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6章 ブラック家の未来

200話 極端な感情

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 ミーアによって派遣されたジェルドには、それなりに仕事を任せている。兵士達の指揮を任せることもあり、最近やってきたグレンの上役でもある。

 とはいえ、いずれは去るだろう人間だ。あまり中核まで任せすぎても、また問題が発生するだろう。引き継ぎができるように、考えておく必要はあるだろうな。

 その辺は、いま頑張ってくれているジュリア達にも手伝ってもらいたい。

 俺としても、ジェルドと話す機会は増えていると感じる。まあ、重要な仕事を任せている訳だからな。放っておくのは論外だろう。

「レックス様、当方はミルラさんやジャン様と連携すればよろしいですか?」

 ジェルドの相手をしていて楽なところは、分からないところは聞いてくれるというところだ。そして、こちらの指示に従うことを基本としてくれるところだ。それでいて、どうしても難しいと感じた時には、その理由を説明してくれるところも。

 全体として、とにかく使い勝手のいい人材ではある。ジェルドを送ってくれたミーアには、強く感謝したいな。

「ああ。基本的には、ふたりの指示に従ってくれ。こちらからは、最低限の方針だけを指示する」
「かしこまりました。命令の矛盾を防ぐためですね」

 こうして、俺の意図を理解してくれる場合も多い。そのあたりも、信用するには十分なところだろう。まあ、信じ過ぎればダメだろうが。あくまで、ジェルドは王家の味方なのだろうから。

「ああ、そういうことだ。今の会話だけで分かるあたり、優秀だな」
「お褒めいただき、ありがとうございます。ですが、当然のことでしょう」

 そんな風に仕事の話を進めていると、カミラがこちらにやってきた。どう考えても不機嫌だというように、口をとがらせて。剣を持っているし、要件は予想がつく。さて、どうしたものか。

「バカ弟、ちょっと付き合いなさい。あたしの気晴らしにね」

 今の段階で、最低限必要な話は終わっている。だから、カミラに付き合う時間はあるにはある。とはいえ、ジェルドがどう思うかなんだよな。そう思ってジェルドの方を見ると、うなづかれた。これは、許可が出たってことだろう。

「ジェルド、悪いな。話の途中だったのに。せっかくだから、見ていくか?」
「そうですね。仕える主の実力を見るのも、良い経験になるでしょう」
「さっさと来なさい、バカ弟」
「待ってくれ、姉さん。ジェルド、着いてこい」

 ということで、家にある訓練場へと向かう。開けた場所なので、周りからもよく見えるだろう。まあ、わざわざ見るもの好きは少ないだろうが。最悪の場合、巻き込まれかねないからな。一応、ジェルドには防御魔法をかけておくが。

 カミラは愛剣である雷閃サンダーボルトを構えている。俺も、誓いの剣ホープオブトライブを手に取る。

「さ、構えなさい。あたしがどれだけ成長したか、見せてあげるわ。ついでに、ダルトンとかいうやつへの苛立ちも、叩きつけてあげる」

 まあ、ダルトンから声をかけられるのは不愉快だろう。知らないおっさんに口説かれているようなものだからな。それだけでなく、ダルトンの言葉選びはかなり悪い。ハッキリ言って、セクハラだろうと思う程度には。まあ、この世界にセクハラという概念が存在するのかは知らないが。

 だから、俺と戦うことで機嫌が晴れるのなら、いくらでも付き合ってやりたいくらいだ。仕事もあるから、限度はあるにしろ。

「どこからでも来い、姉さん。俺が、受け止めてやる」

 俺の言葉を受けて、カミラはふっと笑った。そのまま、魔法を発動させていく。

「なら、遠慮なく行くわよ! 迅雷剣ボルトスパーク!」

 カミラの剣が俺の剣にぶつかって、それから足音が届いた。つまり、音速を超えているということ。いくらなんでも、速すぎないか? 魔力で体と目を強化していなければ、対応すらできなかっただろう。

 ただ、今の俺には、闇の衣グラトニーウェアで体にまとった魔力を通して、素早く動く技がある。だから、相手の速さに追いつくことこそできないにしろ、打ち合うことはできる。

