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1章 レックスの道
1話 すべての始まり
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このままでは死ぬ。俺は転生してからわずか1日で、2回も同じことを考えることになる。
始まりは、目覚めた時のこと。見知らぬ天井が見えて、周りを見渡せば全く知らない部屋だった。ノックをされて返事をしたら、誰かが入ってくる。
「レックス様、おはようございます。お召し物を変えさせていただきますね」
「ああ」
メイド服を着て、耳がとがっている女の人が話しかけてくる。いかにもなエルフって感じだ。金髪碧眼で、まさにイメージ通り。だけど、若干みすぼらしい格好をしている。
メイドさんの姿のことはいい。エルフがいて、俺はよく分からない部屋にいる。ということは、異世界に転生したのか?
俺の考えなど置き去りにして、彼女は着替えさせてくる。結構高そうな服を着せられて、ちょっと尻込みしてしまったことは内緒だ。
「では、なにかありましたらお呼びください」
俺を着替えさせ終えたメイドさんは、一礼をしてから去っていく。とにかく状況を整理したかったので、1人になれるチャンスは大歓迎だった。
とりあえず、今の俺の状態を確認したい。この部屋には、何があるだろうか。周りを見渡しながらも、考えを整理するために言葉にしていく。
「さっきの人は、エルフ……だよな? コスプレでなければ、ではあるか」
鏡が見つかったので、見る。そこには、黒髪黒目の、洋風な顔をしたイケメンがいた。冷たげな表情をしていて、10歳くらいに見える。どこかで見たような顔だったことから、今どうなっているかは分かったような気がした。
「この顔、レックスって名前。つまり俺は、『デスティニーブラッド』の世界に転生したのか?」
『デスティニーブラッド』。俺がプレイしていたゲームだ。中世風ファンタジーの学園の中で、戦ったり恋愛したりするもの。その中で、レックスは悪役で、貴族だった。印象的だったので、よく覚えていた。レックス・ダリア・ブラック。主人公を追い詰めはしたものの、殺されるという運命にあった存在。
さっきのメイドさんは知らないけれど、ブラック家のエルフなら、納得ではある。ブラック家では、とある事件でエルフはほとんど死んでいたはずだからな。原作に出てこないのも当然だ。
というか、原作について考察している場合じゃない。原作だと死ぬ人間に、転生したという事実。それが俺に焦りを運んでくる感覚があった。このままでは死ぬ。間違いなく。
「やばいやばい。今のままだと、悪役だったレックスは家族もろとも死ぬ。だったら、主人公と敵対しないように、善行を積み重ねるのが手っ取り早いか?」
口に出したことで、ハッキリと希望が見えたような気がした。そうだ。主人公と敵対しなければ、生き延びられるはずだ。
だが、俺が楽観的でいられたのは、ほんのわずかな時間だけだった。朝ごはんを食べて、昼ごはんを食べて、これからどんな善行をしていくか、考えている時のこと。
着替えだけではなく、ご飯の用意をしてくれたメイドさんが、またもう一度部屋にやってきた。
「レックス様。お父上がお呼びです」
「分かった。すぐに行く」
彼女に連れられるままに、父親が待っているらしい場所へと向かう。そこには、家族が勢ぞろいしていた。
「よく来たな、レックス。これから、裏切り者の処刑を行う。楽しんでいくと良い」
「レックスちゃんも、裏切るのならわたくし達の役に立って死んで欲しいと思いませんか?」
「ほんと、バカよね。わざわざブラック家に敵対するなんて」
「そうだね。父上を裏切るなど、万死に値するよ」
「お兄様、一緒に座ろ?」
「兄さん、僕がこいつを捕らえたんですよ」
黒髪黒目の人たちと、一人だけ金髪碧眼の人。状況から考えると、父、母、姉、兄、妹、弟だろう。母親だけが、金髪なんだ。原作でも事件を起こしていたから、よく覚えている。
姉や俺の顔を考えると、姉が原作の学園に入学してから、後一年の期間がある。だが、今から数えて二年が限界だろうな。学園に通う年齢と、姉の年齢はだいたい同じくらいのはずだ。まさか、卒業後なんてことはありえないのだし。
というか、レックスに兄なんていたか? 少なくとも、『デスティニーブラッド』の原作には登場しなかったはずだ。
そんな事はどうでもいい。裏切り者の処刑と言ったか? 確かに、家族達たちの前には、乱雑に扱われている男がいる。まさか、この人が? 俺が家族たちと同じ席につくと、裏切り者らしい男はうろたえだした。
「ま、待ってくれ。謝る。これから、全力で挽回す……」
「裏切り者に、わざわざチャンスを与えると思うか? 愚かなことだ」
