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7章 戦いの道

234話 策の成果

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 いよいよ、本格的に戦闘に入ることになった。実際に戦場に向かうのは、いつものメンバーとアリアだ。軍勢も引き連れた方が格好がつくのかもしれないが、被害を考えると効率が悪い。

 基本的には、この国には魔法を使えない常備軍はないからな。そして、魔法使いは数が少ない。つまり、格好のために他の職業のある民を死なせることになるだろう。そうすれば、ヴァイオレット家としての生産性が下がる。

 まあ、軍隊が属人的になってしまうという問題もある。ただ、俺やフィリスのような圧倒的な強者が居る限り、属人の要素を排除することは不可能なんだよな。それなら、優秀な人間を育成、あるいはスカウトするシステムを作るほうが効率的だろう。

 まずは、アリアの様子を見る。今回の作戦の要だからな。フェリシアたちとは離れたところに陣取っている。草原の中で、草の影響で見えにくくなっている部分だ。くぼみみたいな感じだな。

「さて、準備はできたか、アリア? 一応、防御魔法をかけておく。だが、念の為に備えておいてくれよ」
「問題ありません。ここで待機しておりますので、フェリシアさんの傍に行ってあげてください」
「無理はするなよ。まずいと思ったら、すぐに逃げてくれ。何があったとしても、俺が助ける」
「ありがとうございます。時間稼ぎくらいなら、問題ありません。これでも、ブラック家の人間なんですから」

 握りこぶしを作り、こちらに突き出してくる。それに拳を合わせると、アリアは微笑んだ。まあ、闇の衣グラトニーウェアの防御を抜くような敵は、そうは居ない。だから、心配しすぎな部分はあるのだろう。

 それに、アリアだって暗殺の経験がある様子。なら、逃げ方は心得ているはずだろうからな。

「分かった。なら、行ってくるよ」
「はい。ご武運を祈ります」
「ああ。お前こそ、な」

 ということで、フェリシア達のもとへ向かう。その視線の先に、敵軍が居る。青で揃えられた百名ほどの部隊と、残り千人程度の部隊がいる。察するに、青が魔法部隊だろうな。

 まずは、相手がどう動くかだよな。それ次第で、こちらの行動が変わってくる。俺としては、できるだけ犠牲者を減らしたいからな。

 効率だけ考えるのなら、完全に不意打ちに徹するのが良いだろう。そうすれば、混乱した敵をまとめて殺せるはずだ。

 だが、それでは恨みを買うだろう。今後の犠牲者を減らすためには、うまい手だったと思わせる必要がある。無論、どんな手段を使っても恨む人は出るだろう。それでも、怨恨を減らせるのならということだな。

「フェリシア、敵の様子はどうだ?」
「まずは、舌戦から入るようですわね。その後、戦いという流れになるでしょう」

 楽しそうに笑っている。興奮が見えるかのようだ。まあ、戦場の前で血が滾るのは、良くも悪くも普通の反応だろう。まともな精神をしていたら、苦しいだけだからな。

 実際に防衛機制の類なのかは分からないが、必要なことだと思う。いちいち罪悪感を抱えながら殺していたら、つらい。それは、俺が証明している。

「なら、お前の出番だな。一応。備えておくよ」
「あたし達も居るんだから、そう簡単に大将は取れないわよ」
「メアリも頑張って、フェリシアちゃんを守るよ! お兄様のために!」

 ふたりも、気合十分だ。カミラの速度なら、相手の不意打ちはまず防げるだろう。それに、メアリの火力は集団に対して効果的だ。いずれも、失敗した時に役立ってくれるだろう。

「ああ、ありがとう。フェリシア、頑張れ」
「と言っても、やることなど少ないものですわ。どうせ、相手が整列している間に終わるでしょう」

 軽く笑って、前に向かって進んでいく。そうしたら、相手の方からもひとり前にやってきた。偉丈夫と言った感じで、威圧感がすごい。まあ、体格と強さに相関関係がないのが、この世界の悲しいところなのだが。

「ペール家当主、ディルク・ニーア・ペールよ! 今すぐ軍を下げるのならば、命だけは助けて差し上げましょう!」

 フェリシアは覇気をまといながら叫んでいる。正直に言って、恐ろしいと感じるレベルだ。ドスの利いた声に、刺すような視線。そして何より、膨れ上がる魔力から漂う威圧感。空気が震えているのではないかと錯覚するほどだ。

「甘く見るなよ! ただの小娘に、何ができる! 我が軍勢の力を、とくと味わえ!」

 問答だけなら、完全にフェリシアが勝っているな。敵は、ただ叫んでいるだけにしか見えない。転じてフェリシアは、心からの殺意を感じさせる。格付けは済んだように思えるな。ただ、ここからが本番だ。まあ、俺達は搦め手を使うのだが。

「それでは、命の保証はできませんわよ! 死後に、存分に後悔してくださいまし!」
「魔法部隊、構え!」

 その指示と同時に、青い服の部隊が構えだす。おそらくは、集団で魔法を撃ってくるのだろう。

「レックスさん!」
「分かった! 合図を出す!」

 ということで、アリアの近くに侵食させておいた魔力を広げる。これを合図としていた。なので、アリアは弓を撃ってくるだろう。そして、魔法の準備をしている敵将の頭を貫くだろうな。

「何のマネだ? 伏兵を隠す場所など、どこにも……ぐはっ!」

 案の定、敵将に矢が刺さり、そして倒れていく。明らかに、敵軍に動揺が走っているな。左右を向いている兵とか、しゃがみ込む兵とかがいる。

「さて、魔力が乱れたな。一気に制圧するぞ!」
「行くよ! 雷炎岩竜巻フェイタルストーム!」
「さて、終わらせるわよ。迅雷剣ボルトスパーク!」
「わたくしも、働かないといけませんわね。獄炎インフェルノフレイム!」

 メアリが激しい竜巻を、カミラが素早い斬撃を、フェリシアが燃え盛る炎を放っていく。敵兵達は巻き込まれ、方々に逃げ回っている。そんな中から、ひとりの敵兵が飛び出してきて、頭を下げる。

「待ってくれ、降参、降参する! 命だけは、助けてくれ!」
「ならば、武器を捨てなさい。魔力を動かしたら、殺しますわよ」
「絶対に動くなよ、お前ら! この通りです、助けてください!」

 一斉に、敵兵達は土下座をしていく。この調子なら、決着はついたと考えていいだろう。武器は捨てられているし、魔力の動きも感じないからな。とはいえ、不意打ちを狙っている可能性もある。油断は禁物だ。

「仕方ありませんわね。レックスさん、拘束してくださいますか?」
「ああ、分かった。闇の衣グラトニーウェア! これでいいだろう」

 闇の衣グラトニーウェアを応用して、拘束具のように扱う。そうすることで、相手から攻撃はできなくなった。相手の魔力に干渉することで、抵抗すらできない。

 つまり、もはや何もできないということだ。あとは、戦後処理になるだろうな。

「さて、皆さんをねぎらわないといけませんわね。アリアさんも、呼んでくださいまし」
「ああ。今回の功労者だからな。ちゃんと、感謝しないと」
「ま、あたし達だけでも、どうとでもなったでしょうけど?」
「メアリもいっぱいやっつけたもん!」
「それでも、犠牲者は少なくなったはずだ。それを、喜びたいものだな」

 人を死に追いやったという罪悪感はあれど、策がハマったという達成感もあった。この感情は、抑えなければいけないだろうな。そんな予感がしていた。
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