212 / 243
6章
(9)二人の怒り
しおりを挟む
エラムラから少し離れた小高い丘へ、十五人の集団がぞろぞろ向かう。かつてシャルとダウバリフが共に暮らしていた赤瓦の家は、少しやつれたような佇まいで変わらずそこにあった。
「お邪魔しまーす……」
「おかえり? いらっしゃい?」
「うーん、ただいま?」
シャルと首を傾げ合いながら、赤瓦の家屋へ入る。住む者がいないはずなのに、室内に埃は全く積もっていなかった。誰かが定期的に掃除しているのだろう。
この場所に来た回数は片手で数えるほどしかない。ダウバリフに挨拶した日と、シャルの引越しの荷物を何度か取りに来た日だけだ。だというのに、家具の配置や、壁にかけられた小さな絵画を見ていると、妙な懐かしさが喉の辺りをくすぐった。
「へぇ、今の家ってこんな感じなのか!」
元建築士の研大が内装に目を輝かせ、手のひらでペチペチと柱を叩いている。玄関では、武器棚の前で他の旧人類があれこれと議論を交わしていた。ヨルドの里にも導入したいようだ。
バルド村の面々はそんな旧人類の姿にドン引きしつつ、リビングのテーブルを囲うように屯した。
シャルは目を輝かせながら大所帯を見回した後、ハッと飛び跳ねながらキッチンへ駆けた。
「あ! お客さんにお茶入れるし!」
「もう茶葉腐ってんじゃないか?」
「茶葉ならこっちにあるぞ」
ぼやきながら俺が追いかけ、その後ろからハインキーが歩いてくる。ハインキーの太い手には、ヨルドの里から持ってきた野生のハーブ袋が握られていた。
キッチンが狭いので、大柄なハインキーには早々に席に戻ってもらい、俺とシャルでお茶の準備を始める。途中、ハーブティーに拘りのあるミッサが作業の拙さに焦ったくなって、俺の首根っこを掴んでキッチンから追い出した。今なら潜水艦の操縦席から蹴落とされたメルクの気持ちが分かる。俺の場合、蹴られなかっただけ有情だろう。
不意に、玄関の方から控えめなノックがした。
賑やかだった室内は水を打ったように静まり返る。俺は足音を殺しながら素早くドアへ向かった。ついでに、玄関前にいる旧人類たちを、玄関から見えない奥へ向かわせる。
手のひら全体で押すように薄くドアを開けると、外にはフードを目深に被った女性がいた。胸元にはトレードマークである花冠がある。レブナだ。
今度は大きくドアを開けると、レブナは猫のように家の中へ飛び込んだ。俺は彼女の張り詰めた気配に動揺しつつ、不自然にならない速度でドアを閉めた。
「外に誰かいる?」
レブナが声を顰めて聞いてくる。俺は困惑しながらも『瞋恚』を発動し、壁越しに外の魂のオーラを観察した。ドラゴンのオーラは遠目に見えるが、ネフィリムのものは見つからない。人間の魂は全てエラムラの里の中だ。
「誰もいない」
「よかった」
「誰かに追われてるのか?」
「それも詳しく説明する」
レブナはフードを下ろして、ようやく室内の面々に気づいて驚いた。
「れ、レオハニー様!? しかも三竦みの人までいるじゃん!」
これなら、とレブナは一人で期待を膨らませた。そして壁際に集まっていた初対面の旧人類たちを見つけ、険しい表情になる。
「そっちの人たち、衛兵から事情は聞いてるよ。でもエラムラの機密とか大事な話をするから、できれば席を外して欲しいな」
誰でも歓迎しがちなレブナにしては、珍しい対応だ。
俺はちらりと研大たちの様子を確認した。彼らも話を聞きたそうにしていたが、それ以上に、素性を明かして良いか躊躇っているようだ。
レオハニーは彼らの様子に小さく嘆息すると、寄りかかっていた壁から起き上がった。
「レブナ、そう警戒しなくていい。彼らは私たちの仲間だ」
「仲間? 途中で拾ったんじゃないの?」
遠回しな了承を得られた研大は、さっきまでの引け腰が嘘のように、にこやかにレブナへ話しかけた。
「はじめまして、レブナさん。俺たちは仮想世界……機械仕掛けの世界からきたんです」
「へぇ、機械仕掛けの……機械仕掛けの世界!?」
綺麗な二度見をするレブナに研大は苦笑する。俺たちから機械仕掛けの世界は新人類に憎まれている、と散々聞かされていた研大にとって、レブナの反応は少し予想外だったのかもしれない。
俺は咳払いをすると、固まってしまったレブナの背中を叩いた。
「まずは俺たちから報告した方が話が早いと思う。座って話そう」
・・・───・・・
俺たちの報告を聞いた後、レブナは大量のお茶をがぶ飲みして混乱を落ち着けた。それからようやく、エラムラの里で起きたことを話してくれた。
昨日の夜、死んだはずのロッシュが突然エラムラの里に現れた。
ロッシュがオラガイアで死亡した事は、すでにエラムラの民へ公表してある。俺たちがヨルドの里に向かったその日のうちにハウラが決断したそうだ。
それが幸か不幸か、ロッシュが偽物か否かという火種となってしまった。
ハウラとレブナはその男が偽物であると言い張ったが、民は本物だと反論した。しかも変に勘ぐった里の住人から「ハウラはエラムラの最高権力を独占するために、ロッシュが死んだと嘘をついたのではないか」とあらぬ疑いをかけた。
これ以上の混乱を避けるため、レブナはひとまずハウラとロッシュを引き離し、それぞれ薄明の塔とギルド長室へ軟禁するよう提案した。二人が了承してくれたおかげで、なんとか最悪の事態は避けられたものの、事態は膠着状態のままだ。
偽物だと証明する方法はまだ見つかっていない。住人たちも、本物か偽物かで意見が二分されており、長く放っておけば内紛になりかねない緊迫した状況なのだそうだ。
「あたしの部下のほとんどは偽物だって思ってる。ロッシュ様と直接話す機会も多かったから、すぐに違和感に気づけたんだと思う」
「逆に、ロッシュと滅多に話したことがない人は見破れないよな」
「うん。それと、ロッシュ様が死んだって認めたくないって人も、結構いるんじゃないかな……」
レブナの声が尻すぼみになると、室内も重苦しい静寂に沈んだ。
エラムラの民にとってロッシュの存在は大きかった。エラムラ防衛戦で、ロッシュが加勢した途端に前線を持ち直したほど、ロッシュはエラムラの民の心の拠り所だった。
オラガイアの墜落、ディアノックスの襲撃、里長の突然の訃報。度重なる不幸で、民の心は疲弊していた。そこに、自分たちがよく知る救世主が帰ってきたとあれば、飛びつきたくなるのも仕方がない。
しばしの間、議論が停滞する。沈黙に耐えかねたアンリが、眉間を押さえながら溜息をついた。
「人は信じたいものを信じるからね。それを否定されると、余計に執着してしまう。対応は慎重にしないと」
「となると、情報だ。情報が欲しい」
研大の言葉に俺は頷き、レブナへ猫背気味に問いかけた。
「レブナはそいつと話したのか? 今までどこにいたとか、どうやって来たとか」
「え、えへへ……初対面で殺そうとしたから、接触禁止になっちゃった。代わりに部下が応対してくれたよ」
レブナの部下が聞き出した情報によれば、偽ロッシュはオラガイアで重傷を負った後、トゥアハや憲兵隊に救助され、リデルゴア国で治療を受けていたらしい。だからエラムラに帰還するのが遅れてしまったのだと語った。
遺品の鈴から最期の記憶を見た俺たちからすれば真っ赤な嘘だ。だが、記憶を見ていない者からすれば、訃報を知らせた俺たちの方が嘘つきに見えるかもしれない。
「ちなみに、ロッシュの菌糸能力はどうなんだ?」
「本物と同じ『響音』だよ。模様の形までそっくりそのまま。民の前で能力を使ってみせたけど、やっぱり本物と同じだった。ロッシュ様が狩人に支給してた木製の鈴が呼応してたから」
つまり、偽ロッシュは外見だけでなく菌糸能力までコピーしているということだ。
「俺とシャルなら、魂のオーラで見分けがつく。それで証明するってのはどうだ?」
「効果はあると思う。ただ、リョーホとハウラ様って仲が良いことで有名だし、シャルちゃんは……エラムラを憎んでるんじゃないかって思われてるから」
「つまり、俺たちがハウラに贔屓してるって思われるかもしれないんだな?」
本音を探り当てると、レブナは弱々しく頷いた。
「魂が見えるのはシャルちゃんとリョーホだけでしょ? だから口裏を合わせたんじゃないかって、納得しない人も出てくると思う。偽ロッシュならそれぐらいの反論はする」
「反論が来ると分かっているのなら、それを叩き潰す新たな証拠を用意すべきだ。違うか?」
クライヴが厳しい面持ちで詰めると、レブナは鼻先に皺を刻みながら睨み返した。だが反駁することなく、悔しげに手元を睨みつける。オラガイア同盟を結んだとはいえ、やはりレブナもスキュリア陣営に対する嫌悪感が拭えないようだ。