そのまま、父は炎の魔法を放って男を焼き殺す。俺は目をそらしたかったが、家族の空気が許さなかった。
男が死んだのを確認した父は、ゆっくりと去っていく。そのまま解散の流れになった。
「レックス様、これで用件は終わりました。お部屋にお送りいたしますね」
「ああ、よろしく」
部屋に戻って、見つけていたトイレに入る。そうすると、抑えられなかったものが逆流した。
「うっ、おぇえ……。どうしてみんな、人が死んでいるのに平気な顔ができるんだよ……」
生まれて初めて、人の死を見た。そのショックは、後から襲いかかってきた感じだな。普通の態度を演じられる程度には、落ち着いていたはずなのだが。
というか、やはりブラック家は悪人の集まりなのだな。やはり、善行をし、て……。
「いや、待て。俺が善行をしようとすれば、さっきの人みたいに処刑されるんじゃ。だったら、どうすれば……」
さっきまでは思い浮かばなかった光景が、急にリアルに感じられた。さっきの男のように、俺が燃やされて死ぬ。そんな映像が頭の中から消えなくなる。
同時に、主人公の必殺技で切り捨てられる俺の姿も。どちらも真実を映しているかのように思えて、体の震えが抑えられなかった。
俺は、このままでは死ぬ。そう理解させられるイメージが、強く浮かんだ。
「悪行をすれば、主人公であるジュリオに殺される。善行をすれば、家族に裏切り者として殺される。完全に、袋小路だな……」
それでも、俺は死にたくない。だから、全力で頭を回転させていった。そうすると、ふと頭に思い浮かんだものがあった。
「いや、ひとつだけ方法があるかもしれない。失敗すれば終わり。だが、何もしなくても死ぬ。なら、せめて前のめりだよな」
善行をしなければ主人公に殺される。悪行をしなければ家族に殺される。それなら、両立させるしかない。その答えは、きっとある。俺の思いついた方法だ。
「よし、決めた。悪人のふりをしながら、それでも善行に走る。それが俺の生きる道だ」
それから一晩を過ごして、次の日。
早速、思いつきを行動にすることにした。残り時間は一年から二年。長いようだが、雑に扱えば一瞬で過ぎ去る時間。適度に急がなければな。
昨日と同じように、エルフのメイドさんがやってくる。それに合わせて、全てが始まる。
「レックス様、今日もお召し物を変えさせていただきます」
相変わらず、雑に扱われていそうな格好をしているメイドさんに着替えさせられた。
それから、悪人のふりをして善行をする。その考えを実行していく。頼む。うまく行ってくれよ。俺の善悪の感覚が、受け入れられることを祈るだけだ。
「そこのメイド、名前は……何だったか。俺のメイドが、そんなみすぼらしくてはな。俺だって貧乏に思われるだろう? 格好をきちんと整えてこい。何か言われたら、俺の名前を出すんだ」
「かしこまりました、レックス様。私は、アリア・トスカナと申します。ご慈悲に感謝いたします」
アリアさん。覚えたぞ。俺の言葉通りに、彼女はちゃんと衣装を整えに行く。感謝されるということは、ちゃんとできているはずだ。後は、両親をごまかせるかどうかだ。
しばらくして、着飾ったアリアさんが帰ってきた。花開くような笑顔で、思わず見とれそうになってしまったくらいだった。エルフというものが美人なのかは知らないが、とても良く似合っていた。まあ、メイド服なんだがな。
それから普通に一日を過ごして、家族での夕食。その時に、父親に質問をされることになった。
「どうした、レックス。わざわざメイドを着飾らせるなど」
「何でって、小汚いやつが俺のそばに居たら、気分が悪いだろ? だったら、せめて身繕いくらいはしてもらわないと」
「まあ、確かに。レックスさんも、そういう事を気にする年頃なのね」
「気持ちは分からないでもないな。まあ、アリアの代わりは、用意するのが面倒だからな」
そのまま、両親は納得していた様子で、うまく行ったと考えることができていた。
食事を終えたら彼らは去っていき、まずは一歩進めたと、達成感を味わう。
「よし、乗り切った。これなら、やっていけるはずだ。まずは生き延びる。話はそれからだ」
何が何でも、俺は生きてやる。せっかく転生したんだから、この命を失ってたまるものか。希望は見えているんだから、後は突っ走るだけだ。
始まりは、目覚めた時のこと。見知らぬ天井が見えて、周りを見渡せば全く知らない部屋だった。ノックをされて返事をしたら、誰かが入ってくる。
「レックス様、おはようございます。お召し物を変えさせていただきますね」
「ああ」
メイド服を着て、耳がとがっている女の人が話しかけてくる。いかにもなエルフって感じだ。金髪碧眼で、まさにイメージ通り。だけど、若干みすぼらしい格好をしている。
メイドさんの姿のことはいい。エルフがいて、俺はよく分からない部屋にいる。ということは、異世界に転生したのか?
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「さっきの人は、エルフ……だよな? コスプレでなければ、ではあるか」
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「この顔、レックスって名前。つまり俺は、『デスティニーブラッド』の世界に転生したのか?」
『デスティニーブラッド』。俺がプレイしていたゲームだ。中世風ファンタジーの学園の中で、戦ったり恋愛したりするもの。その中で、レックスは悪役で、貴族だった。印象的だったので、よく覚えていた。レックス・ダリア・ブラック。主人公を追い詰めはしたものの、殺されるという運命にあった存在。
さっきのメイドさんは知らないけれど、ブラック家のエルフなら、納得ではある。ブラック家では、とある事件でエルフはほとんど死んでいたはずだからな。原作に出てこないのも当然だ。
というか、原作について考察している場合じゃない。原作だと死ぬ人間に、転生したという事実。それが俺に焦りを運んでくる感覚があった。このままでは死ぬ。間違いなく。
「やばいやばい。今のままだと、悪役だったレックスは家族もろとも死ぬ。だったら、主人公と敵対しないように、善行を積み重ねるのが手っ取り早いか?」
口に出したことで、ハッキリと希望が見えたような気がした。そうだ。主人公と敵対しなければ、生き延びられるはずだ。
だが、俺が楽観的でいられたのは、ほんのわずかな時間だけだった。朝ごはんを食べて、昼ごはんを食べて、これからどんな善行をしていくか、考えている時のこと。
着替えだけではなく、ご飯の用意をしてくれたメイドさんが、またもう一度部屋にやってきた。
「レックス様。お父上がお呼びです」
「分かった。すぐに行く」
彼女に連れられるままに、父親が待っているらしい場所へと向かう。そこには、家族が勢ぞろいしていた。
「よく来たな、レックス。これから、裏切り者の処刑を行う。楽しんでいくと良い」
「レックスちゃんも、裏切るのならわたくし達の役に立って死んで欲しいと思いませんか?」
「ほんと、バカよね。わざわざブラック家に敵対するなんて」
「そうだね。父上を裏切るなど、万死に値するよ」
「お兄様、一緒に座ろ?」
「兄さん、僕がこいつを捕らえたんですよ」
黒髪黒目の人たちと、一人だけ金髪碧眼の人。状況から考えると、父、母、姉、兄、妹、弟だろう。母親だけが、金髪なんだ。原作でも事件を起こしていたから、よく覚えている。
姉や俺の顔を考えると、姉が原作の学園に入学してから、後一年の期間がある。だが、今から数えて二年が限界だろうな。学園に通う年齢と、姉の年齢はだいたい同じくらいのはずだ。まさか、卒業後なんてことはありえないのだし。
というか、レックスに兄なんていたか? 少なくとも、『デスティニーブラッド』の原作には登場しなかったはずだ。
そんな事はどうでもいい。裏切り者の処刑と言ったか? 確かに、家族達たちの前には、乱雑に扱われている男がいる。まさか、この人が? 俺が家族たちと同じ席につくと、裏切り者らしい男はうろたえだした。
「ま、待ってくれ。謝る。これから、全力で挽回す……」
「裏切り者に、わざわざチャンスを与えると思うか? 愚かなことだ」
そのまま、父は炎の魔法を放って男を焼き殺す。俺は目をそらしたかったが、家族の空気が許さなかった。
男が死んだのを確認した父は、ゆっくりと去っていく。そのまま解散の流れになった。
「レックス様、これで用件は終わりました。お部屋にお送りいたしますね」
「ああ、よろしく」
部屋に戻って、見つけていたトイレに入る。そうすると、抑えられなかったものが逆流した。
