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2章
(15)発見
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「よっし! とうちゃーくっと!」
「一応、ありがとう……着いたなら降ろしてくれ……」
薄明の塔から数百メートルほど離れた城壁の上で、俺はようやくレブナの肩から降ろしてもらえた。俺の右腕に負担を掛けずに運べるレブナの技量は称賛に価するものの、一男性としては、軽々と年下の女の子に運ばれるのは何度やっても屈辱的だった。狩人の女性たちは怪力がデフォルトなのだろうか。
「っあ゛ー舌噛んだ……」
「だいじょぶー? 舌切ったら食べるの痛いもんねー」
「食べることばっかだなお前」
俺はめくれ上がった上着を手首まで引き延ばしながら、城壁の上をぐるりと見渡した。
城壁の上にはエラムラの狩人たちが弓式砲台を使ってドラゴンを打ち落としている。屋上の壁際には負傷した狩人たちが座り込んでおり、いきなり下から現れた俺たちに目を丸くしていた。
その中で、二の腕を負傷した狩人が慌ただしく立ち上がり、俺を押しのけながらレブナに駆け寄ってきた。
「れ、レブナ様! 来てくださったのですね!」
「うぎゃっ」
危うくすっ転びそうになったところで、ナチュラルにレブナに腰を支えられて難を逃れる。レブナはそのまま俺を軽く抱きしめるようにしながら、駆け寄ってきた狩人にへらへらと笑った。
「そーんな可愛く目を輝かせったって、あたしはすぐに出ちゃうから加勢できないよー? 下の狩人たちが頑張ってるから、もう少し持ちこたえて」
「はっ」
狩人は簡易的な敬礼をした後、元の場所へと戻っていった。そこには包帯を巻かれている途中の狩人がいて、彼もまたレブナに敬礼を返していた。
レブナはエラムラの中でもランクの高い狩人らしい。ロッシュに呼ばれてすぐに飛んできたので、里長のお気に入りなのかもしれない。
それにしても、と俺は上空で繰り広げられるドラゴンと狩人の戦いを見守った。
このタイミングでドラゴンの群れが押し寄せてくるとは、少々都合が良すぎる気がする。巫女の結界が消え、大量の人間の血が流れているのでおかしくはないのだろうが、ニヴィがドラゴンを操った前例もあるので偶然とは思えない。
もしニヴィが燃え盛るエラムラの里を見たら、真っ先にベアルドルフの襲撃を疑うだろう。ならばニヴィはこの混乱に乗じて里の中に紛れ込んでいるか、俺と同じようにシャルを探し回っているか……。
「くそ、考えることが多すぎる!」
突然ぐしゃぐしゃと頭を掻く俺に、レブナが何とも言えぬ顔で一瞥した。次いで俺の腰を支えていた手をぱっと放して、明らかに他人のふりを始める。
「そういうの普通に傷つくぞ……」
「なんのことー?」
レブナはいけしゃあしゃあと言った後、神妙な面持ちで城壁を見渡した。それから、砲台の横で双眼鏡を構える狩人を見つけて彼に歩み寄った。
その狩人は双眼鏡を目元にくっつけたまま、砲台にいる狩人たちに増援の方角を随時報告しているようだった。だがその途中でいきなりレブナに声を掛けられ、大げさなぐらいに飛び跳ねて双眼鏡を取り落としそうになっていた。
「れ、れぶ!? レブナ様!?」
「聞きたいことあるんだけど、スキュリアが隠れてる場所とか見つけた?」
「い、いいいいえ、城壁に散らばっている仲間からも、そ、それらしいものは……」
「んー参った。ここからでも見つけられなかったの?」
レブナは人差し指を顎に当てながら、訝しそうに大きく首をひねった。
確かに、城壁の上から見渡してもスキュリアの拠点らしきものは見当たらない。東側に立っている俺たちからは西側の景色を見ることはできないが、城壁の上にいる狩人たちから報告も上がっていないのなら、どこを見ても見つけられないだろう。
だが俺は慌てない。
「……ここから見つけられないのなら、ここからじゃ見えないところに確実にいる」
「そんな当たり前のこと……」
砲台に手を添えた狩人が呆れる気配がするが、俺は構わず東の方角を見据える。
