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6章 ブラック家の未来

207話 本当の意味

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 大変なことになってしまった。どうして、ジュリアはシモンを殺したのだろう。まずは、事情を聞かないと。

 ハッキリ言って、もはやシモンの命なんてどうでもいい。下手をしたら、俺の手でジュリアを処断しないといけない。想像しただけで、震えそうだ。

 ジャンに、ジュリアを呼び出してもらう。待つ間、貧乏ゆすりが止まらなかった。これは、相当焦っているな。

 それにしても、笑えてしまう。人が死んでいるのに、俺の頭にあるのは計算ばかり。それも、大切な相手との関係が壊れないかだけを気にしている。なんだかんだで、俺もブラック家の血筋ということか。

 まあ、まずは現状を確認しないとな。そこが分からないと、これから先への対応も考えられない。

「ジュリア、一体なにがあった?」
「レックス様の邪魔をしようとしているみたいだったから。許せなかったんだ」

 頭がくらりとした。つまり、ジュリアは俺のためにシモンを殺したのか? 俺のせいで、罪を犯したのか? シモンが敵だと知っていながら、見過ごしてきたせいで。

 それでも、ジュリアが罪を犯したのは事実。ただ無罪放免とは、いかない可能性が高い。

「ジュリア、分かっているのか? お前がやったことを」
「僕は、レックス様の敵を殺すって決めたんだ」

 悪びれもせず、そう言う。頭が沸騰しそうになる。なぜ、俺のために罪を犯してしまったんだ。

「分かっているのか! 下手をしたら、俺の手でお前を処刑しないといけないんだぞ!」

 つい、感情を抑えられなかった。涙すら、こぼれている。こんな展開なんて、望んでいなかったのに。

 そんなジュリアは、こちらを見てほほえむ。そして、穏やかに語りだした。

「いいよ、レックス様になら」

 その言葉を聞いて、思考が止まった。ふざけるなよ。俺は、お前を死なせるために、学校もどきを作ったわけじゃないんだ。

「シュテルはどうなる!? お前の命は、ひとりだけのものじゃないんだぞ?」
「分かってくれるよ。シュテルならね」

 どうして、そんなことを言うんだ。俺がどれほどジュリアを大切に思っているか、分かってくれないのか?

 いや、落ち着け。まずはシモンが何をしようとしていたか、確認しないと。流石に、嫌いだからで殺す奴じゃないはずなんだから。

「どういう経緯で殺したんだ? まずは、聞かせてくれ」
「分かったよ。あのおじさんが、マリクさんを殺そうとしていてね。だからだよ」

 それなら、かばう余地はあるはずだ。最悪の事態は、避けられるかもしれない。まずは、マリクに確認しないと。

 ということで、ジャンにマリクを呼び出してもらった。だが、明らかにマリクの様子がおかしい。

 なんというか、ジュリアと目を合わせないようにしている? そんな気がした。

「マリク、お前はシモンに殺されそうになったと聞いたが、事実か?」
「そうですよ……」

 よし、肯定された。最悪の場合は、マリクを闇の魔力で操る必要があったかもしれないからな。

 とりあえず、ジュリアを死なせなくてもすむ可能性が十分に上がっただろう。

「それで、ジュリアに助けられた。合っているな?」
「ひっ……! そうです! そうですから! そこの女から、助けてください!」

 こいつ、何を言っているんだ? そんな怒りが浮かんできた。ちょっと魔力の制御を失敗して、膨れ上がってしまう程度に。良くないよな。敵の前で冷静さを失ってしまえば。そして、魔力の制御を失敗してしまえば。

 いくら、マリクがジュリアに助けられた上で、彼女を恐れていようとも。腹が立つのは確かだが、それで暴走してはダメだ。結果として、大事な人を守れなくなる。

 頑張って落ち着こうとしていると、俺の方を見ているマリクが強く震えだした。

「あ……! こんな、こんな魔力が、当たり前にあるのか……?」

 察するに、ジュリアがシモンを殺した時に出した魔力に怯えて、俺の魔力で思い出した、といったところか?

 そういえば、俺達は相当な上澄みだったな。ただの魔法使いからすれば、恐ろしくても仕方ないのか。

 だが、ジュリアは気を悪くしていないだろうか。そう思って視線をやると、無表情でマリクを見ていた。

「ねえ、レックス様に、感謝の一言もないってどういうこと? 命を助けられておいて?」

 ジュリアは怒髪天を衝くといった様相だ。マリクを殺してしまいそうにすら感じる。流石に、無いと思いたいが。

 それにしても、自分が怯えられていることは気にせず、俺に礼を言わないことに怒っている。嬉しいといえば嬉しいのだが、大丈夫だろうか。ジュリアは、自分のことを大切にできているのだろうか。

 俺に殺されるのなら良いと言っていたし、本当に気になる。ジュリアの命がどれほど大切なのか、しっかりと知ってもらわないといけないな。自分で自分を大切にできないのなら、俺が困るといえば良いはずだ。そうでなければ、どうしたら良いのか分からない。

「レックス様、申し訳ありませんでした……」

 マリクは土下座している。ジュリアは冷たい目でマリクを見ている。マリクの震えは収まらない。これは、とても困った状況だな。まあ、ジュリアがシモンを殺した件については、最悪の事態を避けられそうではあるのだが。

 良くも悪くも、俺には力がある。そして、ミーアやリーナは味方になってくれそうだからな。チャコール家に関しては、圧力でどうにかできそうなんだ。良くない考えではあるのだが。ただ、手段を選んでいられる状況でもない。

 俺は、親しい人の幸福のために生きているんだ。だから、そこだけは譲れない。他の誰かを犠牲にするとしても。

「マリク、ジュリアの罪を軽くするために、協力してもらえるな?」
「もちろんです! 俺は、おふた方を裏切りません!」

 これで、とりあえずの対応はできただろう。あとは、ジュリアの心の問題をどうするかだよな。もちろん、罪を軽くするための行動だって、もっと必要ではあるのだが。

 ただ、自分の命を大事にしてくれないことには、どうしようもないからな。

「ジュリア、事情は分かった。だが、軽率な行動は止めてくれ。大変なことになるんだからな」
「レックス様が困るのなら、気をつけるよ」

 真剣な目で言われるが、そういうことじゃないんだよな。俺が困るとか困らないとか、些細な問題だ。ハッキリ言って、どうでもいい。いや、困っているのは確かではあるのだが。

 本当に大事なのは、ジュリアが危険な目に合うかどうかなんだ。今回だって、まだ危険は完全に去ったわけじゃない。これから失策があれば、間違いなく状況は悪くなる。あるいは、失敗しなくてもダメなのかもしれない。

 だからこそ、ジュリアには無茶をしてほしくないんだ。俺なんかのために、命を危険にさらしてほしくないんだ。

 分かっている。ジュリアだって、俺を大切に思うからこそ、行動したのだと。それでも、違うんだ。ジュリアのいない未来に、意味なんて無いんだから。

 ということで、ふたりで話をすることにした。

「ジュリア、ちょっと来てくれ。落ち着いて、話をしよう」

 ジュリアはうなづいて、着いてくる。マリクは、去っていく俺達を見て、ほっと息をついている様子だった。裏切らないように、気をつけた方が良いかもしれない。ジャンやミルラにも、相談しないとな。

 ただ、まずはジュリアだ。そこをしっかりしないと、俺達は前に進めないだろうからな。
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