68 / 242
3章
(19)魔女の幻
しおりを挟む道無き道を大陸地図に表示される矢印だけを頼りに進む。
【本】が無ければ恐らくはあっという間に遭難していたかもしれない。それ程に山中は人の手が入っていない様子だった。
そう言えばスタ・アトの村周辺ですら切り株を見なかった。山間にありながら林業を営んでいない村って有り得るのだろうか?
もしかするとミッション1の世界設定に関する未設定部分が影響しているのかもしれない。
「もうすぐだヨ。上手い事モンスターにも見つからなかったし運が良かったよね♪」
あ、そう言えばもう一つ忘れていた。
「【怪物】と言うのは敵対生物の事ですよね?」
「ん? そうだヨ。他にも魔物だとかクリーチャーとか呼ばれる事もあるけど」
『魔』物───。『魔』の文字は煩悩や凶事、執着を表す文字でもあり、サンスクリット語で障害・破壊・殺す者などの意を持つmāraの略ともされる。いずれにせよいい意味では無い文字だ。
彼が選択した歴史ルートによりこの世界に出現した敵対生物は確かに命を危ぶむ存在ではあるが…しかし果たしてそれが本当に『魔』物と称されてもいい理由になるのだろうか。ゲームやファンタジーの中では当たり前の存在であるのならば、それは人が生み出したモノだ。
「どうして『魔物』なんでしょうね」
「えっ? どうして?って…」
「確かに放っておけば人や動物に害を及ぼすかもしれません。でもそれはあくまでもそういう役割であるからであり、彼等にしてみたら野生の動物が生きる為に命を食らうのと同じ行為なのではないでしょうか」
「イヤ…さすがにそこまで考えた事は無かったヨ…。相変わらずキミすごい事言うよネ…」
神々廻さんは腕を組んで顎の下をボリボリ掻いた。
「敵だから倒す、倒して経験値にしてレベルを上げる、レベル差があり過ぎるとやられる、だから強くなるために勝てるヤツを大量に倒す…。ゲームではずっとそういう扱いだったし、そういうシステムのひとつでしかないって思ってたからなァ…」
だからと言って同じ命だから無下に殺すなんてやめましょう、なんて言わない。
本のシステムは絶対だろう。つまりそういう役割として召喚されてしまった以上、こちらが手を出さなくても向こうはきっと存在意義に則って命を奪いに来る。衝突を回避出来ればなどという考えは恐らくは通用しない。
「まさか…みさキン、敵は倒すな!って言うつもり?」
「いいえ、それは有り得ません」
ピシッと言い放つ。
人類は生き残り歴史を紡ぐ為に彼等を殺め続けるだろう。それはこの星の歴史の為の必要な犠牲なのだ。誰にも手を合わせてもらう事の無い───
ならば、せめてその業だけは背負おう。産み出してしまった側として。
「敵対生物の総称ってまだ未設定のままですよね?」
「え? …ああ、うん、決まってないヨ」
彼が本を開いて確認する。
「お願いがあるのですが、それ…私が決めてもいいですか?」
「えっ? マジ!? なんかイイ名前あるの?」
「ええ…。名称は───」
その名を聞く度に私は思い出し、いつまでも忘れないだろう。そしてその意味を誰も知らずとも、この星に生きる人々の中に永遠に刻まれて欲しい。
自分達が生きる為に犠牲になるモノ達がいるという、その意味を。
《 世界設定/名称/敵対生物総称:ヴィクティム が世界に登録されました。世界設定の一部名称に修正が入ります。》
(次頁/22-2へ続く)
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説


幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる