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4章
エラムラの少年たち 4
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冬が近づいている今の時期、ノンカの里では初日の出なるものを見るために、各地へ赴いていた狩人たちが帰ってきているらしい。お陰で宿はほとんど満室で、ようやく見つけたのは中央から離れ、周囲から忘れ去られたオンボロ宿だった。ダニやカビなどは無かったが、一室がかなり狭いせいで荷物の多い狩人には苦しい場所だ。今日のうちにマルタと会っていればもう少しマシな宿を紹介してもらえたかもしれないが今になっては後の祭りである。
ベッドの大きさの都合上、ベアルドルフに一室、アンジュに一室、残り二人は同室を借りた後、アンジュたちは「先に寝てていいから」と言い残して出かけて行った。
明日マルタに会いに行くために体調は万全にすべきだが、ドミラスもロッシュもベッドに入る気分になれなかった。そのため、狭い部屋をますます狭くしているテーブルを二人で囲って、そこら辺の売店で買った謎のボードゲームに興じて時間を潰していた。
四角い木箱の中にカラフルなパズルを詰めて陣を取るだけのゲームだ。全くルールは知らないが、なんとなく劣勢なのだろう。カチコチと四角く組み上がっていくパズルの面積が、明らかにロッシュの方が広い。
「……無粋なことを聞くようですが、アンジュとどこまで行ったんですか」
「なんだ、藪から棒に」
眉間にしわを寄せながら新しいピースを手に取ると、ずいっとロッシュが向かいのテーブルから身を乗り出した。
「二人とも付き合ってるんですよね。あんなネックレスをプレゼントするなら、キスぐらいは日常茶飯事とか?」
「は? 付き合ってないぞ」
即答すると、がたん! と大きな音を立ててロッシュが立ち上がった。その拍子に箱の中で組み上がっていたパズルが全て砕け散る。
「まさかまだ告白してないんですか!?」
「タイミングがあるんだよ。大声出すな!」
危うく手元のピースを握りつぶしそうになりながら、糸でロッシュを椅子に座らせる。ロッシュは慌てて口をつぐむと、テーブルに置いていたコップを掴みながら威嚇する犬のような目つきになった。
「タイミングって何ですか。どこからどう見ても付き合ってますよね。あの距離感で言い訳はできませんよ?」
「……色々事情がある」
「ならその事情が解決したら?」
やけにぐいぐい来る。もしかしてコップの中身は酒だったのかと軽く腰を上げたが、どう見てもただの水だ。夕食に食べたものはスパイスが効いててコーヒーを飲んだ後のように気分が良くなったが、まさかあれか。
「何も変なものは食べてませんよ!」
「そうか」
「それより、どうなんですかアンジュのことは!」
「……答えなきゃならんのか」
「ずっと二人のことを見守っていたんですよ。僕も人生の重要な局面に立ってるんですから、君たちもそろそろ……幸せになってほしいな、と」
目を逸らしながら付け加えるロッシュの顔を凝視した後、ドミラスは彼の持っているコップを指さした。
「やっぱ酒じゃないのかそれ」
「話をそらさないでください!」
どん、とテーブルを叩いた拍子にピースが箱ごとひっくり返り、床にまで散らばった。二人はあっと声を上げた後、いそいそと椅子から降りて床のピースを拾い集めにかかった。ある程度集め切ったところで、テーブルの足を避けるようにロッシュから箱が差し出される。ドミラスは軽く息をつめた後、その箱の中にピースを流し入れた。
「俺たちは一生、そういう関係にならない」
「……どうして」
「言えないな。これだけは」
ただでさえ里長という重責を負う男に、これ以上余計な悩みを背負わせるわけにもいくまい。それに、NoDや予言書に関することは、アドランから固く言いふらすなと約束させられているのだ。ロッシュが里長になるならまだしも、それすら迷っているような今のこいつに話してはいけない。
床を片付け終わるや、ドミラスは早々に椅子に腰かける。一方のロッシュは山盛りになった箱を見つめながら、俯きがちに席へ戻った。
「貴方達二人は……いえ、ベアルドルフもです。三人とも僕に隠し事をしているでしょう。それと関係があるんですよね」
図星である。黙ってはいけないと思いながらも、ドミラスは言葉が見つからず、箱の中で散らばったパズルのピースを眺めるしかなかった。
「やはり、僕には話せませんか」
さらに沈黙が続いた後、ドミラスはようやく言葉を絞り出した。