 今のカミラに逃げに徹されたら、少なくとも剣では対応できないだろうな。魔法で周囲ごと吹き飛ばす覚悟が必要だろう。

「また速さが上がったな、姉さん!」
「平気で追いついておいて、よく言ったものね!」
「当たり前だろ! 姉さん以外の誰かに、負けるつもりはないからな!」

 カミラは何度も剣を叩きつけてくる。純粋な速さでは負けているものの、まだ剣で勝負はできている。今のカミラは、フェイントなんかを仕掛けてこない。だからだな。

 単純な剣の技量で負けてしまえば、剣では絶対に勝てない相手だろう。なにせ、あまりにも速い。技量で身体能力の差を補うしか、剣で勝つための道はない。

 とはいえ、俺もカミラも、ただの剣士ではない。今の拮抗状態が続けば、有利なのは魔力が多い俺だ。そうなると、カミラの方から、何か仕掛けてくるはずだ。

「なら、さっさと負けなさいよ! このバカ弟!」

 そう言って、カミラは剣に魔力を集中させていく。今のまま受ければ、こちらは吹き飛ばされるか、真っ二つにされるか、そのどちらかだ。なら、こちらも同じことをして返すまで。

「それはできない相談だな! 無音の闇刃サイレントブレイド!」

 魔法を剣にまとわせて、カミラの剣に叩きつけようとする。だが、カミラは笑った。おそらくは、次の手があるのだろう。さて、どう来る?

「もう知ってるのよ、その技は! 紫電撃エレキランス!」

 俺の後ろから、電撃が飛んできた。以前は、カミラの方から飛ばしていた技だ。つまり、魔法の技量も成長している。なら、俺だって負けていられないよな!

「俺だって、その技は知っているぞ! 闇の刃フェイタルブレイド!」

 カミラの雷に、魔力の刃をぶつけていく。そのまま雷に魔力を侵食させようとすると、雷が弾け飛んだ。おそらくは、俺に魔力を奪われるくらいならと、捨てたのだろう。

 どう反撃するかを考えていると、カミラは構えを解いていく。

「ちっ、ここまでね。これ以上やったら、ジェルドを巻き込んじゃうわ」

 ああ、そうか。完全に忘れていた。ジェルドが怪我をしたり、死んでしまったりしたら大問題だからな。ただ、今のまま続けていたら、勝っていたのは俺の方だとは思う。

 カミラが紫電撃エレキランスを何個撃てるかが重要だろうが、魔力量の差で俺が有利だからな。

 そんな風に考えていると、明らかに興奮した様子のジェルドが駆け寄ってきた。

「ああ、なんともったいない! これほどの戦いなど、見たことがありませぬ!」
「そうか。お前は、三属性トリキロだったか?」
「はい。ですが、今のカミラ様には、遠く及びません。まして、レックス様には!」

 まあ、三属性トリキロは一般的にはエリートだからな。それだけの実力があれば、俺達が飛び抜けていることなんて、簡単に理解できるか。

 それにしたって、ジェルドは興奮しすぎだとは思うが。声は大きいし、息を荒らげてすらいる。正直に言って、不審者に見えるレベルだ。

「そんなに興奮しちゃって。あたしはともかく、バカ弟は本気なんて出してないわよ」
「まことですか!? 素晴らしい! もはや、言葉で言い表すことなどできません!」
「感心するのは良いが、見え透いた世辞など良い」
「世辞でなど! レックス様の力は、まさに神を想像させるほど!」

 神と来たか。フェリシアが言っていた時は、冗談だと分かったのだがな。今のジェルドは、本気に見える。いや、困るんだが。俺はただ強いだけで、普通の人間でしかないんだぞ。

「それで? 信仰でもするというのか?」
「あなた様がお望みになるのなら、今すぐにでも!」

 目が本気だ。ちょっと、逃げ出したいくらいには。一歩くらいは、下がってしまったかもしれない。かなり怖くて、どうして良いのか分からない。

「姉さん、これ、どう見える?」
「病気ね。まあ、あんたにとっては都合が良いんじゃない? 演技には見えないし」

 まあ、俺に忠誠を誓ってくれでもすれば、確かに都合は良い。王家より俺を優先してくれるのなら、信頼できる相手が増えるかもしれない。ただ、ちょっと心配にもなるんだよな。

「ジェルド。これがお前の主の力だ。気に入ったか?」
「もちろんです! その真のお力が振るわれる瞬間が、待ち遠しいほどに!」

 俺としては、力を振るいたくはないのだが。それでも、原作の事件が待っているだろうからな。いずれは、ジェルドも見る機会があるだろう。

 その瞬間を想像して、ため息をつきたくなった。
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