ドラゴンは森の中で隠れている人間を簡単に見つけられるほど視力が高い。スキュリアの拠点を見つけていたなら、エラムラともども襲撃されているはずだ。しかしそうなっていないのであれば、エラムラから見えず、かつドラゴンにも見つからない場所に拠点があるという証明になる。
ドラゴンは西の空から現れた。しかし、エラムラの外でドラゴンに襲撃された痕跡はない。
つまりスキュリアの拠点は東側にある。
俺は北の真っ青な草原から南の白い山脈までを視線で薙いだ。夕日が沈み始めて視界が悪く、山と平地の境すら危うい。特に東側は山の陰ができているためすでに夜のように暗くなっている。
それでもなんとか目を凝らして、ようやく俺は南東の切り立った崖を見つけた。
「あそこ。こっち側が崖の上になっているから麓が見えない」
灯台下暗し。
高い場所から見えず、エラムラの里と近い距離のあそこであれば、潜伏するのにお誂え向きだ。
「バロック山岳? あそこならいつも警備隊を置いてるよ?」
「でもエラムラが奇襲されても連絡は来なかった。だろ? 見張りがスキュリアの里に寝返ったか、それとも殺されたんじゃないか?」
「んー、敵はロッシュ様の能力の弱点を知ってるみたいだし、寝返った説が有効かもねー。けど一体どうやって懐柔したのやら? 忠誠心高めの子を配属してたと思うんだけど?」
ただのアホの子かと思ったが、レブナもまともな思考ができるようで安心した。
この戦争には、ダウバリフ以外にも里の内部事情に詳しい裏切り者がいる。そいつは里長の能力の弱点をスキュリアの里に漏らし、爆弾を用意してエラムラの里を混乱の渦に叩き込んだに違いない。
裏切り者についてはすでにロッシュが手を回しているだろう。
ならば俺たちはシャルを助けるついでに、スキュリアの拠点を叩き潰すのみ。
俺はレブナを振り返って、片頬で笑いながら問いかけた。
「俺の見立てじゃ絶対バロック山岳に拠点があるんだが、信用できないか?」
この一手を間違えれば、俺たちが拠点を潰す前にスキュリアの増援が里に来てしまうだろう。ロッシュの菌糸能力をもってしても互角に持ち込むのが精いっぱいなこの状況で、敵が増援によって勢いを増せば、エラムラの敗戦の匂いが濃厚になる。
はたして、レブナの天秤はあっという間に傾いた。
「決まり! 早くシャルちゃん探しに行こう!」
自分の一存で里の命運が決まるというのにこの軽さである。信用してもらっているようでありがたかったが、俺はそれで彼女に懐柔されるほど楽観的ではいられなかった。
「レブナ、行く前にちょっと聞きたい」
「んにゃ?」
「お前はシャルのこと、どう思ってんだ?」
俺の問いかけに、レブナの笑顔がみるみる消えていく。周囲の狩人たちも気まずそうに俺から目を逸らした。
急がなければいけないのは分かっているが、俺はまだレブナのことを良く知らない。彼女に背中を預けて、いざシャルを助けた後にベアルドルフの娘だからと殺されたら意味がない。だからレブナがシャルに恨みを抱いているかどうかだけでも知っておきたかった。
疑り深いと自分ですら思う。だが、ついさっきダウバリフに裏切られた身としては重要な話だった。
レブナはぐっと眉をしかめた後、なんてことないように答えた。
「なんとも思ってないよ?」
「…………」
「怖い顔しないでよー。おっさん的には敵意持ってる方が嬉しかった?」
「俺はおっさんじゃない。そういうわけじゃない……けど、嫌いの逆は無関心ってよく言うからさ」
「……なーんか勘違いしてない?」
レブナは人差し指を俺の胸元にぐりぐり押し付けながら距離を詰め、真下から睨み上げてきた。
「あたしがあんたの手伝いしてるのは、ロッシュ様からそーいう命令があったから。あたしみたいなかわいい女の子が手伝ってるからっていって、それがあんたへの好意でやってるとは限らないんだからね? こーいうのはビジネス関係ってやつ。分かる?」
「それは、そうなんだが」
「だーから、あたしがシャルちゃんのこと好きでも嫌いでも、ロッシュ様に言われた命令はこなすの。仕事に感情を持ち込むなんてナーンセンス!」
どん、と意外と優しい手つきでレブナは俺を突き飛ばした。
そのおかげで、俺はやっと詰めていた息を吐くことができた。
