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3章 アストラ学園にて

96話 自分を超えて

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 ルースと戦ってから、俺は魔法の訓練を見直し始めた。やはり、これまで通りでは、急成長を重ねる他の人達に追いつかれてしまうだろう。

 だからこそ、慎重に動く必要がある。前より成長が遅くなるのが最悪のパターンだからな。ちゃんと考えて、フィリスにもアドバイスをもらって、それで初めてちゃんとした成長につながるはずだ。

 何も考えずに訓練を増やしても、むしろ逆効果まであり得るからな。先達の知恵を借りるのは、とても大切なことだ。ということで、今は実行の段階だな。魔力を重ねる実験を行っているところだ。

 ハンナやルースも努力を重ねている様子で、共感できる。とはいえ、少し心配なこともある。

「あたくしは、止まらないわ……! もっと、どこまでも強くなるのよ!」

 ルースがちょっと無理をしているのではないか、というところだな。原作でも、努力をしすぎて怪我をするエピソードがあったはずだ。だから、今の状況は好ましくないのではないかと思ってしまう。

 とはいえ、やめろと言ってやめるかは怪しい。それでも、何かを言ったほうが良いのだろうか。レックスのキャラなら、反発されかねない。さて、どうしたものか。

 ルースはバカではないのだから、自分が無理をしていることくらい、分かっているはずだ。それでも止めさせるなにか。とりあえず、試してみるだけ。

「それで怪我でもすれば、効率が落ちることは分かっているのか?」
「だったら、どうすれば良いって言ってくださるの!? あなたと同じ努力をして、あなたに勝てる訳が無いじゃない!」

 確かに、才能という面では、間違いなく俺の方が優れているだろうな。ルースは四属性テトラメガ。一般的には、五属性ペンタギガよりも闇魔法や光魔法の方が優れると言われている。そして、俺の才能は闇魔法使いの中でも上位の様子。

 つまりは、生まれ持った才能では、ルースと俺では比べることすら間違っているレベルなんだ。普通は、属性がひとつ増えただけで、勝てなくなるのだから。

 というか、ルースの説得は難しそうだな。俺からの言葉だと、才能を持っている人間のたわごと、くらいに思われそうだ。ということは、注視が必要だろうな。怪我をされたら、最悪潰れられたら、後味が悪いどころじゃないのだから。

「そうか。なら、好きにしろ。お前がどうなろうと、知ったことじゃない」
「ええ。好きにさせてもらうわ。あなたに勝つまで、やめなくってよ」

 ということで、できるだけルースの様子を見ながら、俺も努力を続けていた。そんな中で、ついに恐れていた事態に直面する。

 ルースは脂汗を流しながらうずくまっている。間違いなく、何か問題が発生している様子だ。

「はぁ、はぁ……。まだ、まだよ……」
「無様なものだな。結局、怪我をすることになったか。俺が治してやろうか?」

 こんな言い方では、素直に治療を受けてくれないだろうな。だから、次の矢を用意している。当たり前だな。

 本音のところでは、心配の感情を素直に伝えたいのだが。それはそれで悪手だろうから、演技を抜きにしても言えないセリフではあるが。あなたに心配されるいわれはない。そう返されそうだ。

「敵からの施しなんて、受けるものですか……。あたくしを、バカにしないでくださる!?」
「その行動こそが、バカにする理由だがな。お前に、手段を選んでいる余裕はあるのか?」

 さて、この言葉で納得してくれれば良いのだが。俺とルースは才能が違う。だからこそ、妙なこだわりを捨てるべきだと、理解してくれたら。

「くっ……。その通りでしてよ。あたくしのこだわりでは、強くなれないもの……」

 うまく行ったようだ。やはり、ルースはバカじゃない。ただ、追い詰められてしまっただけなんだ。俺のせいだと思うと、気が重くなる部分もあるが。ただ、俺がいたから、今ここで治療ができる。良い面もあると考えておこう。

「なら、分かっているな?」
「ええ。好きになさって。あなたに裏切られるのなら、そこまでだったというだけよ」

 ということで、ルースに魔力を送り込んで、正常な状態へと治療していく。こうしていると分かるが、本当によく鍛え上げられている。魔力だけでなく、体も。

 間違いなく、努力家だったはずだ。だからこそ、今みたいになってしまったとも言えるのだが。今後は、もう少し加減してほしいものだ。ルースが傷つくのは、俺の望みではない。

 治療を終えると、ルースは一通り体を動かしていく。軽く飛んだり、走ったり、魔力を使ってみたり。さっきまでの苦しそうな感じは、完全になくなっている。よし。

「体が、軽い……。こんなに快適に動くのは、いつ以来かしら……」
「分かっただろう。お前の行動の無意味さが」

 こんな事が言いたい訳ではないが、それでルースが無事で居られるのなら、いくらでも言う。たとえ敵だと思われていようと、信頼できる人なのだから。

「ええ。悔しいけれど、あなたの言う通りよ。もちろん、今後も付き合ってくださるのよね?」
「俺から言い出したことだからな。せいぜい、敵からの施しに感謝すると良い」

 ありがたいことだ。これで、ルースは大丈夫だろう。俺さえちゃんとしていれば、何も問題はない。というか、ルースはなにか吹っ切れた気がするな。いま気づいたのだが、さっきまでと表情が違う。言葉にするなら、さっきまでは目が鋭かった印象だが、今はだいぶ柔らかくなった。

 おそらくは、過剰な焦りが減ったと思っていいだろう。それなら、今回の怪我にも、価値があったのかもな。もちろん、怪我なんて無い方が良いのは当たり前なのだが。

「ええ。存分に感謝させてもらうわ。あなたも、あたくしの糧にしてあげてよ」
「それで良い。どうせ、お前は俺には勝てないだろうがな」
「減らず口だこと。目に物見る瞬間を、楽しみにしていることね」

 本当に、楽しみだ。ルースが強くなってくれるのなら、俺だって嬉しい。相手がどう思っているかは分からないが、俺にとっては大切な友人なのだから。

 とはいえ、俺だって負けたくはない。これからも努力を重ねていこう。ちょうど、新しい研鑽の道が見つかったところだ。癒やしを並行しながら訓練する。それは、きっと今後に役に立つ。自分を癒やしながら戦えるだけで、戦術の幅は広がるだろうからな。

 さあ、また頑張っていこう。
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