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4章 信じ続ける誓い

127話 ミュスカ・ステラ・アッシュの願望

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 私は、レックス君と仲良くするために頑張っていたよ。一緒にいる時間を増やしたり、全力で褒めていったり、慰めてあげたり、支えてあげたり。

 うまく行っていると、思っていたんだ。レックス君は相変わらず警戒しているけれど、それでも、私に対して優しい目をする時間が増えたから。

 順調に進めば、レックス君を落とすこともできるかなって。明らかに、私に情を抱いているのは感じたから。

 だから、その状況を進めるために、課題を利用するつもりだったんだ。レックス君とペアになって、相方としてサポートする。それで、尽くす女だって思ってもらえれば良いなって。

 もちろん、私だって、レックス君に喜んでもらえれば嬉しいよ。だって、彼が大好きだから。私の人生を捧げたいくらいには。……なんてね。

 だから、彼とふたりの授業は、都合が良かったんだ。ただ、思った通りにはならなかったよ。

 きっかけは、私が罠にかかっちゃったこと。急にどこかに飛ばされて、汚い鹿みたいな敵に襲われた。

 魔法を使って対抗しようとしたんだけど、通じなくて。だから、必死で逃げたんだ。それでも、何度も攻撃を受けちゃって、諦めそうにもなった。

 レックス君は、私を疑っているから。もしかしたら、助けに来てくれないかもって。なんて、情けないよね。彼の強さに、頼り切りだもん。

 私は一番になりたい。その気持ちは、本物だから。レックス君の力がなきゃ勝てないなんて、嫌だよ。

 でも、結局は勝てなくて。逃げ回ることしかできなかったんだ。

 そんな時だった。レックス君が助けに来てくれたのは。必死な顔をして、私の顔を見たら安心したようになって。

 すぐに敵に挑んでいって。何度も何度も、魔法を放って。敵の攻撃を避けて。つい、見ている側にも力が入っちゃいそうなくらい。

 それで、最後には敵は真っ二つになって、霧みたいに消えていった。その瞬間、生きているって実感できたんだ。怖さがあふれそうだったけど、我慢した。

 いま思えば、耐える必要なんてなかった気がする。弱い面を見せれば、レックス君だって同情してくれたかもしれないのに。

「レックス君に、助けられちゃったな……。私の方が、助けるべきなのにね」

 彼が私に頼ってくれて、依存してくれるのが理想なんだから。その後に裏切ったなら、きっと最高の顔を見せてくれるんだから。

 私にすがる彼の姿は、きっと、ものすごく可愛いと思うんだよね。想像しただけで、背中がゾクゾクしちゃうくらい。

 でも、私を助けてくれたレックス君は、全然違ったな。なんというか、ヒーローみたいだったよ。

「なんだか、胸もドキドキするし……。でも、レックス君を好きだって演技ができている証拠。そのはずだよ」

 私がレックス君を好きだって気持ちが、心の奥底まで刻めている証。最後の瞬間までは、レックス君を誰よりも愛していなくちゃいけないんだから。家族よりも、友達よりも。どんな人よりも。

 だから、胸の鼓動は正しいものなんだよ。仮に命が助かったドキドキだとしても、レックス君を思い描くんだ。このドキドキが、彼に伝わるように。レックス君が、私を可愛いと思ってくれるように。

「これからも、レックス君のことを、ずっと考えていないとね。いつか、裏切るためにも」

 レックス君は、どんな女の子が好みなんだろう。それに合わせるのも、大事なことだよね。これまでは、みんなに好かれそうな私を演じていた。だけど、今の私がやるべきことは。決まっているよね。他の誰に嫌われてでも、レックス君に好かれること。