「うっ、おぇえ……。どうしてみんな、人が死んでいるのに平気な顔ができるんだよ……」
生まれて初めて、人の死を見た。そのショックは、後から襲いかかってきた感じだな。普通の態度を演じられる程度には、落ち着いていたはずなのだが。
というか、やはりブラック家は悪人の集まりなのだな。やはり、善行をし、て……。
「いや、待て。俺が善行をしようとすれば、さっきの人みたいに処刑されるんじゃ。だったら、どうすれば……」
さっきまでは思い浮かばなかった光景が、急にリアルに感じられた。さっきの男のように、俺が燃やされて死ぬ。そんな映像が頭の中から消えなくなる。
同時に、主人公の必殺技で切り捨てられる俺の姿も。どちらも真実を映しているかのように思えて、体の震えが抑えられなかった。
俺は、このままでは死ぬ。そう理解させられるイメージが、強く浮かんだ。
「悪行をすれば、主人公であるジュリオに殺される。善行をすれば、家族に裏切り者として殺される。完全に、袋小路だな……」
それでも、俺は死にたくない。だから、全力で頭を回転させていった。そうすると、ふと頭に思い浮かんだものがあった。
「いや、ひとつだけ方法があるかもしれない。失敗すれば終わり。だが、何もしなくても死ぬ。なら、せめて前のめりだよな」
善行をしなければ主人公に殺される。悪行をしなければ家族に殺される。それなら、両立させるしかない。その答えは、きっとある。俺の思いついた方法だ。
「よし、決めた。悪人のふりをしながら、それでも善行に走る。それが俺の生きる道だ」
それから一晩を過ごして、次の日。
早速、思いつきを行動にすることにした。残り時間は一年から二年。長いようだが、雑に扱えば一瞬で過ぎ去る時間。適度に急がなければな。
昨日と同じように、エルフのメイドさんがやってくる。それに合わせて、全てが始まる。
「レックス様、今日もお召し物を変えさせていただきます」
相変わらず、雑に扱われていそうな格好をしているメイドさんに着替えさせられた。
それから、悪人のふりをして善行をする。その考えを実行していく。頼む。うまく行ってくれよ。俺の善悪の感覚が、受け入れられることを祈るだけだ。
「そこのメイド、名前は……何だったか。俺のメイドが、そんなみすぼらしくてはな。俺だって貧乏に思われるだろう? 格好をきちんと整えてこい。何か言われたら、俺の名前を出すんだ」
「かしこまりました、レックス様。私は、アリア・トスカナと申します。ご慈悲に感謝いたします」
アリアさん。覚えたぞ。俺の言葉通りに、彼女はちゃんと衣装を整えに行く。感謝されるということは、ちゃんとできているはずだ。後は、両親をごまかせるかどうかだ。
しばらくして、着飾ったアリアさんが帰ってきた。花開くような笑顔で、思わず見とれそうになってしまったくらいだった。エルフというものが美人なのかは知らないが、とても良く似合っていた。まあ、メイド服なんだがな。
それから普通に一日を過ごして、家族での夕食。その時に、父親に質問をされることになった。
「どうした、レックス。わざわざメイドを着飾らせるなど」
「何でって、小汚いやつが俺のそばに居たら、気分が悪いだろ? だったら、せめて身繕いくらいはしてもらわないと」
「まあ、確かに。レックスさんも、そういう事を気にする年頃なのね」
「気持ちは分からないでもないな。まあ、アリアの代わりは、用意するのが面倒だからな」
そのまま、両親は納得していた様子で、うまく行ったと考えることができていた。
食事を終えたら彼らは去っていき、まずは一歩進めたと、達成感を味わう。
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