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4章 信じ続ける誓い

141話 ラナ・ペスカ・インディゴの歪み

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 あたしは、インディゴ家から人質として、レックス様のところへと送られました。正確には、金のために売られたと言って間違いないでしょう。

 ですが、レックス様のおかげで、確かに救われたのです。体をむしばんでいた病気も治してもらいましたし、想像していたほど悪い暮らしではありませんでしたし。

 むしろ、レックス様のところにいる方が、以前よりいい暮らしができているくらいです。アストラ学園に通うことなんて、インディゴ家に居たままでは難しかったでしょう。

 だから、レックス様は恩人なんです。あたしに、幸せをくれた人。それは間違いのないことなんです。

 今となっては、レックス様は両親よりも大切なくらいですね。彼にだけは、認めていてほしい。愛していてほしい。そう思うんです。

 ただ、何もしない人間がずっと求められるなんて、ありえないこと。少なくとも、あたしは魅力的でないといけないんです。

 実力でも、外見でも、なんでもいい。とにかく、レックス様に大切にしてもらえるだけのなにか。それを求める日々を過ごすことになったんです。

 ただ、うまく行っているとは言えない。そんな状況が続くばかりでした。

「あたし以外のみんなが、レックス様のお役に立っています」

 ジュリアは無属性という特別な力を持っています。シュテルはレックス様自身の価値を引き上げました。魔法を他者に与える力が生まれたのは、シュテルがきっかけなんですから。

 それに、サラ。彼女は、レックス様の闇魔法に、新しい使い道を示しました。

 学校もどきの生徒達だけで、とても多い。なのに、他の方達も居るんですから。レックス様の家族も、王女殿下達も、学園でできた新しい友達も。

 その中で、あたしだけが平凡なんです。魔法の才能では勝てない。発想力も。権力も金銭も、何も持ち合わせていない、ただの人。それがあたしなんですから。

「このままじゃ、レックス様に見放されるかも……」

 そんな不安が、襲いかかってきてしまいます。レックス様のそばだけが、あたしの居場所なのに。見捨てられたら、どこにも行けないのに。

 あたしを求めてくれる人なんて、レックス様くらいなんです。両親には売られた。領民には見捨てられた。そんなあたしなんですから。

 だから、何をしてでも、そばに居たい。そう思うんです。あたしでは足りないと、理解していても。所詮は、どこにでもいる人でしかないんですから。

「分かっているんです。レックス様はお優しい人だって。でも……」

 どう扱ってもいいあたしを、大切にしてくれる人。理解しているつもりなんです。それでも、不安が抑えきれないだけで。

 だって、レックス様のそばには、いくらでも素敵な人が居るんですから。あたしの代わりなんて、どれだけでも居るんですから。

「あたしは何も持っていない。家からは売られた。魔法は一属性モノデカ。他の才能だって……」

 レックス様に捧げられるものなんて、何もない。金銭も、人員も、才能も。何も。魔力を奪ってもらうだけで必要とされるのなら、どれほど楽でしょうか。

 あたしは、自分自身の生まれを呪いそうになりました。インディゴ家に生まれたから、レックス様と出会えたのだと理解していても。

 だって、嫌じゃないですか。あたしを忘れて、他の人と幸せそうにするレックス様を見るなんて。そんな可能性を想像するだけの今なんて。

「レックス様のそばだけが、あたしの居場所なのに……」

 あたしを捨てないでいてくれるのは、彼だけなんです。才能も家柄も、何も持っていないあたしでも。そんな相手から遠ざかる未来なんて、許せない。

 なんて、あたしはどれだけバカなんでしょうね。レックス様は、きっとあたしを捨てたりしない。そのはずなのに、疑っているんですから。

「でも、諦められないです。せめて、レックス様だけには、必要とされたいんです」

 ただの小娘でしかないあたしを、大切にしてくれる人には。平民よりも無様なあたしを、見捨てないでいてくれる人には。

 あたしには、ひとりで生きていくだけの力も、意思もありません。レックス様に捨てられたのなら、死ぬしかないんです。

「体を捧げるだけで、レックス様に必要とされるのなら……」

 そんなの、とても安いですよね。どうせあたしなんて、抱きたいと思う人はレックス様くらいのものでしょうから。

 彼ならきっと、あたしでも求めてくれる。両親に売られるような忌み子のあたしでも。誰だって嫌ですからね。いわくつきの女を抱くだなんて。

 だから、妾になるというのも、悪くない選択だとは思うんです。きっと彼は、そっと触れてくれますから。

「でも、彼は優しいですから。嫌々だと思われたら、拒否されちゃいます」

 そこが難点ですよね。お優しいばかりに、相手が無理をしていないか、心配してしまう。あたしは、本気で捧げたいんですけど。家から強制されていないか、やけになっていないか、気にしてくれちゃうんです。

「特にあたしは、インディゴ家に捨てられたんですから……」

 だから、身を捧げるという道は、難しいかもしれないです。それに、どうせなら同情じゃなくて、愛した上で抱いてほしいですからね。

「それなら、強くなるのが早いですよね。フェリシア様やカミラ様は、一属性モノデカでも強いんですから」

 だったら、同じくらい、いえ、もっと。とにかく、努力を重ねるだけです。他の道は、きっともっと難しいんですから。

 あたしは、少なくとも魔法が使える。その才能を活かさないのは、問題でしょう。それに、同じ道の先を進んだ人が居る。だったら、参考にするだけなんですから。

「他にも、ルースさんは無茶をして、レックス様に癒やしてもらったとか」

 彼に心配されるなんて、どれだけ羨ましいことか。あたしなら、もっと幸せだと思うはずなのに。あたしなら、感謝の言葉だって言えるはずなのに。

 そうなったら、もっと愛してもらえるはずなんです。あたしを、もっと見てくれるはずなんです。

「……良いですね。あたしも、自分を追い詰めてみましょうか」

 その姿をレックス様に見せれば、きっと駆け寄ってくれるでしょう。心配してくれるでしょう。あたしで、心がいっぱいになってくれるでしょう。

「まずは、魔力を限界まで絞り尽くすところから……」

 痛みがあると知っていても、止まれませんでした。だって、その先に幸せが待っているんですから。だから、あたしは魔力のすべてを放出していったんです。

 想像していた以上に苦しくて、汗が止まりませんでした。体がけいれんするような感覚もありました。

「はぁ、はぁ……。これは、苦しいですね。でも、良いです。この苦しみがあれば……」

 レックス様は、あたしが本気で苦しんでいると、理解してくれるはずです。あたしのそばに、居てくれるはずです。

「レックス様は、心配してくれますよね。私を癒やしてくれますよね」

 あたしのことを、ちょっとバカにしたことを言いながら。それでも、目からは感情を隠せない。きっと、そうなるはずです。

 そして、あたしが無茶をしないか、見ていてくれるようになるでしょう。

「あはは。想像するだけで、頭が変になっちゃいそうです」

 何も起きていないのに、視界が点滅するくらいの快感が襲いかかってきました。本当にレックス様に癒やされたら、もっと先がある。

 その瞬間を思い描くだけでも、幸福感があふれ出てくるんです。

 ねえ、レックス様。あたしから、永遠に目を話さないでいてくださいね?
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