「里長殿が話さないと決めている。だったら俺から話すわけにもいかないだろう」
「僕が、里長ではないからですか?」
今の言い方では、さっさと里長になれと言っているようなものだ。こちらの問題を背負わせるために里長になってほしいわけではない。しかしどれだけ悩んだところで、結局ロッシュが里長ではないから話せないという結論にしか至れなかった。
数十秒が何倍にも引き延ばされたような、張りつめた空気が部屋を満たす。うっすらと霜がついた窓からは冷気が忍び寄り、つま先の血流がじわじわと滞っていくような感覚がした。
「──半年ほど前のマガツヒ討伐のこと、覚えていますか?」
懐かしむようで、かさぶたを剥がすような痛み交じりの声がした。見上げた先にあったロッシュの顔は、普段通りのあるか無きかの笑みを浮かべており、古い椅子の上で足を組んでいた。
「あの時僕がしくじらなければ、今頃は君も討滅者になれていたはずです。ベアルドルフが護衛に任命された後も、君が僕ごと連れ出そうとしなければ、彼の腕は鈍っていくばかりでした。いつも僕は誰かの足を引っ張るばかりで、里長になればきっと、もっと大勢の人の足かせになってしまう」
肩を丸めて視線を下げるロッシュを見て、ドミラスは眉間のしわが深くなるのを止められなかった。初めてロッシュの胸中を打ち明けられたが、素直に嬉しいと言えない。里長になることに何を躊躇っているのかと思えば。
「……何か勘違いしているようだが、俺はベアルドルフにもアンジュにも置いて行かれたと思っていない。護衛対象を守れなかった時点で、俺には討滅者になる資格がなかった。それだけの話だ」
「ですが君は、二人と違って正式な護衛ではないでしょう。いつでも辞められる雇われ狩人です。本来なら僕を守る義務すらないのに」
「面倒くさいなお前」
「ちょっと……僕は真剣に後悔しているんですよ?」
流石に恨みがましげな目で睨まれ、ドミラスは苦笑してからこう付け加えた。
「たかだか討滅者の称号なんざ、実力があれば後でいくらでも取れる。それとお前の命とを比べたらどっちを優先すべきか、合理的に考えれば一択だろうが」
睨み返しながら早口で言い切ると、視界の端でロッシュが酷く間抜けな顔を晒していた。それから全く返事が来ないので、こんなことも口で言わないと理解できないのかという怒りが込み上げてきた。
「自分で言っておいて拗ねないでください。反応に困ります」
「黙っとけ」
また余計な一言を言ってくるロッシュをぎろりと睨んだ後、ドミラスは椅子から立ち上がりベッドに仰向けに倒れ込んだ。ロッシュは空気が抜けるような笑みをこぼすと、コップの水を一気に飲み干してから、隣のベッドへ勢いよくダイブした。
「次期里長殿ときたら、お行儀が悪いな」
「まだ里長じゃないので、これぐらいは許してもらわないと」
このベッドかなり固いですね、と文句を言いながら寝そべった後、ロッシュはどこか吹っ切れたように口を開いた。
「例え僕が里長になったとしても、自分は里長の器ではないと一生思い続けるでしょう。僕には父のような強さもなければ才能もない。僕が打ち出したエラムラの里の政策は、あれだけがたまたま上手く行っただけなんです。そんな風に思ってしまうぐらいには、僕は里長という座が身に余る」
ベッドに横たえられていたロッシュの腕が、真っすぐと天井に伸びて握りこぶしを作る。
「それでも、僕にしかできないことがあって、それで仲間の手助けができるなら、悪くないと思いませんか?」
「……お前も大概恥ずかしいこと言うなぁ」
結局ロッシュは自分の為ではなく、誰かのために里長になると決めてしまうのだ。もっと我儘になってもいいのだが、そういうところが彼を彼たらしめる要因なのだろう。
「仕方がないから、アンジュ達が帰ってきてから話してやる。アドランに後で怒られるかもしれないが」
「その時は連帯責任で」
「ああ。お前が一番アドランに殴られて来い」
「理不尽ですよ」
じゃれるような会話をぽんぽんと交わしていると、ふと、宿の屋根から細かな振動が伝わってきた。
「なんだ?」
息を殺して外の気配を探ると、今度は上空で巨大な爆発が生まれたかのような激震が走る。ドミラスとロッシュは一瞬で厳戒態勢を取ると、部屋の窓を開けて外へ飛び出した。
「ロッシュ。音の発生源は?」
「里の上空から徐々に街の中心へ向かってきてます。え、でもこの音は……アンジュとベアルドルフしかいない」
「なんだと?」
「訓練でもこんな音は……二人は、殺し合ってます。本気で」
「なっ――」
