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7章 戦いの道

244話 戦いの始まり

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 俺達は、いよいよ戦いの場へとやってきた。カミラとメアリには、念の為に遠くで待機してもらっている。エトランゼは軍勢を連れてきているので、その様子を確かめるために。

 まあ、エトランゼと会った印象からするのなら、決闘を汚すのは嫌いそうだが。とはいえ、備えは必要だからな。そういうところを軽んじる理由はない。

 俺は、フェリシアと寄り添って、エトランゼのもとに向かっていく。そこでは、ラナも待っていた。そちらを見ると、笑顔とともに手を振られる。人質の類ではなさそうで、まずは一安心だ。

 フェリシアとエトランゼは向かい合って、まずは握手をしている。お互い笑顔なのに、圧力が凄まじい。間に入ったら、大惨事になりそうに思えるな。

「よくやって来ましたわね、エトランゼ・アスク・シアンさん」
「そちらこそ。フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレット殿」

 一応、落ち着いた声で会話している。ここから急に戦いになることは、なさそうだ。とはいえ、気を抜かないようにしないとな。フェリシアが不意打ちされそうなら、守らないといけないのだし。

 まあ、フェリシアだって、不意打ちされても対応されそうな気がするが。心配性と言われているが、何があったとしても失いたくないのだから、当然だよな。

「わたくしの勝利で、この戦いを飾るとしましょうか」
「そうはさせないよ。レックス殿の力を、味わってみたいのだから」

 こちらを見ながら、そんな事を言う。迷惑な話だ。わざわざ戦いを増やしたいだなんて思えないんだが。

 まあ、俺に意識を向けるばかりに油断してくれたら、最高ではある。敵が弱くなる分には、大歓迎だからな。

 ただ、フェリシアの目に炎が灯った気がする。これは、どっちに転ぶだろうな。焦りや逸りか、根性の方か。良い方向に転んでくれと、祈るばかりだな。

「ずいぶんと勝手なことを。俺にそんなつもりはないぞ」
「あのフィリス・アクエリアスを超える魔法使いと戦ってみたいなんて、当然じゃないか」
「レックスさんは、譲りませんわよ。わたくしのパートナーなんですもの」

 フェリシアを挑発しているのか、どうなのか。頼むぞ。冷静さを失ってくれるなよ。妙な感情に支配されたら、不利に転ぶんだからな。

 少なくとも、フェリシアは頭の片隅では挑発の可能性を思い描いているはずだ。その思考が、ちゃんと表に出てきてほしいものだ。

「舌戦は好きにすれば良いですけど、日が暮れる前に終わらせてくださいね。あたしにも、予定があるので」
「ああ、済まないな。ラナ殿には、迷惑をかける事になるな」
「別に構いませんよ。こうして、レックス様と会えましたからね」

 こちらに向けて、柔らかく微笑んでいる。俺としても、会えたのは嬉しいな。あまり、楽しい話はできないだろうが。少なくとも、戦いが終わるまでは。

 せっかくラナと会えたのに、悲しい話だ。ジュリア達とも、会ってもらいたいものだが。ずっと、親しくしていたからな。

 兎にも角にも、勝たないと始まらない。フェリシアの応援をするしかないのが、歯がゆいところだ。

「レックス殿が好きだからと言って、ひいきはしないでくれよ?」
「もちろんですよ。そんな事をしても、レックス様の迷惑になるだけなんですから」

 真剣な目で、そう言う。まあ、ひいきをされたら、ラナはこれから信用されなくなるだろうな。それは、困る。これから先も、ラナと良い関係を続けていきたいのだから。評判がいい相手であるに越したことはない。

「ずいぶんと、お熱いことで。これは、周りが敵だらけなのかな?」
「さあな。それでも、お前は挑むのだろう?」
「もちろんだよ。私は、どんな苦境も乗り越えてみせる。勝ち続けてみせるさ」

 堂々とした態度で、こちらに笑いかけてくる。しっかりした信念を感じられるあたりは、好きになれそうなのだがな。フェリシアの敵でなければとさえ思う。それなら、きっと仲良くする未来もあっただろうに。

 今の状況なら、どうしても敵と判断せざるを得ない。決闘であることを考えれば、エトランゼは死ぬだろうな。前世のような世界でなら、普通の関係を築けたんだろうな。残念なことだ。

「なるほどな。面白いやつだ。それで、ラナは誰に依頼を受けたんだ?」
「エトランゼさんですね。ちょうど良い機会なので、レックス様の顔を見に来ました」

 状況からするに、ラナは立会人みたいなポジションだろうに。露骨にこちらとの関係を匂わせて、問題ないんだろうか。エトランゼは苦笑しているだけだから、あまり気にしていないんだろうが。

 審判としての信頼性は、ずいぶん減っていないか? まあ、エトランゼは、不平等な判定もろとも食い破るとか考えそうな印象だが。

「おいおい、メチャクチャなことを言っているな。まあ、俺もお前に会えて嬉しいが」
「あたしも、とても嬉しいです。最近は、顔も見られていませんでしたからね」
「主役を放っておいて、イチャイチャしないでくれよ。私が霞んじゃうじゃないか」

 ド正論と言うほかない。どう考えても、今この場でするべき話じゃないんだよな。エトランゼが軽く流してくれて、助かった。

 とはいえ、少し不満そうではある。まあ、仕方ないよな。俺だって、同じ立場なら困っていただろう。

「そうですわよ。レックスさんのパートナーは、わたくしなんですわよ」
「勝手なことを言ってくれますね。あたしだって、レックス様の隣に立ちたいんですよ」
「恋の鞘当ては、この戦いに決着がついてからにしてほしいものだね。私を待たせないでくれよ」

 本当だよ。エトランゼとフェリシアの戦いがメインだろうに。ラナとバチバチしていてどうするんだ。どう考えても、本題から外れているだろうに。

 これでフェリシアの集中が削がれでもしたら、大変だぞ。まあ、フェリシアは気合いが入っている様子だが。

「おや、わたくしが勝つと、理解しているのですね。そうでなければ、鞘当てなどできませんもの」
「どうだろうね。何にせよ、全力を尽くすまでだよ。私は、私自身の価値を証明する。それだけだ」
「では、お互いに準備はできましたか? そろそろ、始めてもいいでしょう」

 ということで、俺とラナは少し離れて、フェリシアとエトランゼは向かい合う。フェリシアは杖を、エトランゼは槍を構えて、緊張が走っていく。

 冷え冷えとした空気が漂っており、少し恐ろしいな。まあ、俺にできることは無い。少なくとも、フェリシアが戦っているうちは。

「フェリシア、勝てよ。どんなに無様をさらしても。お前が勝つのなら、それで十分なんだ」
「ええ。手段を選んで勝てる相手ではないでしょうから。そこは、分かっておりますわ」
「ふふっ、楽しみだよ。さあ、燃え上がる戦いをしようじゃないか!」

 その言葉をきっかけに、フェリシアは魔力を動かし、エトランゼは槍を突き出した。頼むぞ、フェリシア。何が何でも、勝ってくれよ。
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