再びの沈黙が降りた後、ハインキーが太い手をひらりと持ち上げた。
「嫌な想像をしてしまったんだが、いいか?」
「どんな?」
俺が促すと、ハインキーは口角を大きく下げながら続けた。
「リョーホたちは、ロッシュが遺した鈴の記憶を見て死んだと断定したんだよな。だが、記憶を見ていない俺たちにとっては、偽ロッシュの証言は矛盾してないんだよ」
ハインキーは腕を組み、声を一層低くした。
「こうは考えられないか? オラガイアにあった鈴が、死を偽装するための偽物だったんじゃないかって」
「そ──」
レブナが真っ青になった瞬間、エトロが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「そんな馬鹿な話があるか! ロッシュが命懸けで遺してくれた黒幕への手掛かりだぞ! 第一、死を偽装する理由がない!」
「──私も、ロッシュの死体には違和感があった」
「師匠まで!」
エトロは悲痛な表情でレオハニーを振り返った。俺はゆっくりとエトロの手を握り、宥めながら椅子へ座らせる。
幾分か空気が和らいだところで、レオハニーは冷然と口を開いた。
「記憶を見た限り、トゥアハはロッシュに向けてダアトを発動していた。ダアトに触れたものは即座に赤い繊維に溶かされ、跡形もなくなるのが常だ。ノンカの里融解事件のように」
赤い目が、冷たく俺たちを射抜く。
「だが、大聖堂の地下ホールにはロッシュの死体があった。個人が判別できないほど、無惨に切り刻まれた死体が」
オラガイアにいたメンバーが鋭く息を呑む。次いで、研大が吐き捨てるように言った。
「殺人の常套手段だ。死体の顔を損壊させる事で、誰が死んだのか特定できなくする」
「ってことは、帰ってきたロッシュは……本物、なのか?」
「その可能性はある」
エトロの問いに、レオハニーは目を伏せながらはっきり答えた。
「嘘だよ」
鋭い否定の言葉に、全員の視線がレブナに集まる。
「そんな可能性、絶対ない。あたしが本物のロッシュ様を見間違えるわけない!」
彼女の怒鳴り声が狭い室内に反響する。それはまるで、レブナの隣でもう一人が叫んでいるかのようだった。
「お邪魔しまーす……」
「おかえり? いらっしゃい?」
「うーん、ただいま?」
シャルと首を傾げ合いながら、赤瓦の家屋へ入る。住む者がいないはずなのに、室内に埃は全く積もっていなかった。誰かが定期的に掃除しているのだろう。
この場所に来た回数は片手で数えるほどしかない。ダウバリフに挨拶した日と、シャルの引越しの荷物を何度か取りに来た日だけだ。だというのに、家具の配置や、壁にかけられた小さな絵画を見ていると、妙な懐かしさが喉の辺りをくすぐった。
「へぇ、今の家ってこんな感じなのか!」
元建築士の研大が内装に目を輝かせ、手のひらでペチペチと柱を叩いている。玄関では、武器棚の前で他の旧人類があれこれと議論を交わしていた。ヨルドの里にも導入したいようだ。
バルド村の面々はそんな旧人類の姿にドン引きしつつ、リビングのテーブルを囲うように屯した。
シャルは目を輝かせながら大所帯を見回した後、ハッと飛び跳ねながらキッチンへ駆けた。
「あ! お客さんにお茶入れるし!」
「もう茶葉腐ってんじゃないか?」
「茶葉ならこっちにあるぞ」
ぼやきながら俺が追いかけ、その後ろからハインキーが歩いてくる。ハインキーの太い手には、ヨルドの里から持ってきた野生のハーブ袋が握られていた。
キッチンが狭いので、大柄なハインキーには早々に席に戻ってもらい、俺とシャルでお茶の準備を始める。途中、ハーブティーに拘りのあるミッサが作業の拙さに焦ったくなって、俺の首根っこを掴んでキッチンから追い出した。今なら潜水艦の操縦席から蹴落とされたメルクの気持ちが分かる。俺の場合、蹴られなかっただけ有情だろう。
不意に、玄関の方から控えめなノックがした。
賑やかだった室内は水を打ったように静まり返る。俺は足音を殺しながら素早くドアへ向かった。ついでに、玄関前にいる旧人類たちを、玄関から見えない奥へ向かわせる。
手のひら全体で押すように薄くドアを開けると、外にはフードを目深に被った女性がいた。胸元にはトレードマークである花冠がある。レブナだ。
