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1章 勇者リオンの始まり
3話 有翼連合
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有翼連合というテロリストに、生徒たちは今も襲われている。このままでは、犠牲者が出てしまうかもしれない。
なぜこのタイミングで襲われた。原作とは明らかに違うはず。なにせ、終盤の敵だ。
どうするべきか。ただ見過ごす訳にはいかない。だが、俺に何ができる? ディヴァリアさえいれば……。
いや、そうか。ディヴァリアが来るまでの時間稼ぎなら!
「サクラ、ディヴァリアを探してくれ! あいつならどうとでもできる!」
「あんたは!?」
「足止めするから、早めに頼む!」
「絶対死ぬんじゃないわよ! すぐに聖女様を呼んでくるから!」
サクラは全力で走っていく。
どうにも有翼連合の連中はサクラを見逃すらしい。なぜかは分からないが助かった。これなら、時間稼ぎに集中できる。
「守護れ――エンドオブティアーズ!]
俺は戦闘中に魔法を使うことができない。そんな俺が持つ唯一の手札。名前は心奏具。心の形とされる力。魔法とは大きく異なるもの。
俺の心奏具、エンドオブティアーズは丸型の盾と片手剣の組み合わせ。剣や盾の長さや大きさを変化させられるだけの武器。
だから、使い所は慎重に見極めなければならない。一度でも能力を見られてしまうと、通じにくくなってしまうから。
「さて、行くぞ!」
どうせ相手の真正面にいるのだから、攻撃するタイミングなど知られて当然。ならば、俺の気合を入れ直したほうがいいだろうな。気を抜くと、恐れに飲み込まれてしまいそうになるから。
ただ、いま目の前にいる有翼連合のメンバーはそれほど強くないようだ。5対1にも関わらず、相手は数の優位を活かしきれていない。
とはいえ、有翼連合の中核メンバーは恐ろしく強い設定だったような。
油断は禁物だ。命だってかかっているのだから。
「ガキが! ナメてんじゃねえぞ!」
陳腐な言葉とともに、相手はわざわざ1人で突っ込んでくる。
ナメているのはお前の方だと言いたくなるが、黙っておく。余計なことを言って状況を悪くする訳にはいかないからな。
今対峙している敵達は、心奏具を使えないのかただの剣を装備している。必ず使えないと確信する訳にはいかないが、まだ気が楽だ。心奏具には厄介な能力も多いからな。
「スキだらけだぞ!」
1人で突っ込んできた相手はそんな事を言いながら剣を振り下ろしてくる。相手の剣に俺の盾をぶつけ、相手の剣を弾き飛ばす。
そして、体勢を崩した相手を切りつけた。
ゆっくりと相手は倒れていく。
もしかしたら死んでしまったのかもしれない。殺してしまったのかもしれない。だが、そんな事に気を取られている余裕はなかった。続いて他の敵たちも襲いかかってきたからだ。
「よくも仲間を!」
ふざけたことを言う相手だ。わざわざ学園を襲撃しておいて、生徒を攻撃しておいて。怒りに支配されそうになるが、必死に冷静さを保つ。感情を乱していては、勝てる相手にも勝てないからな。
後からかかって来る相手も、連携というモノはまるでできていない。だから、1人ずつ順番に切り捨てるだけで良かった。
そして、一通り倒し終え、一息つこうとした頃。大勢を連れた新たな敵がやってきていた。
「ほう。この学園は聖女様とやら以外雑魚ばかりと聞いていたがな。雑兵とはいえ5人も片付けるとは、なかなかやるではないか?」
相手は襲いかかってくる様子もなく、こちらに話しかけてきている。こいつが中心格なのだろうか。無精髭を生やした、30ほどの男。
他にもパッと見では数えられないほどの敵がいる。明らかに多勢に無勢だ。だが、攻撃されているわけではない。
そして、俺の目的は時間稼ぎだ。なら、会話を引き伸ばしてやればいい。
「ギリギリ合格するような人間に手間取っているのだから、お前たちの程度が低いんだろうさ」
「くく、そこらに倒れている生徒は、弱いお前に負けるザコ以下というわけか」