ドミラスの驚愕する隙を与えぬかのように、二人の真上で突風と金属音が騒々しく弾けた。見れば『圧壊』によって歪められた夜空が不気味に波打っており、無数の剣戟が内部で花火のように輝いている。『圧壊』を展開している間、空間の内部と外部の時間の流れは完全に異なるため、互いに干渉することは不可能だ。そのせいで、内部で剣を交えた結果しか観測できなかった。
「一体、何時間斬り合ってんだよ!」
『圧壊』で時間と空間が引き延ばされた内部は、こうしている間にも夜空を埋め尽くしてしまうほど火花に覆われ、ベアルドルフの能力が揺らぐたびに空間にため込まれた音たちが一斉に里中を揺るがした。
「ロッシュ! せめて音だけでもベアルドルフに繋げられないのか!? 『圧壊』を解除しなければ俺たちも手出しできないぞ!」
「やってみます!」
袖から鈴を出しながら両手を構え、ベアルドルフに持たせている鈴へつなげるために能力を発動する。ロッシュの手のひらや頬に菌糸模様が浮かび上がり、頭が割れそうなほど強力なモスキート音が発された。その音は緩やかにトーンを落とし、聞き取れないほどの重低音へ変化すると、歪んだ夜空に向けてソニックブームを解き放った。
ソニックブームが直撃するのと、『圧壊』の揺らぎが生じるのはほぼ同時だった。隔離された空間のほつれに見事に入り込んだロッシュの鈴の音は、『圧壊』の表面を激しく波打たせたのち、風船が弾けるかのようにそれらを消滅させた。
「開いた!」
「すぐに向かう!」
ロッシュの出番はここまでだ。彼の『響音』は音という性質上、効果範囲や対象を絞ることがほぼ不可能だ。一応『響音』の音波に慣れている人間ならば、音域を変えることで攻撃対象から外すことが出来る。しかし全くの他人であるノンカの里の人々はどうあっても外すことはできない。
それに、ロッシュの護衛であるアンジュたち三人は確実に攻撃対象に入らないよう特殊な音域に慣らされている。彼ではアンジュとベアルドルフを止める手立てがないのだ。
「頼みます。ドミラス」
悔し気な声に背中を押されて、ドミラスは空へ糸を伸ばし一気に戦場へ躍り出る。
ベアルドルフは劣勢だった。致命傷は全て避けたようだが、全身を薄く切り裂かれてほとんど血だるまである。対するアンジュは服が不自然に裂けているもののほとんど無傷であり、カトラスを振るうその笑顔は狂気に染まっていた。
両者が空中で衝突した瞬間、アンジュの腹部に三枚刃のセスタスが突き刺さる。
「──ッ!」
ドミラスは自分の身体が引き裂かれるような痛みを感じながら、即座に糸を伸ばしベアルドルフを絡めとった。
「ドミラス! 貴様見誤ったか!?」
「よく見ろ、脳筋バカ!」
全身をひねりながらベアルドルフを引っ張った瞬間、彼の頭部があった場所に『斬空』が炸裂し、凶悪な疾風を生み出しながら虚空を切り刻んだ。
「なっ……そうか、『星詠』か!」
ベアルドルフは得心がいったように歪んだ笑みを口に刻んだ。彼の反応は、これまでアンジュに手加減されていたという証明でもあった。
先ほどの『斬空』は完全に仕留めに来ていた。『圧壊』を解除する前はアンジュに何かしらのブレーキが掛かっていたのかもしれないが、いよいよ見境がなくなってきたのかもしれない。
ドミラスはベアルドルフと共に屋根に着地するや半ば叫ぶように詰め寄った。
「答えろ、アンジュに何があった!」
「菌糸能力を暴走させられたのだ。今のアンジュは『星詠』の力で意識が未来に飛んでいる。あそこにいるのはアンジュとは別の何かだ!」
「暴走だと? 一体誰に……」
ベアルドルフが答えようとする寸前、アンジュが虚空を蹴りながら舞い踊る。月光に照らされたカトラスが狂気的な輝きを点滅させ、あっという間に大量の『斬空』を敷き詰めていった。
「嘘だろ、アンジュ!」
ドミラスは冷や汗を流しながら、空中に並べられた大量の『斬空』を防ぐべく蜘蛛の巣状に糸を展延させた。
指揮者のように真上を向いたカトラスが振り下ろされた瞬間、一つ一つが爆発的な威力を持った『斬空』が雨あられのごとく降り注ぐ。糸に斬撃が当たるたびにドミラスの爪に振動が伝わり、鈍い痛みと共に罅が刻まれていった。ベアルドルフが幾らか『圧壊』で消し飛ばしてくれたためまだ軽く済んでいるが、受け止めている間にも、アンジュはさらなる雨を降らせるべくカトラスを躍らせている。
そして第二陣の斬撃の雨が完成した瞬間、アンジュがニヤリと口角を吊り上げた。
カトラスの矛先が、ドミラス達ではなく街の中心へと向けられる。
「っ!? クソッ!」
急いで糸を伸ばすが間に合わなかった。
無慈悲に放たれた斬撃は一瞬で街の中心部へ到達し、連続的な破壊音を轟かせて建物ごと生命を粉砕した。舞い上がる土埃に血霧が混ざり、大勢の悲鳴がものの数秒で消え失せる。
地面に広がる鮮血で一瞬気を取られた瞬間、ドミラスの目の前に美しい金髪が翻った。次に視線を前に戻した時、アンジュのカトラスがドミラスの眼球を抉らんと突き込まれた。
反応できなかった。しかしベアルドルフが側面から足払いを掛けてくれたおかげで、ドミラスはぎりぎり避け切ることができた。頭の真上を通り過ぎるカトラスの向こう側には嗜虐的な笑い声を上げるアンジュが見え、一瞬で身体が冷え切っていくのを感じた。
いつかアンジュを殺さなければならない時が来ると、毎日のように自分に言い聞かせていた。しかしアンジュの笑顔を見るたびに、そんな日は永遠に来ないのではと楽観的な思考が過ぎった。そうして都合の良い部分だけを見て、なにもしてこなかったツケが今になって回ってきただけだ。
そうだとしても、思わずにはいられなかった。
もっと早く殺しておけば。アンジュが人を殺す前に終わらせておけば。
後悔は強烈な焦燥感へ塗り替わり、気づけばドミラスは地面を蹴っていた。
「待て、ドミラス!」
ベアルドルフの叫びが遥か後方に遠のく。
アンジュは建物の壁を蹴りながら空に躍り出て、再び斬撃の雨を降らせようとカトラスを光らせる。それを止めるべく、ドミラスは彼女の腹部へ糸を打ち込んだ。
アンジュの『星詠』は、十秒先の未来を五秒ごとに予知することができる。そのため敵の攻撃を全て避け切り、代わりにアンジュの攻撃だけ必中させることも可能だ。
一見すると完璧に思えるが、五秒のクールタイム中にアンジュから見えない攻撃を当ててしまえば未来予知を無力化できる。その弱点を知ることができたのも、彼女と共に『星詠』の能力を研究してきたからだった。
――ドミくん。私が『星詠』で起きなくなっちゃったら、起こそうとしないでね。
もう随分と昔に思えるアンジュとの会話を思い出してしまい、肺が呼吸を拒むように痙攣した。ドミラスは強張る身体に鞭打ち、糸を収縮させながら一息にアンジュとの距離を詰めた。アンジュもまた『星詠』を発動させ、ドミラスへ反撃するべくカトラスを水平に構える。
純粋な攻撃は『星詠』によってすべて防がれる。ならば未来のアンジュの視点を騙してしまえばいい。
ドミラスはコートからナイフを投げ、糸で操りながら無数のブラフを周囲に張り巡らせた。どの攻撃もアンジュに見えており、防がなければ致命傷となる軌道だ。これで彼女からこの場を離れるという選択肢を潰す。
アンジュは真っ赤な瞳を煌々と光らせ、目にもとまらぬ速さでナイフを弾き飛ばした。
ドミラスの右手にはまだナイフが握られている。当然、アンジュの視点はそこへ集中し、カトラスもまた腕を切り落とさんと振り抜かれる。
だが、このナイフも本命ではない。アンジュがブラフに気を取られている間に、彼女の首には既に極細の糸が括られていた。
後は人差し指を引くだけでアンジュの首が落ちる。
指を曲げるたびに、首ごと糸で括られた長い金髪が次々に裁断され、タンポポの綿毛のようにふわりと散らばっていく。そして糸は星を模った銀色のネックレスまで差し掛かり、かちゃりと小さな金属音を立てた。
あとは皮膚を引き裂き、骨を断つだけだ。
残り数ミリ。
――たったそれだけの距離を、どうしても縮めることが出来ない。
ドミラスの一瞬の迷いをアンジュは見逃さなかった。
アンジュは極細の糸が首を裁断するより早く、なんの躊躇いもなくドミラスの右腕を切り落とした。首に絡んだ糸が緩むや否や、血まみれのカトラスは刃を翻し、V字を描くようにドミラスの胸元へ反転した。
「がっ……!」
切り上げられた斬撃は、ドミラスの胸部を砕きながら左の鎖骨に到達し、夜空へ向けて大量の血を噴き上がらせた。
喉の奥から一気に鉄臭さが込み上げ、鎖骨下の大動脈から急速に血が失われる。間もなくこめかみから万力で絞られるような痛みが生まれ、ドミラスの意識が急速に遠のいていく。
「……アンジュ」
喘鳴混じりに名を呼びながら、カトラスごとアンジュの手を強く握る。しかしアンジュの顔から狂った笑顔が消えることはなく、赤い瞳はドミラスとは別の何かを見つめたままだった。完全に中身が別物で、普段のアンジュの面影が微塵も残っていないが、込み上げてくる愛おしさは止められなかった。
殺せるわけがない。
共に過ごした時間の分だけ大事にしたいという思いが強くなるばかりで、そんな風にアンジュを作った機械仕掛けの世界を恨むことしかできなかった。
「なあ……どうすればよかったんだ……俺たちは……」
アンジュの頬を撫でた瞬間、ドミラスの身体を突き動かしていた激情が完全に抜ける。もはや糸の形状を保つこともできず、支えを失ったドミラスはずるりとその場から落下した。