今度は大きくドアを開けると、レブナは猫のように家の中へ飛び込んだ。俺は彼女の張り詰めた気配に動揺しつつ、不自然にならない速度でドアを閉めた。
「外に誰かいる?」
レブナが声を顰めて聞いてくる。俺は困惑しながらも『瞋恚』を発動し、壁越しに外の魂のオーラを観察した。ドラゴンのオーラは遠目に見えるが、ネフィリムのものは見つからない。人間の魂は全てエラムラの里の中だ。
「誰もいない」
「よかった」
「誰かに追われてるのか?」
「それも詳しく説明する」
レブナはフードを下ろして、ようやく室内の面々に気づいて驚いた。
「れ、レオハニー様!? しかも三竦みの人までいるじゃん!」
これなら、とレブナは一人で期待を膨らませた。そして壁際に集まっていた初対面の旧人類たちを見つけ、険しい表情になる。
「そっちの人たち、衛兵から事情は聞いてるよ。でもエラムラの機密とか大事な話をするから、できれば席を外して欲しいな」
誰でも歓迎しがちなレブナにしては、珍しい対応だ。
俺はちらりと研大たちの様子を確認した。彼らも話を聞きたそうにしていたが、それ以上に、素性を明かして良いか躊躇っているようだ。
レオハニーは彼らの様子に小さく嘆息すると、寄りかかっていた壁から起き上がった。
「レブナ、そう警戒しなくていい。彼らは私たちの仲間だ」
「仲間? 途中で拾ったんじゃないの?」
遠回しな了承を得られた研大は、さっきまでの引け腰が嘘のように、にこやかにレブナへ話しかけた。
「はじめまして、レブナさん。俺たちは仮想世界……機械仕掛けの世界からきたんです」
「へぇ、機械仕掛けの……機械仕掛けの世界!?」
綺麗な二度見をするレブナに研大は苦笑する。俺たちから機械仕掛けの世界は新人類に憎まれている、と散々聞かされていた研大にとって、レブナの反応は少し予想外だったのかもしれない。
俺は咳払いをすると、固まってしまったレブナの背中を叩いた。
「まずは俺たちから報告した方が話が早いと思う。座って話そう」
・・・───・・・
俺たちの報告を聞いた後、レブナは大量のお茶をがぶ飲みして混乱を落ち着けた。それからようやく、エラムラの里で起きたことを話してくれた。
昨日の夜、死んだはずのロッシュが突然エラムラの里に現れた。
ロッシュがオラガイアで死亡した事は、すでにエラムラの民へ公表してある。俺たちがヨルドの里に向かったその日のうちにハウラが決断したそうだ。
それが幸か不幸か、ロッシュが偽物か否かという火種となってしまった。
ハウラとレブナはその男が偽物であると言い張ったが、民は本物だと反論した。しかも変に勘ぐった里の住人から「ハウラはエラムラの最高権力を独占するために、ロッシュが死んだと嘘をついたのではないか」とあらぬ疑いをかけた。
これ以上の混乱を避けるため、レブナはひとまずハウラとロッシュを引き離し、それぞれ薄明の塔とギルド長室へ軟禁するよう提案した。二人が了承してくれたおかげで、なんとか最悪の事態は避けられたものの、事態は膠着状態のままだ。
偽物だと証明する方法はまだ見つかっていない。住人たちも、本物か偽物かで意見が二分されており、長く放っておけば内紛になりかねない緊迫した状況なのだそうだ。
「あたしの部下のほとんどは偽物だって思ってる。ロッシュ様と直接話す機会も多かったから、すぐに違和感に気づけたんだと思う」
「逆に、ロッシュと滅多に話したことがない人は見破れないよな」
「うん。それと、ロッシュ様が死んだって認めたくないって人も、結構いるんじゃないかな……」
レブナの声が尻すぼみになると、室内も重苦しい静寂に沈んだ。
エラムラの民にとってロッシュの存在は大きかった。エラムラ防衛戦で、ロッシュが加勢した途端に前線を持ち直したほど、ロッシュはエラムラの民の心の拠り所だった。
オラガイアの墜落、ディアノックスの襲撃、里長の突然の訃報。度重なる不幸で、民の心は疲弊していた。そこに、自分たちがよく知る救世主が帰ってきたとあれば、飛びつきたくなるのも仕方がない。
しばしの間、議論が停滞する。沈黙に耐えかねたアンリが、眉間を押さえながら溜息をついた。
「人は信じたいものを信じるからね。それを否定されると、余計に執着してしまう。対応は慎重にしないと」
「となると、情報だ。情報が欲しい」