落ち着け。安い挑発だ。安易に動くべきではない。そもそも、敵の言葉にまともに取り合うのは悪手だ。会話を続けるために、相手の話を理解しないといけないとはいえ。
だからといって、話に感情移入するな。目的を達成することだけを考えていればいいんだ。
「さあな。他に集中している時に不意打ちを受けたのだから、そういうこともあるだろうさ」
「道理だねぇ。案外冷静じゃないか。学生というものは暴走しがちだと思っていたが」
「ただでさえ不利なんだ。冷静じゃなきゃやってられないな」
「悪くねえな。なら、見せてやるぜ。有翼連合の頂点、右翼のゼファー様の力を! 威嚇せ――ソードオブフォーチュン! 手出しするなよ、お前ら!」
右翼のゼファーとやらが原作に出ていたのかは知らない。ただ、心奏具が使えると言うだけで厄介だ。一体どんな能力を持っているのか、うまく見抜かないとな。
ソードと呼ばれている通り、ゼファーの心奏具は剣の形だ。
そのままゼファーは心奏具を振り下ろしてくる。
「ぐっ、重い!」
盾で受けたが、明らかに速度に見合わない威力だった。つまり、そのあたりがソードオブフォーチュンの能力なのだろう。
タネはまだ分からないが、普通の剣のつもりで相手をしてはダメだ。剣で打ち合いをすれば、俺は体勢を崩しかねない。高い威力に剣を弾かれて。
だから、盾で受けるという方針に決めた。できることならば、受け流したいところだが。難しいか。
そのままゼファーは連続で攻撃してくる。
「おら、おらっ! どうした? 反撃もできねえのか? このビビリがよう!」
こちらの意図を理解していないのならば、ありがたい話だ。
俺は反撃するべきタイミングを伺っているだけ。それに、そもそもゼファーを倒す必要はない。時間稼ぎで十分だ。
「おら、もう一発くれてやるよ!」
今度も盾で受けると、明らかに軽い。力を入れて踏ん張っていたので、次の動きが遅れる。
ただ、致命的なスキはさらさずに済んだ。この感じだと、剣の威力を調整できる能力だろうか。つまり、相手の呼吸に合わせて防御する必要がある。
「防戦一方じゃねえか! 最初の威勢はどうした?」
ゼファーの攻撃を受けていると、一度とても重い攻撃が来て体勢を崩す。そこにもう一度攻撃されて、なんとか盾を合わせる。すると、想像以上に軽い攻撃だった。
ここから分かることは、ゼファーの剣は狙って威力を調整できるわけではないこと。なぜなら、今重い攻撃を受けていたら俺は負けていたから。
おそらく、ランダムに威力が変動する心奏具なんだ。だとすると、相手の様子から威力を把握できない。ならば、やはり剣で打ち合うことは避けたほうが無難か。
ただ、剣での攻撃もそろそろ仕掛けたほうがいいだろう。時間稼ぎが目的だと気づかれてしまえば、まずいからな。
相手の剣に当たることをできるだけ避けて攻撃。難しいが、頑張りどころだ。
「そんなに望みなら、反撃してやるよ!」
俺の言葉で挑発に乗ったと判断されるのが理想的だ。とはいえ、どこまで通じるものやら。
本気で攻撃するのならば、エンドオブティアーズの形を変えるべきだが。
うかつに追い込んでしまえば、今見ている有翼連合の連中も参戦しかねない。ならば、確実にトドメを刺せるタイミングを待つべき。
そう判断して、ただの剣としてエンドオブティアーズを使う。
こちらが振り下ろした剣を、ゼファーは見事にギリギリで避ける。ゼファーの実力が高い証拠ではあるが、都合がいい。これなら、タイミングを見計らえば一撃でとどめまで持っていけるはずだ。
「ずいぶん雑な反撃じゃねえか。所詮は学生ってか?」
ゼファーからは明らかな慢心が見える。だから、何度も攻撃を仕掛けては外して、さらに油断を誘いたい。
そう考えて、通じない攻撃を何度も繰り返す。すると、うまく俺の防御と敵の心奏具の威力が噛み合った。ゼファーにスキができる。
「もらった!」
俺は全力でゼファーの首筋に向けて剣を突く。ゼファーがギリギリで避けようとした。そこで、エンドオブティアーズの横幅を変える。
これで勝てるはずだと考えていたが。ゼファーはいつもより大きく回避する。俺の攻撃は外れてしまった。
そんな俺を見て、ゼファーは笑いながら話しかけてくる。
「いやあ、大したもんだ。事前にお前の心奏具を知っていなければ、今俺は死んでいた」
どういうことだ? 俺の心奏具を見せたのは、特別親しい人間を除けば学園での試験だけ。
まさか、学園に内通者がいる? だから、こんなにも簡単に襲撃された?いや、答えは後でもいい。問題は、ゼファーに俺が追い詰められていること。
今ディヴァリアはどこにいる? このままでは、俺は……。必死に表情を制御しようとする俺に、ゼファーは続けて話す。
「これでお前が誰だかハッキリした。お前ら、こいつを捕らえるぞ!」
ゼファーの言葉とともに、有翼連合の連中も俺に襲いかかる。
まずい。ゼファー1人にすら追い詰められていたのに、敵が増えてしまっては。
それから、俺の心配した通りに敵に囲まれ、徐々に消耗していく。
なんとか粘っていたが、敵の半数を斬り伏せた頃に限界が来た。そんな俺を見て、ゼファーは拍手しながら語りかける。
「見事、見事。部下に欲しいくらいだぜ。だが、ここまでだな。さて、最後の確認だ」
ゼファーはそう言いながら、俺の右袖をまくっていく。俺の右腕を見たゼファーは、納得した様子で言葉を続ける。
「お前がリオンか。お前には人質になってもらう。俺も、無策で聖女様に挑むほど、愚かにはなれないからな」
そのままゼファーに捕らえられた。
俺は抱えられながら校庭の端まで運ばれて。そこにはディヴァリアがいた。周りには有翼連合の人間が大勢倒れている。ディヴァリアに向けて、ゼファーは俺に心奏具を突きつけながら話す。
「聖女様よう。お前はこいつが大事なんだろう? なら、俺の要求に答えてもらおうか」
そんな事を言うゼファーには目もくれず、ディヴァリアは右手を胸の前に持っていく。
「詩歌え――チェインオブマインド」
ディヴァリアの右手にブレスレットが現れる。これが最強の心奏具、チェインオブマインド。その能力は、広範囲への大規模な破壊。つまり……。
「まさかお前、人質ごと――」
ゼファーの言葉を置き去りに、ディヴァリアの右手からとても強い光が放たれた。大勢いた有翼連合が消えていくのが見える。同時に、俺の意識も薄れていく。
結局、俺はディヴァリアの足を引っ張るだけか。最後に浮かんだのは、そんな考えだった。
なぜこのタイミングで襲われた。原作とは明らかに違うはず。なにせ、終盤の敵だ。
どうするべきか。ただ見過ごす訳にはいかない。だが、俺に何ができる? ディヴァリアさえいれば……。
いや、そうか。ディヴァリアが来るまでの時間稼ぎなら!
「サクラ、ディヴァリアを探してくれ! あいつならどうとでもできる!」
「あんたは!?」
「足止めするから、早めに頼む!」
「絶対死ぬんじゃないわよ! すぐに聖女様を呼んでくるから!」
サクラは全力で走っていく。
どうにも有翼連合の連中はサクラを見逃すらしい。なぜかは分からないが助かった。これなら、時間稼ぎに集中できる。
「守護れ――エンドオブティアーズ!]
俺は戦闘中に魔法を使うことができない。そんな俺が持つ唯一の手札。名前は心奏具。心の形とされる力。魔法とは大きく異なるもの。
俺の心奏具、エンドオブティアーズは丸型の盾と片手剣の組み合わせ。剣や盾の長さや大きさを変化させられるだけの武器。
だから、使い所は慎重に見極めなければならない。一度でも能力を見られてしまうと、通じにくくなってしまうから。
「さて、行くぞ!」
どうせ相手の真正面にいるのだから、攻撃するタイミングなど知られて当然。ならば、俺の気合を入れ直したほうがいいだろうな。気を抜くと、恐れに飲み込まれてしまいそうになるから。
ただ、いま目の前にいる有翼連合のメンバーはそれほど強くないようだ。5対1にも関わらず、相手は数の優位を活かしきれていない。
とはいえ、有翼連合の中核メンバーは恐ろしく強い設定だったような。
油断は禁物だ。命だってかかっているのだから。
「ガキが! ナメてんじゃねえぞ!」
陳腐な言葉とともに、相手はわざわざ1人で突っ込んでくる。
ナメているのはお前の方だと言いたくなるが、黙っておく。余計なことを言って状況を悪くする訳にはいかないからな。
