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10章 一歩のその先

337話 友情のために

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 ルースと共にアイボリー家に向かい、闇魔法を家に侵食させた。これによって、転移の起点にも暗殺にも使えるようになった。

 アイボリー家の当主であるユミルは、ルースに対して何かを仕掛けているように思える。ただ、俺には何を考えているのかは分からない。まあ、初めて会った相手だからな。その内心が分かったら、超能力者なんだよな。

 ルースは俺達を同じ部屋に呼んで、みんなで集まっている。おそらくは、今後についての話だろう。まずは、しっかりと聞いていくところからだな。ルースは両手を激しく合わせて音を鳴らし、ハキハキと話し始める。

「さて、皆さんにも現在の成果を伝えましてよ。気になることがあれば、言ってちょうだい」
「もちろんです! ルース様とレックス様のために、集中は切らしません!」

 スミアは相変わらず元気いっぱいだ。いつ見ても笑顔でいるから、親しみやすい感じだよな。まあ、ちょっとどころではなく黒い側面もあるのだが。

 とはいえ、ルースのためにやっていることだからな。勝手な判断でもないのだし、許容すべき側面と言えるだろう。実際、汚れ仕事をこなしてくれる人間の存在は、大事にするべきなんだよな。表では隠すべきなんだろうが。

 さて、気になることか。俺としては、ユミルの動きかな。

「ユミルは何かを企んでいるように見えたが、どうするんだ?」
「今のところは、何も。ただ、スミア。分かっているわね?」
「お任せあれ! しっかりと、地獄に送る準備を進めておきますよー!」

 察するに、相手が動いたタイミングでカウンターを仕掛けるみたいなことなんだろう。だから、今は待機するしかないんじゃないだろうか。まあ、外れている可能性もあるが。

 とりあえず、俺のやるべきことは無い様子。まあ、いつでも戦えるように準備をしておくくらいだな。

「私の方では、カール君とも仲良くしているよ。口説いてきたりして、面倒なんだけどね」
「わたくしめにも、仕えないかなどと言ってきますね。立場を理解しておられない様子」

 カールに対しても、色々と仕掛けているみたいだな。ミュスカのことだから、情報を引き出してもいるのだろう。そのあたりの誘惑の手管は、誰よりも優れていると思える。完全に任せても、問題はないだろうな。

 ミュスカを敵に回したら、絶対に恐ろしい。気がついたら自分の意志で破滅に進んでいそうだ。うまいことニンジンをぶら下げて、しっかりと誘導しているのだろうな。

 ハンナに対しての態度は、バカじゃないのかという他ない。ハンナは近衛騎士だぞ。それが、ただの貴族に仕えるようにするには、相当な材料を用意する必要があるだろう。絶対に、カールは何も考えていない。

 だって、近衛騎士より優れた立場だと思える何かは、俺にだって提示できるか怪しいと思うレベルだぞ。友人ですらなく、何の力も持っていないカールには、絶対に用意できない。

「ルースから、仲間を引き剥がそうとしているのか? それにしては、雑な気がするが」
「カールの考えることなど、分かるわよ。本当の当主になれる自分になら、勝手に他者が惹きつけられると思っているのよ」

 いくらなんでも、言われたレベルのバカがルースの弟だとは思いたくないんだが。あまりにも、仲良くしたくない。ルースと友人関係になったらカールが付いてくると言われたら、普通にためらうレベルだぞ。

 少なくとも、カールを先に知ってからルースと出会っていたら、間違いなく変な色眼鏡で見ていた。ルースと先に出会えたのは、かなりの幸運だったみたいだな。

「正しいとしたら、ひどすぎないか……? とてもではないが、一つの家をまとめられる器ではないな」
「だからこそ、利用されようとしているみたいだね。私にも、色んなところから声がかかっているって自慢してきていたよ」

 まあ、ホワイト家の財や権力を吐き出させて捨てるためだろうな。カールを知っている身からすれば、真摯に取引しようと思える相手ではない。

 いい感じでホワイト家を食いつぶせそうな存在が当主になったら、色々な人が得をするだろうからな。カールに声を掛ける相手は、ルースからしても注意すべきなのだろう。

「ああ、なるほど。当主になった後で取引しようみたいなことを言うのか。それで、使い潰すつもりで」
「脇が甘いどころの話ではありませんな。近衛騎士にすらなれない程度でしょう」
「逆に、カールさんを狙う相手は、こっちからも目をつけられちゃいます! 今のうちに、しっかり情報を吐き出してもらいましょう!」

 俺と同じ考えを、更に発展させている。おそらくは、カールを通して敵の情報を集めるつもりなのだろう。今の段階で仮想敵を絞れるだけでも、価値としては大きいよな。

 とりあえず、カールに良い顔をしている人間は、本気で誰一人として信用できない。それが分かるだけでも、大きな価値だ。なるほどな。

「バカとハサミは使いよう、ということだな。勉強になるな」
「レックスさんは、むしろこちらに学ばせるべきではなくって……?」

 ルースは怪訝そうだ。まあ、当主としてはルースの先達だからな。より深い経験をしているのが普通だろう。とはいえ、俺はミルラやジャンが動きやすいようにしているだけだ。むしろ、自分から動くと失敗するくらいなんだよな。人材採用の件みたいに。

 だから、任せられるところは任せるのが俺のやるべきことなのだろう。その上で、ミルラやジャンが楽をできるように闇魔法でサポートする。そこが限界だろうな。

「俺はお飾りの当主だからな。実務は、他の人に任せているんだ」
「レックス君には、私達みたいな友達がいるからね。それも、当主としての価値なんだよ。レックス君の、努力の証だよ」
「コネという意味では、レックス殿以上のものを持っている方は、王家にすら居ないでしょうな」

 ミーアやリーナといった王家の人間に気軽に声をかけられるだけでも価値がある。それは確かに納得できることだ。フェリシアやラナが協力してくれることも、重要だよな。

 そして、ミルラやジャン、学校もどきの生徒たちのような仲間がいる。フィリスやエリナのような師匠もいる。俺の仲間と言える人だけでも、世界征服ができそうなレベルだ。まあ、実際にやる気はないし、やろうとしたら壁もあるだろうが。

「確かに、あたくしも学ぶべきことね。表向きにでも味方でいる人間は、増やしたいところよ」
「俺達は、ちゃんと味方のつもりだけどな。ルースが困った時には、助けるよ」
「今のように、ですわね。ええ。とても助けられているわ。あたくしも、その友情に倣いましょう」
「レックス様とルース様の関係、とっても素敵です! 私も、もっと見られるように頑張っちゃいますよ!」

 スミアは妙にテンションを上げている。どうも、俺達が仲良くしている姿に興味があるみたいだな。何がスミアの琴線に触れたのかは分からないが、まあ都合が良い。

 俺とルースが仲良くしていればスミアが喜ぶというのなら、当たり前に実行できることだからな。もちろん、友情を深めるための努力は欠かすべきでないにしろ。

「あなたも、私達の中に入ってくれて良いんだからね」
「そうだぞ。ルースを助けてくれる相手は、俺にとっても大切な存在なんだから」
「恐れ多いですよ! でも、ありがとうございます! しっかり、皆さんの敵は破滅させちゃいますね!」

 スミアとも、もっと仲良くしていきたいな。そうして、ルースを支えてもらいたいところだ。カールにしろユミルにしろ、俺達の敵は多い。全部片付けるまで、油断はできない。

 今みたいな時間を、ただの友人として過ごせるように。そのために、ルースの問題をさっさと解決しないとな。
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