家に帰りたい狩りゲー転移

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5章

(29)砂の雨

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 暁の光を背に受けながら、俺たちは西にあるエラムラの里に向けて旅を続けた。

 スキュリアでベアルドルフとダウバリフに別れを告げた後、シャルはしばらくの間寂しそうにしていた。だが、バロック山岳の向こうにエラムラの里が見えてくると、笑顔で俺を急かすようになった。
 
 故郷が近づいてくると思うと、俺たちの足並みも自然と早くなる。しかしその道中、やけに砂を纏った西風が山から吹き下りてくることに気がついた。

「今日はやけに砂が多いな」
「今日だけじゃないみたいだよ。ほら」

 アンリの指さす先を見やれば、道端に生えている茂みが頭から砂を被っていた。よく見れば俺の足元にある雑草も五センチほど砂に埋もれ、今にも枯れそうな黄色に染まっていた。
 
 おかしいのはそれだけではない。バロック山岳を抜けたら青々としたプロヘナ草原と、それを囲う低木の畑が見えてくるはずなのに、一向にその気配がない。

 全員が無視できないほどの異常を感じ取った頃、レオハニーが俺に赤い目を向けた。
 
「リョーホ、少し飛んで様子を確認してほしい。もし飛竜が来たら私がで撃ち落とそう」
「了解です」
 
 俺は頷くと、足に『雷光』を纏いながら地面を蹴った。ロケットのように身体が上空へ打ち出され、一気に視界が高くなる。

「…………!」

 そこから見えた光景に、俺は鋭く息を呑んだ。落下の浮遊感に身を任せながら、俺は素早く思考を巡らせる。

 勢いを殺しながら着地した後、すぐさまエトロが俺に駆け寄った。

「どうだった?」

 俺はその場にいる面々を見渡して、額を押さえながらどうにか言葉を紡いだ。

「エラムラの里は、ひとまず無事だ。けど、俺の見間違いでなければ……」
「……なんだ。はっきり言え!」

 俺は空を仰ぎながら歯を食いしばると、意を決して見たままを伝えた。

「真っ白な、砂漠だ。英雄の丘からずっと西に広がってるはずの高冠樹海が、一つ残らず消えてた」
「なに!?」

 エトロが掴み掛かると、アンリが咄嗟に止めに入った。そしてツクモが深刻な面持ちで俺に問いかけてくる。

「バルド村は、無事ですか?」
「……分からない。少なくとも、バルド村の鐘楼は見えなかったよ。何十キロも先のヴァルジャラの滝が見えるぐらい、向こう側には何もなかった」

 力なく項垂れると、エトロは蒼白になりながら俺から手を離した。

「……まだだ。まだそうと決まったわけじゃない。早くバルド村に帰ろう! あそこにはカイゼルの守りがあるんだ。みんな無事なはず……!」
「いきなりバルド村に向かうのは危険だ」

 一人で進もうとするエトロを、レオハニーが冷静に制止した。

「でも師匠!」
「エラムラの里で情報収集をしよう。ロッシュとシュイナのことも、ハウラに伝えなければならないのだ」

 エトロは歯を砕きそうなほど強く食いしばると、硬く目を瞑りながら小さく頷いた。



 ・・・───・・・



 まるで雪が降り積もったかのように、エラムラの里は金色の砂で余すことなく覆われていた。砂の重みで一部の建物は倒壊し、広場には清掃で集められた砂が五メートルほどの小山を作っている。通りを歩く人々は砂避けのためかフードを目深にかぶっており、建物の玄関や窓も隅々まで固く閉ざされていた。

 様変わりしてしまったエラムラの景色に動揺しながらも、俺たちはまずレブナに会うためにギルドへ向かった。

 ギルド内はスキュリアに襲撃された時以上に閑散としていた。正体不明の砂塵だけで逃げる狩人ではないので、おそらくもっと恐るべき事態が起きたのだと思われる。

 俺は真っ直ぐと奥に向かい、顔見知りの受付嬢からレブナの居場所を聞いた。

 レブナは今、ハウラと共に薄明の塔で結界の修復を行なっているそうだ。受付嬢は忙しいようで、それきり話を切り上げてギルドの奥へパタパタと走っていった。

 俺はアンリとツクモの方を振り返り、早口で言った。

「悪いけどアンリとツクモは、医務室にシュイナさんを寝かしておいてくれないか。俺がレブナに会いに行く」
「それは構わないけど……言うのかい? ロッシュ様のこと」
「……ああ。こういうのは早い方がいい。緊急事態だったら特に」

 里が荒れた状況でロッシュの死を告げれば、余計な混乱を招くかもしれない。だが、里民に公表するか否かを判断するのは巫女である。それに、ロッシュの死を黙っていたところで、エラムラの里が元通りになるわけではない。

 仲間に大切な人の死を告げるのは嫌な仕事だ。いっそ平和だった頃まで時間が戻って欲しいと、現実逃避の思考が頭をよぎる。

 俺が手を握りしめながら息を吐くと、レオハニーが俺の肩に手を乗せた。

「私も付き添おう。エトロ、シャル、お前たちは情報収集を頼む」
「はい、師匠!」

 同行してくれる人が増えただけで、俺は薄情にも肩の荷が降りた心地になった。

「リョーホ……」

 名を呼ばれて下を見ると、シャルが不安そうに俺を見上げていた。安心させられる台詞ぐらい吐けばよかったのに、嘘でも大丈夫だという言葉を紡げない。

 エラムラの里がこんな状況では、バルド村はもっと酷い有様だろう。ギルドに行ってもバルド村の人たちがここまでなんです避難してきた痕跡はなかった。顔見知りの受付嬢の反応も、心なしか俺たちを避けているようだった。

 みんな薄々分かっているのだ。バルド村はもう、ダメなのかもしれないと。

 結局、俺は何も言えずにただシャルを抱きしめることしかできなかった。
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