レブナは良くも悪くも、嫌なことも仕事だと割り切れる人間なのだ。仕事仲間としてはこの上なく頼れる相手である。
しかし、レブナはともかく、ロッシュはそうではない。ロッシュがシャルを殺せと命令すれば、レブナは躊躇いなくそうするだろう。ロッシュから梯子を外される可能性があるのなら、結局レブナを信用していいのかも危ういものだ。
安堵と不安の板挟みになる俺に、レブナはジト目でこう付け足した。
「なんの心配してるか知らないけど、ロッシュ様はあんたを絶対に裏切らないよ?」
「……どういう意味だ」
「だってあなた、ニヴィとミカルラ様と同じところから来たんでしょ?」
「……悪い、全く意味が分からないんだが。ミカルラって初代巫女様だろ? ……いや待て、まさかあの人も地球から来た転移者ってことか!?」
アンリの話ではミカルラは白い髪に赤い瞳の、日本人とはかけ離れた見た目をしていたはずだ。ニヴィも同じ特徴を持っていたが、彼女もまた俺と同じように異世界転移をしてきたというのか。
日本ではなく海外からの転移者ならばあの外見もありえなくないが、それにしたってアルビノの人間が二人も異世界転移する確率なんて奇跡にも近いだろう。
アルビノと言えば、胸元に99の文字を刻みつけた謎の少女もそうだった。もしや俺と同じ転移者だったのか? だから俺をベートから助け出してくれたのか?
考えれば考えるほど分からなくなる。
彼女たちが地球出身の子たちだったとして、どうしてロッシュが俺を裏切らない理由になる。そもそも俺が地球出身であることは、バルド村の人間しか知らないことだ。誰かが言いふらした可能性もあるが、そんな眉唾な話をロッシュが信じたとでもいうのか?
「もしかして、自覚無かった? あちゃー、ちょっと話すの早すぎちゃったかも?」
レブナはうっかりうっかりと舌を出しておちゃらけた後、両腕を広げて俺を再び肩に担ぎあげた。
「のわっ!?」
「さ、無駄話はこのあたりで、一名様ごあんなーい!」
「おい、さっきの話は──」
「これ以上はロッシュ様に怒られちゃうからむーりー!」
じゃあ防衛よろしくー、と狩人たちに手を振ってから、レブナは俺をがっちり固定したままバロック山岳の方へと飛び出した。
「一応、ありがとう……着いたなら降ろしてくれ……」
薄明の塔から数百メートルほど離れた城壁の上で、俺はようやくレブナの肩から降ろしてもらえた。俺の右腕に負担を掛けずに運べるレブナの技量は称賛に価するものの、一男性としては、軽々と年下の女の子に運ばれるのは何度やっても屈辱的だった。狩人の女性たちは怪力がデフォルトなのだろうか。
「っあ゛ー舌噛んだ……」
「だいじょぶー? 舌切ったら食べるの痛いもんねー」
「食べることばっかだなお前」
俺はめくれ上がった上着を手首まで引き延ばしながら、城壁の上をぐるりと見渡した。
城壁の上にはエラムラの狩人たちが弓式砲台を使ってドラゴンを打ち落としている。屋上の壁際には負傷した狩人たちが座り込んでおり、いきなり下から現れた俺たちに目を丸くしていた。
その中で、二の腕を負傷した狩人が慌ただしく立ち上がり、俺を押しのけながらレブナに駆け寄ってきた。
「れ、レブナ様! 来てくださったのですね!」
「うぎゃっ」
危うくすっ転びそうになったところで、ナチュラルにレブナに腰を支えられて難を逃れる。レブナはそのまま俺を軽く抱きしめるようにしながら、駆け寄ってきた狩人にへらへらと笑った。
「そーんな可愛く目を輝かせったって、あたしはすぐに出ちゃうから加勢できないよー? 下の狩人たちが頑張ってるから、もう少し持ちこたえて」
「はっ」
狩人は簡易的な敬礼をした後、元の場所へと戻っていった。そこには包帯を巻かれている途中の狩人がいて、彼もまたレブナに敬礼を返していた。
レブナはエラムラの中でもランクの高い狩人らしい。ロッシュに呼ばれてすぐに飛んできたので、里長のお気に入りなのかもしれない。
それにしても、と俺は上空で繰り広げられるドラゴンと狩人の戦いを見守った。
このタイミングでドラゴンの群れが押し寄せてくるとは、少々都合が良すぎる気がする。巫女の結界が消え、大量の人間の血が流れているのでおかしくはないのだろうが、ニヴィがドラゴンを操った前例もあるので偶然とは思えない。
