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1章 レックスの道

3話 飛び抜けた才能

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 とりあえず方針は決まったが、今の家では暇な時間が多い。そこで、空き時間をなにかに使えないかと考えていた。しばらくして、あることを思いつく。この世界で、とても重要な事実だ。

「そういえば、俺はレックスに転生したんだよな。それなら、闇属性の魔法が使えるはずだ」

 この世界には、八つの属性がある。火、水、風、土、雷、光、闇、無。その中でも特別なのが、光と闇と無の属性。レックスは、闇属性の使い手だったんだ。つまり、俺も特別な魔法が使えるはず。

「確か、瞑想で魔力が目覚めるんだったよな……? なら、自力でもどうにかなるはず」

 目を閉じて、自分の中に潜り込む。そのまま一時間ほど経って、なにか、体の中にエネルギーのようなものを感じた。少なくとも、前世では感じたことのないもの。実感した時には、顔がニヤけていたかもしれない。興奮していたのは間違いないからな。

「これが、魔力か……? なら、動かせるはずだ」

 思いつきのままに、魔力らしきものの操作を試してみる。すると、思い通りに動かせた。体の中で、好きなところに動かすことも、体の外に出すことも。自由自在だ。

 手のひらの上に魔力を集めてみると、黒い。つまりは、闇属性の魔力。原作の知識通りで、テンションが上がってくる。

 レックスは、主人公パーティを追い詰める程度には強かった。つまり、俺も努力すれば、同じくらいには成れるはず。もしかしたら、もっと強くなれるかもしれない。原作では、レックスは傲慢なキャラだった。才能だけで生きていると言っていいレベルの。だったら、可能性は十分だよな。

 それに、前世で使えなかった魔法が使える。その事実だけで、とても楽しくなれる。踊り出したいほどに。まあ、実際に踊ってしまえば変人だから、我慢するのだが。

 まあいい。思いつくことは、何でも試したい。せっかくの魔法なんだ。最大限に、性能を引き出したいじゃないか。だって、魔法だぞ? 幸いなことに、俺の体は才能がある人間のものだ。うまくいくことは保証されているんだ。

 とりあえず、魔力を放出してみたり、集めてみたり、いろいろやってみた。その結果としては、本当に自由自在に操れるという感じで、とにかく最高だ。

 魔力を操作するだけでは物足りないので、実際に魔法を使ってみたくもあるな。確か、魔力に意志で指向性を持たせれば、属性で可能な範囲の性質に変化するんだよな?

「原作によると、闇の魔力は他の属性を侵食できる。その特性を利用すれば、防御ができるんじゃないか?」

 真っ先に考えるのが防御のことなんて、ヘタレっぽい気がする。でも、それでいい。生き延びることが何より大切なんだ。身を守る術は、大事だよな。

 実現したい魔法は決まったので、魔力で身を守るイメージをしながら、変化した魔力を身にまとっていく。

 試しに軽く自分の腕を軽く殴って、その次はとがったものを軽く押し付けてみて、だんだん力を強くしていった。全力でも大丈夫だったので、次は振り下ろしてみる。それでも、全く体に傷はつかなかった。

「うまく行った。そのはずだ。闇の衣グラトニーウェアと名付けるか。原作っぽいネーミングのはずだ」

 漢字に横文字のルビをふるのが、原作でよくある名付けだった。そこから考えると、大きく外れていないはずだ。俺の知っている技は、獄炎インフェルノフレイムとか、迅雷剣ボルトスパークとか、そんな名前だったからな。

「このまま訓練すれば、もっと強くなれるよな。主人公や俺の家族を抜きにしても、原作の事件は目白押しだからな。強くて損はない」

 本当に、いろいろな事件があった。主人公も、何度も命がけの戦いをしていた。それに、世界の命運をかけた戦いだってあった。つまり、主人公であるジュリオや俺の家族の問題を乗り越えたところで、死の危険はいくらでもあるんだ。

 そのまま、しばらくの時間を魔法の練習に費やして。今の時間が気になったころ、メイドであるアリアがやってきた。なにか用事がある様子。

 あまり気にしていなかったが、エルフの実物が近くにいるのは、貴重な体験だな。確か、原作では人間社会にエルフは少なかったはずだ。それに、ブラック家のエルフは原作開始時にはみんな死んでいたのだし。

 だとすると、アリアの命も危ない。今すぐではないだろうが、いずれに備えて用意をしておかないとな。知り合いが死ぬのは、寝覚めが悪いのだから。

「レックス様、お父上がお呼びです。今度も、見せたい物があるのだそうです」
「分かった、アリア。すぐに向かう」

 アリアについていくと、今度は別の建物に入っていった。別館だろうか。そこには、家族たちと、獣耳を生やした人たちがいた。つまり、獣人。

 カンカンという音が聞こえるし、原作での獣人の立ち位置を考えると、金属の精製でもしているのだろうな。それが、見せたいものだろうか。

「父上、何の御用ですか?」
「この獣人が右腕を失ったのでな。処分するんだよ。見ていくだろう、レックス?」
「わ、わたし……」

 言われて、指さされた獣人を見る。兎の耳を生やしていて、白い髪と赤い瞳をした、幼いという印象の女の子。処分と言われているということは、この子が殺される。状況から考えると、金属の精製中の事故で、右腕を無くしてしまった? そんなことで、殺されるのか?

 確かに、原作では獣人は奴隷扱いされていることも珍しくなかった。ブラック家の悪行を考えると、目の前にいる子の立場は考えるまでもないだろう。それでも、死なせて良い訳がない。

 昨日は見ているだけだったが、いくら何でも目の前で失われる命を見ていたくはない。前回は、裏切り者だった。だけど、今回はただケガをしただけの子なんだ。

「要するに、怪我が治らないから処分するんですよね? だったら、こうするだけです」

 つい、口から言葉が出ていた。とにかく、ケガを直せばいい。その考えだけで。手段も思いついていないのに。だが、闇の魔力は物質に侵食できたはず。それを利用すれば、なにか手があるはず。

 考えて、とりあえず獣人の子に魔力をまとわせて、また考えて。そうすると、思いついたことがあった。闇の魔力をこの子の体に侵食させて、魔力で腕を形作る。そこに、体として固定化できたなら。

 単なる思いつきでしかなかったが、できなければ、目の前にいる子は死ぬ。何もしなければ、絶対に。なら、せめて可能性にかけたい。その思いだけで、全力で魔力に意志を伝えていった。

 すると、獣人の子の右腕を生み出すことに成功した。ぶっつけ本番だったが、うまく行ったみたいだ。レックスの才能さまさまだな。

「これで、治ったはずだ。どうだ、動かせるか?」

 兎耳の女の子は、俺の作った右腕を動かしている。不思議そうに見ていたが、ちゃんと腕が機能することが分かった様子になった後、こちらに一礼してきた。

「は、はい……。レックス様のおかげです」
「なら、もう処分する必要はないでしょう、父上」
「レックス、お前、闇魔法に目覚めたのか……! 素晴らしいことだ!」
「流石はわたくしの息子ですわね。見事なことですわ」

 闇魔法がどうとか、獣人の子の右腕に比べればどうでもいいことだろうに、嬉しそうに両親は笑っている。どうしても、共感することはできそうにないな。

「あ、あの……」
「なんだ、獣人。レックスが癒やしたのだから、もう用はないはずだろう。それにしても、レックス。よく薄汚い獣人に力を使う気になったな?」
「当たり前でしょ? 道具なんだから、大切に使わないと。治すくらいでもう一回使えるのなら、そっちの方がいいよ」
「確かにな。獣人とはいえ、用意するのは手間だからな」

 俺の言い訳は通用したみたいで、家族には、ただ目の前の命が大事だったのだとは、知られずに済んだようだ。ブラック家の常識を考えれば、獣人の命を大切にするなんて、俺の立場が危うくなってしまう。

「レ、レックス様、ありがとうございました……」

 そのまま、兎耳の子は去っていく。まあ、俺の家族の前にずっといるのは、あまり心地よくないだろう。それに、どう会話していいのかも、困ってしまうだろうからな。

「ふーん、闇魔法ね。いくら強い魔法を覚えたからって、調子に乗るんじゃないわよ」
「まあまあ。素直にレックスの成長を喜んでやろうじゃないか」
「お兄様、すごい。私も負けてられない」
「兄さん、流石です。闇魔法を覚えるなんて、ブラック家の誇りですよ」

 姉も兄も、妹も弟も、さっきの子なんてどうでもいいみたいだ。だから、できる限りのところで、待遇を良くしてあげたい。俺の命を抜きにしても、奴隷として扱われる人なんて、目の前にいてほしくはないのだから。

 少し家族に話しかけられた後、みんな去っていく。どうにも、一体感を持てる感じがしないな。そんな事を考えていると、優しそうな顔をしたアリアに、声をかけられる。

「さあ、レックス様。お部屋にお送りいたしますね。今日は闇魔法の習得、おめでとうございます」
「俺なら当然のことだ。俺は最高の存在なんだからな」

 本心を出せないのは苦しくある。それでも、俺の命のためだ。全力で、演じきってやるからな。そして、絶対に最後まで生き延びてみせるんだ。
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