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3章 アストラ学園にて
99話 心に残る傷
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沈む出来事があったとはいえ、立ち止まってはいられない。俺が強くならないと、誰も守れないんだ。誰かを殺してでも、大切な人を守る。そう誓ったはずだ。
だから、まだ我慢できる。人を殺した罪悪感だろうと、暴走した自分への嫌悪感だろうと。俺の手で、みんなを守るために。みんなで、幸せな未来を生きるために。
そのために、俺は努力を重ねていた。もしかしたら、嫌なことから逃げたかっただけなのかもしれないが。どちらにせよ、訓練をやめる訳にはいかない。
俺の心境は変わったものの、変わらないものもある。それは、周りのみんなの態度だ。それがなかったら、もっと追い詰められていたはずだ。それこそ、希望を失うくらいに。やはり、俺はみんなが大好きだ。そう、心から理解できる。
「ねえ、レックスさん。今日も付き合ってくださる?」
「わたくしめとも、戦っていただきたいですな」
ルースやハンナに戦いを挑まれることも、心を癒やしていた。彼女達は、俺を恐れたりしない。それだけで、安心感が強い。俺が恐れられたのは、きっと人を軽く殺していたからなのだろうが。それでも、入学試験の時に、魔力だけで恐れられたこともある。2人が遠ざかったとしても、おかしくはなかったんだ。
「全く、お前達というやつは。まとめて相手をしてやろうじゃないか」
「バカにされたものね。ハンナさん、彼の顔、崩してみたくありません?」
「同感でありますな。いつまでも、高みから見下ろせると思ってもらっては困ります」
俺を敵視と言えば良いのだろうか。とにかく、俺を打ち破ろうとしてくれる。それが、とても嬉しい。その感情だけで、さらなる努力を重ねられそうなくらいには。
だから、俺も全力で応えないとな。ということで、構えていく。
「合わせなさい! 爆殺結界!」
「もちろんです! 崩剣!」
ルースの、爆殺陣を重ねた技。そしてハンナの、閃剣を一本に束ねた技。さらに洗練されて、新しい名前もついた技たちだ。
多重の膜に包みこまれ、あえて作られただろう上の隙間から、凝縮された魔力の剣が降ってくる。爆発が起こり、その威力によって剣も加速する。凄まじい技だよな。
だが、俺なら対抗できる。
「闇の衣! 無音の闇刃!」
魔力の防御を重ね合わせて爆発を防ぎ、俺の剣に魔法を重ねて、敵の剣を打ち砕く。相当な魔力を持っていかれたが、なんとか敵の技を防ぎ切ることができた。
「全く、馬鹿げた力だこと。2人がかりでしたのよ?」
「同感でありますな。彼は、以前も真面目に戦っていたはずです。つまり、自分の底を知らないのでしょう」
まあ、一対一でも拮抗していた瞬間があった。あの時も、確かに全力を込めていたはず。というか、魔力切れは経験したことがないな。どんな感覚なのだろうか。
一般的には、全ての魔力を使い尽くせば、とてつもない疲労が襲いかかって、魔法が使えなくなる。ただ、その後に魔力が回復するのだそうだ。だが、それを実感したことはない。まあ、闇の衣が使えなくなることを思えば、難しい判断になるが。
ということは、俺にはまだまだ成長できる余地がある。嬉しいことだ。怯えられていても、強くなりたいという気持ちは薄れていない。
「ええ。だけど、あたくし達の気持ちは同じでしてよ」
「そうですね。必ず、レックス殿を打ち破る。それだけです」
「いくらでも付き合ってやるさ。俺が勝ち続けるだけだがな」
本当に、何度でも挑んできてほしい。2人とのつながりは、俺にとっては大切なものだから。ずっとこうしていられたら、と思うような瞬間でもある。まあ、他の人との時間もほしいとは思うが。