 だから、もっと彼のことを見ないとね。どんな仕草が好きなのか。どんな顔が見たいのか。どんな言葉で喜ぶのか。

 そうやって、レックス君の好みの私に作り変えるんだ。その先のことを考えただけで、私は幸せになれるよ。

「本当に、ありがとう。私の心に巣食ってくれて」

 レックス君にも、伝えたよね。状況的には、救ってくれてありがとうって聞こえたかな。でも、私の本音は違うんだ。

 いつでもどこでも、私の中はレックス君だらけ。幸福も不幸も、全てがレックス君なんだ。私の人生の中には、どこまでも彼が巣食っている。でも、今までの人生の中で、一番充実しているから。

 感謝の気持ちは、本物なんだよ。私の運命を、まるっきり変えてくれたことへのね。

「おかげで、今は楽しいよ。色々と、計画できて。レックス君で、頭がいっぱいなんだ」

 だから、今までよりも、レックス君のことがよく分かるよ。表情から、仕草から、声色から、いろんなことが伝わってくるんだ。

 レックス君が何を感じているのか。どんな事を考えているのか。どれだけ私を見てくれているのか。全部全部知りたくて、五感のすべてを彼に集中させていたんだ。

「やっぱり、レックス君は私を疑っていたんだ。でも、今は信じてくれているのかな?」

 彼は、私の問いかけに、少し悩んだから。どうして疑っている相手を助けたのかって。でも、私を傷つけたくないって思ってくれたんだよね。嬉しいよ。私をいっぱい考えてくれて。大切にしてくれて。気づかってくれて。

「なにせ、すぐに私を助けに来てくれるくらいなんだし。全力で駆け抜けて」

 そうじゃなきゃ、絶対に間に合わなかった。私は、負けて死んでいたと思う。つまり、私のために必死になってくれた証。最高だよね。素敵だよ。

「それに、私の顔を見て、安心した顔を見せてくれたからね。計画は、順調だと言っていいよ」

 私を好きになってもらって、最後に裏切る。その瞬間は、間違いなく近づいている。レックス君は、傷つくかな? 悲しむかな? 泣いちゃったりするのかな?

 どんな顔を見せてくれるのか考えただけで、胸がいっぱいになるんだ。そんな私を、全力で助けちゃうんだもん。その上で、私の心を傷つけないように、配慮しちゃうんだもん。

「レックス君の優しいところ、本当に隙だよね」

 つい、口から出ちゃった。彼の反応を見る限りは、好きって言ったって誤解されたんだと思う。でも、都合が良いかな。その言葉で、少しでも私を意識してくれれば。もっともっと、私のことを考えてくれれば。

 それにしても、レックス君はどこまでも甘い。心配になっちゃうくらい。私以外の人に、騙されたりしないかって。

「私への疑いは消えていないのに、助けに来るくらいなんだから」

 つまり、私が裏切る可能性を想定した上で、助けに来てくれたってこと。お人よしだなあって思う。私にとっては、ありがたいんだけどね。

「レックス君は疲れていたみたいだし、裏切っても良かったんだけど……」

 全力で敵に魔法を撃っていたし、魔力も少なかったと思う。実際、チャンスだとは思ったんだ。だけど、なんだかやる気が起きなくて。なんとなく、嫌だったんだ。あの瞬間に裏切るのは。

「まあ、良いか。私を助けに来た姿は、本当にカッコよかった。そのご褒美ってことで」

 今までに出会った、どんな男の人よりも素敵だった。それは本音だから。胸の高鳴りを感じちゃうくらい。うん、それなら、レックス君に優しくするのも、大事だよね。

 それに、恋人になって、心も体も結ばれて。その時間を過ごしてからにしたいんだ。レックス君に本当を告げるのは。きっと、とても素敵な時間になるから。

「ねえ、レックス君。あなたの心は、私で埋め尽くしてあげるね」

 そのために、どこまでも尽くすよ。どんな女よりも、私を好きになってもらえるように。私に夢中になってもらえるように。幸せな時間を、2人で過ごせるように。

「その後で、裏切れば良い。だから今は、レックス君との時間を、楽しむよ!」

 そうすれば、最高の瞬間が訪れるはずなんだ。待っていてよね、レックス君。ずっと、逃さないからね?
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