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9章 価値ある戦い

296話 お互いの思い

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 敵の動きをある程度こちらで決めるために、俺が家の外に出ていく予定になっている。意図としては、ふたつある。片方は、俺だけだと思えば敵も狙いやすくなるだろうというもの。もう片方は、ブラック家を襲おうとする人間を減らそうというもの。

 どちらにしろ、敵が乗ってくれた方がありがたいな。俺の能力だと、あまり防衛戦には向かない。高い威力をぶっ放すスタイルなので、周囲を巻き込みかねないからだ。そういう意味でも、家じゃない場所で戦えると都合が良いんだ。

 ということで、そのための動きを計画しているところだ。ミルラやジャンとも協力して、情報操作をすることからだな。

 もうひとり、協力してほしい相手がいる。そのために、闇魔法を使って通話をしていく。

「ミーア、とりあえず、俺が向かう先についての情報を流してくれるか?」
「ええ、そのつもりよ。誘導できれば、楽なんだけどね」

 楽というか、まあ良い方向に進みやすいだろう。俺ひとりなら、大抵の相手には負けないからな。それこそ、原作のネームドの中でもトップクラスの存在じゃないと、勝負にすらならないだろう。

 とはいえ、相手だって手段を選んでこない可能性は高い。だからこそ、しっかり警戒するのは大事だよな。毒とか罠とか、それくらいのことは当然やってくるものと思うべきだ。

 ただ、今から取れる対策は少ないんだよな。せいぜい、防御魔法をなるべく常時発動しておくくらいだ。今となっては、不可能ではない。

「まあ、なるようになるだけだ。こっちの防衛については、ミルラとジャンが策を練ってくれているよ」
「なら、レックス君は自分の安全を心配しなくちゃね。そうすれば、どっちも無事でいられるはずよ」

 どう考えても、家族の心配をしすぎて敵に集中できないのが最悪だからな。そこを考えれば、

「そうだな。俺が居ない間の家は、信じて任せるしかない」
「もどかしさは、あるわよね。気持ちは分かるつもりよ。私だって、歯がゆいもの」

 ミーアは本当に見ているだけだからな。それは、歯がゆい気持ちもあるだろう。俺が同じ立場なら、直接戦いたくて仕方なかったはずだ。

 とはいえ、ミーアだって戦ってくれている。それに対する感謝は、忘れてはならないよな。

「そうだな。だが、行動しないことには良くなることはない。そう信じるだけだ」
「良い考えだと思うわ! こっちも、色々と手を打っておくわね!」

 説明されないあたり、俺が知る必要はないことなのだろう。実際、知っている人が少ない方が、策というのは効果的だからな。

 大掛かりな策は破綻しやすいし、単純に大勢が知っているほど情報が漏れやすい。俺自身は漏らすつもりはないが、それでも。

 なら、素直に任せておこう。それが結果的に一番いいだろうな。

「ああ、頼む。苦労をかけるが、頑張ってくれ」
「もちろんよ。レックス君こそ、頑張ってね!」

 そう言われて、通話を切る。そしてひとりでぶらついていく。やはり、難しいな。やるべきことは単純なのだが、考えることが多い。

 だが、考えて良い方向に進むかは怪しいんだよな。策を練るのは大事だが、悩んでも無駄というか。

 そんなこんなで庭で歩いていると、カミラとメアリが見えた。ふたりは、こちらを見て近づいてくる。

「ねえ、バカ弟。あんただけで戦おうとか、考えてないわよね?」
「メアリだって、お兄様を手伝うの! 強くなったんだから!」

 つまり、手を貸してくれるということだろう。今は断るべきかどうか。危険こそあるだろうが、何も危険がない戦いはない。そうなると、こちらから戦いに向かえると思うと悪くないんだよな。ある程度準備をして、対策できるという意味で。