もしニヴィが燃え盛るエラムラの里を見たら、真っ先にベアルドルフの襲撃を疑うだろう。ならばニヴィはこの混乱に乗じて里の中に紛れ込んでいるか、俺と同じようにシャルを探し回っているか……。
「くそ、考えることが多すぎる!」
突然ぐしゃぐしゃと頭を掻く俺に、レブナが何とも言えぬ顔で一瞥した。次いで俺の腰を支えていた手をぱっと放して、明らかに他人のふりを始める。
「そういうの普通に傷つくぞ……」
「なんのことー?」
レブナはいけしゃあしゃあと言った後、神妙な面持ちで城壁を見渡した。それから、砲台の横で双眼鏡を構える狩人を見つけて彼に歩み寄った。
その狩人は双眼鏡を目元にくっつけたまま、砲台にいる狩人たちに増援の方角を随時報告しているようだった。だがその途中でいきなりレブナに声を掛けられ、大げさなぐらいに飛び跳ねて双眼鏡を取り落としそうになっていた。
「れ、れぶ!? レブナ様!?」
「聞きたいことあるんだけど、スキュリアが隠れてる場所とか見つけた?」
「い、いいいいえ、城壁に散らばっている仲間からも、そ、それらしいものは……」
「んー参った。ここからでも見つけられなかったの?」
レブナは人差し指を顎に当てながら、訝しそうに大きく首をひねった。
確かに、城壁の上から見渡してもスキュリアの拠点らしきものは見当たらない。東側に立っている俺たちからは西側の景色を見ることはできないが、城壁の上にいる狩人たちから報告も上がっていないのなら、どこを見ても見つけられないだろう。
だが俺は慌てない。
「……ここから見つけられないのなら、ここからじゃ見えないところに確実にいる」
「そんな当たり前のこと……」
砲台に手を添えた狩人が呆れる気配がするが、俺は構わず東の方角を見据える。
ドラゴンは森の中で隠れている人間を簡単に見つけられるほど視力が高い。スキュリアの拠点を見つけていたなら、エラムラともども襲撃されているはずだ。しかしそうなっていないのであれば、エラムラから見えず、かつドラゴンにも見つからない場所に拠点があるという証明になる。
ドラゴンは西の空から現れた。しかし、エラムラの外でドラゴンに襲撃された痕跡はない。
つまりスキュリアの拠点は東側にある。
俺は北の真っ青な草原から南の白い山脈までを視線で薙いだ。夕日が沈み始めて視界が悪く、山と平地の境すら危うい。特に東側は山の陰ができているためすでに夜のように暗くなっている。
それでもなんとか目を凝らして、ようやく俺は南東の切り立った崖を見つけた。
「あそこ。こっち側が崖の上になっているから麓が見えない」
灯台下暗し。
高い場所から見えず、エラムラの里と近い距離のあそこであれば、潜伏するのにお誂え向きだ。
「バロック山岳? あそこならいつも警備隊を置いてるよ?」
「でもエラムラが奇襲されても連絡は来なかった。だろ? 見張りがスキュリアの里に寝返ったか、それとも殺されたんじゃないか?」
「んー、敵はロッシュ様の能力の弱点を知ってるみたいだし、寝返った説が有効かもねー。けど一体どうやって懐柔したのやら? 忠誠心高めの子を配属してたと思うんだけど?」
ただのアホの子かと思ったが、レブナもまともな思考ができるようで安心した。
この戦争には、ダウバリフ以外にも里の内部事情に詳しい裏切り者がいる。そいつは里長の能力の弱点をスキュリアの里に漏らし、爆弾を用意してエラムラの里を混乱の渦に叩き込んだに違いない。
裏切り者についてはすでにロッシュが手を回しているだろう。
ならば俺たちはシャルを助けるついでに、スキュリアの拠点を叩き潰すのみ。
俺はレブナを振り返って、片頬で笑いながら問いかけた。
「俺の見立てじゃ絶対バロック山岳に拠点があるんだが、信用できないか?」
この一手を間違えれば、俺たちが拠点を潰す前にスキュリアの増援が里に来てしまうだろう。ロッシュの菌糸能力をもってしても互角に持ち込むのが精いっぱいなこの状況で、敵が増援によって勢いを増せば、エラムラの敗戦の匂いが濃厚になる。
はたして、レブナの天秤はあっという間に傾いた。