今対峙している敵達は、心奏具を使えないのかただの剣を装備している。必ず使えないと確信する訳にはいかないが、まだ気が楽だ。心奏具には厄介な能力も多いからな。
「スキだらけだぞ!」
1人で突っ込んできた相手はそんな事を言いながら剣を振り下ろしてくる。相手の剣に俺の盾をぶつけ、相手の剣を弾き飛ばす。
そして、体勢を崩した相手を切りつけた。
ゆっくりと相手は倒れていく。
もしかしたら死んでしまったのかもしれない。殺してしまったのかもしれない。だが、そんな事に気を取られている余裕はなかった。続いて他の敵たちも襲いかかってきたからだ。
「よくも仲間を!」
ふざけたことを言う相手だ。わざわざ学園を襲撃しておいて、生徒を攻撃しておいて。怒りに支配されそうになるが、必死に冷静さを保つ。感情を乱していては、勝てる相手にも勝てないからな。
後からかかって来る相手も、連携というモノはまるでできていない。だから、1人ずつ順番に切り捨てるだけで良かった。
そして、一通り倒し終え、一息つこうとした頃。大勢を連れた新たな敵がやってきていた。
「ほう。この学園は聖女様とやら以外雑魚ばかりと聞いていたがな。雑兵とはいえ5人も片付けるとは、なかなかやるではないか?」
相手は襲いかかってくる様子もなく、こちらに話しかけてきている。こいつが中心格なのだろうか。無精髭を生やした、30ほどの男。
他にもパッと見では数えられないほどの敵がいる。明らかに多勢に無勢だ。だが、攻撃されているわけではない。
そして、俺の目的は時間稼ぎだ。なら、会話を引き伸ばしてやればいい。
「ギリギリ合格するような人間に手間取っているのだから、お前たちの程度が低いんだろうさ」
「くく、そこらに倒れている生徒は、弱いお前に負けるザコ以下というわけか」
落ち着け。安い挑発だ。安易に動くべきではない。そもそも、敵の言葉にまともに取り合うのは悪手だ。会話を続けるために、相手の話を理解しないといけないとはいえ。
だからといって、話に感情移入するな。目的を達成することだけを考えていればいいんだ。
「さあな。他に集中している時に不意打ちを受けたのだから、そういうこともあるだろうさ」
「道理だねぇ。案外冷静じゃないか。学生というものは暴走しがちだと思っていたが」
「ただでさえ不利なんだ。冷静じゃなきゃやってられないな」
「悪くねえな。なら、見せてやるぜ。有翼連合の頂点、右翼のゼファー様の力を! 威嚇せ――ソードオブフォーチュン! 手出しするなよ、お前ら!」
右翼のゼファーとやらが原作に出ていたのかは知らない。ただ、心奏具が使えると言うだけで厄介だ。一体どんな能力を持っているのか、うまく見抜かないとな。
ソードと呼ばれている通り、ゼファーの心奏具は剣の形だ。
そのままゼファーは心奏具を振り下ろしてくる。
「ぐっ、重い!」
盾で受けたが、明らかに速度に見合わない威力だった。つまり、そのあたりがソードオブフォーチュンの能力なのだろう。
タネはまだ分からないが、普通の剣のつもりで相手をしてはダメだ。剣で打ち合いをすれば、俺は体勢を崩しかねない。高い威力に剣を弾かれて。
だから、盾で受けるという方針に決めた。できることならば、受け流したいところだが。難しいか。
そのままゼファーは連続で攻撃してくる。
「おら、おらっ! どうした? 反撃もできねえのか? このビビリがよう!」
こちらの意図を理解していないのならば、ありがたい話だ。
俺は反撃するべきタイミングを伺っているだけ。それに、そもそもゼファーを倒す必要はない。時間稼ぎで十分だ。
「おら、もう一発くれてやるよ!」
今度も盾で受けると、明らかに軽い。力を入れて踏ん張っていたので、次の動きが遅れる。
ただ、致命的なスキはさらさずに済んだ。この感じだと、剣の威力を調整できる能力だろうか。つまり、相手の呼吸に合わせて防御する必要がある。
「防戦一方じゃねえか! 最初の威勢はどうした?」
ゼファーの攻撃を受けていると、一度とても重い攻撃が来て体勢を崩す。そこにもう一度攻撃されて、なんとか盾を合わせる。すると、想像以上に軽い攻撃だった。
ここから分かることは、ゼファーの剣は狙って威力を調整できるわけではないこと。なぜなら、今重い攻撃を受けていたら俺は負けていたから。