 なら、受けておいた方が良いか。戦闘経験を積めるというだけでも、大きな意義があるからな。

「手伝ってくれるつもりなんだな。ありがとう。心強いよ」
「まったく、本心なのかしらね。ま、良いわ。あたしは、ただ力を叩きつけるだけよ。面倒なことは、考えないわ」
「メアリも、お兄様の敵をやっつけちゃうんだから! お兄様にもらった力で!」

 ふたりとも、やる気に満ちているな。参加しようとするくらいなら、それくらいの方が良いだろう。本当は恐れながら戦っているよりも、よほど安全なはずだ。

 人殺しに乗り気なのなら、少しは怖い。とはいえ、殺すしかない状況は起こり得る世界だからな。抵抗がないくらいの方が、安心できると言えば言える。

 それでも、勢い余ってしまえば大変だろうな。危険に突っ込みすぎないように、気を付けないと。

「無理はしないでくれよ。ふたりが傷ついたら、何の意味もない。それだけは確かなんだから」
「あたしは、もう無様をさらすつもりはないわ。あんたに勝とうって人間が、ただ負けて良いはずないもの」
「心配してくれてありがとう、お兄様。でも、大丈夫。メアリは、いっぱい練習したから」

 かなりまっすぐな目で、ふたりとも見つめてくる。なら、本気なのだろう。その気持ちを邪魔しない方が、うまく進む気がする。なら、そうするか。

「信じるよ。俺も力を尽くすつもりではあるが、敵だって死にものぐるいだろう。気を付けてくれよ」
「だったら、本当に死なせてやるだけよ。容赦をする理由なんて、どこにもないわ」
「お兄様の敵は、メアリの敵。それは、絶対だもん。ちゃんと、殺すね」

 どちらも、とても冷たい目だ。殺すことに抵抗がないのは、良いことなのか悪いことなのか。この世界なら、メリットの方が多いかもな。流石に、無実の人を殺すレベルなら話は変わるが。

 この世界だと、戦いがとても多い。そんな事でいちいち悩んでいたら、潰れてしまうのが実情だろうからな。悲しいことだ。

 とはいえ、全く傷つかない訳ではないだろう。その辺は、配慮しておきたいところだ。

「嫌になったら、代わるからな。俺の方が、慣れているだろうから」
「へっちゃらだよ! メアリ、そんな事で傷つかないもん!」
「いちいち覚えたり数えたりしないわよ。あんたと違ってね。そんなにやわじゃないのよ」

 今は平気そうだが、いずれは心に傷がついていく可能性もあるだろう。注視しておく必要はあるだろうな。

 何も無いのなら、それが一番ではあるのだが。前世基準なら歪んだ価値観ではあるのだが、この世界だと普通だろうからな。順調に進んでほしいものだ。

「なら、安心だな。自分の安全を、最優先にしてくれよ」
「あんたこそね。変にあたし達をかばったりするんじゃないわよ」
「お兄様と一緒に遊ぶためだもん。怪我したら、遊べなくなっちゃう」

 お互い元気で居るのが、一番大事なことだからな。それを優先していきたいところだ。だから、全力で叩き潰していくくらいでちょうど良いのだろうな。残酷ではあるものの、現実的には妥当なところに思える。

「そうか。なら、俺も頑張らないとな。ふたりに恥じないように」
「余計なものを背負い込むのはやめなさい。あんたは、自分のことだけ考えてなさい」
「お兄様は、いつだってカッコいいよ! だから、いつも通りでいいの!」

 重荷に感じるのは、ふたりに失礼だからな。そういう意味では、気を張りすぎるべきではないのだろうな。とはいえ、心配しているのも事実ではある。だから、いい塩梅を探ろう。

「なら、そうさせてもらう。まずは勝とう。その後のことは、その時に考えるとするか」

 事前に考えておくのが理想ではあるのだろうが、俺には無理だろうからな。それなら、妥協点としてのラインだろう。

 だから、必ずみんなで勝とう。すべては、そこから始まるんだ。
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