研大の言葉に俺は頷き、レブナへ猫背気味に問いかけた。
「レブナはそいつと話したのか? 今までどこにいたとか、どうやって来たとか」
「え、えへへ……初対面で殺そうとしたから、接触禁止になっちゃった。代わりに部下が応対してくれたよ」
レブナの部下が聞き出した情報によれば、偽ロッシュはオラガイアで重傷を負った後、トゥアハや憲兵隊に救助され、リデルゴア国で治療を受けていたらしい。だからエラムラに帰還するのが遅れてしまったのだと語った。
遺品の鈴から最期の記憶を見た俺たちからすれば真っ赤な嘘だ。だが、記憶を見ていない者からすれば、訃報を知らせた俺たちの方が嘘つきに見えるかもしれない。
「ちなみに、ロッシュの菌糸能力はどうなんだ?」
「本物と同じ『響音』だよ。模様の形までそっくりそのまま。民の前で能力を使ってみせたけど、やっぱり本物と同じだった。ロッシュ様が狩人に支給してた木製の鈴が呼応してたから」
つまり、偽ロッシュは外見だけでなく菌糸能力までコピーしているということだ。
「俺とシャルなら、魂のオーラで見分けがつく。それで証明するってのはどうだ?」
「効果はあると思う。ただ、リョーホとハウラ様って仲が良いことで有名だし、シャルちゃんは……エラムラを憎んでるんじゃないかって思われてるから」
「つまり、俺たちがハウラに贔屓してるって思われるかもしれないんだな?」
本音を探り当てると、レブナは弱々しく頷いた。
「魂が見えるのはシャルちゃんとリョーホだけでしょ? だから口裏を合わせたんじゃないかって、納得しない人も出てくると思う。偽ロッシュならそれぐらいの反論はする」
「反論が来ると分かっているのなら、それを叩き潰す新たな証拠を用意すべきだ。違うか?」
クライヴが厳しい面持ちで詰めると、レブナは鼻先に皺を刻みながら睨み返した。だが反駁することなく、悔しげに手元を睨みつける。オラガイア同盟を結んだとはいえ、やはりレブナもスキュリア陣営に対する嫌悪感が拭えないようだ。
再びの沈黙が降りた後、ハインキーが太い手をひらりと持ち上げた。
「嫌な想像をしてしまったんだが、いいか?」
「どんな?」
俺が促すと、ハインキーは口角を大きく下げながら続けた。
「リョーホたちは、ロッシュが遺した鈴の記憶を見て死んだと断定したんだよな。だが、記憶を見ていない俺たちにとっては、偽ロッシュの証言は矛盾してないんだよ」
ハインキーは腕を組み、声を一層低くした。
「こうは考えられないか? オラガイアにあった鈴が、死を偽装するための偽物だったんじゃないかって」
「そ──」
レブナが真っ青になった瞬間、エトロが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「そんな馬鹿な話があるか! ロッシュが命懸けで遺してくれた黒幕への手掛かりだぞ! 第一、死を偽装する理由がない!」
「──私も、ロッシュの死体には違和感があった」
「師匠まで!」
エトロは悲痛な表情でレオハニーを振り返った。俺はゆっくりとエトロの手を握り、宥めながら椅子へ座らせる。
幾分か空気が和らいだところで、レオハニーは冷然と口を開いた。
「記憶を見た限り、トゥアハはロッシュに向けてダアトを発動していた。ダアトに触れたものは即座に赤い繊維に溶かされ、跡形もなくなるのが常だ。ノンカの里融解事件のように」
赤い目が、冷たく俺たちを射抜く。
「だが、大聖堂の地下ホールにはロッシュの死体があった。個人が判別できないほど、無惨に切り刻まれた死体が」
オラガイアにいたメンバーが鋭く息を呑む。次いで、研大が吐き捨てるように言った。
「殺人の常套手段だ。死体の顔を損壊させる事で、誰が死んだのか特定できなくする」
「ってことは、帰ってきたロッシュは……本物、なのか?」
「その可能性はある」
エトロの問いに、レオハニーは目を伏せながらはっきり答えた。
「嘘だよ」
鋭い否定の言葉に、全員の視線がレブナに集まる。
「そんな可能性、絶対ない。あたしが本物のロッシュ様を見間違えるわけない!」
彼女の怒鳴り声が狭い室内に反響する。それはまるで、レブナの隣でもう一人が叫んでいるかのようだった。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる