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8章 導かれる未来

273話 サラの満足

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 私は、レックス様に褒めてもらうために頑張っている。撫で撫でも抱っこも、他のいろんなものも欲しい。だから戦う。だから策を練る。

 きっと、他の人達とは違うんだと思う。私の動機は、あくまで私のため。私自身が嬉しかったり楽しかったりすることのためだけに、努力しているから。

 みんなは、本心からレックス様の役に立ちたいと考えているはず。それは、とても尊いこと。だからといって、真似をする気はないけれど。

 私の幸せは、レックス様と一緒にいることで手に入れられる。その幸せのために力を尽くす。単純な話。レックス様が幸せなのは、それはそれで嬉しいけれど。でも、最大の目的ではない。

 自分勝手なんだなって感じるところもある。でも、きっとレックス様は受け入れてくれる。私の本心を知ったところで、それで良いんだと言ってくれる。だから大好き。ずっと一緒に居たい。

 そのために、レックス様の役に立つ事を実行している。一緒に戦ったり、レックス様の評判を良くしたり。ブラック家が、レックス様が成功すれば、私にとっても良いことがあるから。

 打算的だなと、自分でも思う。でも、これが私だから。レックス様が、大切に想う子だから。

 そんな私は、いくつかの計画を進めていた。もちろん、私の幸福に繋がること。同時に、レックス様の利益にもなること。

「うん、良い感じ。ラナ様の評判の話に、レックス様の話を混ぜるのは」

 ラナ様が民の幸福のために動いているという噂は、とても広がっている。だからこそ、その中にレックス様との関係の情報も入れる。そして、どうして仲良くなったのかも。

 そこから噂が広がれば、レックス様の評判も上がるという寸法。それが、私の狙い。成果を確認できた私は、何度も頷いた。

「この調子なら、私の目的は達成できるはず」

 声が弾んでいるのが分かる。目的を達成できれば、私の幸せは広がるから。きっと、計画が知られたら、レックス様は褒めてくれると思う。その瞬間も、楽しみではある。

 ただ、最大の目的は違う。私とレックス様の関係が壊れないこと。それが一番大事なこと。だから、邪魔者が発生しないようにしないといけない。レックス様には、敵はいらない。それは当たり前。

 でも、あまりに近い味方だって必要ない。私の居場所を奪う存在は、いらない。

「やっぱり、レックス様の近くには、人は増えてほしくない。それを妨害できるだけでも、意味がある」

 だからといって、レックス様の敵も増やせない。その妥協点が、これ。多くの人がレックス様はいい人だと思っていて、どこか遠い存在だと感じる。そんな状況が理想。

 私にとっては、レックス様のそばに居ることが幸せだから。その時間を奪われないように、うまく立ち回らないといけない。

 結局のところ、私は凡人。レックス様が特別と思うだけの才能は、持ち合わせていない。だから、多くの才能が集まってしまえば、埋もれるのがさだめ。

 だからこそ、心からレックス様を慕う存在は増やせない。そうなってしまえば、私の居場所は無くなってしまう。

「だけど、レックス様の評判も上げたい。人の噂に紛れ込ませるのは、ちょうどいい」

 評判が上がるのは、私にとっても必要なこと。レックス様にとっても、良いこと。だから、それは捨てられない。ただ、それだけ。

 私は、あくまで自分の利益を追求しているだけ。レックス様とは違う。だけど、そんな人だって、彼のそばにいたほうが良い。きっと、レックス様の持っていない価値観で、視点を補えるから。

 なんて、自分にとって都合よく考えすぎだろうか。けれど、私はレックス様から離れたりしない。そんな未来、絶対に訪れさせない。だから、レックス様の利益だって大事にしないと。

 ただ、限度はあるけれど。私の幸せが守られる範囲でだけだから。レックス様の評判だって、その中でだけ上げると決めたから。

「遠くで名前が広がるだけの人を、本気で好きになったりしない。せめて、顔を見ないと」

 ただの噂話だけの存在になんて恋したりなんてしない。どれだけの英雄であったとしても。レックス様は偉大だけれど、その全部は絶対に伝わらない。だから、安心して噂を流せる。