という感じで、心をゆっくりと落ち着かせていた。そんな中で、また新しい授業が行われていた。
「……実習。生徒どうしで対戦を行う。組み合わせは、好きに決めて良い」
「私達が監督しているから、早々問題は起きないはずだ」
フィリスは魔法の最高責任者だが、エリナも居るのだな。まあ、フィリスと仲が良い様子だし、剣技は、この学校には浸透していないからな。今の立ち位置が、都合が良いのだろう。
「なら、私達と戦いましょうよ! リーナちゃんとの連携を、見せる機会だわ!」
「良いですね。レックスさんに、私達の力を教えるのにぴったりです」
ということで、戦いの準備に入る。広間に移動して、フィリス達が見守る中で、俺達は向かい合う。
「用意は良いか? 3、2、1、始め!」
まずは、すぐに動かないとな。俺の知る原作知識では、ミーアの技はとても厄介だから。最悪の場合、光属性の手によって、俺の闇魔法による干渉を抑えられかねない。
ただ、先制攻撃も難しい。2人いるのだから、片方に攻撃して、もう片方にスキを見せたらまずいのだから。なら、防御を重ねるのが正着だろう。
「闇の衣!」
「私の神の裁きと!」
「失墜する星の合わせ技です。受けてみてくださいよ、レックスさん」
神の裁きは、光の奔流で敵を焼き尽くす技。失墜する星は、隕石を落とす技。
それらをどう組み合わせたのかというと、隕石に光の魔力をまとわせ、光属性の魔力に対する反発のようなものと、隕石の威力を重ねることにしたようだ。しかも、隕石は複数ある。
なら、まともに受ける訳には行かないよな。予定変更だ。
「闇の刃!」
何発も魔力の刃を放ち、隕石を破壊しようとする。その結果、一部は破壊できたものの、一部は残った。このままでは、直撃してしまって、防御を壊されるだろう。なら、攻めの姿勢だ。
「流石に、足りないか。なら! 無音の闇刃!」
魔力の刃を剣に重ね合わせて、素早い剣技の威力と魔法の威力を同時に叩き込む。それによって、残りの隕石たちも消滅していった。実質的には、無音の闇刃を何度も使ったようなものだ。できれば、もっと先の切り札を用意したくなってきたな。もちろん、すぐには無理だろうが。
「ふふっ、破られちゃったわね。同じことを繰り返しても仕方ないし、今回は私達の負けね!」
「そうですね。レックスさんは、口だけじゃない。確かな実力がある。改めて、理解できました」
「楽しかったわ! また、別の機会があったら良いわね!」
「待っていてくださいね、レックスさん。次は、もっと強くなってみせますから」
ミーアの言う通り、とても楽しかった。心に残った暗い気持ちが、全部吹き飛んでしまいそうなくらいに。また機会があれば、最高だよな。戦いは嫌いだが、友達となら、素晴らしい時間になる。
「何度でも、俺が勝つだけだ。それでも良いなら、好きにしろ」
王女姉妹が去っていき、戦っていない生徒たちが残っていた。そこに、嫌な視線を感じる。入学試験の時と、同じ感覚だ。
「やべえ、やべえよ……王女様ですら、俺達じゃ足元にも及ばないんだぜ?」
「それが2人がかりだもんな……。とんでもないなんて話じゃないな……」
明らかに、恐れられている。知り合い以外の、ほとんどから。ふと、先日に盗賊退治で恐れられた瞬間のことが、頭に浮かんだ。俺は、殺人鬼か何かのように思われているのだろうか。だから、力が恐ろしいのだろうか。
そんな事を考えていると、フィリスやエリナが話しかけてくる。
「……感嘆。レックスは、また強くなった。もっともっと、先を見せてほしい」
「そうだな。無音の闇刃は、見事な技だった。だが、もっと先を見せてくれるんだろう?」
「当たり前だ。どこまでも強くなる俺を、見せてやるさ」
