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6章 ブラック家の未来

216話 アリアの計画

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 私は、レックス様のメイドになれたことを幸運だったと思っています。きっと、メイドなど誰でも良かったのでしょうから。その幸運のおかげで、初めてレックス様の心に触れた日からずっと、幸せな日々を過ごせましたから。

 もちろん、レックス様には苦難があったと思います。特に、自らの父を殺す瞬間は苦しかったのでしょう。彼のベッドには、涙の跡が残っていましたから。それでも、また立ち上がってくださいました。おそらくは、私達のために。

 本当に、お優しい方だと思います。レックス様の周りには、いつも笑顔であふれていましたから。私やウェスさんも、ご家族も、ご友人も、みんな。

 だからこそ、私の望みはより強くなったのです。レックス様が作るブラック家を見てみたいという感情は。

 そんな瞬間は、確かに近づいていました。王家は、レックス様をブラック家の当主として認めたのです。もちろん、順風満帆とはいかないでしょう。それでも、私にとっては希望そのものでした。

「レックス様が当主となられた。それは、とても素晴らしいことです」

 少なくとも、他のご家族が当主になるよりも、よほど。いえ、レックス様の影響を受けられた今なら、少しは違うかもしれませんが。

 ただ、以前のブラック家の方々は、とても褒められたものではありませんでした。残酷で、欲望に忠実で、他者を顧みない。そんな方々でしたから。

 それでも、今の彼らは変わったと思います。カミラ様は、どこか穏やかさを手に入れたようです。メアリ様は、誰かを大切に思う気持ちを得たようです。ジャン様は、人に優しくすることを覚えたようです。モニカ様は、残酷さが薄らいだように見えます。

 つまり、以前よりも良くなったということ。それもこれも、レックス様の存在あってのこと。だから、期待してしまうのです。これから先の未来に。

「きっと、初代様の頃を超えるブラック家を作ってくださる。そう思うのです」

 とはいえ、レックス様おひとりでは難しいでしょう。ですが、私達が手を貸したくなることこそ、レックス様の最大の魅力なのですから。

 メイドも、ご家族も、ご友人も、みんなレックス様の力になりたいと考えています。だからこそ、素晴らしい未来が思い描けるのです。誰もが笑い合うような居場所を作れると感じるのです。

「だから、今度こそブラック家を守らなくてはなりません」

 レックス様が亡くなった後でも、変わらないブラック家であるように。もちろん、まだまだ先の話ではありますが。ただ、私の生は長いですからね。どうしても、先々の話まで考えてしまいます。

 かつて、私は後悔していました。初代様が愛したブラック家が、影も形もなくなってしまった時に。どうして、私は何もできなかったのだろうと。どうして、ブラック家は変わってしまったのだろうと。

 だからこそ、今回は間違えたりしない。私達が笑い合う時間を、ずっと先の未来までつなげるために。

「そう。かつて初代様の志が消えたようには、させません」

 私が、歴史を紡いでいく必要があるのです。レックス様の思い描いたブラック家が消えないように。私達の愛した居場所が消えないように。

 以前のように、ただ待っているだけでは、何も変わったりしない。私は、行動しなければならないのです。私の望んだ未来が、必ず訪れるように。

「これから先、レックス様の子孫が永遠にブラック家を継ぐのです」

 そこだけは、絶対に譲れません。彼が誰と結ばれたとしても。レックス様の志も、血も、絶対に絶やしてはいけないのですから。

「そのためには、排除すべき存在が居ますよね」

 もちろん、レックス様の味方ではない人です。カミラ様やメアリ様、ジャン様の子孫だって、いずれは邪魔になるかもしれません。ですが、少なくとも今は違う。

 それに何より、彼らが傷つけば苦しむのはレックス様ですから。私は、レックス様が笑顔でいる時間が好きなのです。だから、間違えてはいけません。

 でも、レックス様の敵になることが確実な人達もいる。それなら、死んだとしても問題ない。いえ、死ぬべきなのです。

「レックス様の血を継がないであろう、親戚という名の邪魔者達が」

 もちろん、血が一部でも繋がっているのなら全てを殺すとは言いません。そもそも、手間の問題で不可能でしょう。私が知らないところにも、居るでしょうから。

 それでも、ブラック家に干渉してくる存在は、必要ありません。それだけは、間違いのないこと。

「だから、葬り去らないといけません。チャコール家は、この世に必要ないのです」

 シモンも、その息子のストリガも。絶対に、生きていなくていい存在。いえ、生きていてはいけない存在なのです。だから、私が動くべきなのです。

「そうと決まれば、どうやって消し去るかを考えないといけませんね……」

 私が直接殺すのは、様々な事情で難しいでしょう。単純に、私はレックス様のお傍を離れられませんから。メイドとしての仕事を放棄するなど、ありえません。

 そうなると、誰かを雇うことがひとつ。あるいは、単純に利用してしまうことも。ただ、ブラック家に居ながらとなると、難しいかもしれませんね。

「やはり、彼らの愚かさを利用するのが効率が良いでしょう」

 チャコール家の当主シモンは、ブラック家の先代当主であるジェームズに、なにひとつとして勝てなかった人なのですから。

 にもかかわらず、自分の方が優秀だと誤解している。そんな人間、どうとでも料理できてしまいます。

「自分から破滅へと向かうように、誘導してやれば良いのです」

 レックス様が、その手を汚さなくて済むように。私自身も、汚れた手を見せなくて済むように。自滅させてしまえば、何の問題もないのです。

 私とレックス様が生きる世界に、チャコール家は必要ない。それだけのことなのですから。

「幸い、チャコール家の当主、シモンはブラック家の当主争いに負けた。その上で、まだ諦めていない」

 当然、今の状況をチャンスだと思うでしょうね。前当主ジェームズが死んで、まだ立ち直ってはいないのですから。

 だとしても、レックス様の邪魔をさせる訳にはいきません。それも、大事なことですね。

「なら、やるべきことは決まりましたね。当主の座を餌にして、身を滅ぼしてもらいましょう」

 少しは、レックス様も困るかもしれませんが。ですが、損害は最低限に抑えるつもりです。レックス様が、少しでも楽をできるようにね。

「レックス様だって、不安要素は消えてくれた方が良いですよね」

 妙なタイミングで暴走されれば、それこそ厄介というものです。ですから、適切なタイミングで間引くのは、とても大事なことですよ。そうですよね、レックス様。

「なんて、優しいレックス様は、犠牲者が増えることを望みませんか」

 あのジェームズですら、殺すことをためらった人なのですから。いくら親子としての関係があったとしても。悪人だということなど、見ていれば分かるのに。

 だからレックス様は、目の前で人が死ぬことを喜ばないでしょう。それは分かっているのです。

「でも、私は決めたのです。未来のために、突き進むだけですよ」

 これから先の未来を、より素晴らしいものにするために。レックス様と、より幸せになるために。その子孫まで、幸福が続くように。

 だから、許してくださいね。
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