完全にアンジュから手が離れた瞬間、ノンカの里を包み込んでいた狂乱の威圧感が不意に和らいだ。それとほぼ同時に、アンジュの瞳はドミラスが地面に叩きつけられる瞬間を網膜に写し取った。
「……え?」
ベッドの大きさの都合上、ベアルドルフに一室、アンジュに一室、残り二人は同室を借りた後、アンジュたちは「先に寝てていいから」と言い残して出かけて行った。
明日マルタに会いに行くために体調は万全にすべきだが、ドミラスもロッシュもベッドに入る気分になれなかった。そのため、狭い部屋をますます狭くしているテーブルを二人で囲って、そこら辺の売店で買った謎のボードゲームに興じて時間を潰していた。
四角い木箱の中にカラフルなパズルを詰めて陣を取るだけのゲームだ。全くルールは知らないが、なんとなく劣勢なのだろう。カチコチと四角く組み上がっていくパズルの面積が、明らかにロッシュの方が広い。
「……無粋なことを聞くようですが、アンジュとどこまで行ったんですか」
「なんだ、藪から棒に」
眉間にしわを寄せながら新しいピースを手に取ると、ずいっとロッシュが向かいのテーブルから身を乗り出した。
「二人とも付き合ってるんですよね。あんなネックレスをプレゼントするなら、キスぐらいは日常茶飯事とか?」
「は? 付き合ってないぞ」
即答すると、がたん! と大きな音を立ててロッシュが立ち上がった。その拍子に箱の中で組み上がっていたパズルが全て砕け散る。
「まさかまだ告白してないんですか!?」
「タイミングがあるんだよ。大声出すな!」
危うく手元のピースを握りつぶしそうになりながら、糸でロッシュを椅子に座らせる。ロッシュは慌てて口をつぐむと、テーブルに置いていたコップを掴みながら威嚇する犬のような目つきになった。
「タイミングって何ですか。どこからどう見ても付き合ってますよね。あの距離感で言い訳はできませんよ?」
「……色々事情がある」
「ならその事情が解決したら?」
やけにぐいぐい来る。もしかしてコップの中身は酒だったのかと軽く腰を上げたが、どう見てもただの水だ。夕食に食べたものはスパイスが効いててコーヒーを飲んだ後のように気分が良くなったが、まさかあれか。
「何も変なものは食べてませんよ!」
「そうか」
「それより、どうなんですかアンジュのことは!」
「……答えなきゃならんのか」
「ずっと二人のことを見守っていたんですよ。僕も人生の重要な局面に立ってるんですから、君たちもそろそろ……幸せになってほしいな、と」
目を逸らしながら付け加えるロッシュの顔を凝視した後、ドミラスは彼の持っているコップを指さした。
「やっぱ酒じゃないのかそれ」
「話をそらさないでください!」
どん、とテーブルを叩いた拍子にピースが箱ごとひっくり返り、床にまで散らばった。二人はあっと声を上げた後、いそいそと椅子から降りて床のピースを拾い集めにかかった。ある程度集め切ったところで、テーブルの足を避けるようにロッシュから箱が差し出される。ドミラスは軽く息をつめた後、その箱の中にピースを流し入れた。
「俺たちは一生、そういう関係にならない」
「……どうして」
「言えないな。これだけは」
ただでさえ里長という重責を負う男に、これ以上余計な悩みを背負わせるわけにもいくまい。それに、NoDや予言書に関することは、アドランから固く言いふらすなと約束させられているのだ。ロッシュが里長になるならまだしも、それすら迷っているような今のこいつに話してはいけない。
床を片付け終わるや、ドミラスは早々に椅子に腰かける。一方のロッシュは山盛りになった箱を見つめながら、俯きがちに席へ戻った。
「貴方達二人は……いえ、ベアルドルフもです。三人とも僕に隠し事をしているでしょう。それと関係があるんですよね」
図星である。黙ってはいけないと思いながらも、ドミラスは言葉が見つからず、箱の中で散らばったパズルのピースを眺めるしかなかった。
「やはり、僕には話せませんか」
さらに沈黙が続いた後、ドミラスはようやく言葉を絞り出した。
「里長殿が話さないと決めている。だったら俺から話すわけにもいかないだろう」
「僕が、里長ではないからですか?」
今の言い方では、さっさと里長になれと言っているようなものだ。こちらの問題を背負わせるために里長になってほしいわけではない。しかしどれだけ悩んだところで、結局ロッシュが里長ではないから話せないという結論にしか至れなかった。
数十秒が何倍にも引き延ばされたような、張りつめた空気が部屋を満たす。うっすらと霜がついた窓からは冷気が忍び寄り、つま先の血流がじわじわと滞っていくような感覚がした。
「──半年ほど前のマガツヒ討伐のこと、覚えていますか?」
懐かしむようで、かさぶたを剥がすような痛み交じりの声がした。見上げた先にあったロッシュの顔は、普段通りのあるか無きかの笑みを浮かべており、古い椅子の上で足を組んでいた。
「あの時僕がしくじらなければ、今頃は君も討滅者になれていたはずです。ベアルドルフが護衛に任命された後も、君が僕ごと連れ出そうとしなければ、彼の腕は鈍っていくばかりでした。いつも僕は誰かの足を引っ張るばかりで、里長になればきっと、もっと大勢の人の足かせになってしまう」
肩を丸めて視線を下げるロッシュを見て、ドミラスは眉間のしわが深くなるのを止められなかった。初めてロッシュの胸中を打ち明けられたが、素直に嬉しいと言えない。里長になることに何を躊躇っているのかと思えば。
「……何か勘違いしているようだが、俺はベアルドルフにもアンジュにも置いて行かれたと思っていない。護衛対象を守れなかった時点で、俺には討滅者になる資格がなかった。それだけの話だ」
「ですが君は、二人と違って正式な護衛ではないでしょう。いつでも辞められる雇われ狩人です。本来なら僕を守る義務すらないのに」
「面倒くさいなお前」
「ちょっと……僕は真剣に後悔しているんですよ?」
流石に恨みがましげな目で睨まれ、ドミラスは苦笑してからこう付け加えた。
「たかだか討滅者の称号なんざ、実力があれば後でいくらでも取れる。それとお前の命とを比べたらどっちを優先すべきか、合理的に考えれば一択だろうが」
睨み返しながら早口で言い切ると、視界の端でロッシュが酷く間抜けな顔を晒していた。それから全く返事が来ないので、こんなことも口で言わないと理解できないのかという怒りが込み上げてきた。
「自分で言っておいて拗ねないでください。反応に困ります」
「黙っとけ」
また余計な一言を言ってくるロッシュをぎろりと睨んだ後、ドミラスは椅子から立ち上がりベッドに仰向けに倒れ込んだ。ロッシュは空気が抜けるような笑みをこぼすと、コップの水を一気に飲み干してから、隣のベッドへ勢いよくダイブした。
「次期里長殿ときたら、お行儀が悪いな」
「まだ里長じゃないので、これぐらいは許してもらわないと」
このベッドかなり固いですね、と文句を言いながら寝そべった後、ロッシュはどこか吹っ切れたように口を開いた。
「例え僕が里長になったとしても、自分は里長の器ではないと一生思い続けるでしょう。僕には父のような強さもなければ才能もない。僕が打ち出したエラムラの里の政策は、あれだけがたまたま上手く行っただけなんです。そんな風に思ってしまうぐらいには、僕は里長という座が身に余る」
ベッドに横たえられていたロッシュの腕が、真っすぐと天井に伸びて握りこぶしを作る。
「それでも、僕にしかできないことがあって、それで仲間の手助けができるなら、悪くないと思いませんか?」
「……お前も大概恥ずかしいこと言うなぁ」
結局ロッシュは自分の為ではなく、誰かのために里長になると決めてしまうのだ。もっと我儘になってもいいのだが、そういうところが彼を彼たらしめる要因なのだろう。
「仕方がないから、アンジュ達が帰ってきてから話してやる。アドランに後で怒られるかもしれないが」
「その時は連帯責任で」
「ああ。お前が一番アドランに殴られて来い」
「理不尽ですよ」
じゃれるような会話をぽんぽんと交わしていると、ふと、宿の屋根から細かな振動が伝わってきた。
「なんだ?」
息を殺して外の気配を探ると、今度は上空で巨大な爆発が生まれたかのような激震が走る。ドミラスとロッシュは一瞬で厳戒態勢を取ると、部屋の窓を開けて外へ飛び出した。
「ロッシュ。音の発生源は?」
「里の上空から徐々に街の中心へ向かってきてます。え、でもこの音は……アンジュとベアルドルフしかいない」
「なんだと?」
「訓練でもこんな音は……二人は、殺し合ってます。本気で」
「なっ――」
ドミラスの驚愕する隙を与えぬかのように、二人の真上で突風と金属音が騒々しく弾けた。見れば『圧壊』によって歪められた夜空が不気味に波打っており、無数の剣戟が内部で花火のように輝いている。『圧壊』を展開している間、空間の内部と外部の時間の流れは完全に異なるため、互いに干渉することは不可能だ。そのせいで、内部で剣を交えた結果しか観測できなかった。
「一体、何時間斬り合ってんだよ!」