「決まり! 早くシャルちゃん探しに行こう!」
自分の一存で里の命運が決まるというのにこの軽さである。信用してもらっているようでありがたかったが、俺はそれで彼女に懐柔されるほど楽観的ではいられなかった。
「レブナ、行く前にちょっと聞きたい」
「んにゃ?」
「お前はシャルのこと、どう思ってんだ?」
俺の問いかけに、レブナの笑顔がみるみる消えていく。周囲の狩人たちも気まずそうに俺から目を逸らした。
急がなければいけないのは分かっているが、俺はまだレブナのことを良く知らない。彼女に背中を預けて、いざシャルを助けた後にベアルドルフの娘だからと殺されたら意味がない。だからレブナがシャルに恨みを抱いているかどうかだけでも知っておきたかった。
疑り深いと自分ですら思う。だが、ついさっきダウバリフに裏切られた身としては重要な話だった。
レブナはぐっと眉をしかめた後、なんてことないように答えた。
「なんとも思ってないよ?」
「…………」
「怖い顔しないでよー。おっさん的には敵意持ってる方が嬉しかった?」
「俺はおっさんじゃない。そういうわけじゃない……けど、嫌いの逆は無関心ってよく言うからさ」
「……なーんか勘違いしてない?」
レブナは人差し指を俺の胸元にぐりぐり押し付けながら距離を詰め、真下から睨み上げてきた。
「あたしがあんたの手伝いしてるのは、ロッシュ様からそーいう命令があったから。あたしみたいなかわいい女の子が手伝ってるからっていって、それがあんたへの好意でやってるとは限らないんだからね? こーいうのはビジネス関係ってやつ。分かる?」
「それは、そうなんだが」
「だーから、あたしがシャルちゃんのこと好きでも嫌いでも、ロッシュ様に言われた命令はこなすの。仕事に感情を持ち込むなんてナーンセンス!」
どん、と意外と優しい手つきでレブナは俺を突き飛ばした。
そのおかげで、俺はやっと詰めていた息を吐くことができた。
レブナは良くも悪くも、嫌なことも仕事だと割り切れる人間なのだ。仕事仲間としてはこの上なく頼れる相手である。
しかし、レブナはともかく、ロッシュはそうではない。ロッシュがシャルを殺せと命令すれば、レブナは躊躇いなくそうするだろう。ロッシュから梯子を外される可能性があるのなら、結局レブナを信用していいのかも危ういものだ。
安堵と不安の板挟みになる俺に、レブナはジト目でこう付け足した。
「なんの心配してるか知らないけど、ロッシュ様はあんたを絶対に裏切らないよ?」
「……どういう意味だ」
「だってあなた、ニヴィとミカルラ様と同じところから来たんでしょ?」
「……悪い、全く意味が分からないんだが。ミカルラって初代巫女様だろ? ……いや待て、まさかあの人も地球から来た転移者ってことか!?」
アンリの話ではミカルラは白い髪に赤い瞳の、日本人とはかけ離れた見た目をしていたはずだ。ニヴィも同じ特徴を持っていたが、彼女もまた俺と同じように異世界転移をしてきたというのか。
日本ではなく海外からの転移者ならばあの外見もありえなくないが、それにしたってアルビノの人間が二人も異世界転移する確率なんて奇跡にも近いだろう。
アルビノと言えば、胸元に99の文字を刻みつけた謎の少女もそうだった。もしや俺と同じ転移者だったのか? だから俺をベートから助け出してくれたのか?
考えれば考えるほど分からなくなる。
彼女たちが地球出身の子たちだったとして、どうしてロッシュが俺を裏切らない理由になる。そもそも俺が地球出身であることは、バルド村の人間しか知らないことだ。誰かが言いふらした可能性もあるが、そんな眉唾な話をロッシュが信じたとでもいうのか?
「もしかして、自覚無かった? あちゃー、ちょっと話すの早すぎちゃったかも?」
レブナはうっかりうっかりと舌を出しておちゃらけた後、両腕を広げて俺を再び肩に担ぎあげた。
「のわっ!?」
「さ、無駄話はこのあたりで、一名様ごあんなーい!」
「おい、さっきの話は──」
「これ以上はロッシュ様に怒られちゃうからむーりー!」
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