こんなところで死ぬ訳にはいかないからな、お互い」

「そうね。せっかくあんた達と仲良くなって、ここで終わりなんて冗談じゃないわ」

 サクラの言うとおりだ。
 俺にもサクラにも、もっとやりたいことがいっぱいあるんだ。だから、盗賊団くらい軽く倒してしまいたい。
 無論、油断するわけにはいかないのだが。

「そうだな。俺には見たい未来がある。だから、負ける訳にはいかない」

「後で聞かせてね。リオンの目標、気になるわ」

「流石に今話すことではないからな。そろそろか。気を引き締めろ」

 敵の本拠地が見えてきた。
 平原の真ん中あたりに大きな建物がある。打ち捨てられた砦のような感じに見えるな。盗賊団らしく、廃墟を根城にしているのだろうか。

 俺達が近づいていくと、内側から盗賊団が出てきた。わざわざ砦の優位を捨てるとはな。まあ、楽ができるのだからありがたい。

守護まもれ――エンドオブティアーズ!」

関係かかわれ――ソローオブメモリー!」

 俺達が心奏具を展開すると、盗賊たちは驚いた様子。
 ただ、そのまま突っ込んでくるようだ。

「心奏具を使おうが、単なるガキだ! やっちまえ!」

 接近してくる盗賊たちに対して、俺達は先制攻撃を仕掛ける。
 俺はエンドオブティアーズの剣を伸ばして振った。
 エンドオブティアーズの剣は、その気になればどこまででも伸ばせるからな。目にうつる範囲をまとめて切り捨てることだってできる。
 そして、サクラはレーザーのようなもので薙ぎ払う。

 2人がそれぞれ一撃放っただけで、半数以上の盗賊が倒れていった。
 あっけないものだが、まだ油断はできない。出てきている人数の半分というだけだ。まだ半分残っているとも言えるし、砦の中に残っている可能性もある。

「なんてやつらだ! だが、先生がいれば!」

 そんな事を盗賊の一人が言っている。だが、先生とやらが出てくる様子はない。あるいは、すでに出てきているのか?
 だとしても、そこまで強そうなやつは見当たらないが。いや、油断するな。心奏具は一発逆転に有用なものも多い。

 そのまま俺達は残りの盗賊たちを仕留めていく。
 エンドオブティアーズで切り裂き、ソローオブメモリーで焼き尽くして。
 サクラの攻撃に当たらないように敵を足止めする感覚が分かってきた。
 なんというか、サクラと敵を斜めにするといい感じだ。サクラと俺、敵を結んだ線が鈍角になるというか。

 エンドオブティアーズの届く範囲で動きを妨害する。
 そして、俺に当たらないようサクラがソローオブメモリーから魔法を放つ。
 敵はサクラに向かえないし、サクラの攻撃は敵に当たる。うまく行っている。

「リオン、いいわよ! いい足止めだわ! 撃ち放題ね!」

「サクラこそ! うまい的あてだな! 面白いように敵が減っていくぞ!」

 サクラのソローオブメモリーから放たれる攻撃はとても強い。当たった敵は一撃で葬り去られるほどだ。
 サクラはあるいは人を殺す感覚に酔っているのだろうか。
 俺はどうしてもサクラを死なせたくないので、殺すことは割り切っている。そもそも、有翼連合の件で殺しているから、今更の話でもあるのだし。

 だが、サクラはそこまで殺しに慣れているのだろうか。今は興奮でごまかしていたとしても、後で苦しむとしたら。俺はどうすることが正解なのだろうか。
 おそらくこれからも俺達は戦い続ける。だから、今のうちに慣れてもらった方がありがたいが。

「この調子なら、簡単に終わらせられるんじゃないかしら?」

「油断するなよ! まだ全員死んだわけじゃないんだ。ちゃんと終わらせてからにしろ!」

 確かにいま出てきている敵はとても弱い。弱いが、一兵卒に英雄が倒されたという物語はいくらでもある。
 俺達が英雄というつもりはないが、だからこそ慢心は命取りになりうる。
 それに、先生とやらの存在も気になるからな。単なるおどしや負け惜しみのたぐいならいい。だが、本当に強敵だとしたら。

「それもそうね! しっかり皆殺しにして、後で喜べばいいわ!」

 なかなかに過激なセリフが出てきたな。まあ、今悩まれているよりはマシではあるのだが。
 敵は単なる盗賊で、義も何もあったものじゃない。それでも、ここまで簡単に殺されるとびっくりするな。
 まあ、内心では苦しんでいて強がっている可能性もある。戦いが終わったら、サクラの様子はしっかり見ておかないとな。

「ずいぶん言うじゃないか! だが、頼りにしているぞ!」

「ええ、任せておきなさい! あたしの力、見せてあげるわ!」

 もうすでに十分なくらい見ているのだが。とはいえ、サクラがやる気なのはありがたいこと。
 おびえてまったく頼りにならない事態も考えていたからな。
 もしサクラがうまく戦えないようならば。俺がなんとかして守ってやらないといけなかったんだ。

「無理はするなよ! まだ敵は残っているはずだからな! 体力を使い果たすなよ!」

「当たり前よ! あんたの足を引っ張ったりしないわ!」

 そう言いながら、サクラはいま平原に出ている残りの敵を倒していく。
 それにしても、足を引っ張らない、か。初陣と言っていいのだし、迷惑をかけられてもかまわないのだが。
 それよりも、サクラが自分を追い込みすぎないかが心配だ。
 なんというか、サクラからは人のために頑張るという姿勢が見える。だから、俺のために心を押し殺しているのではないか。そんな疑いがあるんだ。

 平原の敵を倒し終えて、しばらく。残りの敵が出てくる様子はない。
 さて、どうしたものか。このまま目の前の砦に侵入するか?

「サクラ、これからどうする? まだ敵が残っている可能性はあるが」

「あたしに任せておきなさい。ソローオブメモリーなら、簡単よ」

 サクラはソローオブメモリーを砦の方へ向ける。
 すると、先ほどまでサクラが使っていた物よりはるかに強い光が放たれた。そのまま、砦は崩壊していく。
 さて、生き残りはどれほどいるだろうか。そんな事を考えていると、1人の男が砦の跡から出てきた。

「まさか、ここまでやるとはな。もう俺達は終わりだ。だが、せめて一矢報いさせてもらう! 灯火よつけ――ソードオブファイア!」

 敵は心奏具を扱えるようだ。それにしても、以前俺に難癖をつけてきた男と似た心奏具だな。
 さて、どの程度の実力だろうか。
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