おそらく、ランダムに威力が変動する心奏具なんだ。だとすると、相手の様子から威力を把握できない。ならば、やはり剣で打ち合うことは避けたほうが無難か。
ただ、剣での攻撃もそろそろ仕掛けたほうがいいだろう。時間稼ぎが目的だと気づかれてしまえば、まずいからな。
相手の剣に当たることをできるだけ避けて攻撃。難しいが、頑張りどころだ。
「そんなに望みなら、反撃してやるよ!」
俺の言葉で挑発に乗ったと判断されるのが理想的だ。とはいえ、どこまで通じるものやら。
本気で攻撃するのならば、エンドオブティアーズの形を変えるべきだが。
うかつに追い込んでしまえば、今見ている有翼連合の連中も参戦しかねない。ならば、確実にトドメを刺せるタイミングを待つべき。
そう判断して、ただの剣としてエンドオブティアーズを使う。
こちらが振り下ろした剣を、ゼファーは見事にギリギリで避ける。ゼファーの実力が高い証拠ではあるが、都合がいい。これなら、タイミングを見計らえば一撃でとどめまで持っていけるはずだ。
「ずいぶん雑な反撃じゃねえか。所詮は学生ってか?」
ゼファーからは明らかな慢心が見える。だから、何度も攻撃を仕掛けては外して、さらに油断を誘いたい。
そう考えて、通じない攻撃を何度も繰り返す。すると、うまく俺の防御と敵の心奏具の威力が噛み合った。ゼファーにスキができる。
「もらった!」
俺は全力でゼファーの首筋に向けて剣を突く。ゼファーがギリギリで避けようとした。そこで、エンドオブティアーズの横幅を変える。
これで勝てるはずだと考えていたが。ゼファーはいつもより大きく回避する。俺の攻撃は外れてしまった。
そんな俺を見て、ゼファーは笑いながら話しかけてくる。
「いやあ、大したもんだ。事前にお前の心奏具を知っていなければ、今俺は死んでいた」
どういうことだ? 俺の心奏具を見せたのは、特別親しい人間を除けば学園での試験だけ。
まさか、学園に内通者がいる? だから、こんなにも簡単に襲撃された?いや、答えは後でもいい。問題は、ゼファーに俺が追い詰められていること。
今ディヴァリアはどこにいる? このままでは、俺は……。必死に表情を制御しようとする俺に、ゼファーは続けて話す。
「これでお前が誰だかハッキリした。お前ら、こいつを捕らえるぞ!」
ゼファーの言葉とともに、有翼連合の連中も俺に襲いかかる。
まずい。ゼファー1人にすら追い詰められていたのに、敵が増えてしまっては。
それから、俺の心配した通りに敵に囲まれ、徐々に消耗していく。
なんとか粘っていたが、敵の半数を斬り伏せた頃に限界が来た。そんな俺を見て、ゼファーは拍手しながら語りかける。
「見事、見事。部下に欲しいくらいだぜ。だが、ここまでだな。さて、最後の確認だ」
ゼファーはそう言いながら、俺の右袖をまくっていく。俺の右腕を見たゼファーは、納得した様子で言葉を続ける。
「お前がリオンか。お前には人質になってもらう。俺も、無策で聖女様に挑むほど、愚かにはなれないからな」
そのままゼファーに捕らえられた。
俺は抱えられながら校庭の端まで運ばれて。そこにはディヴァリアがいた。周りには有翼連合の人間が大勢倒れている。ディヴァリアに向けて、ゼファーは俺に心奏具を突きつけながら話す。
「聖女様よう。お前はこいつが大事なんだろう? なら、俺の要求に答えてもらおうか」
そんな事を言うゼファーには目もくれず、ディヴァリアは右手を胸の前に持っていく。
「詩歌え――チェインオブマインド」
ディヴァリアの右手にブレスレットが現れる。これが最強の心奏具、チェインオブマインド。その能力は、広範囲への大規模な破壊。つまり……。
「まさかお前、人質ごと――」
ゼファーの言葉を置き去りに、ディヴァリアの右手からとても強い光が放たれた。大勢いた有翼連合が消えていくのが見える。同時に、俺の意識も薄れていく。
結局、俺はディヴァリアの足を引っ張るだけか。最後に浮かんだのは、そんな考えだった。
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