「レックス様のそばに居るのは、私達だけでいい。他の人は、いらない」

 今ですら、一緒に居られない状況が増えている。これ以上は、困る。会って話をして、大切にしてもらう時間。もっともっと欲しいんだから。

 だから、何度でもおねだりする。レックス様とふれあう時間を、最大限に味わうために。実際、レックス様は応えてくれる。今回だって、活躍を褒めてもらった。

「むふふ。撫で撫でも抱っこもいっぱい。満足」

 私の能力は、あらゆる意味でレックス様の足元にも及ばない。それでも、とても大事にしてくれる。ありがたいこと。

 純粋に利益だけを考えるのなら、私より優先した方が良い相手はいくらでもいる。出会える。レックス様なら。それでも、私の方を大切にしている。だからこそ、レックス様は私の幸せ。ずっと、変わらないでいてほしい。

 正直に言えば、効率は悪いと思う。私が同じ立場なら、別の相手を選んでいるはずだから。でも、だからこそ一緒に居られる。

「レックス様は、たぶん線の内側に入った人に優しい」

 学校もどきの生徒にだって、格差はある。私が一番優れていた訳じゃない。それでも、レックス様には私が選ばれた。きっと、親しくしていたから。

 思えば、ジュリアもシュテルもラナ様も、何度も何度も話していた。他の友達だって。つまり、そういうこと。

 レックス様と親しくなってしまえば、それだけでいい。共に過ごした時間こそが、レックス様の大切な存在の証。

「それなら、絶対に線の外側に出したままにする。それでいい」

 だから、今の活動にも力が入る。レックス様と過ごす時間を、作らせないように。親しくなるきっかけを、生み出さないように。

「レックス様だって、抱え込みすぎると大変。本人だって、言っていた」

 誰も彼もを大切にしたって、レックス様の時間には限りがある。だから、きっと限界はある。最初から分かっていたことだけれど。だから、今の計画を実行しているのだから。

 私達だけを選んでもらって、お互いに幸せになること。それが目標。きっと、これからも変わらないこと。

「うん、私の目的とレックス様の願いは同じ方向。うまく進んでいる」

 大切な人との幸福こそが、私とレックス様の望み。だから、ずっと一緒に居る。それだけのこと。単純だけど、一番大事なこと。

「シュテルは、良いことを言ってくれた。娼館に近づかれたら、困っていた」

 うっかり娼婦と会話されたら、情が湧いていたのかもしれない。だからこそ、遠ざけたかった。とはいえ、都合のいい理由も思いつかなかった。そんな状況を打破してくれたのは、シュテル。だから、とても感謝したい。

 私達が成果を出して、褒めてもらうきっかけにもなった。とても、いい流れ。

「もうちょっと、レックス様と距離を詰めてもいい。そうすれば、もっと見てもらえる」

 これまでだって、できるだけ近づいてきた。でも、まだ大丈夫。もっと先がある。私には分かる。レックス様は、私達との交流を望んでいるって。

「なんだかんだで、近づかれるのは嬉しそう。だから、お互いに利益のある取引」

 レックス様が望む取引。私も喜ぶし、レックス様も嬉しい。それこそが、彼が言っていたこと。ちゃんと、覚えているから。

 だから、私とレックス様の時間は、もっと増やして良い。それが、お互いにとって良いことだから。

「レックス様も私も満足する。そうなる日は、目の前にあるはず」

 親しい人達で過ごす、とても幸せな時間。それを、もっともっと増やすこと。私達ならできること。必ず、達成するべきこと。

「私の計画は、誰にも邪魔なんてさせないから」

 仮にどんな手を使ったとしても。レックス様と私の幸せは、絶対に奪わせない。

 だから、レックス様。どれだけでも役に立つから、ずっと傍に居て。
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