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4章 信じ続ける誓い

122話 フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットの理解

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 わたくしは、レックスさんの幼馴染。家族を除いて、最も距離の近い存在ですわ。ただ、そんな関係で満足するはずもありません。

 レックスさんは、わたくしの恩人でもあり、大切な人でもあり、楽しいおもちゃでもありますわ。そんな相手と、どこまでも近づきたい。なんて感情、人間ならば持って当然のものですわよね。

 だからこそ、わたくしの行動は大切になる。いつまでも、レックスさんをからかうためにも。わたくしの言葉で振り回されるレックスさんを、永遠にながめる。それが、わたくしの望みなのですから。

 そして、絶対に譲れないものもあるのですわ。カミラさんとの会話で、気付かされたことがありますもの。

「わたくしは、レックスさんの相棒。パートナー。それは、間違いのない事実」

 ええ。レックスさんは、わたくしを強く信頼してくださっている。それは、誰にも否定できないでしょう。させもしませんけれど。

 わたくしが彼を支えて、守って、信頼し続けたからこそ、得られた関係。何があっても、失う訳にはいかないもの。

 そのためにやるべきこと。決まっているのですわ。レックスさんがレックスさんである限り、決して変えてはいけない、大切なこと。

「誰が彼の敵になろうとも、わたくしだけは味方でいる。そういうものですわ」

 それが、パートナーというものですから。わたくしは、ずっとレックスさんを支える。少なくとも、彼が変わらない限りは。きっと彼には、追い詰められて、堕ちそうになる瞬間もあるでしょう。彼の周りには、敵が多いですもの。

 何よりも、ブラック家の方針と、レックスさんの生き方は一致していない。だから、いずれは家族の関係は破綻する。そんな未来は、簡単に想像できますから。だからこそ、隣で手を引っ張り続けるのが重要なのですわ。

 きっと、光に憧れつつも、自分は闇の側の人間だと考えているレックスさん。そんな彼のパートナーが、闇そのものであるわたくしというのも、面白いではありませんか。

 わたくしは、人を殺すことに罪悪感を抱きなどしない。破滅させることに、ためらいなど持ちはしない。レックスさんとは、正反対ですわね。誰かを殺したくなくて、助けたくて、手をつなぎたい。そんな本心を抱えている方ですもの。

 ただ、わたくしは、彼の伸ばした手に、確かに救われたのです。その恩を返すこと。そして、彼自身の隣に居ること。それが、わたくしの目標。必ず、達成すべきもの。

「レックスさんを困らせて、戸惑わせて、焦らせる。それも大切なことですが」

 いたずらしたり、ちょっと攻撃してみたり、嫌な言葉を投げかけてみたり。そんなわたくしを見て、レックスさんは慌てる。とても楽しくて、心が満たされる瞬間ですわ。

 それこそ、どれほど時が経とうとも、手放したくない時間だと思うくらいには。誰が何と言おうとも、曲げることのない道でしょう。

 わたくしは、知っているのです。ブラック家が、もともとはレックスさんとわたくしを婚約者にすることを計画していたこと。彼の闇魔法の才能を見て、もっと優れた結婚相手を選ぼうとしていること。

 それでも、彼の隣に居るためには、邪魔なものもあるのです。例えば、私達2人の結婚を望んでいたものとか。

 無論、わたくしがレックスさんと結婚したくない訳ではありません。というより、いずれは結ばれるべきだと考えています。ただ、彼はまだ、わたくしを愛していない。その状況で強引にことを進めても、逆効果としか言えないのですわ。

「だからこそ、大抵のことは許して差し上げましょう。鞭だけではなくて、飴も必要ですからね」

 わたくしのいたずらが、きっと鞭。ですから、彼の本心を肯定して差し上げることが、飴になるでしょう。

 ブラック家に生まれたとは思えないくらい、悪事に向いていない人。誰かを傷つけることに罪悪感を抱えて、立ち止まろうとしてしまう。そんな人。

 彼の望むパートナーは、きっと、共に明るい道を進もうとする人なのです。

「わたくしは、レックスさんを誰よりも理解する。それが、最大の近道ですわよね」

 彼がわたくしを必要とするためには。自分を押し付けるだけでは、本当の意味で好かれることはできないでしょう。もちろん、彼にもわたくしを理解してほしいものですが。

 ただ、相手に望むのならば、自分から行動する。それが効率がいいのです。少なくとも、力関係を理由に、わたくしの意思を押し付けることはできないのですから。

「ええ、ですから、第二夫人も、妾も、受け入れて差し上げましょう」

 わたくしの度量を示すことも、大事なことでしょうから。それに、ジュリアさんやミーアさんを始めとした友達も、カミラさんやメアリさんといった彼の家族も、嫌いではないのです。

 ただ、カミラさんには、少し警戒する必要があるでしょうね。それ以外には、大きな問題はありませんわ。

「それでも、レックスさんの一番であることだけは、譲れませんわ。誰が相手であろうとも」

 それだけが守られていれば、何だって許しましょう。ただ、わたくしから一番の座を奪おうとするものは、どんな手を使っても、排除するかもしれませんわね。

 なんて、ね。流石に、レックスさんの親しい人を消してしまえば、言い逃れはできないでしょう。ですから、手段は選ぶ必要があるのです。できれば、彼に嫌われるように仕向けるのが、理想でしょうか。

「レックスさんが助けを求める時、癒やしを欲しがる時、温もりを必要とする時。最初に思い浮かぶのは、わたくしであるべきなのですわ」

 その事実があるのならば、わたくしは満足し続けるでしょう。レックスさんがわたくしを想う。その気持ちだけで、心が浮足立つようですもの。

 わたくしに頼るレックスさんは、きっと可愛らしいのでしょうね。それを突き放されれば、どんな顔をするのでしょうね。最後に受け入れれば、安心するのは間違いないでしょう。

 レックスさんを手のひらで踊らせる。それは、きっと甘美な感覚を運んでくるはずです。わたくしにとって、大きな幸福となるでしょう。

「そして、最後にレックスさんの隣に居るのも、わたくしであるべきなのですわ」

 同時に、彼の隣にはわたくしが居る。当然迎えるべき未来なのです。他の誰かには、絶対に渡せない立ち位置なのです。

「レックスさんが、わたくしを一番とするため。そのために、わたくしがすべきこと……」

 彼の心に侵食していく必要がある。生活も、戦闘も、政治であっても、わたくしで埋め尽くす。それが、最適解でしょう。

 だからこそ、的確にレックスさんを支える。そうすることで、目標に近づくのです。

「ふふっ、面白くなってきましたわ。いずれレックスさんは、わたくしに頼るのです。まず一番に」

 フィリスさんでもなく、エリナさんでもなく、カミラさんでもなく、他の誰かでもない。ただ、わたくしを。いずれは、彼にとっての最も優先すべきものになるのです。

「あなたがわたくしを一番とする限りは、どんな困難であっても支えましょう。約束しますわ」

 共に地獄をゆくのだとしても、構わない。むしろ、レックスさんのいない未来こそが、地獄と言えるのでしょうから。

「ですから、誰よりもわたくしを愛してくださいね。そうでしょう、レックスさん?」

 その代わりに、わたくしの持てる愛情、技術、能力。全てをレックスさんのために使って差し上げますわよ。きっと、いえ、絶対に。誰を隣に置くよりも幸福になれるはずですわ。
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