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1章 レックスの道

15話 メアリ・エリミナ・ブラックの希望

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 メアリは、メアリを甘やかしてくれる人がほしい。抱きしめてほしい。好きって言ってほしい。プレゼントがほしい。なでてほしい。そう考えていたけど、ちょうどいい人が居なかったの。

「お父様も、お母様も、メアリを大事にしてくれない。だったら、知らないもん」

 だって、お父様も、お母様も、何か見せたいものがある時にしか呼んでくれない。敵の貴族とか、メアリには関係ないのに。なにかおねだりしたって、邪魔をするなって言われるだけ。そんな人、メアリだって大事にしなくて良いんだ。

 だけど、やっぱり寂しいよ。ご本の中に出てくる世界では、家族がいっぱい助けてくれる。そんな人、メアリには居ないから。

「当主ばっかり言ってるオリバーなんて、お兄様じゃない。メアリを大切にしてくれないもん」

 当主になる。俺が当主だ。そんな事を言ってばっかりで、メアリのことなんて見ようともしない。そんな人、家族じゃないもん。勝手に居なくなっちゃえば良いよ。

 そんな風に、メアリは毎日が楽しくなかった。お姉様も、弟のジャンも、お兄様の方ばっかり見てる。うらやましかったし、悲しかった。でも、お兄様がお姉様に剣をプレゼントしたって聞いたの。

 お姉様の方を見に行ったら、貰ったらしい剣をずっと振っていた。朝に見ても、昼に見ても、夜に見ても。

「レックスのやつ、必ずギッタンギッタンにしてやるんだから」

 なんて言っていたけれど、顔を見れば、嬉しいなんてことは分かったの。噂では、寝るときでも抱えているって聞いたこともあるくらい。

「お兄様のプレゼント、良いなあ。メアリも、お兄様に可愛がってもらえるかな?」

 お姉様にプレゼントするのなら、メアリにも何かくれないかな。そう思ったの。だって、お姉様にはあげているんだから。お兄様が、本当にメアリに贈り物をしてくれるのなら、きっと嬉しいから。プレゼントなんて貰ったことがないから、想像なんだけどね。

「でも、剣はいらないの。メアリは、魔法使いになるんだから」

 それも、五属性ペンタギガに。メアリは、すっごい魔法使いになりたかった。そうすれば、誰かが褒めてくれるかなって。

 だけど、いま大事なのはお兄様にプレゼントをもらうこと。だから、杖をおねだりしたの。そしたら、お兄様は準備をするって言ってくれた。でも、一日二日じゃダメだって。待っていてほしいって。

 もしかしたら、メアリが忘れるのを狙っているのかも。そんなので騙される子どもじゃないのに。そう思ったから、周りの人たちに色々聞いてみたの。

「ねえ、メイドさん。お兄様が何をしているか、メアリに教えてくれる?」
「レックス様は、メアリ様の杖を作るために、頑張っているみたいですよ」
「ご、ご主人さまは、ずっと、考え事をしているんですっ」

 エルフのメイドさんと、獣人のメイドさん。お兄様と、いつも一緒にいる人達。その言葉なら、本当にお兄様はメアリの杖を作ってくれているんだって思えたの。

「お兄様、メアリのために頑張ってくれているんだ。だったら、信じて良いのかな?」

 杖を作ってくれるってだけじゃなくて、メアリを甘やかしてくれる人だって。抱きしめてくれる人だって。なでてくれる人だって。好きって言ってくれる人だって。

 もし、お兄様がメアリのことを大事にしてくれるのなら。メアリはお兄様を大好きになる。そう思っていたの。

 そして、お兄様はメアリに杖をプレゼントしてくれた。手のひらに乗るような、小さい杖。細長くて、銀色で、触っていると暖かくなるような気がしたの。

七曜オーバーリミット、大切にするの。いっぱい時間をかけてくれたんだもん」

 それに、お兄様が笑顔で渡してくれたことも嬉しかった。メアリが抱きついたら、幸せそうな顔をしてくれた。だから、メアリのことを大切にしてくれるって、信じようと思ったの。

 他にも、お兄様はメアリに魔法を教えてくれたの。その時に、目を閉じて深呼吸しても、魔力は感じられなかった。だけど、お兄様から伝わってきた暖かいものが、魔力だって分かって。それからは、すぐに魔法を使えるようになったの。

 三属性トリキロだったのは悲しかった。けれど、お兄様は頑張れって言ってくれた。おめでとうって言ってくれた。だから、お兄様が困った時には、手伝ってあげようって思ったの。

 それに、お兄様はメアリが五属性ペンタギガになりたいって言っても、バカにしたりしなかった。優しい目で、メアリを見守っていてくれたの。

「お兄様は、メアリが五属性ペンタギガになるのを、応援してくれているの」

 心から、信じることができたの。お兄様は、メアリを甘やかしてくれる人だって。もう、大事にしてくれていることは分かったから。

「優しいお兄様、メアリ大好き!」

 家族の中で、お兄様だけがメアリのおねだりに応えてくれた。それって、メアリが大好きだってことだよね。そんな人、今まで居なかったの。だから、メアリにとっては、お兄様はたったひとりの人だったの。

 そう感じてからは、七曜オーバーリミットも、もっと大切になった。魔法を使うたびに、お兄様を感じることができたから。お兄様の魔力が、メアリを助けてくれている。そう思えたから。

「この杖、お兄様の魔力を感じる。暖かいな」

 魔力が目覚めた時に感じた暖かさと同じものが、杖に触れるたびに感じることができて。だから、お兄様が傍で見守っているような気持ちになれたの。

「お兄様の暖かい魔力で、服も、食器も、みんな包み込んでほしいな」

 そうすれば、メアリはずっと暖かさを感じていられるから。起きている時も、寝ている時も。朝も、昼も、夜も。家の中でも、外でも。どんな時でもお兄様を感じることができるなら、とっても素敵だなって。

「メアリだって、お兄様の魔力でいっぱいになりたい。だって、杖だけでも幸せなんだもん」

 メアリの体にだって、お兄様の魔力があったらな。そう思ったの。お兄様の暖かい魔力で、メアリの体を染めてもらう。それってきっと、とっても幸せなこと。

「お兄様は、メアリに魔力を注ぎ込んでくれるかな?」

 おねだりしたら、叶えてくれるかな。イヤだって言われても、絶対に嫌われない。お兄様のことだけは、信じることができたから。だから、もっともっと、お兄様でいっぱいになりたかった。お兄様を感じていれば、今までよりずっと、嬉しいことでいっぱいになりそうだから。

「お兄様と離れていても、ずっとお兄様と一緒。それって、とっても楽しそう!」

 本当は、ずっとお兄様の隣にいたい。同じ部屋で寝たいし、同じ食べ物を食べていたい。でも、それはきっと無理だから。だったらせめて、魔力だけでも感じていられたらなって。お兄様で、メアリがいっぱいになったらなって。

「メアリは、お兄様とずっと居るの。それが、メアリの幸せなんだから!」

 優しくしてくれる人も、大切にしてくれる人も、お兄様だけだから。だから、これからも色んなことをしてもらうんだ。まだ、抱きしめてもらっていない。大好きって言われていない。なでてもらっていない。キスもされていない。

 だから、これから先も、もっともっと幸せになれるはずなの。お兄様は、きっとメアリのおねだりを受け入れてくれるから。考えていることは、みんなできるはずだから。

 お兄様、約束だよ。ずっと、メアリの傍に居てね?
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