口ではそう言いながらも、心が乗ってこない。どうしてだろうと考えて、答えに気づいた。
さらに強くなったら、知り合いからも恐れられるのではないか。そこに至った瞬間、初めて強くなることが怖くなった。
だから、まだ我慢できる。人を殺した罪悪感だろうと、暴走した自分への嫌悪感だろうと。俺の手で、みんなを守るために。みんなで、幸せな未来を生きるために。
そのために、俺は努力を重ねていた。もしかしたら、嫌なことから逃げたかっただけなのかもしれないが。どちらにせよ、訓練をやめる訳にはいかない。
俺の心境は変わったものの、変わらないものもある。それは、周りのみんなの態度だ。それがなかったら、もっと追い詰められていたはずだ。それこそ、希望を失うくらいに。やはり、俺はみんなが大好きだ。そう、心から理解できる。
「ねえ、レックスさん。今日も付き合ってくださる?」
「わたくしめとも、戦っていただきたいですな」
ルースやハンナに戦いを挑まれることも、心を癒やしていた。彼女達は、俺を恐れたりしない。それだけで、安心感が強い。俺が恐れられたのは、きっと人を軽く殺していたからなのだろうが。それでも、入学試験の時に、魔力だけで恐れられたこともある。2人が遠ざかったとしても、おかしくはなかったんだ。
「全く、お前達というやつは。まとめて相手をしてやろうじゃないか」
「バカにされたものね。ハンナさん、彼の顔、崩してみたくありません?」
「同感でありますな。いつまでも、高みから見下ろせると思ってもらっては困ります」
俺を敵視と言えば良いのだろうか。とにかく、俺を打ち破ろうとしてくれる。それが、とても嬉しい。その感情だけで、さらなる努力を重ねられそうなくらいには。
だから、俺も全力で応えないとな。ということで、構えていく。
「合わせなさい! 爆殺結界!」
「もちろんです! 崩剣!」
ルースの、爆殺陣を重ねた技。そしてハンナの、閃剣を一本に束ねた技。さらに洗練されて、新しい名前もついた技たちだ。
多重の膜に包みこまれ、あえて作られただろう上の隙間から、凝縮された魔力の剣が降ってくる。爆発が起こり、その威力によって剣も加速する。凄まじい技だよな。
だが、俺なら対抗できる。
「闇の衣! 無音の闇刃!」
魔力の防御を重ね合わせて爆発を防ぎ、俺の剣に魔法を重ねて、敵の剣を打ち砕く。相当な魔力を持っていかれたが、なんとか敵の技を防ぎ切ることができた。
「全く、馬鹿げた力だこと。2人がかりでしたのよ?」
「同感でありますな。彼は、以前も真面目に戦っていたはずです。つまり、自分の底を知らないのでしょう」
まあ、一対一でも拮抗していた瞬間があった。あの時も、確かに全力を込めていたはず。というか、魔力切れは経験したことがないな。どんな感覚なのだろうか。
一般的には、全ての魔力を使い尽くせば、とてつもない疲労が襲いかかって、魔法が使えなくなる。ただ、その後に魔力が回復するのだそうだ。だが、それを実感したことはない。まあ、闇の衣が使えなくなることを思えば、難しい判断になるが。
ということは、俺にはまだまだ成長できる余地がある。嬉しいことだ。怯えられていても、強くなりたいという気持ちは薄れていない。
「ええ。だけど、あたくし達の気持ちは同じでしてよ」
「そうですね。必ず、レックス殿を打ち破る。それだけです」
「いくらでも付き合ってやるさ。俺が勝ち続けるだけだがな」
本当に、何度でも挑んできてほしい。2人とのつながりは、俺にとっては大切なものだから。ずっとこうしていられたら、と思うような瞬間でもある。まあ、他の人との時間もほしいとは思うが。
という感じで、心をゆっくりと落ち着かせていた。そんな中で、また新しい授業が行われていた。
「……実習。生徒どうしで対戦を行う。組み合わせは、好きに決めて良い」
「私達が監督しているから、早々問題は起きないはずだ」
フィリスは魔法の最高責任者だが、エリナも居るのだな。まあ、フィリスと仲が良い様子だし、剣技は、この学校には浸透していないからな。今の立ち位置が、都合が良いのだろう。
「なら、私達と戦いましょうよ! リーナちゃんとの連携を、見せる機会だわ!」
「良いですね。レックスさんに、私達の力を教えるのにぴったりです」
ということで、戦いの準備に入る。広間に移動して、フィリス達が見守る中で、俺達は向かい合う。
「用意は良いか? 3、2、1、始め!」
まずは、すぐに動かないとな。俺の知る原作知識では、ミーアの技はとても厄介だから。最悪の場合、光属性の手によって、俺の闇魔法による干渉を抑えられかねない。
ただ、先制攻撃も難しい。2人いるのだから、片方に攻撃して、もう片方にスキを見せたらまずいのだから。なら、防御を重ねるのが正着だろう。
「闇の衣!」
「私の神の裁きと!」
「失墜する星の合わせ技です。受けてみてくださいよ、レックスさん」
神の裁きは、光の奔流で敵を焼き尽くす技。失墜する星は、隕石を落とす技。
それらをどう組み合わせたのかというと、隕石に光の魔力をまとわせ、光属性の魔力に対する反発のようなものと、隕石の威力を重ねることにしたようだ。しかも、隕石は複数ある。
なら、まともに受ける訳には行かないよな。予定変更だ。
「闇の刃!」
何発も魔力の刃を放ち、隕石を破壊しようとする。その結果、一部は破壊できたものの、一部は残った。このままでは、直撃してしまって、防御を壊されるだろう。なら、攻めの姿勢だ。
「流石に、足りないか。なら! 無音の闇刃!」
魔力の刃を剣に重ね合わせて、素早い剣技の威力と魔法の威力を同時に叩き込む。それによって、残りの隕石たちも消滅していった。実質的には、無音の闇刃を何度も使ったようなものだ。できれば、もっと先の切り札を用意したくなってきたな。もちろん、すぐには無理だろうが。
「ふふっ、破られちゃったわね。同じことを繰り返しても仕方ないし、今回は私達の負けね!」
「そうですね。レックスさんは、口だけじゃない。確かな実力がある。改めて、理解できました」
「楽しかったわ! また、別の機会があったら良いわね!」
「待っていてくださいね、レックスさん。次は、もっと強くなってみせますから」
ミーアの言う通り、とても楽しかった。心に残った暗い気持ちが、全部吹き飛んでしまいそうなくらいに。また機会があれば、最高だよな。戦いは嫌いだが、友達となら、素晴らしい時間になる。
「何度でも、俺が勝つだけだ。それでも良いなら、好きにしろ」
王女姉妹が去っていき、戦っていない生徒たちが残っていた。そこに、嫌な視線を感じる。入学試験の時と、同じ感覚だ。
「やべえ、やべえよ……王女様ですら、俺達じゃ足元にも及ばないんだぜ?」
「それが2人がかりだもんな……。とんでもないなんて話じゃないな……」
明らかに、恐れられている。知り合い以外の、ほとんどから。ふと、先日に盗賊退治で恐れられた瞬間のことが、頭に浮かんだ。俺は、殺人鬼か何かのように思われているのだろうか。だから、力が恐ろしいのだろうか。
そんな事を考えていると、フィリスやエリナが話しかけてくる。
「……感嘆。レックスは、また強くなった。もっともっと、先を見せてほしい」
「そうだな。無音の闇刃は、見事な技だった。だが、もっと先を見せてくれるんだろう?」
「当たり前だ。どこまでも強くなる俺を、見せてやるさ」
口ではそう言いながらも、心が乗ってこない。どうしてだろうと考えて、答えに気づいた。
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