『圧壊』で時間と空間が引き延ばされた内部は、こうしている間にも夜空を埋め尽くしてしまうほど火花に覆われ、ベアルドルフの能力が揺らぐたびに空間にため込まれた音たちが一斉に里中を揺るがした。
「ロッシュ! せめて音だけでもベアルドルフに繋げられないのか!? 『圧壊』を解除しなければ俺たちも手出しできないぞ!」
「やってみます!」
袖から鈴を出しながら両手を構え、ベアルドルフに持たせている鈴へつなげるために能力を発動する。ロッシュの手のひらや頬に菌糸模様が浮かび上がり、頭が割れそうなほど強力なモスキート音が発された。その音は緩やかにトーンを落とし、聞き取れないほどの重低音へ変化すると、歪んだ夜空に向けてソニックブームを解き放った。
ソニックブームが直撃するのと、『圧壊』の揺らぎが生じるのはほぼ同時だった。隔離された空間のほつれに見事に入り込んだロッシュの鈴の音は、『圧壊』の表面を激しく波打たせたのち、風船が弾けるかのようにそれらを消滅させた。
「開いた!」
「すぐに向かう!」
ロッシュの出番はここまでだ。彼の『響音』は音という性質上、効果範囲や対象を絞ることがほぼ不可能だ。一応『響音』の音波に慣れている人間ならば、音域を変えることで攻撃対象から外すことが出来る。しかし全くの他人であるノンカの里の人々はどうあっても外すことはできない。
それに、ロッシュの護衛であるアンジュたち三人は確実に攻撃対象に入らないよう特殊な音域に慣らされている。彼ではアンジュとベアルドルフを止める手立てがないのだ。
「頼みます。ドミラス」
悔し気な声に背中を押されて、ドミラスは空へ糸を伸ばし一気に戦場へ躍り出る。
ベアルドルフは劣勢だった。致命傷は全て避けたようだが、全身を薄く切り裂かれてほとんど血だるまである。対するアンジュは服が不自然に裂けているもののほとんど無傷であり、カトラスを振るうその笑顔は狂気に染まっていた。
両者が空中で衝突した瞬間、アンジュの腹部に三枚刃のセスタスが突き刺さる。
「──ッ!」
ドミラスは自分の身体が引き裂かれるような痛みを感じながら、即座に糸を伸ばしベアルドルフを絡めとった。
「ドミラス! 貴様見誤ったか!?」
「よく見ろ、脳筋バカ!」
全身をひねりながらベアルドルフを引っ張った瞬間、彼の頭部があった場所に『斬空』が炸裂し、凶悪な疾風を生み出しながら虚空を切り刻んだ。
「なっ……そうか、『星詠』か!」
ベアルドルフは得心がいったように歪んだ笑みを口に刻んだ。彼の反応は、これまでアンジュに手加減されていたという証明でもあった。
先ほどの『斬空』は完全に仕留めに来ていた。『圧壊』を解除する前はアンジュに何かしらのブレーキが掛かっていたのかもしれないが、いよいよ見境がなくなってきたのかもしれない。
ドミラスはベアルドルフと共に屋根に着地するや半ば叫ぶように詰め寄った。
「答えろ、アンジュに何があった!」
「菌糸能力を暴走させられたのだ。今のアンジュは『星詠』の力で意識が未来に飛んでいる。あそこにいるのはアンジュとは別の何かだ!」
「暴走だと? 一体誰に……」
ベアルドルフが答えようとする寸前、アンジュが虚空を蹴りながら舞い踊る。月光に照らされたカトラスが狂気的な輝きを点滅させ、あっという間に大量の『斬空』を敷き詰めていった。
「嘘だろ、アンジュ!」
ドミラスは冷や汗を流しながら、空中に並べられた大量の『斬空』を防ぐべく蜘蛛の巣状に糸を展延させた。
指揮者のように真上を向いたカトラスが振り下ろされた瞬間、一つ一つが爆発的な威力を持った『斬空』が雨あられのごとく降り注ぐ。糸に斬撃が当たるたびにドミラスの爪に振動が伝わり、鈍い痛みと共に罅が刻まれていった。ベアルドルフが幾らか『圧壊』で消し飛ばしてくれたためまだ軽く済んでいるが、受け止めている間にも、アンジュはさらなる雨を降らせるべくカトラスを躍らせている。
そして第二陣の斬撃の雨が完成した瞬間、アンジュがニヤリと口角を吊り上げた。
カトラスの矛先が、ドミラス達ではなく街の中心へと向けられる。
「っ!? クソッ!」
急いで糸を伸ばすが間に合わなかった。
無慈悲に放たれた斬撃は一瞬で街の中心部へ到達し、連続的な破壊音を轟かせて建物ごと生命を粉砕した。舞い上がる土埃に血霧が混ざり、大勢の悲鳴がものの数秒で消え失せる。
地面に広がる鮮血で一瞬気を取られた瞬間、ドミラスの目の前に美しい金髪が翻った。次に視線を前に戻した時、アンジュのカトラスがドミラスの眼球を抉らんと突き込まれた。
反応できなかった。しかしベアルドルフが側面から足払いを掛けてくれたおかげで、ドミラスはぎりぎり避け切ることができた。頭の真上を通り過ぎるカトラスの向こう側には嗜虐的な笑い声を上げるアンジュが見え、一瞬で身体が冷え切っていくのを感じた。
いつかアンジュを殺さなければならない時が来ると、毎日のように自分に言い聞かせていた。しかしアンジュの笑顔を見るたびに、そんな日は永遠に来ないのではと楽観的な思考が過ぎった。そうして都合の良い部分だけを見て、なにもしてこなかったツケが今になって回ってきただけだ。
そうだとしても、思わずにはいられなかった。
もっと早く殺しておけば。アンジュが人を殺す前に終わらせておけば。
後悔は強烈な焦燥感へ塗り替わり、気づけばドミラスは地面を蹴っていた。
「待て、ドミラス!」
ベアルドルフの叫びが遥か後方に遠のく。
アンジュは建物の壁を蹴りながら空に躍り出て、再び斬撃の雨を降らせようとカトラスを光らせる。それを止めるべく、ドミラスは彼女の腹部へ糸を打ち込んだ。
アンジュの『星詠』は、十秒先の未来を五秒ごとに予知することができる。そのため敵の攻撃を全て避け切り、代わりにアンジュの攻撃だけ必中させることも可能だ。
一見すると完璧に思えるが、五秒のクールタイム中にアンジュから見えない攻撃を当ててしまえば未来予知を無力化できる。その弱点を知ることができたのも、彼女と共に『星詠』の能力を研究してきたからだった。
――ドミくん。私が『星詠』で起きなくなっちゃったら、起こそうとしないでね。
もう随分と昔に思えるアンジュとの会話を思い出してしまい、肺が呼吸を拒むように痙攣した。ドミラスは強張る身体に鞭打ち、糸を収縮させながら一息にアンジュとの距離を詰めた。アンジュもまた『星詠』を発動させ、ドミラスへ反撃するべくカトラスを水平に構える。
純粋な攻撃は『星詠』によってすべて防がれる。ならば未来のアンジュの視点を騙してしまえばいい。
ドミラスはコートからナイフを投げ、糸で操りながら無数のブラフを周囲に張り巡らせた。どの攻撃もアンジュに見えており、防がなければ致命傷となる軌道だ。これで彼女からこの場を離れるという選択肢を潰す。
アンジュは真っ赤な瞳を煌々と光らせ、目にもとまらぬ速さでナイフを弾き飛ばした。
ドミラスの右手にはまだナイフが握られている。当然、アンジュの視点はそこへ集中し、カトラスもまた腕を切り落とさんと振り抜かれる。
だが、このナイフも本命ではない。アンジュがブラフに気を取られている間に、彼女の首には既に極細の糸が括られていた。
後は人差し指を引くだけでアンジュの首が落ちる。
指を曲げるたびに、首ごと糸で括られた長い金髪が次々に裁断され、タンポポの綿毛のようにふわりと散らばっていく。そして糸は星を模った銀色のネックレスまで差し掛かり、かちゃりと小さな金属音を立てた。
あとは皮膚を引き裂き、骨を断つだけだ。
残り数ミリ。
――たったそれだけの距離を、どうしても縮めることが出来ない。
ドミラスの一瞬の迷いをアンジュは見逃さなかった。
アンジュは極細の糸が首を裁断するより早く、なんの躊躇いもなくドミラスの右腕を切り落とした。首に絡んだ糸が緩むや否や、血まみれのカトラスは刃を翻し、V字を描くようにドミラスの胸元へ反転した。
「がっ……!」
切り上げられた斬撃は、ドミラスの胸部を砕きながら左の鎖骨に到達し、夜空へ向けて大量の血を噴き上がらせた。
喉の奥から一気に鉄臭さが込み上げ、鎖骨下の大動脈から急速に血が失われる。間もなくこめかみから万力で絞られるような痛みが生まれ、ドミラスの意識が急速に遠のいていく。
「……アンジュ」
喘鳴混じりに名を呼びながら、カトラスごとアンジュの手を強く握る。しかしアンジュの顔から狂った笑顔が消えることはなく、赤い瞳はドミラスとは別の何かを見つめたままだった。完全に中身が別物で、普段のアンジュの面影が微塵も残っていないが、込み上げてくる愛おしさは止められなかった。
殺せるわけがない。
共に過ごした時間の分だけ大事にしたいという思いが強くなるばかりで、そんな風にアンジュを作った機械仕掛けの世界を恨むことしかできなかった。
「なあ……どうすればよかったんだ……俺たちは……」
アンジュの頬を撫でた瞬間、ドミラスの身体を突き動かしていた激情が完全に抜ける。もはや糸の形状を保つこともできず、支えを失ったドミラスはずるりとその場から落下した。
完全にアンジュから手が離れた瞬間、ノンカの里を包み込んでいた狂乱の威圧感が不意に和らいだ。それとほぼ同時に、アンジュの瞳はドミラスが地面に叩きつけられる瞬間を網膜に写し取った。
「……え?」
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