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7章 戦いの道

252話 予定通りの宣言

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 フェリシアの計画していた、ブラック家とヴァイオレット家の同盟関係を宣言する場。ラナの協力もあり、インディゴ領で行われることになった。ふたつの家から、均等な距離にあるくらいの場所で。俺達は、その会場へと来ている。

 誰も集まらない可能性も懸念していたが、案外大勢が見に来ている様子だ。まだ部屋の中にいるが、とてもよく見える。インディゴ領の人間も、俺達の領の人間も。

 ここで見た人達から、噂として広がっていくのだろう。それに、ブラック家やヴァイオレット家が情報操作もするはずだ。結果として、両家の関係は広まることになる。そして、おそらくは仲立ちしたインディゴ家の名前も。

 三方よしではあるはずだが、実際のところはどうだろうな。まあ、ミルラやジャンが許可しているのだから、最低限のラインは超えていると判断されたのだろうが。

 俺もフェリシアもラナも、だいぶ着飾っている。動きやすいかと言えば、あまりという感じだ。みんな、結婚式とかで見るような格好をしている。ウェディングドレスとは違うとはいえ。

 フェリシアは薄紫のドレスで、長い金髪が映えている。ラナは白いドレスを着ていて、ピンクの髪を引き立てている。どちらも、とても似合っていると言って良い。

 俺が釣り合うのか心配ではあるが、レックスも顔が良いからな。そこまで落差はないはずだ。

「さあ、これで準備は整ったな。いくぞ、フェリシア、ラナ」
「ええ。この瞬間を、待っていましたわよ」
「あたしにとっても、大事な瞬間になりそうですからね」

 ふたりとも、気合十分と言った様子だ。フェリシアは微笑みながらも視線が強いし、ラナは拳を握っているからな。

 俺にとっても、大事な瞬間だからな。しっかりと前を見て、気合を入れ直した。失敗でもすれば、大変なことになるだろうからな。

「そうだな。俺達だけでなく、みなの家にとってもな」
「はい。ですから、進行は任せてくださいね」
「では、向かいますわよ。わたくし達の、新たな門出ですわ」

 ということで、舞台のような場所へと向かう。もうちょっとうまい形容もあるのかもしれないが、俺には思いつかなかった。青空が広がっているので、俺達の関係を祝福しているかのように思える。なんてな。

 ただ、運がいいのは確かだ。事前にこれと決めておいた日が雨だと、いろんな意味で都合が悪いからな。

 聴衆も集まっていて、俺達の名前が聞こえている。なんというか、盛り上がっているな。

 俺達は前に進み、まずはラナが声を張り上げていく。

「さあ、皆様。よく来てくださいました。これより行われるは、ブラック家とヴァイオレット家の同盟の儀です。刮目あれ!」

 そしてラナはこちらに手を指し示し、手をつないだ俺とフェリシアが前に向かっていく。観衆は大声で俺達を呼んでいた。口笛や拍手も聞こえてくる。

 ふたりで目線を合わせ、まずは俺が話し始める。

「ブラック家当主、レックス・ダリア・ブラックは誓う! 今日この日が、俺達のさらなる発展のきっかけになると!」
「ヴァイオレット家当主、フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットは誓いますわ! 私達の進む道の先に、大いなる未来があると!」

 フェリシアも続き、大きな声援が届いた。黄色い声も聞こえてくるし、野太い声も聞こえてくる。全体として、声を上げている人間の方が多そうだな。そうでない人達も、拍手で応援してくれている。

「インディゴ家当主である、ラナ・ペスカ・インディゴが証人となります! ふたつの家に、祝福あれ!」
「ラナの期待に、いや、皆の期待に応えてみせる。俺達は、どんな障害だって乗り越えてみせるんだ」
「ええ。これが、その証ですわよ。ね、レックスさん。……んっ」

 フェリシアは、なんと俺の頬にキスをしてくる。おどろいたが、冷静な顔は取り繕えているはずだ。そのまま手を振ると、今までで一番の歓声が上がった。空気が震えているのを、肌で実感するほどだった。

「フェリシアさん、あなた……! こほん。こうして、誓いは形にされました! 両家に未来を!」

 ラナは一瞬、表情を歪めていた。だが、すぐに笑顔に戻る。そのまま万雷の拍手が続き、俺達は室内へと戻っていった。

 控室に向かうと、カミラやメアリもやってきた。一応来てもらっていたが、出番はなかったな。まあ、フェリシアがひとりなんだから、ブラック家は3人でない方が良いのだろうと言われたし、実際そうだと思う。

 俺としては、せっかく連れてきたのだからという気持ちもある。とはいえ、大事なのは効率だからな。手間を掛けさせてまで、無駄な行動をさせたくない。

 ただ、メアリは頬を膨らませているし、カミラは目が冷たい。これは、困ったことになったかもしれないな。

「フェリシア、やってくれたじゃない。バカ弟と仲良くしますって?」
「ずるい! メアリのお兄様なのに!」
「あたしだって、冷静になれそうにはないですよ。どうして、誰にも相談せずに?」

 3人とも、フェリシアに鋭い目を向けている。まあ、予定外の行動だものな。仕方のないことだ。俺だって、思うところはある。だが、もはや時間は戻らないからな。これからどうするかを考えるしかない。

 とりあえずは、みんなの関係をどうするかだよな。このままこじれてしまえば、困るどころの騒ぎではない。

「だって、皆さんの反応は目に見えているではありませんか」
「それなら、やめてほしかったんだが……。今の状況だって、目に見えていただろう……」
「だからこそ、ですわよ。わたくし達は比翼連理。そう言ったのは、あなたですわよね?」
「あんた、意味分かって言っているの? ……その顔。本当にバカ弟は……」
「どういう意味なの、お姉様?」
「簡単に言えば、仲の良い男女ってことよ。後は分かるわよね?」

 それってつまり、夫婦とかそういう間柄の話なのか? なら、やらかしたと言わざるを得ない。断金の交わりくらいの感覚で言ってしまったからな。

 まあ、言ってしまったものは仕方ない。どうやって挽回するかだが、無理じゃないか? いや、意味が分からずに言ったのは伝わったと思うが。だからこそ、フェリシアが怖いんだよな。にこやかに微笑んでいるとはいえ。

「レックスさんの意図はどうあれ、わたくし達がパートナーというのは、揺るぎない事実ですわよ」
「全部、狙っていたんですね。まったく、覚えていてくださいね」
「ええ、もちろん。誰が相手だろうと、受けて立ちますわよ。それでこそ、レックスさんのパートナーですもの」
「仕方ないわね。じゃあ、いずれ決着をつけましょうか」
「メアリだって、負けないんだもん!」
「そうですね。あたしだって、黙っているつもりはありません」

 もう、完全に修羅場じゃないか。自分をごまかすのにも限界があるぞ。いや、好意を持たれているとは思っていたが。まさか、恋愛感情なのか?

 とはいえ、俺としては、みんなをそういう目で見ることはできない。まだ、子供でしかないからな。とはいえ、どう伝えても角が立ちそうだ。俺の前世なんて、教えられるはずもないのだから。

 つまり、みんなにとっては、単に同い年の人間が、恋愛対象ではないと告げてくるだけになるのだから。なら、別のところに言及するしかないな。

「せめて、過激なことはしないでくれよ……?」
「それもこれも、レックスさんの態度次第ですわよ。これからも、よろしくお願いしますわね」

 柔らかい笑顔を浮かべるフェリシアだったが、俺はため息を付きたい気分だった。
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